第六十五章 平穏な日々

第457話 再び燃え尽きた


---ラサミス視点---



 第二次ウェルガリア大戦。

 その激戦を終えたオレは燃え尽きたように、

 リアーナの連合ユニオン拠点ホームで静かに暮らしていた。


 昼近くに起きて、食堂で昼食を摂り、

 そこからダラダラと過ごすか。

 暇つぶしに職業ジョブギルドへ行って

 師範代相手に模擬戦を行う。


 あるいは釣り竿片手に川辺で魚を釣る。

 そして夜に拠点ホームに戻り、夕食を食う。

 それからシャワーを浴びて、寝る。


 そんな生活を続けて、約三ヶ月。

 気が付けば日付が6月28日となっていた。

 だが周囲の仲間はそんなオレを静かに見守っててくれた。


 その優しさは有り難いが、流石に居心地の悪さは感じる。

 なのでオレはリアーナ大学付属の中等部と高等部の体術・剣術の教官として、

 新学期の九月から働く、という話を承諾する事にした。


 このままじゃ完全ニート生活だからな。

 気楽と言えば気楽な生活だが、オレももう少しで十九歳。

 それにこれでも『暁の大地』の二代目団長。


 流石にこれでは外聞が悪い。

 それにこのニート生活にも飽きてきたところだ。

 来月の下旬には兄貴とアイラの結婚式もある。

 だからこの辺りで気合いを入れ直す必要があるな。


 コン、コン、コン。

 控えめなノック音が響き――


「ラサミス~、入るわよ!」


「ああっ……」


 ドアが開き、白の法衣姿のエリスが部屋の中に入って来た。

 髪型はいつものように黒髪のポニーテール。

 見た目はまごう事なき美少女、更にはオレの幼馴染み。

 

「ラサミス~、もう少しでお昼よ?」


「ん? もうそんな時間なのか?」


「そうよ? とりあえずベッドから出なさい!

 お蒲団ふとんやシーツもちゃんと干さないと!」


「はい、はい、今起きるよ!」


 オレがベッドから出るなり、

 エリスは蒲団とシーツを手に取り、部屋の窓から干した。

 最近ではいつも彼女がこんな感じに起こしに来てくれる。


「起きたら洗面所で顔と手を洗うように!

 それから食堂へ行きなさい、もう皆、待ってるわよ」


「はい、はい」


 まるでオレの母ちゃんだな。

 でも悪い気はしない。

 そしてオレは二階の洗面所で手と顔を洗った。

 近くにあった白いタオルで顔を入念に拭く。

 うん、しゃきっとした気分になれたぜ。


「んじゃ食堂へ行きますか」


---------


 階段を降りて食堂へ向かう。

 食堂では既に多くの仲間が席に着いていた。

 前団長の猫族ニャーマンドラガン。

 メイリンにミネルバ、マリべーレ。

 それと猫族ニャーマンのアロンやポロンの姿もあった。


「ラサミス、今日も午前様か」


「ああ、ドラガン。 おはよう」


「おはようじゃない、もうこんにちはだ」


「んじゃこんにちは」


 するとドラガンが小さく首を左右に振った。


「やれやれ、最近のお前は猫族ニャーマンより自堕落だな」


「そろそろ気合いを入れ直すよ」


「ん? ようやくお目覚めか?」


 と、ドラガン。


「うん、とりあえずリアーナ大学付属中等部と高等部の

 訓練教官の話を受けようと思うよ」


「え? ラサミス、あの教官の話を受けるの?」


 そう言ったのはメイリンだ。

 相変わらずの魔女ルックの格好だ。


「ああ、流石にこのニート生活にも飽きてきたからな。

 だから来月くらいから、色々と鍛え直すよ」


「まあそれがいいわよね。 

 アンタ以外はもう皆、自分の道を進んでるからね」


「メイリンは秋からリアーナ魔法大学に入学だっけ?」


「そうよ、だから今から猛勉強しているのよ」


「そうか」


「あたしは職業ジョブギルドに通う日々が続いているわ。

 そのおかげで飛竜の扱いが随分慣れてきたわ」


 ミネルバがそう言って会話に入って来た。

 彼女もいつものように黒い格好だ、でも似合っている。


「そうか、じゃあ今度飛竜の後ろに乗せてくれよ」


「ええ、いいわよ」


「あたしもメイリンお姉ちゃんのように猛勉強してるわ。

 今回の留学は巫女ミリアム様の意向でもあるから、

 ちゃんと学校の勉強について行けるようにしないと!」


「そうだね、ミリアム様の顔に泥を塗るわけにはいかないだわさ」


 白い軽装姿のマリべーレと妖精フェアリーのカトレアがそう言う。

 皆、確かに自分の道を進んでいるな。

 こりゃオレも頑張んないといけないな。


「まあとりあえず冷める前に飯を食おうぜ」


「うむ、そうだな」


 と、ドラガン。

 ちなみに今日のメニューは魚料理にポテトサラダ。

 うちの連合ユニオンお抱えのシェフ・ヒューマンの青年ジャンが作ってくれた料理だ。


「うむ、ジャンの魚料理は相変わらず美味いニャ!」


 魚の肉を頬張りながら、そう言うドラガン。

 というか語尾にニャついてるよ、ニャが。

 だが実際ジャンの料理は美味い。

 こんな料理を毎日食えるんだからな。

 オレは……オレ達は幸せかもしれない。


「来月にライルにい様とアイラさんの結婚式があるわね。

 ライルにい様も結婚かあ~、色々と感慨深いわ。

 でもやっぱり結婚式には憧れるわね」


 うっとりした表情でそう言うエリス。

 まあエリスも女の子だからな、当然と言えば当然の反応だ。


「そうよ、だから弟としてアンタもしっかりなさいよ」


「あい、あい、了解です。 メイリンお嬢様」


「こらぁっ! 茶化すな。 アンタももう少しで十九歳でしょ?

 もっとシャンとなさい、シャンと!」


「そう言えばラサミスの誕生日っていつなの?」


 と、ミネルバ。


「ん? 7月7日だけど?」


「え? もう少しじゃない!」


「あ、そう言えばそうだったわね。

 でもここ数年は連合ユニオンの活動や戦争で

 忙しかったから、すっかり忘れていたわ」


 ミネルバとエリスがそう言う。

 まあ当の本人であるオレも忘れかけていたけどな。

 今更、誕生日を祝って貰うという年齢でも……。


「あたしはラサミスお兄ちゃんの誕生日を祝いたいなあ~」


「あ、それは名案だわさ」


 マリべーレの言葉に妖精フェアリーカトレアが相槌を打つ。


「そうね、せっかくだし今年はちゃんとラサミスの誕生会を開くべきよ」


 エリスも賛成した。


「そうね、あたしは別に構わないわよ」


「あたしもいいわよ」


 メイリンとミネルバもやんわりと賛成する。


「うむ、そうだな。 ならせっかくだし拙者も参加するかニャ。

 場所は拠点ホームの食堂か、大広間を使えばいいだろう」


 家主であるドラガンの許可も取れた。

 ……そうだな、この流れで断るのもアレだしな。

 ここは素直に皆の好意に甘えよう。


「そうだな、皆が祝ってくれるならオレも嬉しいよ」


「それじゃ決まりね!」


「「そうね」」「そうだわさ」「うん」


 こうした訳でオレの十九歳の誕生日パーティーをやる事になった。

 ……正直言って少し嬉しいぜ。

 こういう何気ない日常って良いよな。

 ふへへへ、今から楽しみになってきたぜ!

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