第458話 誕生日パーティー


---ラサミス視点---



 そして7月7日。

 オレの誕生日がやってきた。

 誕生日パーティーの会場は拠点ホームの食堂。


 部屋の飾り付けは控えめであった。

 至る所に色紙で作ったチェーンがぶら下げられており、

 誕生日パーティっぽい雰囲気は最低限保たれていた。


 そしてテーブルには黒いチェック柄のテーブルクロスが

 掛けられており、その中央に少し豪華なケーキが大皿に盛られていた。


 ぱーんっ!

 と、オレの登場と共にクラッカーが鳴らされた。


「「「「ラサミス、お誕生日おめでとう!!」」」」


「お兄ちゃん、お誕生日おめでとうっ!!!」


「「ラサミス、お誕生日おめでとニャン!」」


 エリス、メイリン、ミネルバ、そしてドラガン。

 更にはマリべーレ、ポロンやアロンが声を揃えて祝いの言葉を言う。


「おう、皆。 ありがとうな」


「ささ、主役は上座の真ん中に座って!」


「お、おう。 エリス、分かったよ」


 オレを真ん中にして、周囲の皆がそれぞれ席に着いた。

 するとオレの目の前に、苺やチョコレートが

 カラフルに盛り付けられたデコレーションケーキがあった。

 うお、結構立派じゃねえか。


「……これ高かったんじゃね?」


「そうよ、皆でお金出し合って買ったのよ!

 だから存分に感謝しなさいよ」


 胸の前で両腕を組みドヤ顔でそう言うメイリン。

 コイツ、こういう所は全然変わってないな。

 でも今日は祝いの席などで無礼講で行こう。


「それじゃあローソクを刺して火をつけるわよ」


「えっ? ミネルバ、もしかしてオレが火を消すの?」


「そうよ、だってアンタが主役じゃない?」


「まあそうだけどさ……でも何か……」


「何? もしかしてアンタ、恥ずかしいわけ?」


 メイリンが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 コイツ、分かってやってるな。

 

「まあまあ、せっかくだしやってみようよ? ね?」


「わ、分かったよ」


 エリスはそう言って十九本のローソクを外周に刺し、

 ミネルバが食堂のカーテンを閉めて、ランプの灯りを消した。

 そしてメイリンがマッチを擦ると、

 その小さな炎が暗くなった部屋に浮かび上がる。


 そこからメイリンが手際よくローソクに火をつけていくと、

 誕生日ケーキがローソクの明かりに照らされて輝きだした。

 おお、こうして見るとやっぱり悪くねえな。


「いいわね、凄くいいわね」


 エリスがうっとりした表情でそう言う。


「うん、とてもキレイ」と、マリべーレ。


「……いいじゃない」


 口元に笑みを浮かべるミネルバ。


「よし、じゃあラサミス! ローソクを消しなさい」


「あいよ、メイリン!」


 そこでオレは大きく息を吸い込んで――


「ふうぅぅぅ――――――――」


 十九本のローソクを一息で消した。

 おお、上手いこと消せたな。

 少し嬉しいぜ、少しな……。


 それからエリスがケーキを切って、皆で食べた。

 だけどドラガンやポロンやアロンはケーキを食べなかった。

 どうやら猫にとっては、チョコレートが猛毒らしい。

 そこは猫族ニャーマンも猫と同じだったようだ。


「ニャー、ボクもケーキ食べたいニャ」


「オイラもー」


「まあまあポロン、アロン、我慢するニャ。

 その変わりの鶏のローストチキンを食べるニャ!」


 ドラガンがそう言って、ポロンとアロンを宥める。


「ニャー鶏のローストチキン大好きニャッ!!」


「オイラも大好物ニャン!」


 と、すぐに気持ちを切り替えるポロンとアロン。

 なんというか現金だな。

 まあいいや、とりあえずケーキを食おう。


「う~ん、美味しいわ。 最高~」


 ケーキを頬張りながら満面の笑みを浮かべるメイリン。

 

「うん、とても美味しい!」


「マリべーレ、あたしにも少し分けてよ!」


「うん、はい!」


 マリべーレが妖精フェアリーカトレアにケーキの欠片を渡す。

 エリスもミネルバも笑顔でケーキを食べている。

 

 十五分後。

 全員がケーキを食べ終わると、

 皆がオレに誕生日プレゼントを渡してくれた。


 エリスはレディス教会の購買部で売られている銀のロザリオ。

 どうやら彼女とお揃いの品のようだ。

 メイリンは可愛らしい白のハンカチセット。


 ミネルバは漆黒のバンダナ。

 マリべーレは自分で編んでくれた緑のミサンガ。

 そしてドラガンは連合ユニオン紋章エンブレムが入った腕章。

 

「まあプレゼントというよりかは、

 連合ユニオンの団長に対しての贈り物だな」


「へえ、でもなんか結構いいね」


 オレは自分の右腕に腕章を巻いた。

 うむ、悪くないじゃん、というか結構良いじゃん。


「ラサミス、ボクもプレゼントあげるニャン」


「オイラもニャ!」


「おお、お前等もくれるのか!?」


「うん、このドングリをあげるニャ!」


「オイラは貝殻をあげるニャ!」


「……あ、ありがとう」


 ……悪意はないんだ、悪意は。

 まあこの二匹は猫族ニャーマンだからな。

 きっと無邪気な心でオレを祝ってくれてるんだろう。


「皆も本当にありがとうな!

 こうして仲間に祝えて貰えてオレは果報者だよ。

 皆の気持ちに応える為、

 明日から心を入れ替えて有意義に過ごすよ」


「うむ、拙者もお前がやる気をだしてくれて嬉しいよ」


「うん、うん、これで完全復活ね!」


「めでたし、めでたし!」


 エリスとメイリンが笑顔で言った。


「たまにはあたしと一緒に模擬戦してよね?」


「ミネルバ、オレで良ければ喜んで!」


「ラサミスお兄ちゃん、ファイトッ!」


「ああ」


 それからジャンが作ってくれたご馳走を

 全員で公平にわけて、オレ達は思う存分料理を味合った。

 

 その後はドラガンやポロン、アロンによる手品や隠し芸で

 場が盛り上がると、エリスとメイリンが一緒に

 国歌の「我がハイネダルク」を歌い出した。


 ……。

 やっぱりこういうのって良いよな。

 こんな日々がずっと続いて欲しいぜ。

 

 オレはそう思いながら、

 オレンジジュースの入ったグラスを左手に持ち、

 今この瞬間を最大限に楽しんだ。


 こうして今年のオレの誕生日は最高の一日となった。

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