第412話 特攻(前編)


---三人称視点---



「――では行くぞッ!!」


「――来いっっ!!」


 雄叫びと共に放たれる斬撃。

 

「うらァあああッ!!」


「うおおおおおおッ!!」


 剣聖ヨハンと魔元帥アルバンネイルは、

 お互いに一歩も引かず、激しい斬戟を応酬する。

 ヨハンは眼前の魔元帥の猛攻を防ぎ続け、

 隙を見つけては勇猛果敢に斬りかかる。


 耳障りな硬質音が周囲に響き渡る。

 重心を低くして、低姿勢から特攻を仕掛けるアルバンネイル。

 剣聖ヨハンは軽くバックステップして攻撃を回避。

 手にした聖剣サンドライトを振り上げて――


「『ゾディアック・ブレード』ッ!!』


 と、強化戦士エンハンス・セイバー固有剣技ユニーク・ソードスキルを放った。

 

「舐めるなァッ! ――ブラッディ・ソーンッ!!」


 対するアルバンネイルも剣技ソードスキルを放ち、

 ヨハンの聖剣と魔元帥の漆黒の魔剣が激しく衝突する。

 お互い歯軋りしながら、鍔迫り合いする。

 だがパワーで負けるヨハンが後方に吹っ飛んだ。


 すると魔元帥は両手で握った漆黒の大剣で床を強打する。

 それによって床が破壊されて、その破片が弾丸のように飛び散った。


「くっ!?」


 ヨハンは必死に後ろにバックステップして、

 地面を転がりながら、飛び散る破片を躱したが――


「――き、きゃあ、ぁぁぁっ!?」


 ヨハンの背後で、悲鳴が聞こえた。


「なっ……メイリンくん!?」


 背後を一瞥してヨハンは思わず叫んだ。 

 破片の塊を受けてメイリンが床に倒れていた。

 すぐに彼は理解した。


 魔元帥は最初からヨハンではなく、メイリンが狙いだったのだ。

 このような状況でも、一瞬の間隙を突いて、

 有利な展開に持ち込む辺りは流石である。


「ヨハンさん、メイリンはオレが介抱するので、

 貴方はあの龍族との戦いに専念してください!」


「そうしてもらえると助かる! ラサミスくん、頼んだぞっ!」


 そしてヨハンは床から立ち上がり、腰を落とし、再び剣を構えた。

 するとアルバンネイルもゆっくりと右手を後ろに引き絞り、

 闇属性の闘気オーラを全身に纏う。


 ――大技を使うつもりなんであろう。

 ――ここでボクが負ける訳にはいかない。

 ――故に何としても阻む。


 ヨハンは残った魔力と闘志を全身に装填させると、

 弾丸のように床を蹴った。


「――ストレングス・エンハンスッ!!」


 まず最初に職業能力ジョブ・アビリティ能力強化のうりょくきょうか』を発動して、自身の筋力値を強化。 

 そして次に両足に風の闘気オーラを宿らせた。

 

「ハアアアアアアアアアァッ!!」


 ヨハンが床を蹴り、アルバンネイルに迫る。

 

「――死ねいっ! 『ナイトメア・スラッシュッ!!』


 だがその前にアルバンネイルが剣技ソードスキルを放った。

 漆黒の魔剣に加えて、魔王級まおうきゅう剣技ソードスキル

 直撃した時点で即死レベルの攻撃だ。

 アルバンネイルは手にした魔剣で強烈な三段突きを放つ。


 だがヨハンはその三段突きをジャンプで回避。

 「羽根つきの靴フェザー・ブーツ」の効果も相まってジャンプ力とスピードも増している。そしてヨハンは、アルバンネイルの魔王級まおうきゅう剣技ソードスキルを華麗に回避。

 ヨハンはそこから全体重が乗せた状態で、

 眼前の魔元帥の右頬を右足で蹴り抜いた。


 鈍い衝撃音と共に、アルバンネイルの巨体が大きく後ろに後退する。

 身体が浮くほどの強烈な蹴りを喰らわせたヨハンは、

 すぐさま両足から床に着地。


 「とんっ」とブーツの細い音を鳴らし、

 ヨハンは全力で前方目掛けて特攻する。


 ――ここは一気に決めるっ!!



「――必殺っ! スターライト・インパクトォッ!!」


 ヨハンはそう技名を叫びながら、自身の独創的技オリジナル・スキルを繰り出した。まず袈裟斬りと逆袈裟を高速で繰り出し、

 竜頭の魔元帥の胴体にX(エックス)の文字を刻み込む。


「ぐ、ぐはぁっ!?」


 溜まらず喘ぐアルバンネイル。

 そしてヨハンは今度はI(アイ)の字を描くように縦に剣を振るった。

 次の瞬間、アルバンネイルの胸部から腹部にかけて、

 剣線によってI(アイ)の字が刻み込まれた。


 後は刻まれた星印に全力で突きを放つのみ。

 だがそれと同時に、アルバンネイルが軸足を右足から左足に変えた。

 つまり左構えから右構えにスイッチしたのである。


 そしてアルバンネイルは、ヨハンの渾身の突きを左肩で受け止めた。

 鎧の左肩部分が撃ち抜かれて、

 聖剣の刃がアルバンネイルの皮膚を切り裂いた。


 しかしアルバンネイルは鋼の肉体の持ち主。

 故に皮膚は裂けたが、骨を断つ事は出来なかった。

 そしてアルバンネイルは、無防備になったヨハンの胸部に右手をを置いた。 

 「しまったっ!?」と目を見開いて驚愕する剣聖ヨハン。


「――ノアール・フラムッッ!」


 ドゴオンッ、という爆音と共にヨハンの身体が揺り動く。

 零距離からの魔法攻撃。 後ほどの事を考えて威力は低めにしたが、

 それでも室内の天井に緋炎と煙が立ち昇る。 

 胸部に強烈な火傷が刻まれて、大の字に床に倒れこむ剣聖ヨハン。

 すると近くに居たアイザックが大声でラサミスに指示を出した。


「ラサミス、とりあえず俺が奴と戦うから、お前は回復魔法ヒールで、

 傷ついた仲間を癒やすんだっ!」


「りょ、了解ッス! 我は汝、汝は我。 我が名はラサミス。 

 我は力を求める。 母なる大地ウェルガリアよ! 

 我に大いなる恵みを与えたまえ! 『ライジング・サン』!!』


 ラサミスが仲間を救うべく、職業能力ジョブ・アビリティ・『ライジング・サン』を発動させた。 

 職業能力ジョブ・アビリティが発動するなり、

 ラサミスの居る位置を中心に目映い光が生じて、

 周囲の築いた仲間を優しく包み込んだ。 

 すると仲間達の体力と傷が一瞬にして回復及び癒えた。


 これによってライル、エリス、メイリン。

 そしてヨハン、アーリア、クロエ、ジョルディーの傷が癒やされ、行動不能及び瀕死状態から回復。だが大抵の者が一度受けた精神的なダメージが大きくて、

 行動可能な状態になっても、再び戦う気力が沸いてこなかった。

 だがそんな中でもライルは再び戦おうとした。


「アイザックさん、俺も戦います」


「ライル、ミネルバ達が想像以上に苦戦しているようだ。

 だからお前はミネルバ達に加勢してくれっ!」


 と、アイザック。


「し、しかし……」


「大丈夫だ、俺は負けんよ。 だからお前も俺を信じてくれ」


「……了解です、ならばこの水色の盾ブルーミラーシールドを使ってください」


「……そうだな、有り難く借りるよ」


「はい」


 ライルはそう云って、水色の盾ブルーミラーシールドをアイザックに手渡した。そしてアイザックは左手に盾を、右手に魔剣を持った。

 それから摺り足で眼前の魔元帥の許に迫る。

 するとアルバンネイルはニヤリと笑い、傲慢に大言を吐いた。


「貴様か、だが貴様では俺には勝てぬぞ。

 まあそれでも戦いたいというならば、相手にしてくれよう。

 というかそこに居る銀髪の小僧も一緒にかかって来いっ!」


 だがアイザックはアルバンネイルの言葉を無視した。


「ラサミス、この場は俺に任せてくれっ!

 俺が奴の戦闘パターンを限界まで引き出すから、

 俺が奴に負けた後はお前が次に戦うんだ」


「了解ッス、アイザックさん。 くれぐれも無理しないでください」


「それは無理なお願いだな。 だが安心しろ。

 俺は生き残るつもりさ、俺もまだ死にたくはないからな」


 そしてアイザックは、膝を曲げて重心を低くして剣と盾を構える。

 対するアルバンネイルは、負傷した怪我を治療する事もなく、

 右手で魔剣パンヒュアームの柄を握りながら、大股で前へ進んだ。


 傭兵隊長アイザック対魔元帥アルバンネイル。

 竜人族と龍族の頭目の戦いが始まろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る