第375話 今後の方針(前編)


---ラサミス視点---



 オレ達は今後の方針を話し合う為に、

 仮の作戦司令部がある大きなテントの中に集結した。

 テントの大きさは直径7~9メーレル(約9メートル)くらい。


 テントの入口を入って正面の中央に炉があり、 

 その奥に机と椅子があった、部屋の端にベッドがあり、

 テントの構造自体は、オレ達一般兵が寝泊まりするテントと大差ない。


 テント内にはマリウス王子とそのお供のジョニーとガルバン。

 それと王国魔導猫騎士団の騎士団長ニャラード、

 山猫騎士団オセロット・ナイツのレビン団長と猫族ニャーマンの重鎮が集まっている。


 また剣聖ヨハン、アイザック、竜騎士団の団長レフ。

 エルフ族のナース隊長、そして「暁の大地」からはオレと兄貴。

 合計十一名がこのテント内に集まっていた。


 そしてマリウス王子がテントの奥の椅子に座り、

 ジョニーとガルバンが王子の左右に陣取り、

 他の者は中央の炉を囲むように立っていた。


 しかし野郎ばかりだな……。

 少しむさ苦しいぜ、ってそれは野暮な突っ込みだな。

 まあこの面子が集まったという事は、

 今後の方針について語り合うんだろうな。


「では諸君、連合軍の今後の方針について語りたいと思う」


 マリウス王子がそう云うと、周囲の空気が少し張り詰めた。

 さてさて、どんな事を言い出すか、よく聞いておかないとな。


「現在、我が連合軍の主力部隊は、

 敵の本拠地である魔帝都に迫っているが、

 その反面、補給線と行動線が伸びきっている状態だ。

 敵としては、当然長くなった補給線を叩いて来る。

 だが我々はそれに加えて、最高司令官の私と副司令官が

 派閥争いしている状況だ、このままではいずれ軍が瓦解するニャン」


 まあこれに関しては、この場に居る全員が気にしている事だ。

 補給線の事もだが、ヒューマンの馬鹿第三王子の事も問題だ。

 現にあの第三王子はラインラック要塞に引き籠もっている。


 恐らく面倒な戦いは、オレ達に任せて、

 戦闘の結果次第で、今後の出方を決める腹づもりだろう。

 

「この戦争が始まってそろそろ一年が経つが、

 今が勝負の分かれ目だろう。 恐らくここで判断を誤れば、

 戦いの流れは一気に変わるニャン。 だから私はここで大攻勢に出ようと思う」


「……大攻勢ですか」


 と、ヨハン。

 するとマリウス王子が「うむ」と頷いた。


「恐らく今最前線に居る連合軍の主力部隊が、

 四大種族の中でも一、二を争う猛者集団であろう。

 ここまで戦えたのも諸君による力が大きいニャン」


「……ありがとうございます」


「自分は自分の仕事をしたまでです」


 と、ヨハンやアイザックが控え目にそう云う。

 するとマリウス王子は真剣な表情で言葉を続けた。


「だから私は現状の約五万の軍を持って、

 敵の居城に大攻勢を掛けて、魔王を捕縛ほばくしようと思っている」


「……魔王を捕縛するんですか?

 魔王は倒さないんでしょうか?」


 ナース隊長がそう疑問を投げかける。


「嗚呼、出来れば魔王は生け捕りにしたいニャン。

 何故なら魔族は、魔王の命令には絶対服従だからだ。

 だから魔王を捕縛して、魔王に停戦宣言させる。

 そうすれば、とりあえず魔族は魔王の命令に従うだろう。

 逆にここで魔王を殺せば、魔族内で跡目争いが起きる。

 そうなれば魔族と交渉するのは難しくなるだろう」


 ……。

 成る程、一理あるな。

 魔族の社会構造の細かい点は分からないが、

 奴等は好戦的だが、血も涙もない悪魔ではない。


 確かに嗜虐的な面はあるが、

 魔王への忠誠心や魔族内の結束力など、

 奴等にも感情や知性というものがある。

 だから魔族の頂点に立つ魔王を捕縛するというアイデアは悪くない。


「魔族と交渉するおつもりですか?」


 そう云ったのは、レフ団長だ。

 

「嗚呼、魔王を捕縛して、魔族と和平交渉を行う。

 そしてこの不毛な戦争を一日も早く終わらせる。

 それが我々、四大種族が選ぶべき正しい道だニャン」


「魔族相手に和平交渉ですか?

 その状況に納得できない方々も居るのでは?」


 ナース隊長が周囲をちらりと見て、そう一石を投じる。

 まああの馬鹿第三王子辺りは、間違いなく文句を云うだろうな。

 でもこの戦いが長引くと色々な面で良くない方向に事が進むのは明らかだ。


「それは私が責任を持って、対応させてもらうニャン。

 最悪、戦勝利権の一部を放棄してでも周囲を説得するつもりだ」


 この言葉はまるで嘘という訳ではないだろう。

 猫族ニャーマンは単純だがある意味純粋でもある。

 だからマリウス王子も今この場では本気なんだろう。


「私は個人は、和平交渉に賛成です」


「私もです」


 アイザックとレフ団長が声を揃えてそう云った。


「……自分もマリウス王子の判断を支持します」


 と、ヨハンもさりげなく同意する。

 となると必然的にオレ達の意見も求められるな。

 オレは横に立つ兄貴に視線を向けた。

 だが兄貴はオレの視線に気付くなり、首を左右に振った。


 その目が云っていた。

 ――お前が判断するんだ、と。

 そうだな、今はオレが「暁の大地」の団長だからな。


「自分はあくまで雇われの身。

 ですから基本的に上の方針に従います」


 と、無難な受け答えをした。

 まあここで変な自己主張するのもアレだしな。

 ここは場の空気を読んで、周囲に合わせるのが妥当だ。


「……では我々、エルフ族もとりあえず最高司令官殿のご指示に従います。

 ですが戦後の事に関しては、またその時に色々と話し合いたいと思います」


「うん、うん、それでいいニャン」


 マリウス王子は、そう云ってナース隊長の言葉を受け入れた。

 ……とりあえずこれでこの場に居る各種族のリーダーの支持は得られたな。

 まあ……とりあえずだがな。


「それでは今後の方針について具体的に語りたいと思う。

 まず何より大事なのは、敵の居城である星形要塞をどう攻略するかだ!

 だから諸君等も遠慮せずドンドン意見を述べてくれたまえ!」


「……はい」


 マリウス王子の言葉に各部隊のリーダーが控え目に頷いた。

 そう、今までの話は言わば、前振りに過ぎない。

 問題はこの最終決戦でどう戦って、どう勝つかだ。


 とはいえ敵も必死だろう。

 だからそう簡単に勝てるとは思えない。

 まあそれはここに居る皆も重々承知だろう。


 オレとしては、しばらく静観しようと思う。

 オレはそう思いながら、周囲をちらりと見回した。

 すると大抵の者が表情を強張らせていた。


 どうやら皆も同じ考えのようだ。

 そしてマリウス王子が「コホン」と軽く咳払いしてから、


「それでは今後の戦いについて会議を行いたいと思う」


 という具合に会議が始まった。

 といあえずしばらくは王子の言葉に耳を傾けよう。

 それが一番無難だからな……。

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