第417話 復讐者(リベンジャー)・(前編)


---ラサミス視点---



 ……。

 感じる、この先に物凄く強い魔力を感じる。

 だが強い魔力反応は一つではない。

 

 凄く強い魔力が二つ。

 一つが魔王か、もう一つは幹部か?

 まあ魔王の護衛に幹部がついている可能性が高いな。


 やれやれ、一人で幹部と魔王を倒さなくちゃいけねえのか。

 とは云っても今更引き返す訳にもいかねえ。

 そうだ、忘れてた。


 オレはさっきの戦闘でとてつもなくレベルが上がったんだ。

 とりあえず魔王と戦う前に、スキルポイントを割り振っておくか。

 どれどれ、スキルポイントはいくつあるかな?


 オレはとりあえず自分の冒険者の証を手に取ってみた。

 レベルは84、スキルポイントは……80もあるな。

 さてこの80ポイントをどのように割り振るか。


 振るとしたら、刀術スキルと回復魔法、

 それとパッシブスキルの『黄金の力ゴールデン・フォース』だな。

 さてはて、どの項目にどれだけ割り振ろうか。


 ここから先は一人で戦う可能性が高い。

 ヨハン達が後で加勢してくれるという可能性もあるが、

 あの状況ではヨハン達も苦戦は必至だろう。


 となると一人で戦い切る力が欲しい。

 そうだな、とりあえず30ポイント程、回復魔法に振ってみよう。

 それによって新たに聖人級回復魔法『女神めがみ息吹いぶき』を覚え、

 『回復魔法の詠唱速度アップ』と『全職業で回復魔力 +40』、

 『回復魔法の回復量アップ』を習得。


 ……聖人回復魔法か。

 上級回復魔法の「ディバイン・ヒール」でも骨折などを治せたが、

 聖人級となればそれ以上の効果が期待出来そうだ。


 とはいえ過度の期待は危険だ。

 まあ詠唱にも時間がかかりそうだし、

 基本的には中級、上級回復魔法でやり過ごそう。


 残るは50ポイントか。

 さて刀術スキルとパッシブスキル、どちらに振るべきか。

 攻撃面を考えたら刀術スキルだが、

 全体的に能力を上げるなら、パッシブスキルを選んだ方がいいな。


 ……。

 相手は魔王。

 楽な戦いにはならないだろう、長期戦も考慮すべきだな。

 となると攻撃スキルより能力値ステータスを強化すべきか。


 ……刀術や体術を上げてもぶっつけ本番で

 スキル能力アビリティを使う事になるからな。

 そうだな、ここは思い切って50ポイント全部パッシブスキルに振ってみよう。


 とはいえどんなパッシブスキルや能力アビリティを覚えるか、

 分からないからな、だから10ポイントずつ振ってこう。

 そしてオレはパッブスキル『黄金の力ゴールデン・フォース』にスキルポイントを10刻みで割り振った。


 10ポイントで『全職業でちから+30 』を習得。

 20ポイントで『全職業で防御力+30 』を習得。

 30ポイントでは特に何も覚えなかった。

 ……でも悪くないな。

 これで全体的な能力値ステータスが底上げされた。


 よし、残り20ポイントも割り振るぜ。

 40ポイントで『全職業で素早さ+30 』を習得

 そし50ポイントで職業能力ジョブ・アビリティ明鏡止水めいきょうしすい』を習得した。


 ……。

 『明鏡止水めいきょうしすい』か。

 凄そうな能力アビリティだな。


 どんな能力アビリティだろう。

 ……少し使ってみるか。

 オレは両手掌りょうてのひらを合わせて、低い声で叫んだ。


「――明鏡止水っ!!」


 ……っ!?

 能力アビリティを発動するなり、

 オレの全身にとんでもない力が漲った。


 す、凄い……力が溢れて、身体も凄く軽く感じる。

 でもどんな能力アビリティだ?

 とりあえず冒険者の証を見てみよう。


「なっ……!?」


 これは凄いっ!

 オレの能力値ステータスがほぼ倍増している。

 この能力アビリティ能力値ステータスの倍増化か?


 ん?

 だが蓄積時間チャージタイムが十分か。

 そして発動時間は五分っぽいな。


 まあこんな能力アビリティを無制限に使える訳ないか。

 でも魔力値は変わってないな。

 ……よし、試しに魔力を使ってみようか。


「――フンッ!」


 オレはとりあえず全身に光の闘気オーラを宿らせた。

 そして右手の平に気功波を放出して、宙に漂わせた。

 それからもう一度自分の冒険者の証に目を通す。


「あっ、魔力値が減ってないっ!?」


 ……もしかして能力アビリティの発動時は、

 魔力が減らない仕様なのか?

 となると能力値ステータスを倍増化させた状態で、

 五分間の間、魔力の増減を気にする事無く戦えるのか?


「……凄すぎるだろ、この能力アビリティっ」


 ……この能力アビリティを上手く使えば、

 魔王相手でも戦える、勝てる可能性はあるっ!

 だが念の為に魔王戦以外では使わないでおこう。

 一度でも相手に見られたら、対策法を練られる可能性があるからな。


 ……まあいいや。

 ここまで来れば引く事は出来ない。

 とりあえずこのまま先に進も……んっ!?


 オレは北側に続く通路を進みながら、何かの違和感を感じた。

 この通路は特別広くもなく、狭くもない程よい広さだ。

 だが通路に何人かは隠れるスペースはある。


 そして『明鏡止水』を発動させているせいか、

 オレの魔力感知能力も鋭敏化していたようだ。

 ……この先に誰か一人が隠れ潜んでいる。


 恐らく隠形ステルス系の能力アビリティか、スキルだろう。

 気配を限界まで消しているが、僅かに放たれる殺気がある。

 そしてこの殺気と魔力に既視感があった。


 ……。

 どうやら魔王戦の前に前座戦があるようだな。

 まあいい、この能力アビリティを試す良い機会だ。


「……居るんだろ? 出て来いよ?」


「……」


 オレの声に反応したのか、殺気が消えた。

 その代り動揺するような気配が感じられた。

 まあいいや、んじゃ無理矢理引きずりだすか。


「――せいっ!」


 オレは左手に光の闘気オーラを宿らせて、

 そこから前方に向けて、光の波動を放った。


「ぐ、ぐっ!?」


 オレの前方の通路が目映く照らされた。

 それと同時に小柄な人影が浮かび上がった。

 それはオレの知っている相手であった。


「よう、やっぱりお前だったか」


 オレがそう云うと、その小柄な魔族の少年がこちらを「きっ」と睨んだ。


「……チッ、まさか勘づくとはな」


 そう云ったのは、あの半人半魔のジウバルトであった。

 

「お前も大概しつこいね」


「……五月蠅い、オレは貴様だけは許さないっ!」


「やれやれ、オレも嫌われたもんだね」


「お前はオレの大切なものをたくさん奪った。

 だからオレは死ぬまでお前を許さないっ!」


 ……まあ此奴こいつがオレを恨むのも無理はねえがな。

 とはいえこんな小僧を殺すのは何処か気が引ける。

 と云っても話し合いで相手が納得する状況ではない。


「……止めとけ、今のオレはとてつもなく強いぜ?

 何せオレはあのアルバンネイルを倒したからな。

 お前程度じゃもうオレには勝てんよ」


「……嗚呼、それくらいオレも分かるさ。

 特にさっき使った能力アビリティはとんでもねえな。

 こうして向き合ってるだけで、気圧されるぜ……」


「それが分かっているなら、無駄にあらがおうとするな?

 オレも出来れば無益な殺生はしたくねえからな」


 オレはやんわりと諭すようにそう語りかけた。

 だが眼前の半人半魔の少年が退くことはなかった。


「例え勝てなくても、オレは戦う。

 今のオレは一人の復讐者リベンジャーに過ぎん。

 この身が果てるまで、お前を付け狙うっ!」


「……止めとけよ? その若さで命を粗末にするなよ?」


「五月蠅えっ、したり顔で諭してんじゃねえよっ! 

 オレはお前のそういう所がムカつくんだよっ!!」


「……しゃねえな、口で云っても分からんようだな。

 ならば能力アビリティの効果を試す意味も

 含めて、軽くお仕置きしてやるよっ!」


「……ホント、そういう所がマジムカつく」


 ジウバルドは冷めた表情でそう云い、両手で白銀の大鎌を構えた。

 こりゃ言葉が通じる状態じゃねえな。

 仕方ねえ、とりあえずボコってから適当に諭すか。


 それに「明鏡止水」の効果を試す良い機会だ。

 あまりやりたくないが小生意気なガキをお仕置きしてやるぜ。

 そしてオレは背中に吸収の盾サクション・シールドを背負いながら、

 聖刀・顎門あぎとの柄を両手で握りながら、腰を落とした。

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