第六十一章 器用貧乏の頂上決戦
第420話 邂逅(かいこう)
---ラサミス視点---
この部屋に居るのはオレを含めて三人。
何故魔王がこのような状況でろくに護衛をつけてない理由は、
知らないが、オレにとっては
オレはゆっくりと赤い絨毯を踏みしめて、前へ進んだが――
「――貴様がアルバンネイルを倒したのか?」
と、眼前の魔王らしき美青年風の魔族がそう云った。
「……そうだ、貴様が魔王か?」
「
それにしても貴様は随分と若いな? いくつだ?」
やはり
魔王レクサーか、そう云えば魔族の連中が時々その名を口にしていたな。
しかしこうして見ると、只の美青年に見えなくもないが、
その全身から発せられる魔力と
「……十八歳だ、名はラサミス・カーマインッ!」
「ほう、本当に若いな。 だが確かに全身から強い魔力が発せられている。
あのアルバンネイルに勝ったのも頷ける話だ」
「……そりゃどうも!」
さてさて、どうしたもんかな。
見た感じ此奴は話合いが通じる相手のように見える。
少なくともある程度なら、こちらの話に耳を傾けそうだ。
とはいえ相手は魔王。
生半可な説得が通用する相手ではない。
ならば此奴が興味を持つように一芝居打つ必要があるな。
さ~て、ここから一言一句に気合を込めて話すぜ。
「アンタに一つ聞きたい事がある!」
「……何だ? 申してみよ?」
「アンタは四大種族を滅ぼして、世界を手中に収めるつもりなのか?」
「……」
急に押し黙る魔王レクサー。
何やら考え込んでいるようだ。
さてさて、此奴が何と云うか見物だ。
「滅ぼそうとまでは思わん。
だが世界は手中に収めるつもりではあった……」
「あった? つまり過去形なのか?」
すると魔王レクサーは小さく頷いた。
「嗚呼、こうなっては今更世界を収める事は無理だからな。
だから何処かしらで現実と向き合う必要があるが、
その機会を今探っている最中だ」
「つまりアンタも条件次第では和平に応じる、という事なのか?」
「嗚呼、その可能性もなくはない」
……成程。
これはチャンスかもしれない。
だが言葉は慎重に選ばないとな。
オレは全神経を集中して、魔王との対話を続けた。
「ならばこの場で連合軍が和平を持ち掛けたら、
アンタにはそれに応じる気持ちはあるのか?」
「条件次第ではな。 だが今のままでは応じぬっ!」
「……何か条件があるのか?」
「嗚呼、条件は二つ。 まずは我等、魔族の安全が第一だ。
休戦が決まり次第、連合軍には早急に魔大陸から兵を退いてもらいたい。
だがある意味では第二の条件が大事だ」
「……その第二の条件とは何だ?」
すると魔王レクサーは両手を胸の前で組みながら、
その緋色の瞳でオレの顔を凝視する。
……何だか全てを見透かされているような気分になるっ!
「フンッ、知りたいか?」
「嗚呼、是非とも聞かせて欲しいね」
「ならば教えてやろう。
それは余を満足させてみよ、という事だ」
「……アンタを満足させるだとっ!?」
「そうだ」
……。
満足させろ、と来たか。
こりゃ難題だな。
だがある意味チャンスでもあるな。
よし、ここで魔王の気を引くぞ。
「アンタの云った第一条件は叶う可能性が高い。
魔族だけじゃない、四大種族も、連合軍も非常に厳しい状況だ。
これ以上の戦いは、魔族も連合軍にとってもメリットはない。
だが譲歩するのはオレ達だけじゃない、魔王さんよ、アンタにも譲歩して欲しい」
「何? 余にも譲歩せよ、と申すのか?」
「嗚呼、そうだ」
「……」
急に押し黙る魔王。
その表情からは何を考えているか、分からない。
しかしここは辛抱強く此奴の言葉を待とう。
「そうだな、それに関しては譲歩しても良いかもしれん」
「陛下っ!」
魔王の傍に立つ白いローブの男性魔族が急に叫んだ。
「シーネンレムス、急に大きい声を出すな」
「……それに関してはお詫びします。
ですが魔王自らが敵に、しかもこんな年若な小僧の言葉に
耳を傾ける必要などとありません」
この白いローブの男はシーネンレムスという名か。
まあ此奴の言い方は少しムカつくが、
魔王の部下としては、真っ当な言葉と云えるだろう。
「卿の云わんとする事は分かる。
だがこの場は余の方針に従え。
余は魔王だ、故に臣下である卿は余に言葉に素直に従えっ」
「……御意」
シーネンレムスは不服そうに渋々頷いた。
う~む、やはり魔王の命令は絶対か。
ならばここで魔王を説き伏せたら、
今後の戦後交渉が有利になるかもしれん。
よし、ここは強気で交渉して行くぜ。
「つまり第一の条件に関しては、
魔族側も歩み寄る姿勢を見せてくれるんだな?」
「嗚呼、無論こちらとしても様々な要求はするであろうがな」
「それに関しては後々、魔族側と連合軍の首脳部で話し合えばいいだろう。
だがオレ個人としては、魔王のアンタに云いたい事がいくつかある?」
「……何を申したいというのだ?」
魔王レクサーが僅かに表情を強張らせた。
「オレはこれまでの戦いで、魔王軍の半人半魔部隊と戦ってきた。
だが連中の大半は年端もいかない少年少女の集まりだった。
何でも話によれば、連中は魔族の中でも最底辺の序列らしいじゃねえか。
そしてオレはその半人半魔部隊の一人の少年と約束したんだ。
『お前等の現状を変えてやる』とな、そう云った約束をした以上、
ここでアンタにその事を伝えたい」
「……その話題は今ここでする話か?」
「いや直接的には関係のない話だ。
だがオレも奴等と戦ってきたから何となく分かる。
だからアンタ自らの手で奴等の処遇を変えてやってくれ」
「……それは頼み事か?」
「そうだな、そうとも云えるだろう」
「……何故、貴様が魔王である余に頼み事をする?」
「自分でも可笑しい話だとは思うよ。
でもアンタは他人の話を聞き入れる度量の持ち主と見た。
だからそんなアンタならば、オレの願いも聞いてくれる、
そう思ったんだよ」
「……」
「いずれにせよ、ここで無駄な血を流す意味はない。
だから魔王であるアンタの口から、この場で休戦宣言してくれ。
そうすればこれ以上無駄な血を流す必要はなくなる。
頼む、オレはもう無駄な戦いや血は流したくないんだ」
気が付けばオレは頭を下げていた。
半分演技で半分本気だ。
話し合いでどうこうなる問題ではない事は分かっている。
だが一度は魔王とも話し合ってみるべきだ。
それが魔王の許に最初に訪れた者の
少なくともオレはそう思ったので、
こうして魔王に直談判した訳だが――
「っ!?」
魔王の魔力が一気に跳ね上がった。
気が付けば、オレの全身の毛が逆立っていた。
そして魔王は無表情でこちらを見据えていた。
「……」
凄い
だがここで今更退く訳にはいかない。
オレは左手で
剣帯に差した聖刀・顎門をいつでも抜刀出来る態勢を取った。
……交渉は決裂か?
兎に角、ここは魔王の出方を見よう。
---三人称視点---
――
――何故、今ここで半人半魔部隊の話が出る?
――いやそもそも何で敵である
ラサミスの言葉を聞き続けていく過程で、
魔王レクサーは、もやもやとした感情を抱いていく。
――いや頼み事ではない。
――これは命令だ!
――此奴は余に対して命令しているのだ。
レクサーは言い知れない不快感を感じた。
確かにレクサーはここに来た者との対話を望んだ。
しかしそれは一方的に譲歩する為ではない。
更にレクサーはこう思った。
――何と云うか此奴の云う事は上から目線だな。
――そう、我は魔王。 魔族の頂点に立つ存在。
――そんなオレに対して、上から目線で譲歩を求めている。
――これは侮辱だ。
――魔王、いや魔族という種族に対する侮辱だ。
――赦せん、赦せん、絶対に赦さない。
――やはり所詮は敵と分かり合う事など出来ぬか。
――オレは間違っていた。
――だがオレはその間違いを正す。
――このオレ自身の手によってな!
レクサーは玉座から立ち上がった。
そして眉間に皺を寄せて、魔力を発した。
すると何処からもなく現れた白銀色に輝いた大剣がレクサーの手元に引き寄せられた。
「――シーネンレムスッ!」
「はっ!」
「これより余の手によって、この目障りなヒューマンの小僧に制裁を加える。
これは魔王自身の手による制裁だ、だから貴様は手を出すなぁっ!」
「御意っ!」
そして魔王レクサーは魔王剣アルガンレカムの柄の両手で握りしめた。
そこからレクサーは全身に闇色の
レクサーは怒っていた、怒り狂っていた。
だがそれは激情による怒りではない。
底冷えするような静かなる怒りであった。
そう、例えるなら燃え盛る炎ではなく、
鉄をも溶かす蒼い炎のような怒りであった。
「っ!?」
ラサミスもレクサーのその底冷えするような怒りに思わず身構えた。
するとレクサーは魔王剣の切っ先をラサミスに向けて、問い質した。
「おい、
「……ラサミスだ、ラサミス・カーマインだ」
「ラサミス・カーマイン。 貴様は余自らが直々に相手にしてやる。
貴様は我等、魔族を侮辱した。 その罪の大きさを思い知らせてくれようっ!」
「……」
――交渉決裂だな。
――しかしとんでもない
――だがここで逃げる事は許されない。
――だからオレも勇気を振り絞って戦うぜ。
話し合いによる交渉は決裂した。
後はお互いに剣で、力で語るのみ。
ラサミスとレクサーはお互いに似たような感情を抱きながら、
手に刀と大剣を握りながら、腰を落として戦闘態勢に入った。
ラサミス対魔王レクサー。
その戦いの火蓋は静かにきって落とされた。、
そして
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