第454話 魔王の盟友


---ラサミス視点---



 翌日の12月20日以降も会談は続いた。

 とは云っても大筋の話はあらかた決まっていた。

 まずはお互いに決めた事を遵守して、

 その後は捕虜交換及び捕虜解放が行われた。


 オレ達「暁の大地」の面々も無事解放される事となった。

 また「ヴァンキッシュ」の面々もオレ達の後で解放されるようだ。


 とはいえこの状況では、彼等と顔を合わせるのは少々気まずい。

 まあそういう所も含めて、両者の解放日をずらしたんだろうな。

 とりあえずオレ達は三日後の23日に魔王城を発つ予定だ。


 ここの捕虜生活も結構長かったな。

 でも名残惜しくはねえぜ。

 やっぱり窮屈な生活だったからな。


 これで生きてリアーナに帰還する事が出来る。

 リアーナに到着した頃には、

 アイラも無事出産を終えている頃だろう。


 そうなれば兄貴もいよいよアイラと結婚か。

 というかオレは十八歳で叔父になるのか……。

 それに関しては少々複雑な気分だぜ。


 まあでも何とか無事に生き残る事が出来た。

 その後の会談でも四大種族の代表は、

 オレやオレの仲間に対しても比較的好意的であった。


 尤もそれはオレとレクサーの関係性を見越した上での振る舞いだろう。

 でもオレとしては別にそれでも構わない。

 ある意味、打算があるからこそ良好な関係が築けているとも云える。


 誠意だけではどうにもならん事はあるからな。

 だから今後もオレは四大種族の代表とレクサーの仲介人をするつもりだ。


 その関係性が上手く行っているうちは、

 四大種族の代表達もオレ達を無碍にする事はないだろう。


 そして夕食を終えた夜の二十時半。

 オレはいつものようにレクサーの私室に呼ばれていた。

 護衛に連れられて、オレは部屋に入るなり敬礼する。


 魔王レクサーはソファに座ったまま、

 身振りでオレに座るように命じた、

 オレは軽くお辞儀して、レクサーの対面のソファに座った。


「こうして貴公と話すのも後僅かだな」


「ああ、でも四大種族の代表と会談、会議を行う際には、

 いつでもこの魔王城に駆けつけるぜ」


「うむ、余としてもそうしてくれると助かる」


「オレも魔族や四大種族の関係が良好になる事を願ってるからね」


「それはそうとカーマイン。

 あえてもう一度聞くが余に仕えるつもりはないか?

 その際には無理に魔族として余と契約を結ばなくても良い。

 ただ余の傍に居て、余の相談相手になって欲しいのだ」


「……」


 レクサーの眼は真剣だ。

 どうやら本気で云っているようだ。

 だがオレの気持ちは変わらない。


「折角のお誘いだけど、その願いを聞くことは出来ないよ。

 オレはやっぱりヒューマンだからね」


「だがヒューマン及び四大種族は、貴公の働きに対して、

 地位や報酬を与える事はないだろう。

 その辺に関して貴公は不満はないのか?」


「まあ貰えるモンなら貰うが、

 別に地位や報酬目当てで戦ってた訳じゃないからな。

 だからオレは自分とその仲間が無事なら文句ないよ」


「そうか、貴公は無欲なんだな」


「いやそんなんじゃないさ。

 ただオレはこの魔王城攻略戦で仲間の犠牲の上で

 アンタとタイマンを張った。 その結果は引き分け。

 云うならばそれがオレの天命だったのだろう」


「……天命?」


 レクサーは僅かに首を傾げた。

 まあ天命は少し言い過ぎかな。

 でもオレとしては似たような気分だ。


「ああ、そしてオレは思ったよ。

 魔王のアンタは想像以上に話が分かる男であった。

 だからオレは最初は自分と仲間の為に動いたが、

 そのうち『オレに何か出来る事はないか?』と思うようになったよ」


「ふむ、そうか」


「ああ……」


「貴公の決意の固さはよく分かった。

 ならば余も無理に引き留めはせぬ。

 ただ今後も何かあれば余に力を貸して欲しい」


「ああ、アンタと四大種族の仲を取り持つように尽力するよ」


「……しかし考えてみたら奇妙なものだな」


 レクサーはそう云って、低く笑った。


「ん? 何がだい?」


「いや余もまさか敵とここまで親交を深めるとは思ってなかった」


「それはオレも同じさ。

 まさか自分が魔王の知己を得るとは思いもしなかったよ」


「嗚呼、云うならば余と貴公は盟友関係だな」


「盟友か、そうなるとオレは魔王の盟友になるな」


「……不服か?」


「いやそんな事はないよ。

 ただオレは英雄になり損ねて、魔王の盟友になったようだな」


「ふふっ、貴公らしいとも云えるな」


「かもね……」


 まあ今となってはこの状況も悪くないと思うけどな。

 昔は無条件で英雄とかに憧れていたが、

 いざ自分が責任ある立場に立ったら、

 その重責に押しつぶされるような感覚に陥った。


 だから今は英雄なんかにはなりたくない。

 でも魔王の盟友とポジションは悪くないかもな。

 これから先どうなるか分からんが、

 オレはオレで自分のやれる事をやりたいと思う。


「ラサミス・カーマイン。 貴公は余の盟友だ。

 今後も何かあったら、余に力を貸して欲しい」


「ああ、勿論さ」


 そしてオレ達は右手で固い握手を交わした。

 こうして魔王との和平会談を無事に終える事が出来た。

 でもこの戦いで多くの戦死者、犠牲者を出したのは事実。


 特に戦死者、犠牲者からすれば、

 オレとレクサーの関係性を「偽善」と呼ぶ者も居るだろう。

 でもやらない善よりやる偽善という形で、

 オレは今後も魔王と四大種族の代表の仲を取り持つつもりだ。


 だが今はとにかくリアーナに帰りたい。

 もうしばらくは戦闘も冒険もしたくねえ。

 とにかく今はゆっくり休みたいぜ。


 そして三日後の12月23日。

 オレ達は転移魔法陣を使って、

 魔王城アストンガレフを後にした。



---------


 翌日の24日。

 オレ達はラインラック要塞に到着。

 そこから何度か転移石を使って古都バルガルッツへ向かった。


 一日に二度以上、転移石を使った為、

 この日は古都バルガルッツの兵士の宿舎で寝泊まりした。

 ちなみにオレ達の武器や防具は付き添い人が保有している状態だ。


 もしここで敵に襲われたら、結構ピンチだろうな。

 まあそれは向こうも同じ。

 だから暗黒大陸の玄関口のハドレス半島へ着くまでは、

 オレ達は丸腰の状態だ。


 そして夜が明けた翌日の早朝。

 オレ達は兵士の詰め所で出された朝食を摂った。

 朝食の味は微妙だったが、文句言える状況でもないので、

 オレ達は朝食を綺麗に平らげた。


 そして転移石で都市カームナックへ移動。

 更にカームナックから転移魔法陣でハドレス半島の沖合へ転移。

 するとハドレス半島の沖合には、

 猫族海賊ニャーマン・パイレーツの海賊船が待ち受けていた。

 それと妖精フェアリーのカトレアと再会を果たした。


 何でもオレ達が囚われてから、

 何度か魔王城に侵入したけど、思いの他、警備が厳重な為、

 アストンガレフ城からこのハドレス半島まで一人で来たらしい。


 とりあえずオレ達は付き添い人から、

 自分の武器と防具を受け取って、

 キャプテン・ガラバーンの旗艦・ネオブラック・サーベル号に乗船した。


 後はこの船で猫族ニャーマン領の港町クルレーベへ向かうだけだ。

 だが何故キャプテン・ガラバーンがオレ達を出迎えに来たんだ?

 そこに僅かな疑問を抱きながらも、

 オレや仲間も疲れていたので、それぞれの個室で睡眠を取った。


 三日後の12月28日。

 ネオブラック・サーベル号は大猫島に到着。

 そしてキャプテン・ガラバーンの指示に従い補給を行った。


 だが下船を許されたのは、

 猫族海賊ニャーマン・パイレーツの海賊達だけであって、

 オレ達は船の上で遠目から大猫島を観る事しか出来なかった。


「この大猫島はもう魔族領なのね」


 と、エリス。

 オレ達は甲板上に立ちながら、周囲の様子を伺った。

 すると兄貴が神妙な顔で一言漏らしていた。


「なあ、ラサミス。 妙だと思わんか?」


「ん? 兄貴、何がだい?」


「……実は航海中に海賊達の会話が耳に入ってきたのだが、

 どうやらリアーナのマフィア連中が結託して、

 侵攻してきた魔王軍とコンタクトを取って、

 自分達とリアーナの安全を確保する為に

 四大種族の情報や地理情報などを魔王軍に提供したらしい」


「その話、本当なの?」


 と、ミネルバ。


「ああ、海賊達が何度か船内で噂していたよ。

 そしてドン・ニャルレオーネとキャプテン・ガラバーンは兄弟。

 だから猫族海賊ニャーマン・パイレーツもある条件をもとに

 魔王軍に協力する、という事になったらしい」


「へえ、それってどんな条件?」


「前にキャプテン・ガラバーンが云っていただろ?

 いずれ『セントライダー海賊共和国』を建国したいという話さ。

 どうやら魔王軍はその条件を呑んで、

 猫族海賊ニャーマン・パイレーツを懐柔した、との話らしい」


 成る程ね。

 ドン・ニャルレオーネらしいな。

 危機的状況を逆に逆手に取るとは、彼らしい。


 だがそのおかげでリアーナは無事だったのだ。

 だからオレ個人は彼等のした事に文句を言うつもりはない。


「でもリアーナはそのおかげで無事だったのだろ?

 だったらそれでいいじゃん、そりゃこんな戦乱時だもん。

 国家だけでなく、個人、集団も生き残る為に奔走するさ」


「……それもそうだな。 悪い、余計な話をした」


「いや気にしてないよ」


 そしてネオブラック・サーベル号は大猫島から出航した。

 それから七時間後。

 オレ達は船の甲板上に登って、前方を見据えていた。


「あっ、観てみて、クルレーベの港が見えてきたわよ」


 と、メイリンが前方に指を差してはしゃいだ。


「本当だ、ようやく着いたわね」と、エリス。


「うん、何とか帰ってこれたわね」


 と、ミネルバ。


「うん、本当に良かったわ」


「全くだわさ」


 マリベーレと妖精フェアリーのカトレアも相槌を打つ。

 いずれにせよ、こうして全員無事で帰ってきた。

 まさに奇跡の生還だ。


 第二次ウェルガリア大戦は魔族の勝利で終わったが、

 オレ的には仲間と共に無事生還出来たから大満足の結果だ。


「じゃあ皆、下船の準備をしておこうぜ」


「ああ」「「「「うん」」」」


 ウェルガリア歴1602年12月30日。

 この日、オレ達『暁の大地』は数々の死線を乗り越えて、

 無事に四大種族の領土へ帰還を果たした。


 とりあえず下船したら、宿で休むか。

 長い航海で皆、少々疲れ気味だからな。


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