第445話 総力戦(前編)


---三人称視点---



 海の戦いが終わり、次なる戦場は陸の戦いとなった。

 魔王軍の艦隊は、甲板上に陣取る魔導師部隊が

 対魔結界と障壁バリアを張り巡らせながら、

 陸に着岸すべく、前進を続けていた。


 また空の戦いも魔王軍の勝利に終わった。

 竜騎士団の騎士団長レフは百戦錬磨の勇者であったが、

 流石に二十倍近い敵を相手では、打つ手もなく、

 仲間の数が150人切ったところで、

 全竜騎士部隊に撤退命令を下した。


 これによって連合軍は、制海権も制空権も相手に奪われた。

 この結果によって、連合軍は苦境に立たされた。


 そして魔王軍の艦隊の甲板上の魔導師部隊は、

 対魔結界を入りつつ、時折、魔法攻撃を放ち、陸上の連合軍を攻め立てた。

 だが陸上の連合軍も必死に戦った。


 連合軍の陸戦部隊は、

 猫族ニャーマン軍を中心とした総数約25000人という戦力だ。


 その内訳は猫族ニャーマン軍9000匹。

 エルフ軍6000人、竜人軍5000人、そしてヒューマン軍が約3000人。

 残りは海戦で逃げ延びた海兵や水夫がおよそ2000人前後。


 この戦いの前に四大種族の各地で集めた冒険者及び傭兵を

 既存の戦力に加えて、なんとか25000前後の戦力を集めた。

 だがこれ以上の戦力を集めるのは、もう難しい。


 この大猫島が再び魔王軍の手に落ちたら、

 そろそろ四大種族の王都や主要都市の防衛を考える時期だ。

 連合軍と云っても、一年余りで出来た即席部隊。


 もし各々の種族の王都や主要都市が魔王軍に攻められたら、

 彼等も王都や国民を護る為に戦わざる得ない。


 そういう意味でもこの大猫島の戦いの結果如何によって、

 この戦争の行く末が大きく変わるのは間違い無い。

 それ故に各種族の兵士達も覚悟を決めて戦いに挑んだ。


「よし、攻撃役フォワード防御役タンクは前へ出ろ!」


 新たに傭兵団「竜のいかずち」の新団長となったシャルクが叫ぶなり、

 周囲の兵士達も「おおっ!」と呼応して前線に躍り出る。


「我等、魔導猫騎士は攻撃魔法で敵を攻撃。

 あるいは対魔結界や障壁バリアを張って、

 攻撃しつつ、味方を護るニャンッ!」


「了解ですニャン」


「了解でごわす」


 と、魔導猫騎士ニャーランとツシマンが大きく頷く。


「では今から神帝級しんていきゅうの攻撃魔法を放つニャン。

 ニャーランとツシマン、他の者もサポートを頼む」


 そう云うなりニャラードは、

 両手を頭上にかざして、呪文を唱え始めた。


「我は汝、汝は我。 我が名は猫族のニャラード。 我は力を求める。 偉大なる光の覇者と大地の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 ニャラードがそう詠唱すると、

 彼の両腕に強力な魔力を帯びた旋風が沸き起こった。 

 そしてニャラードは全身から魔力を放ちながら、呪文を更に唱える。


「天の覇者、風帝ふうていよ! 我が名は猫族のニャラード! 

 我が身を風帝に捧ぐ! 偉大なる風帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 次の瞬間、ニャラードは両腕を力強く引き絞った。

 攻撃する座標点は、沿岸部の上空に定めた。

 更に魔力を蓄積すべく、ニャラードはニャーラン達に助力を請うた。


「ニャーラン、ツシマン! 君達の魔力も分けてくれニャンっ!」


「了解だニャン」


「了解でやんす!」


 ニャラード団長の命令に従い、

 ニャーランとツシマンは両手で印を結んだ。

 次の瞬間、二人の全身から魔力が放出される。


 その魔力がニャラードにもとに吸い寄せられた。

 その結果、ニャラードの魔力が更に高まった。

 そしてニャラードは、両手で素早く印を結びながら、大声で砲声する。


「風よ、渦巻うずまけっ! ――神風かみかぜっ!!」


 次の瞬間、ニャラードの両手から迸った激しい旋風が放たれて、

 まるで巨大な龍の如く、天空に巻き上がった。 

 ニャラードの神帝級しんていきゅうの風属性の攻撃魔法。


 巨大な竜巻は敵の空戦部隊や地上部隊を乱暴にシェイクして、

 近くの岩壁、あるいは地面に叩きつけた。

 更に巨大な竜巻は激しくうねりながら、新たなる標的を求めた。


 気が付いた時には数十人、

 いや数百人以上に及ぶ敵兵を一瞬で絶命させていた。


「ニャー、流石はニャラード団長だニャン!」


 と、ニャーラン。


「全くでやんす!」と、ツシマンも歓声を上げた。


「油断するな、敵の数は我が軍を上回っている。

 だから我々も魔力が尽きるまで、全力で敵を狩るニャン」


 と、ニャラード団長。


「了解ニャン」「了解でごわす」


 その後も連合軍の魔導師部隊は果敢に魔法を放った。

 だが敵もレストマイヤーやアグネシャールといった幹部クラスの

 魔導師が中心となって、攻撃魔法を、対魔結界を張りながら、

 魔王軍の上陸用船艇が海岸に辿り着くように全力でサポートする。


 海岸に着岸するなり、魔王軍の陸上部隊は雄叫びを上げて、

 上陸用船艇から海岸に飛び降りた。


 その数はざっと換算しても5000人以上。

 既存の戦力と合わせたら、35000以上の兵力になる。

 対する連合軍の地上部隊は約25000人程度の戦力だ。


 だが魔王軍の兵力は、まだ余力を残している。

 海上の陸戦部隊がまた上陸すれば、連合軍はますます苦しくなる。

 司令官や兵士達もそれが分かっていたから、勇敢に戦った。


 その中でも「竜のいかずち」の新団長シャルク率いる傭兵部隊は、

 前団長の弔い合戦と云わんばかりに、敵兵を斬り捨てて行く。

 それに続くように新団長ケビン率いる山猫騎士団オセロット・ナイツ

 またナース隊長率いるネイティブ・ガーディアンも果敢に戦う。


 しかし魔王軍側も手にした武具を振るい奮戦する。

 血と血が、剣と剣が激しく衝突する激しい白兵戦が繰り広げられる。

 敵味方がひしめくように地上で、路上で戦う。


 敵が視界に入るなり、問答無用で斬り捨てる。

 次第に敵味方が入り乱れた乱戦となった。

 その中でも新団長シャルク率いる「竜のいかずち」が派手に暴れた。


「前団長と副団長の弔い合戦だ。 一人でも多く敵を倒せっ!」


 シャルクが右手に持った白銀の長剣を頭上にかざす。

 すると「竜のいかずち」の傭兵達も気勢を上げて、

 手にした武具を縦横に振るい、魔族兵を次々と戦闘不能に追いやる。


 だが魔王軍の海上の陸上部隊が次々と海岸に着岸して、

 その数が増えていく度に、連合軍の攻勢も徐々に弱まっていく。

 また連合軍の主力部隊は、小柄な猫族ニャーマン軍であった。


 それに対して魔王軍は、オーガやトロル、オークなどの

 体格の良い魔獣、魔物を前線に押し上げて、

 体格差を生かして、猫族ニャーマン軍を執拗に攻めた。


 また時刻も既に二十時を過ぎていた。

 夜は魔族の時間、対する連合軍は夜戦を苦手としていた。

 そして勝負を決めるべく、

 新幹部キャスパー率いる龍族部隊が前線に躍り出た。


 だが猫族ニャーマン軍も馬鹿ではなかった。

 体格で劣る龍族部隊と真正面から戦う事は避けて、

 前衛から中衛に下がり、攻撃魔法や弓や銃を使い、

 中間距離ミドル・レンジから攻撃して、龍族部隊を疲弊させた。


「狼狽えるな、貴様等ぁっ!

 我々は魔王軍最強の龍族部隊である。

 我々に後退の二文字はない。

 だから前へ前へ出て、力で敵をねじ伏せるのだ」


 新幹部キャスパーは、

 右手に持った白銀の大剣を振り上げて怒号を上げた

 そして敵兵を見つけるなり、斬る、突く、払う。

 といった動作を繰り返して、更に前へ進んだ。


 だが連合軍も陣形を固めながら、

 敵兵を迎え討ち、その進撃を食い止めた。


 大猫島の陸地で行われた苛烈な白兵戦は、

 次々と戦死者と負傷者を増やして、

 新たな生け贄を求めるかのように、過激さが増していく。


 血と血が飛び交い、悲鳴と怒号が沸き起こる中、

 両軍の兵士達は闘志と気力を振り絞り、

 ただひらすら戦い続けるのであった。

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