第413話 特攻(中編)


---アイザック視点---



 ……。

 俺はこの戦いで死ぬかもしれない。

 それぐらい眼前の龍族は強い。


 何せ相手は龍君主ドラゴン・ロードなのだ。

 対するこちらは竜人族。

 種族としてのポテンシャルでは完全に負けている。


 更には敵は龍化した状態。

 体格差でも一メーレル(約一メートル)ほど、相手が上回っている。

 こんな状況で一騎打ちなどまさに狂気の沙汰だ。


 だが俺はそれでもあえて戦う。

 云うならばこれは俺の剣士として、竜人族としての意地だ。

 俺は此奴こいつのように種族や権威を振りかざして、

 他者を見下す奴が大嫌いだ。


 とはいえ感情だけでは戦いに勝てない。

 故に俺は此奴に勝つ為の戦術を練る必要がある。

 まず此奴は近接攻撃も遠距離攻撃も得意とする万能型。


 奴の剣技は間違いなく超一流だ。

 そして魔法に関しても一流と云える。

 対する俺は剣術の腕ではそれなりのレベルだが、

 魔法に関しては、眼前の龍族に大きく劣る。


 故に遠距離での戦いでは、こちらに勝機はない。

 では接近戦ならばどうかと云うとそれも厳しい状況だ。

 奴の剣技だけでなく、無詠唱及び短縮詠唱による魔法攻撃も強力だ。

 何せあの剣聖ヨハンを一撃で戦闘不能にしたのだからな。


 ならば俺が勝つ道は一つしかない。

 怒濤の連続攻撃を仕掛けて、一気に倒す。

 それしか俺が勝つ道はないであろう。


 そしてその方法がないわけではない。

 魔剣士まけんしの俺が使える魔法は闇属性魔法か、暗黒魔法だ。

 闇属性魔法は魔族の耐性属性だ。

 故にこの場においては闇属性魔法を使っても無意味。


 ならば残された手は暗黒魔法となるが、

 俺が使える暗黒魔法は――


 影の拘束シャドウ・バインドとシャドウ・ゲート、

 追跡トラッカー動物操作アニマル・マニピュレーション

 魔幻マジカル・イリュージョン、そして最近覚えた影の隠形シャドウ・ステルスだ。


 影の隠形シャドウ・ステルスは、一度使用すると十分間の蓄積時間チャージタイムが必要だが、生命体に触れない限りは、十分間、完全に周囲から見えなくなる。一度しか使えないが、この暗黒魔法はかなり強力だ。


 まずは影の拘束シャドウ・バインドで奴の右手を拘束。

 魔幻マジカル・イリュージョンは相手が魔力を感知すると、

 居場所がバレるので、今回は使わない方がいいだろう。


 だから奴の右手を拘束して、

 そこから影の拘束シャドウ・バインドを発動。

 そして姿を隠したところで、俺の独創的技オリジナル・スキル・サザンクロスを喰らわせる。

 

 魔剣レヴァンガティアに加えて、

 俺が何年も熟練度を上げた独創的技オリジナル・スキルを直撃させれば、

 相手が龍族だろうと、一太刀で倒す事が可能だろう。


 だが一度でも手順を間違えれば、全てが無駄になる。

 その為にも一手も間違う訳にはいかない。

 間違いなく俺の人生で一番過酷かつ重要な戦いになるだろう。


 生か、死か。

 そのどちらの結果を招くのも俺次第。

 だが一剣士としては、こういう緊張感がある戦いを行う事に対して、

 何とも云えない高揚感と充足感が自然と湧いてくる。


 我ながら救いようがないと思うが、

 剣士や戦士ならば少しは共感してくれる部分はあるだろう。

 とはいえ戦う事が目的ではない。


 目的はあくまで勝つ事。

 俺はその為に全力を尽くす。

 敵の魔法攻撃は極力このライルに借りた盾で防ぐつもりだ。


 兎に角、勝負は一瞬で決まる。

 そして俺は必ず勝つ、生き残る。

 俺は自分にそう言い聞かせて、剣と盾を構えながら摺り足で前へ進んだ。



---アルバンネイル視点---



 ……一騎打ちか。

 この大戦が始まって以来、俺も何度か一騎打ちをするようになったな。

 まあそれ自体は悪い事ではない。


 あの金髪ヒューマンの剣聖。

 奴は正直強かった。

 それに対して眼前の竜人族はどうであろうか?


 まあ俺の見立てでは、あの銀髪のヒューマンの小僧より弱いと思う。

 此奴は見たところ四十前後という年齢。

 魔族ではまだまだ子供だが、竜人族としては壮年といったところか。


 だが完全に舐めて良い相手ではない。

 奴が持つ漆黒の長剣は魔剣の類いだろう。

 あの魔剣で奴が全力で剣技ソードスキルを俺の急所に打ち込んだら、

 いかに龍化した龍族と云えど、死ぬ可能性はある。


 それ故に俺は全力でこの男と戦う。

 後、気になるのは奴が持っている水色の盾だな。

 恐らく魔法を反射する魔道具の類いであろう。


 となれば中距離、長距離の魔法戦は避けた方が良いな。

 周囲ではまだキャスパー率いる龍族部隊が敵と交戦中。

 この状況下で高火力の魔法を使う訳にもいかぬ。


 ならばここは単純シンプルに力で攻める。

 それが龍君主ドラゴン・ロードの俺に求められる役割ロール。 

 だがこちらも左肩を負傷状態。

 本来なら回復魔法ヒールで治癒するべきだが、

 戦士としての俺の矜持がそれを拒んだ。


 別に奴を舐めている訳ではない。 

 云うならばこれはハンデだ。

 この一騎打ちを面白くする為のな。


「――行くぞ!」


「――来るが良いっ!!」


 眼前の竜人族は身を屈めながら、全力で床を蹴った。

 俺は迎え討つべく、右手に握る大剣を構えた。

 カウンターで迎え討つか。

 いやここは力業で迎え討つ。

 龍族の俺が竜人族相手に姑息な手は使えぬ!


 だがその考えが結果的に命取りとなった。

 眼前の竜人族は左手を前にかざして、素早く呪文を唱えた。


「――影の拘束シャドウ・バインド!!」


「っ!?」


 ここで捕縛バインド系スキルを使うのか。

 くっ、予想以上に強力な捕縛バインドだ。

 ならばこの左腕で奴を殴打する。


 俺は右手に黒い縄が絡みついたまま、

 床を蹴って、相手との間合いを詰める。

 だがそれと同時に奴がまた魔法を使った。


「――影の隠形シャドウ・ステルスっ!?」


「なっ!?」


 奴が魔法を唱えるなり、奴の姿が俺の視界から消えた。

 くっ、隠形ステルス系のスキルか、魔法か。

 此奴がここまで魔法を使うとは計算外だ。


 だが奴が狙っているのは一撃必殺。

 となれば奴が姿を現わした瞬間に大技を使う腹づもりだろう。

 ……マズいな。 コイツは想像以上に厄介な展開だ。


「!?」


 その時、不意に俺の真後ろで強力な闘気オーラが漂った。

 しまった、背後を取られた。

 俺は咄嗟に後ろに振り返る。 だが遅かった。


「――サザンクロスッ!!」


「グアァッ……アァァッ!!」


 き、効いたぜ……。

 重傷だが致命傷ではない。

 敵の剣線によって、俺の胸部に十字の傷が刻まれた。

 鎧のおかげで、致命傷は避けられたが軽い怪我ではない。


 だがこれで終わりではない。

 恐らく次に止めの一撃を放ってくるだろう。

 俺がそう思うと同時に眼前の竜人族は腰を落として両手で剣を構える。


 この一撃だけは何としても躱さなくちゃならない。

 俺は胸に刻まれた十字の傷から血を吹き出しながらも、

 余力を振り絞って、意識を保ちながら回避行動を取る。


 理想は回避だが、恐らくそれは難しいだろう。

 ならば俺の取る行動は一つ。

 肉を切らせて骨を断つだ。


「――エンハンス・ドライバァー」


 来る!?

 失敗は許されない。

 必ず成功させる!

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