第414話 特攻(後編)


---三人称視点---



「エンハンス・ドライバーッ!!」


 アイザックは再度、独創的技オリジナル・スキルを放った。

 アイザックは魔剣の黒刃を相手に向けて、魔元帥目掛けて特攻する。

 そして突き立てた漆黒の刃を内側に回転させながら、

 アルバンネイルの心臓部に狙いを定める。


 これが決まればアイザックの勝利。

 となる筈であったが、アルバンネイルが予想外の行動に出た。

 

「……ウイング・ガードォッ!!」


 アルバンネイルは時計回りに身体を半回転させた。

 そして背中の漆黒の両翼でアイザックの渾身の突きを防御ガード

 だが完全に防ぐ事は出来ず、

 魔剣の黒刃がアルバンネイルの左の翼を突き抜いた。


「!?」


 だが両翼を突き抜くことは出来ず、

 魔剣の切っ先が左の翼に突き刺さったまま固定された。


「ま、マズいっ!」


「――貰ったァッ!」


 好機チャンスが一転して窮地ピンチ

 アルバンネイルは苦痛に耐えながら、

 右手に持った魔剣パンヒュアームを構えた。


「――ナイトメア・スラッシュッ!」


「アアァ……アアァッ!?」


 アルバンネイルは魔王級まおうきゅう剣技ソードスキルを放った。

 一撃目でアイザックの腹部、二撃目で胸部を突き刺した。

 それと同時にアイザックは口から大量の血を吐き出す。


 三撃目は頭部を狙ったが、

 その前にアイザックが背中から床に倒れ込んだ為、外れた。

 だがこの時点で既に勝負は決まっていた。


 魔王級まおうきゅう剣技ソードスキル

 それに加えて魔剣、このコンボを喰らっては一溜まりもない。

 アイザックの腹部と胸部から大量の血が流れて、床に染みる。


 アイザックの両眼から急速に輝きが失われ始めた。

 勝利を確信したはアルバンネイルゆっくりと歩み寄り、

 見下ろす形で床に倒れるアイザックを見据えた。


「最後にもう一度貴様の名前を聞いておこう」


「……ア、アイザック……だぁっ……」


「アイザックか、貴様の事は覚えておこう」


「……っい」


「……何だ?」


「……あ、甘いっ……」


「っ!?」


 アイザックは残りの生命力を振り絞って、

 右腕を上げて人差し指から光属性のビーム状の気孔波きこうはを放った。

 完全に不意を突かれたアルバンネイルは思わず硬直する。


「ぐ、ぐあああぁっ……」


 半瞬後、ビーム状の気孔波きこうはがアルバンネイルの右眼に命中。

 それと同時に喘ぐアルバンネイル。

 

「ざ、ざまあ……み……」


 アイザックは余力を振り絞ってそう口にしたが、

 次第に力を失い声が途中で途切れた。

 そして両眼を見開いたまま、そのまま息を引き取った。

 床に横たわるアイザックの遺体を、

 アルバンネイルは怒りに満ちた眼でしばらく無言で眺め続けた。


「……っ! この卑怯者がぁっ!!」


 怒りを爆発させるアルバンネイル。

 そしてアルバンネイルは、

 怒りに身を任せて、右足で何度もアイザックの遺体を踏みつけた。


「……これだから……これだから下等種族というものはっ!?」


 アルバンネイルは、死者を冒涜するように何度も遺体を踏みつけた。

 その都度、アイザックの遺体から血が流れるが

 そんな事はお構いなしに何度も踏みつけるアルバンネイル。


「ぐ、ぐあぁっ!?」


 その時、アルバンネイルの眉間に激痛が走った。

 どうやら何者かが何かを投擲したようだ。

 右眼に加えて、眉間の激痛。


 アルバンネイルは残された左眼で周囲を一望する。

 すると左斜めの位置に投擲紐を持ったラサミスが立っていた。


「……この糞野郎、死体蹴りしてんじゃねえよっ」


「……貴様も不意打ちかぁっ、貴様等はとことん卑怯だなぁっ!!」


「ハア? これは剣術の試合じゃねえんだぞ?

 正真正銘の一騎打ち、殺し合いなんだぞ?

 卑怯も糞もあるかよっ!」


 と、一蹴するラサミス。

 するとアルバンネイルは歯軋りしながら、反論する。


「……こちらが少し譲歩すると、その途端調子に乗る。

 やはり下賎な種族はその程度という事かぁっ」


「ハア? 下等とか下賎とかほざいてるんじゃねえぞ?

 怒りに身を任せて、死体蹴りする奴が偉そうな事云うなっ!」


「……そこまで云ったんだ。

 お前もそれなりの覚悟はしているだろう」


 アルバンネイルはそう云って、漆黒の大剣を右手で握り構えた。

 対するラサミスも左手に盾、右手に聖刀を持ちながら身構える。


「ああ、次の相手はこの俺だ」


「……フン、貴様如きにやられはせんわっ!」


「あ、そ。 能書きはどうでもいいよ。

 俺はテメエを倒す、それだけさ」


「……」


 アルバンネイルは一瞬考え込んだ。

 この程度の相手なら負けはしない。

 と思いつつも前の戦いで苦戦したのは事実。


 更には今は色々と負傷して、ハンデがある状態。

 だからここはあえて自尊心プライドを棄てて、

 回復魔法を使う事にした。


「我は汝、汝は我。 我が名はアルバンネイル。 暗黒神ドルガネスよ。 

 我に力を与えたまえ! 『アーク・ヒール』!」


 それと同時に目映い光がアルバンネイルの身体を包み込む。

 だがアルバンネイルの回復魔力では、

 全身の傷を完治するには至らなかった。


 ヨハンとアイザックにつけられた胸と腹部の傷はある程度癒やされたが、

 アイザックにやられた右眼は傷は塞がったが、視力は戻らなかった。

 それに対して一抹の不安を覚えるアルバンネイル。


 ――クッ、左眼だけで戦うのは少し厳しいな。

 ――だが他の者が観ている手前、逃げ出す事は出来ぬっ!

 ――ならばこの状態で此奴を倒すしかないっ!

 

 結局、自尊心を優先させる結果となった。

 だが例え何と云われようが、

 アルバンネイルにも立場というものがあった。


 故に彼は間違っていても前へ進む。

 突き進むしかない。

 自らを省みて、悔い改めるというような行動は取らない。

 その事実をラサミスも何となく感じ取っていた。


「どうした? 右眼は治さないのか?」


 ラサミスは煽りながら軽く探りを入れた。


「……必要ない」


「ハア? 何で?」


「……貴様如きにはこれで充分だ」


「へえ、オレも舐められたもんだな。

 まあ相手は龍族のおさだからなあ。 

 だからヒューマンの小僧如きには確かに充分かもな」


「……フンッ、すぐにその口を封じてやる」


「はいはい、んじゃ後は剣と拳で語ろうぜ」


 そう云ってお互いに戦闘態勢に入る。

 だがラサミスとしては願ってもない展開だ。


 ――どうやら無駄なプライドが働いているようだな。

 ――だがオレとしては好都合。

 ――右眼が見えないのなら、死角をつける。

 ――とはいえ相手は龍族の魔元帥。


 ――だがこの場はオレが戦うしかない。

 ――正直云って怖いという気持ちもある。

 ――だけどヨハンさんやアイザックさんのおかげで

 ――相手は負傷した状態。


 ――だからここはオレが身体を張る。

 ――そして全身全霊を尽くして、此奴に勝つぜ!


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