第415話 迅速果敢


---ラサミス視点---


 

 さて、さて此奴こいつと戦うのも何度目だ?

 まあそれ自体は大した問題じゃない。

 問題はこの一騎打ちでどう戦うかだ。


 とはいえオレと此奴の体格差はかなりの開きがある。

 パワー勝負じゃこちらに勝ち目はない。

 とはいえオレには攻撃魔法の類いの遠距離攻撃は殆どない。

 となると必然的に接近戦で戦い事になる。


 だがそれはそれで厳しい。

 認めたくないが此奴の戦闘センスとスキルは本物だ。

 少なくとも真っ向勝負じゃオレに勝ち目はない。


 となると打つ手は一つだな。

 電光石火の連続攻撃で一気に倒す。

 それが唯一の勝利の方程式だろう。


 だが決めるなら一度で決めるしかない。

 此奴レベルの敵は一度見た攻撃法なら見切られる可能性が高い。

 ……そう考えるとなかなか厳しい戦いだな。


 まあ相手は龍君主ドラゴン・ロード

 対するこちらは成り上がりの冒険者風情。

 種族差や体格差も含めて、戦闘技能のポテンシャルの差がありすぎる。


 だがオレの頭の中には、不思議と逃げるという選択肢はなかった。

 ヨハンもだがアイザックは死ぬ直前まで抗い続けた。

 彼等のそんな姿を見ると、

 オレにも闘争心と勇気という感情が自然に沸いてきた。


「……どうした、かかって来ないのか?」


 と、眼前の魔元帥がそう云うがオレは無視した。

 ……兎に角、チャンスは一度しかない、と思った方がいい。

 今なら兄貴がザンバルドと戦った時に速攻勝負を挑んだのも分かる。


 此奴ら魔族の戦闘スペックは、オレ達四大種族より高い。

 それは紛れもない事実だ。

 だが此奴らも完全無欠の存在ではない。


 少なくとも戦闘面に関してはそうだ。

 攻撃を受けたら骨折もするし、眼も潰れる。

 そして此奴らクラスの敵でも初見の攻撃には弱い部分がある。


 だからオレが此奴に勝つには、

 初見の連続攻撃で一気に倒す、というのが一番現実味があると思う。

 そしてまずは敵の意表を突く必要がある。


 それにはやはり奴の死角を突くべきだろう。

 アイザックのおかげで奴の右眼は見えない状態だ。

 ならばオレとしては奴の死角となる左側から攻撃すべきだ。


 とはいえオレの刀術スキル、レベルでは此奴と互角に戦うのは難しい。

 ならばここは得意の格闘戦で挑むべきだろう。

 まずは「フィギア・オブ・エイト」で奴の肝臓リバーを狙い撃つ。

 そしてそこから左右のフックの連打。


 だが通用するのは一度目までだろう。

 ならば「フィギア・オブ・エイト」を決めた後は、

 「サマーソルトキック」で奴の顎を狙い、

 そこから「黄金の息吹ゴールデン・ブレス」を発動させて、

 「空中回転後ろ蹴りローリング・ソバットを負傷した顎にぶち込む。


 そこから更に「徹し」で奴の胸部を強打。

 そして止めはオレのもう一つの独創的技オリジナル・スキル乱火風光剣らんかふうこうけん」を繰り出す。

 ……あくまで過程の話だがこれらの連続技が決まったら、

 いくら此奴とは云えど絶命するだろう、多分……。


 問題は初手だな。

 とりあえず左手に吸収の盾サクション・シールド、右手に聖刀を持って特攻する。

 これで奴の魔法攻撃は防げる。


 だが攻撃の間合いに入ったら、

 盾は投げ捨てて、そこから居合斬りを繰り出す。

 狙うのは奴の左眼がいいだろう。


 決まれば奴は両眼の視界を失う。

 だが恐らくそう簡単には決まらないだろう。

 残念ながらオレの刀術レベルでは限界がある。


 ならば左眼狙いはあくまでフェイントで、

 奴の意識を頭部に向かわせて、

 そこで二度目の居合斬りを放ち、奴の左足を狙う。

 という戦法なら一度は通用するだろう。


 とはいえ通用するのはあくまで一度だろう。

 だから一手も間違う訳にはいかない。

 ……ヤレ、ヤレ、想像以上に厳しい戦いになりそうだな。


「なんだ、怖じ気づいたのか?

 それともまた卑怯な戦術でも使うつもりか?」


「……」


「……来ないなら、こちらから行くぞ!」


「……今行くさ」


 どうやらもう攻めるしかなさそうだな。

 失敗すれば確実な死が待っている。

 でも誰かが此奴を倒さなくちゃならない。


 だけどオレはまだ死ぬつもりはない。

 ならばここから先は全神経を集中しよう。

 ……覚悟を決めろ。


 ラサミス・カーマイン。

 今のお前ならやれる筈だ。

 オレは自分にそう言い聞かせて、

 聖刀と盾を構えながら摺り足で前へ進んだ。



---------



 ――チャンスは一度。

 ――この最初の先制攻撃で全てが決まるっ!


 オレはそう胸に刻みながら、全力で床を蹴った。

 それと同時に眼前の龍族が腰を落として、両手で剣を構える。

 そこでオレは聖刀を一度鞘に収める。


 奴との間合いもほぼ零距離になった。

 ここだ、ここで仕掛ける。


「――せいやぁぁぁっ!!」


 オレは気勢を上げて、居合斬りで眼前の魔元帥の左眼を狙った。


「――遅いわぁっ!」


 眼前の魔元帥が両手に持った大剣を上段に構える。

 それと同時にオレはまた聖刀をパチリと鞘に納刀する。

 

「っ!?」


 よし、見事にフェイントが決まった。

 相手の動きが一瞬硬直する。

 それと同時にオレは再び居合斬りを放った。


「ハアァァァ……アアァッ!!」


「ぐ、ぐはァァァッ!!」


 よし、綺麗に居合斬りが決まった。

 奴の右足の大腿部に一の文字の刀傷が刻まれた。

 そこでオレは再び刀を納刀。

 更に左手に持った吸収の盾サクション・シールドを床に投げ捨てた。


 ここからは一手も間違えられねえ。

 だから全神経を集中して攻めるっ!!


「――フィギア・オブ・エイトッ!」


 オレは右構えから左ボディフックで眼前の魔元帥の右脇腹を強打。

 魔元帥は「うぐっ」という声を漏らして、身体を九の字に曲げた。

 効いたな、でもこれで終わりじゃねえ。


 そこからオレは左右のフックの連打を放った。

 身長差があるので奴の脇腹部分に合計四発のパンチを食らわせる。

 だが魔元帥も意地を見せる。

 顔を苦痛で歪めながらも、両手に持った大剣を水平に振った。


「――ブラッディ・ソーンッ!!」


「――喰らうかよっ!」


 オレは素早くダッキングして、敵の薙ぎ払いを回避。

 よし、ここまでは計画プラン通り。

 ここからサマーソルトキックを放つぜ。


「――ハアァァッ、サマーソルトキック!!」


 オレは反り返るように後転しながら、右足を大きく蹴り上げた。 

 そしてオレの右足が魔元帥の顎の先端チンに綺麗に命中。


「ぐ、ぐはァァァ……アァッ!!」


 それと同時に魔元帥は悲鳴を上げた。

 効いたな、オレの右足にも確かな感触が伝わったぜ。

 だがこれで終わりじゃねえっ!


「――黄金の息吹ゴールデン・ブレスっ!」


 オレはここで職業能力ジョブ・アビリティ黄金の息吹ゴールデン・ブレス』を発動させた。

 そして右足に全魔力の六割程の魔力を注いだ光の闘気オーラを宿らせる。


「――くたばれぇぇっ!!」


 オレが止めをさすべく、身体を反転させて、

 勢いよく空中回転後ろ蹴りローリング・ソバットを眼前の龍族の顎の先端チンに喰らわせた。


「ガハァァッ……アアァァッ!」


 強烈な衝撃がオレの右足に伝わる。

 眼前の魔元帥は左手で顎を押さえながら、絶叫する。

 これで顎は砕けた。

 この状態では此奴も口述詠唱をする事も出来ない。


 だがまだだ!

 まだ終わりじゃないぜっ!!



「止めだ、乱火風光剣らんかふうこうけんっ!!」



 オレはそう叫びながら、独創的技(オリジナル・スキルを繰り出した。

 まずは聖刀の刀身に風の闘気オーラを宿らせて、袈裟斬りを放つ。


「ぐっ……あああっ!」


 袈裟斬りが見事に命中。

 眼前の魔元帥が右肩口から血を流しながら絶叫する。

 そしてオレはそこから刀身に炎の闘気オーラを宿らせた。 

 そこから逆袈裟斬りを放ち、眼前の魔元帥の身体に×の字を刻み込んだ。


 風と炎が交わり、魔力反応『熱風』が発生。

 そしてオレは両手に持った聖刀の刀身に光の闘気オーラを宿らせる。


「そりゃあぁぁぁっ!!」


「ぐ、ぐあぁ……あああぁっ!?」


 ×の字が刻まれた眼前の魔元帥の身体に、

 オレは今度はその腹部目掛けて、渾身の突きを繰り出した。

 ずぶっ! 


 聖刀が腹部に突き刺さり、オレの手元にも確かな感触が伝わる。

 そして魔力反応が『熱風』から『太陽光サンライト』に変化する。

 だが眼前の魔元帥は魔力反応『太陽光サンライト』に身を焦がしながらも、

 両足で踏ん張り、地面に倒れ伏せる事を拒絶した。


 とんでもなくタフな野郎だ。

 ならばこちらとしても全力を尽くすのみ。

 オレは炎の闘気オーラを両手に宿らせて、腰を落とす。

 そしてオレは再度、聖刀を鞘に納めた。


 ――この一撃に全てをかけるっ!

 ――くたばれぇっ!!


 オレは相手の懐に入るなり、

 闘気オーラに満ちた双掌打で魔元帥の腹部を強打。


「ご、ごふっ……」


 オレの両手に凄まじい衝撃が伝わる。

 すると眼前の魔元帥は口から胃液と血液を吐き、両膝を地につけた。

 左眼を見開き、気力を振り絞るが、受けた衝撃に体がついていかない。

 最早立ち上がることすら不可能であった。


 魔力反応が『太陽光サンライト』から『超核熱ちょうかくねつ』に変わり、魔元帥は口から大量の血を流しながら、

 両手で腹部を押さえて、ずるずると床に倒れ込んだ。


「ハアハアハァ……」


 オレは七割近い魔力を浪費して、呼吸を乱しながら、

 見下ろす形で床に倒れ伏せた魔元帥を見据えた。

 眼前の魔元帥はぷるぷると身体を震わせており、

 その両眼から急速に輝きが失われ始めた。


 ……勝った、んだよな?

 オレにはもう一度戦う気力はねえぜ。

 ……とりあえず体力と魔力を回復しよう。


 そしてオレは腰のポーチに右手を入れて、

 万能薬エリクサーの入った瓶を取り出して、

 栓を抜いて、その中身を口に流し込んだ。


 ……とりあえずこれで体力と魔力は補充したぜ。

 しかし我ながらよくやったぜ。

 そう思うなり急に身体に疲労感が押し寄せてきた。


 だがオレはそこで気力を振り絞って、一歩前へ歩み出た。

 ……確実に此奴に止めを刺さないとな。

 そしてオレは鞘から聖刀を抜刀して、両手で柄を握りしめた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る