第374話 奇襲


---三人称視点---



 ラインラック要塞からナーレン大草原に向けて派遣された補給部隊。

 竜騎士の護衛が三十人、冒険者及び傭兵の護衛三百人。

 その他、荷物持ちサポーターや工作兵や衛生兵を含めば五百人を超える大所帯であった。


 多くの者が馬や馬車に乗って、

 伸びきった補給線をただひたすら進んでいたが、

 それを待ちかねていたグリファム率いる敵の空戦部隊に奇襲を受けた。


「ニャーンッ! 怖いニャン、怖いニャン、怖いニャンッ!」


 敵の奇襲によって周囲の仲間がやられる中、

 荷物持ちサポーターの黒白の猫族ニャーマンが両手で頭を抑えながら、

 地面にうずくまる。


「お、お、おいっ……嘆いている場合じゃないニャン。

 早く逃げないと死んじゃうぞっ!」


 と、茶シロの猫族ニャーマンが地面にうずくまる黒白の猫族ニャーマンに声をかける。だが黒白の猫族ニャーマンは怯えたまま、その場から動かなかった。彼は元々、荷物持ちサポーター


 故にこのような奇襲の前では、ただ怯える事しか出来なかった。

 だが全ての兵士が彼と同じというわけではなかった。

 特にその中でも竜騎士団の竜騎士ドラグーン達は勇猛果敢に戦った。


 だが竜騎士ドラグーン三十人に対して、

 敵の戦力はゆうに一千を超えていた為、

 数の暴力の前に彼等は無残にも散った。


「よし、敵の空戦部隊は排除した。

 後は荷馬車を中心に燃やし尽くせっ!

 敵の補給線を完全に絶つつもりでやるぞっ!」


 この奇襲部隊の指揮を任されたグリファムが勇ましい声で周囲にそう命じた。

 大草原の戦いでは、グリファム率いる獣魔団及び竜魔部隊は、

 消極的な戦いをいられていたが、

 その鬱憤を晴らすべく、連合軍の補給部隊を執拗に叩いた。


「ぐあぁっ……駄目だ、数が違い過ぎるっ!」


「だ、誰か救援を呼んで来てくれっ!」


「無理だニャン、ここは要塞と大草原のほぼ中間ポイントだニャン。

 ここから援軍を呼びに行く余裕なんてないだニャンッ!」


 敵の奇襲の前に右往左往する補給部隊。

 敵の火炎魔法で荷馬車や物資が燃やされる。

 あるいはスキルや攻撃魔法でその身を焼かれた。


「フンッ、ざまあねえぜっ!

 俺達は上から散々押さえつけられたからな。

 だからその辺も含めて、派手に暴れさせてもらうぜ」


「そうそう、というか奴等、脆いな。

 全く敵ながら情けないぜっ!」


 と、軽口を叩く竜魔の二人組。

 

「余計な事を喋ってる間があるなら、

 敵を叩くんだ、それが俺達の仕事だろっ!」


 と、口を挟んだのは、はぐれ竜魔のゼーシオンだ。

 すると軽口を叩いていた竜魔の二人組がゼーシオンに視線を向ける。


「フンッ、そんな事は云われなくても分かってるさ。

 上官でもないのに、一々指図しないで欲しいな」


「嗚呼、全くだ。 オマエさんはその背中のお犬様と

 仲良くしてりゃいいんだよ、俺達を巻き込むな?」


「……分かった。 俺は俺で仕事をする。

 お前等はお前等で自分の仕事を果たしてくれっ!」


 ゼーシオンはそう言い残して、

 背中にバルデロンを乗せたまま両翼を羽ばたかせた。


「……ゼーシオン殿、宜しいのですか?」


 と、バルデロン。


「……何がだ?」


「……私と居ると同族から敬遠されるんじゃないでしょうか?」


 バルデロンの声は至って真剣だ。

 だからゼーシオンもバルデロンの問いに真面目に答えた。


「どのみち俺ははぐれ竜魔。

 貴様と組もうが、組まなくても俺は同胞から受け入れられる事はない。

 まあ魔王軍に参加するまでは、甘い夢を見ていたがな。

 ……現実とは得てしてこういうものだ」


「……左様ですか」


「嗚呼、だが貴様と組むのも悪くない。

 貴様の魔法力と魔力はかなりのものだからな。

 だからこの場では、ひたすら敵の補給部隊を叩くぞっ!」


「了解ですっ!」


 その後、魔王軍の奇襲部隊によって、

 連合軍の補給部隊は壊滅状態に追いやられた。

 そして奇襲を終えたグリファム率いる奇襲部隊は、さっさと兵を引き上げた。



---------


 敵の奇襲部隊より補給部隊を壊滅されたが、

 マリウス王子は状況を変えるべく新たな手を打った。

 まずは補給部隊を完全に護るべく、

 ナーレン大草原に待機する連合軍の主力部隊から大規模な護衛部隊を派遣した。


 竜騎士団の副団長ロムス率いる竜騎士部隊が約百名。

 アイザック率いる傭兵及び冒険者部隊を五百名。

 更にラサミス達「暁の大地」など各連合かくユニオンからも

 主力をかき集めて、騎兵隊として補給部隊の護衛にあたらせた。


 そしてラサミス達は馬に乗りながら、

 ナーレン大草原とラインラック要塞を繋ぐ補給線を辿りながら、

 ラインラック要塞から再び派遣された補給部隊と無事合流を果たした。


 がっちりと護りを固められた補給部隊は、

 時折、敵の竜魔部隊の奇襲攻撃を浴びながらも、

 その都度、味方の護衛部隊が反撃して、被害を最小限に抑えた。


 これで事は上手く運ぶかのように見えたが、

 魔王軍は今度はナーレン大草原に待機する連合軍の主力部隊を奇襲した。

 グリファム率いる空戦部隊、エンドラ率いるサキュバス部隊が

 嫌がらせのような奇襲攻撃を延々と繰り返した。


 だが騎士団長レフ率いる竜騎士団も黙ってはなかった。

 レフや切り込み隊長カチュアが最前線に立ち、

 空戦部隊やサキュバス部隊を次々と倒して行く。


 だが敵は必要以上に奇襲攻撃に固執する事はなく、

 迎撃部隊が来たら、あっさりと兵を引くという行動を繰り返した。

 

「敵の狙いはこちらを消耗させる事だニャン。

 だが敵の挑発に乗る事はないだニャン。

 とりあえず今は耐えて、補給部隊と合流を果たすニャン」


 マリウス王子は状況を的確に把握しながら、そう指示を下した。

 そして三日後の7月25日。

 連合軍の主力部隊は補給部隊と合流をして、無事補給を果たした。


 だが連合軍の主力部隊は約五万前後に及ぶ大所帯。

 自軍の数が多くなれば、当然大量の兵糧や物資を消耗する。

 この不安定な状態で補給線を維持するのは至難のわざだ。


「この状況が続くのは不味い。

 敵の狙いは、こちらの補給線を絶つ事だろう。

 更には我々は副司令官とも派閥争いしている有り様だ。

 このままでは、いずれ色々な面で破綻してしまう。

 ならばここは現状の約五万の軍を持って、

 敵の本拠地である魔帝都を攻めて、魔王を倒すなり、

 捕まえるなりしてこの戦いを終わらすべきだニャン!」


 マリウス王子はジョニー、ガルバン、

 ニャラードやレビン団長達にそう高らかにそう宣言する。 

 だが部下達はすぐには、王子の主張に同意しなかった。


「仰る事は分かりますが、

 我々だけで決める事柄ではないと思います」


「私もジョニーに同意です。

 まずは各部隊のリーダーと話し合うべきです」


 ジョニーとガルバンが控え目ながらそう意見を述べた。

 するとマリウス王子もジョニー達の意見を尊重して、その提案を受け入れた。


「分かってるだニャン。 ならば善は急げだニャン。

 今すぐ各部隊のリーダーを集めるだニャンッ!」


「御意」


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