第446話 総力戦(中編)


---三人称視点---



 突進、後退、更に突進。

 連合軍と魔王軍が激突する。

 至る所で凄まじい白兵戦が繰り広げられた。


 「竜のいかずち」の新団長シャルクは、

 飛び込んでは敵を斬り、飛び込んでは敵を斬った。

 数の上では連合軍が不利であったが、

 その戦力差を埋めるべく奮戦する連合軍の兵士達。


 そして連合軍のヒューマンとエルフ軍の槍隊が

 穂先を揃えて、駆けて来た。


 その数は百余名。

 槍の穂先で相手を牽制して、その動きを止めた。

 その間隙を突くように、猫族ニャーマンの魔導猫騎士が攻撃魔法を仕掛ける。


「我は汝、汝は我。 我が名は猫族のニャラード。 

我は力を求める。 偉大なる炎の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 ニャラードがそう呪文を唱えるなり、

 彼の右手の平の上に膨大な魔力を帯びた紅蓮の炎が生まれた。 

 そしてニャラードは、

 右手の平の上の紅蓮の炎を宙に浮かして、更に呪文を紡ぐ。


炎帝えんていよ! 我が名は猫族のニャラード! 

 我が身を炎帝に捧ぐ! 偉大なる炎帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 次の瞬間、ニャラードは両腕を頭上にかざした。

 攻撃する座標点は、敵の前衛部隊が密集する中央部。

 そしてニャラードはニャーラン達に指示を飛ばした。


「ニャーラン、ツシマン! 連携魔法で行くニャンッ!」


「了解ですニャン」


「了解でやんす!」


「紅蓮の炎よ、あらゆる物を焼き尽くせっ! 

 行くぞぉぉぉっ……『フレイム・バスター』ッ!!」


 ニャラードが砲声するなり、

 彼の頭上に浮遊していた紅蓮の炎が急激に膨張する。

 どんどん大きくなり、膨らんだ風船のようになった。

 

 そしてその膨張した紅蓮の炎はうねりを生じながら、

 敵の前衛部隊が陣取る中央部目掛けて、放たれた。

 ニャラードの帝王級ていおうきゅうの風属性の攻撃魔法。


「なっ……何だぁっ! あの巨大な炎塊えんかいはっ!?」


「こっちに向かってるぞ! に、逃げろっ!」


「だ、駄目だ! 間に合わないっ!!


 巨大な炎塊が敵の前衛部隊が陣取る中央部に着弾する。

 それと同時に未曾有の大爆発が起こった。

 巨大な炎塊はまるで意思を持ってるかのように、

 周囲の魔族兵達を呑み込みながら、爆音と爆風を巻き起こした。


 轟音と共に沸き起こった爆音で、

 敵兵だけでなく、味方の兵士達も鼓膜に強い衝撃を受けた。

 今の一撃だけで軽く五百人以上の魔族兵が即死した。

 だが魔導猫騎士達は間髪入れず、追い打ちをかける。


「我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 

 ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ――ニャニャンッ! 『アーク・テンペスト』!!」


「――行くでニャンス! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 『ライトニング・ダストッ!!』」


 風と炎が交わり、魔力反応『熱風』が発生。

 そしてやや間を置いて、ツシマンが放射した光の波動が着弾。

 それによって魔力反応が『熱風』から『太陽光サンライト』に変化する。


「アアァ……アアァ…身体が焼けるっ!」


「だ、誰か対魔結界と回復魔法ヒールを!」


 前衛の敵部隊は魔力反応『太陽光サンライト』に身を焦がしながら、

 空気が張り裂けるような悲鳴を上げながら、悶え死んだ。

 今の連係攻撃によって、800人近くの敵兵が一瞬で絶命した。


 だがニャラード達は油断しない。

 更に敵の戦力を削るべく、次なる手を打とうとしたが、

 レストマイヤーやアグネシャール率いる魔導師部隊も

 仲間を護るべく、魔法の詠唱を始めた。


「我は汝、汝は我。 我が名はレストマイヤー!

 嗚呼、暗黒神ドルガネスよ! この大地を闇で埋め尽くしたまえ!

 せいっ……『黒の障壁ノワール・バリア』ッ!!


「我は汝、汝は我。 我が名はアグネシャール!

 嗚呼、暗黒神ドルガネスよ! この大地を闇で埋め尽くしたまえ!

 ハアアァッ……『ダーク・フォートレス』ッ!!」


 レストマイヤーやアグネシャールが闇色の障壁バリアを生み出し、

 ニャラード達の追撃攻撃を防いだ。


「今よ、白魔導師ホワイト・メイジ部隊は、回復魔法ヒールと補助を!」


「は、はいっ!」


 白魔導師ホワイト・メイジ部隊は、

 周囲の味方に回復魔法ヒールをかける。


暗黒詠唱者ダーク・キャスター部隊は、対魔結界を張りつつ、

 攻撃魔法で応戦せよっ!」


 レストマイヤーの言葉に周囲の暗黒詠唱者ダーク・キャスター部隊が「はい」と返事する。

 二人の機転によって、魔王軍の前衛部隊も落ち着きを取り戻した。

 だが一部の者達はまだ混乱状態にあった。

 そして追撃をかけるべく、連合軍の各部隊が突進を開始。


「進め、進め! 我等、傭兵部隊の力を見せてやれ!」


「我々も前進するぞ! エルフ族の矜持にかけて戦えっ!」


「我々、ヒューマン軍も後に続くぞ!」


 竜人族のシャルク、エルフ族のナース隊長。

 ヒューマンの上級騎士オーフェンがそう檄を飛ばすと、

 各々の部下達は武器や盾を構えながら、敵兵目掛けて斬り込んだ。


 対する魔王軍もデュークハルトやキャスパーが兵を率いて、

 真っ向から連合軍の兵士達も迎え討つ。


 力と力、技と技を駆使した白兵戦が繰り広げられるが、

 数で上回る魔王軍が連合軍の気迫と覇気に気圧される。

 怒号と悲鳴と歓声が飛び交う戦場で、

 兵士達は自らを役割を果たすべく、ただひたすらに戦い続けた


---------


 猫族ニャーマン海軍司令部の館の近くの高台から、

 連合軍の総司令官マリウス王子が双眸を細めて、戦場を一望する。

 すると彼のお供であるメイン・クーンのジョニーが戦況を報告する。


「殿下、我が軍は現時点では、敵軍と互角の戦いをしてますが、

 いずれは数の差で不利になる事は明白です。

 ですので殿下は、予定より早くこの大猫島から脱出してください。

 既に緊急脱出用の転移魔法陣を設置しております」


 ジョニーはあくまでマリウス王子の身を案じてそう進言した。

 だが当のマリウス王子は、首を左右に振って反論する。


「ジョニー、お前がボクの身を感じてくれるのは嬉しいニャン。

 だがボクは限界までこの場に残るよ」


「何故です? もうこの戦争の勝敗は決しました。

 これ以上の抵抗は無駄な血を流すだけです」


「私もジョニーと同じ気持ちです」


 同じく王子のお供であるメイン・クーンのガルバンもジョニーに同意する。


「それはボクも分かってるニャン」


「……でしたら!」


「いいか、ジョニー! よく聞くんだ。

 あのヒューマンの馬鹿王子は事もあろうに敵前逃亡した。

 その結果、我が軍は瓦解した。 その為に無駄な血も流れた。

 だがここで退いた所で魔王軍の侵攻は止まらないだろう。

 ならばここで少しでも魔王軍を弱らさせて、

 来たるべき本土決戦に向けて、少しでも時間稼ぎをする必要があるニャン」


「ほ、本土決戦……ですか!?」


 マリウス王子の言葉に目を丸くさせるジョニーとガルバン。

 だがマリウス王子は淡々と自分の意見を述べ続けた。


「現時点では実感が沸かないかもしれないけど、

 我々はもうそこまで追い詰められてるニャン。

 我々、猫族ニャーマンだけでなく、ヒューマン、

 エルフ族、竜人族もいずれは本土を攻められるだろう。

 まあボクとしてはその前に停戦交渉をしたいけどね……」


「ならばこそまだ余力があるうちに、

 我等、猫族ニャーマン軍を本土まで引き戻すべきでしょう!」


 ジョニーの云う事は正論であった。

 だがマリウス王子はやんわりとした口調でジョニーを窘める。


「ジョニー、お前の云うことは一々正しいニャン。

 だけど今のボクは連合軍の総司令官なんだ。

 だからボクはあの馬鹿王子のように敵前逃亡などしない。

 兎に角、少しでも魔王軍の戦力を削ぎたい。

 それは結果的に四大種族にとっても益を為す」


「分かりました、この場は殿下の御意志を尊重します。

 ですが本当に危ない時はお逃げください。

 緊急脱出用の転移魔法陣に乗れば、

 港町クルレーベまで瞬間移動テレポート出来ます」


「ジョニー、お前の心遣いには感謝してるニャン。

 他の撤退ルートはどのように確保している?」


「とりあえず島の南部の港に、避難用の船舶をいくつか用意してます。

 それとそこにも緊急脱出用の転移魔法陣を設置しており、

 二百個以上の転移石も用意しております」


 と、ジョニー。


「そうか。 それならば数百人から一千人くらいの仲間を逃がす事が出来きそうだニャン」


「ええ、状況次第ではもっと多くの仲間を避難させれると思います」


 と、ガルバン。

 するとマリウス王子は胸の前で両腕を組んで小さく頷いた。


「とりあえず最悪の事態は避けれそうだニャン。

 だがボクは限界までのここで指揮を執るよ。

 それが総司令官としての役割ロールだからね」


「「はい」」」


 そしてマリウス王子は、

 丘の上から戦場を一望しながら、状況に応じて的確な指示を出した。

 そして二時間半後の二十三時半。


 数で勝る魔王軍が連合軍をとうとう追い詰め始めた。

 この大猫島における大決戦もいよいよ終盤戦を迎えようとしていた。

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