第419話 斬釘截鉄(ざんていせってつ)
---三人称視点---
魔王城の三階にある玉座の間。
玉座の間は、謁見の間と同じように黒と銀色を基調とした内装で、
部屋の中央部に、金の刺繍が施された真紅の長い絨毯が敷かていた。
そして魔王レクサーが玉座の肘掛に頬杖をつきながら、
神妙な顔で一人考え込んでいた。
――アルバンネイルの魔力が消えた。
――まさかアルバンネイルが死ぬとはな。
――どうやら敵にも凄い奴が居るようだ。
「……陛下、いかがなされましたか?」
と、玉座の近くに立つ白いローブ姿のシーネンレムスが魔王に問うた。
「……どうやらアルバンネイルが死んだようだ」
「……それは一大事ですな」
「嗚呼、余もそう思う」
「陛下、親衛隊長も既に出撃しました。
この玉座の間に残されたのは陛下と
この状態でアルバンネイルを倒した敵に攻め込まれるのは、
非常に危険であります。 故に陛下は安全な所へ避難してください」
シーネンレムスの指摘は全うであった。
だがレクサーは玉座で両手を組みながら、
静かに瞳を閉じて、首を左右に振った。
「
だが余はあえてこの場に残る」
「……何故ですか?」
するとレクサーは両眼を見開き、シーネンレムスを一瞥した。
「前にも云ったであろう? 敵の中で最初に余の所まで辿り着く者が居たのならば、
余はその者と対話するという事だ」
「……しかしそれは少々危険であります」
「嗚呼、それは余も重々承知だ」
「それならば今すぐにも避な……」
「くどいっ!」
レクサは低い声でシーネンレムスを一喝する。
そして玉座に深く座りながら、鋭い声を発した。
「既にこの戦いで多くの幹部は戦死した。
アルバンネイル、ザンバルド、プラムナイザー、カーリンネイツ、
そしてカルネス。 五人もの幹部が死んだのだ。
そんな状況で余は兵や民を見捨てて、
一人逃げるなどという真似は出来ぬっ!!」
「しかし万が一にも陛下の御身に何かあったならば……」
「フッ、ここには余と卿が居るではないか?
余も強いが卿も強い、我等二人に勝てる者などそうはおらぬ。
仮に居たとしたら、余としてはその者と対話を望む」
「ですがもし陛下が敵に討たれたら、魔族社会の秩序は崩壊します」
「何だ、シーネンレムス。 余が負けるというのか?」
「……いえ可能性の問題です」
「その程度のリスクは承知している。
だがな、ここで余が逃げ出せば戦いは更に長引く。
幹部も殺されて、魔帝都も陥落。
そんな状態では部下も民も余を支配者として認めないだろう」
レクサーの云う事は一理あった。
これ以上何を云っても無駄だろうな。
ならばここはあえてレクサーの好きにさせよう。
シーネンレムスはそう思い、自分の気持ちに整理をつけた。
「そこまで決意が固いのなら、
ですがもし敵と戦って、陛下の身が危険になれば、
このシーネンレムスが全力で陛下を庇いますので、
その隙にお逃げ下さい」
「そうだな、その時は卿の云う通りにしよう。
しかしシーネンレムス、余としては少し不満だぞ?」
「……どのような不満がおありで?」
「卿の口ぶりだと、まるで余が負けることが前提のように聞こえる。
余はこう見えて強いぞ、例えアルバンネイルを倒した奴が
相手でも余は負ける事はない、そこは余を信じろ」
「……はっ、差し出口が過ぎました。
どうかお赦しください」
「気にするな、卿が余の身を案じての言葉だという事は理解している」
「……それは有り難き幸せに存じます」
「心配するな、余は負けない。
卿も近くで余の戦いを見ているがよい。
余が魔族の頂点に立つ魔王という事を身を持って教えてくれよう」
「御意」
その後、二人は無言になった。
そしてレクサーは玉座に腰掛けながら、一人考え込んだ。
――確かにシーネンレムスの云う事は全うだ。
――ここで敵と話し合う事に何の意味があろうか。
――だがオレは魔王として、オレをこの状況下に追いやった敵との対話を望む。
――とはいえ話し合いだけで全てを解決するつもりはない。
――云うならばこれは余興。
――だがこんな余興も悪くないかもしれん。
――いずれにせよ、オレはまだ死ぬつもりはない。
――どんな敵が来ようが、負ける気がしない。
――オレは魔王、魔族の頂点に立つ存在。
――だからこれぐらいの我儘は許されるだろう。
だが後で思い返せば、
レクサーのこの判断が自身や魔族だけでなく、
四大種族、ひいては
---ラサミス視点---
……あの大きな扉の先に魔王が居るのだろう。
だが扉の前に四人の警備兵が待ちかねていた。
でも見た感じ大して強くなさそうだ。
ならばここは強引に突破するぜっ!!
「――せいっ!」
「なっ……賊かぁっ! ぎゃああァ……アアァッ!!」
オレは両足に風の
即座に間合いを詰めて、刀を振るった。
一人目と二人目は喉笛を、三人目は胸部と腹部を狙い、
瞬く間に三人を切り捨てた。
「ぎゃあああっ」
断末魔を上げる三人。
戸惑う残りの警備兵。
「―――諸手突きっ!!」
「アアァ……アアァッ!?」
オレは渾身の突きを放ち、残り一人の警備兵を仕留めた。
これで警備兵は全て倒した。
後はこの大きな鉄の扉を潜り、中へ入るだけ。
……この先に魔王が居るのか。
確かにこの扉の先から凄い魔力を感じる。
しかも一人じゃない、二人だ。
そこでオレは自分の冒険者の証を見た。
「明鏡止水」の
念の為に持ち物チェックするか。
左手に
聖刀・
懐には聖木のブーメラン。
うん、装備は問題ない。
後はポーチの中身を確認するか。
それと聖人級回復魔法に該当する魔法スクロールが二つ。
後は
……うん、準備万端だな。
「明鏡止水」の
これぐらいの時間ならわざわざ待つ必要はないな。
よし、それじゃ扉の先へ進むか。
そしてオレは目の前の扉を開き、中へ突き進んだ。
部屋の中は他と同様に黒と銀を基調にした内装で、
天井には見事なステンドグラスが張り巡らされ、
部屋の中央部に金の刺繍が
そしてその赤い絨毯の終着点である玉座に容姿端麗な魔族が座っていた。
綺麗なプラチナゴールドの髪、切れ長の緋色の瞳。
豪奢な黒のコートを見事に着こなし、優雅な仕草で玉座に座っている。
間違いない、
今までの魔王軍の幹部も強敵だったが、
それと魔王の近くに白いローブを着た白い仮面をつけた魔導師らしき魔族が立っている。此奴も凄い魔力の持ち主だ。
ヤベえな、この二人を同時に相手にしたらこちらに勝ち目はない。
しかしここまで来たら、退くことは出来ねえ。
オレはごくりと喉を鳴らして、覚悟を決めた。
とりあえずまずは魔王と喋ってみよう。
此奴とは色々喋りたい事がるからな。
そしてオレはゆっくりと赤い絨毯を踏みしめて前へ進んだ。
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