第464話 ジウバルトの相談(後編)
---ラサミス視点---
「ふう、アンタ。
「ん? そうか?」
「ああ」
「……」
さて場の空気も良い感じに緩んだな。
ならば次の話を聞いてみるか。
「それでそこからどうなったんだ?」
「ん、まあオレもムカついて『ウゼえぞ、猫共がぁっ!』と返したよ。
すると猫トリオも当然怒り出してさ。
そこから猫王子が『こう見えてボクのパパ様は凄いんだぞ!』とか
まあそこからは口喧嘩の応酬さ」
まあ何となくどんな感じか分かるな。
周囲からすれば良い見世物だったろうな。
でもジウバルト的にはそりゃ悪態もつきたくなるわな。
「んでオレもキレちゃってさ。
こう言ったんだよ。
『オレもこう見えて魔王陛下や魔王の盟友と知り合いだ』ってさ。
するとクラスの中がざわつき始めたんだよ。
特に魔貴族の連中やエルフの一団辺りが――
『やはり噂は本当だったのか』とか、
『成る程、だから半人半魔でもこの学園に入学出来たのか』とかさ」
まあ嘘は言ってないな。
でもこのご時世に魔王の名を出すのは、色々と面倒になるわな。
「う~ん、そりゃ色々と面倒な事になりそうだな」
「お、オレもつい口を滑らしてしまったんだよ」
「いやお前を責める気はないよ。
相手のニャン馬鹿トリオも悪い部分あるしな」
「そうか、そう言われると少し気が楽になるよ」
「んでそれからどうなったんだ?」
するとジウバルトはしばし考え込んでから――
「すると猫王子が『うわぁ、魔王様にはボクのパパ様も叶わないニャァァ』と、
叫びながら教室から飛び出して、寮に逃げ込んだんだよ」
「……マジで?」
「……マジだよ」
「……」
こりゃ想像以上に面倒な話になりそうだな。
でも乗りかかった船だ、最後まで話に付き合うぜ。
「それでそれ以来、猫王子は寮に引き籠もってるのか?」
「ああ、担任教師やオレも奴の寮の部屋まで行って
『大丈夫、何も起きませんよ』とか、
『いやあれは話を大袈裟に言っただけさ』とかも
言ったんだが、奴は『もう終わりニャン』と叫んで、
部屋の外にはまるで出ようとしない有り様さ」
「……猫王子が引き籠もって、どれくらい経った?」
「大体、二週間ってところだな。
例のお供の二匹が授業のノートの複写や
宿題とかも持っていってるようだが、
奴は怯えたまま、ろくに飯も食おうとすらしないようだ」
「……思ったより深刻だな」
「ああ、だからアンタに相談したんだ」
……。
しかし実際どうすればいいんだ?
オレも猫王子の部屋まで行って、猫なで声で――
「大丈夫だよ~、魔王陛下がこの件で関わる事はないよ~」
と言ったりするのか?
……出来ればあまりやりたくないな。
するとジウバルトが意外な事を言い出した。
「魔王陛下が最近結婚されたお話は知ってるかい?」
「ああ、新婚旅行も兼ねて、各種族の各大陸へ訪れるそうだな」
「このリアーナにも一週間後に来られる予定だ」
「へえ、一週間後か、そりゃ色々と騒がしくなりそうだな」
「そこでアンタを男と見込んで頼みがある」
「え? な、何だ?」
「魔王陛下がリアーナに滞在中に、
アンタが魔王陛下と謁見して今回の事件……について話し合ってもらえないか?」
「ふぇ? レクサーと謁見して、
今回の引き籠もり事件について話すのかァっ!?」
気が付けばオレは大声を上げていた。
レクサーに謁見するだけでも神経を使うのに、
こんなしょうもない……些細な事件をレクサーに報告するのか!
……正直やりたくない、というかやる気が起きない。
「アンタは魔王陛下の盟友だろ?」
「ま、まあ一応そういう事になってるけど」
「このまま
あまり良くないだろう? だからアンタから陛下に口添えして欲しい」
「……本当にオレがするの?」
「……アンタにしか出来ない仕事だ」
「……」
「……頼む、このままじゃオレもマリネルに対して、
申し訳が立たない。 だから……」
「わ、分かったやるよ、やってやるさ」
「ほ、本当か!?」
「あ、ああ……」
……正直面倒臭い、かなり面倒臭い。
というかやりたくねえ、こんなしょうもない事件で
わざわざレクサーに会うなんてなんか恥ずかしい……。
でもこのままじゃ
引き籠もったまま、留年する事になるだろう。
だから物凄く面倒臭くて、やりたくないがやるしかねえ!
「とりあえずこの後、学園長と相談してから
魔王に親書を出すよ。 多分それで謁見出来ると思う」
「ほ、本当か! 親書一つで魔王陛下と謁見が可能なんて
アンタ、魔王陛下と互角以上に戦った噂は本当なんだな!」
まあそれは嘘じゃないけどな。
でもここであえてアピールする必要もない。
「まあそういう事だ、後の事はオレに任せておけ!
お前やマリネル……王子にも悪いようにはしないさ」
「ああ、期待しているよ」
「んじゃオレはもう行くわ」
その後、オレは学園長室で学園長としばし話込んだ。
学園長は五十半ばの白髪頭の痩躯の男性ヒューマンだ。
これまでも何度か話したが、話せる相手だ。
だがその学園長も今回の件では渋い表情をしていた。
「マリネル王子の引き籠もり問題は私も頭を悩ませてます。
だから私としてもラサミス教官の申し出は受け入れます。
ですが魔王陛下に出す親書は、
あくまで教官個人が魔王陛下に宛てた物にして頂きたい」
要するにアレか。
魔王との謁見には学園は基本関与せず、
オレ個人で魔王と謁見して、話をつけろ、という事か。
まあ学園としては、こんなしょうもない……些細な事で
魔王の手を煩わせたくないのだろう。
まあそれはオレも同じなんだけどね。
「ええ、謁見の場は提供してもらうかもしれませんが、
今回の件はあくまでオレの私情で魔王と謁見する。
という形にした方が色々と都合が良いでしょう」
「……ご理解して頂き、感謝します」
「それじゃオレはこの後、マリネル王子の担任の教師と
一緒に王子が引き籠もる寮の個室へ向かいます」
「くれぐれもあまり刺激しないでください。
相手は仮にも一種族の王子なのですから……」
「勿論、分かってますよ!」
そしてオレはマリネル王子の担任の女性エルフ教師と一緒に
王子が引き籠もる寮の個室へ向かった。
それから辛抱強く猫なで声で何度も王子に呼びかけたが――
「ニャー、魔王の盟友が直々に来られたニャン。
も、もう……もうボクはお終いニャン!!」
「いや君を罰するつもりはないよ!」
「嘘だニャン! ニャー、もうお外に絶対出ないニャン!」
と、不毛な会話が続いた。
「こ、これ以上はもう刺激しない方が良いと思います」
オレも担任の女性エルフ教師にそう言われて、説得を諦めた。
何というか非常にやるせない気分になった。
本当にしょうもない……些細な事件だが、
学校の先生の大変さが少し分かった気がする。
でもオレはあくまで訓練教官の筈なんだけどね。
……どうしてこうなった?
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