第376話 今後の方針(中編)


---ラサミス視点---



「敵の居城は星形要塞の中心部にある。

 その星形要塞も東西南北の距離がゆうに十キール(約十キロ)を

 超える大規模な要塞である。 我々としてはまずは要塞の外縁部の全域を

 占領する必要があり、それが成功次第、星形要塞を包囲するつもりだ」


 と、マリウス王子が意気揚々と語り出した。

 ……まあこの辺の判断は正しいな。

 攻城戦に集中する為には、邪魔な城の外縁部を攻略するのは定石だ。

 とはいえそれを実行する事自体が至難の業だ。


 今回の戦場は魔帝都だからな。

 魔王軍だけでなく、一般市民も戦闘員と化して、

 オレ達の前に立ち塞がってくるだろう。


「恐らくその過程で魔帝都の一般市民が兵士と化して、

 我々の進行を食い止めようとするだろうが、

 今回の戦いに限っては、それらの市民も無力化するまで徹底的に叩く!」


「……敵に投降者が出たらどうするんですか?」


 と、ナース隊長。


「一応は捕虜として扱うが、手に余りそうであれば、

 捕縛する事無く、そのまま始末してもらっても構わん」


 ……。

 どうやらマリウス王子も本気のようだ。

 だが下の者としては、

 このように方針をしっかりしてもらった方が助かる。

 

「魔帝都攻略部隊は、現状の約五万の戦力で行うつもりだ。

 このナーレン大草原を補給基地として、

 ヒューマンの王国騎士団辺りにここの守備隊についてもらう。

 補給線を確保出来れば、我々も籠城戦を行う事が可能だ」


 成る程。

 この大草原に補給基地を作る訳か。

 まあそれをヒューマンの連中に任せるのは少々不安だが、

 奴等にも働いてもらう必要があるからな。

 だからオレ個人は悪くない考えと思う。


「しかし敵のあの巨大要塞ならば、

 それこそ三ヶ月以上は持つ兵糧や物資を保持している可能性は高いです。

 その状況で補給線に不安を持つ我が軍が籠城戦を行うのは危険では?」


 そう指摘にしたのは、剣聖ヨハンだ。

 オレもヨハンのこの指摘は正しいと思う。

 だがマリウス王子もそれは百も承知であったようだ。


「勿論、それは理解しているだニャン。

 だから籠城戦を行うのは、最終手段だニャン。

 とは云えあの堅牢な要塞を正面から落とすは厳しいニャン」


「となると空から攻める、という訳でしょうか?」


 ヨハンはそう云うが、レフ団長が渋い表情で言葉を挟んだ。


「いや今回の戦いは、名実ともに総力戦。

 それ故に敵も大部隊を投入して来るだろう。

 対する竜騎士団は約250人余り。

 だから制空権を制圧するのも一筋縄では行かないであろう」


「……確かに、仮に制空権を奪えたとしても、

 敵は死角のない状態でこちらを狙い撃ち出来る。

 だから飛竜に相乗りさせた降下兵こうかへいを降下させるのも難しいでしょうね」


 レビン団長が控え目にそう云った。

 そうだよな、地上が駄目から空中から攻めたい。

 というのは定石だが、敵もそんな事ぐらい予想の範疇だろう。


 仮に降下に成功して、要塞内に入れたとしても、

 敵が何千、何万以上居るか、分からない。

 そんな中で一兵士が出来る事なんて限られている。

 するとナース隊長が何かを思い出しように「そうだ」と言い出した。


羽根付きの靴フェザー・ブーツがあった。

 アレを各部隊のリーダーや魔導師、狙撃手に装備させれば、 

 こちらの攻め手も増える。 ラサミスくん、君も大聖林の戦いで使っただろ?」


「ああ~、アレですか。 確かにアレがあれば便利ですね」


「嗚呼、確かに」


 と、兄貴も大きく頷いた。

 ああ、思い出した。 あの大聖林の戦いで使った羽根つきの靴かぁ。

 あの魔道具の靴があれば、ジャンプ力が飛躍的に増す。

 確か十五メーレル(約十五メートル)ぐらい飛べたよな?

 いずれにせよ、この場においては有効なアイテムだ。


「ほう、そのようなものがあるのですか?」


 と、マリウス王子がナース隊長に視線を向ける。


「我がエルフ族――穏健派が秘匿する魔道具であります。

 正直、あまり大ぴらにはしたくない一品ですが、

 状況が状況です、なのでこの作戦に限って羽根付きの靴フェザー・ブーツ

 レンタルと使用を許可しても良いと思います」


「うむ、それは助かりますな。

 ちなみにその魔道具には、どのような効果があるのですか?」


 と、眼を細めるマリウス王子。


「ジャンプ力が比較的に向上して、

 十五メーレル(約十五メートル)ぐらい飛ぶ事が可能になります」


「ニャルほど、それは凄いですな」


「ええ、緊急事態に備えて、この戦場にも二十足ほど持ってきてます。

 司令官殿の許可が得られたら、すぐにでも手配しますが……」


「ええ、許可します。 なので緊急に手配してください」


「了解です」


 そう言葉を交わすなり、

 ナース隊長は部下達を呼んで、羽根付きの靴フェザー・ブーツをすぐに用意するように命じた。これで高所から敵の状況を確認したり、

 魔導師や狙撃手が敵を狙い撃ちする事が可能となった。


 とはいえ二十足しかないなら、

 装備する者を厳選する必要はあるな。


「……コホン、これで少し我が軍に有利になれば良いのですが、

 とはいえ二十人ほどの戦力では、出来る事も限られております。

 やはり戦いの鍵を握るのは、戦力の大半を占める地上部隊となるでしょう」


 軽く咳払いして話を戻すマリウス王子。


「ですな、ですがこちらの戦力五万に対して、

 敵の戦力は軽く見積もっても倍以上あるでしょうな」


 と、右手を顎に当てながらそう云うアイザック。

 まあ尤もな指摘だ。

 敵の戦力は十万前後、あるいはそれ以上と思った方がいいだろう。

 だがマリウス王子もその指摘は予め予測していたのか、打開策を述べた。


「無論それらの事態は想定しております。

 だからこちらも要塞の外縁部を攻める際には、

 魔導師やウォーロックに大量のゴーレムや使役獣、精霊を召喚させるつもりですニャン」


 まあ戦力差を埋めるなら、その手を使うべきだな。

 でもそれは敵も同じじゃないかな?


「戦力差を埋めるには、有効な戦術ですね。

 ですがそれは敵も同じ、敵が同じ戦法を使ってきたらどうします?」


 と、兄貴が初めて意見らしい意見を云った。


「それは百も承知だニャン。 だからこちらもひたすらゴーレムなどを

 召喚して、数に数をぶつけるニャン。 その過程で敵の術士や魔導師、

 狙撃兵を各個撃破して行けば、自ずと戦局はこちらに傾くだニャン」


「私も殿下の意見に賛成ですニャン。

 どうせこの戦いでは猫族ニャーマンは接近戦では力になれません。

 だから徹底して支援に回ろうと思います。

 我が王国魔導猫騎士団が全力を投入すれば、

 敵の魔導師部隊とも互角以上に渡り合える、と思いますニャン」


 と、白ヴァン猫のニャラードが自信ありげな表情でそう告げた。


「そうですね。 猫族ニャーマンの方々に魔法戦や支援に専念してもらえば、

 我々としても戦いやすくなりますし、戦術の幅も増えます」


 と、ヨハンが相槌を打つ。


「だが要塞の至る所にバリスタがあるのは少し問題だ。

 あれでは空中から降下兵を降下させるどころか、

 制空権を握る空中戦を行うのも厳しい」


 レフ団長がそう云って渋面になる。

 成る程、要塞の至る所にバリスタがあるのか。

 それは確かに問題だなあ。

 すると周囲の者達の表情も自然と固くなった。


「……少し会議が長引きましたな。

 ではここで小休止を取りましょう。

 ジョニー、ガルバンッ!!」


「「はっ!!」」


「従卒にお茶を持ってくるように伝えたるだニャンっ!」


「「はいっ!!」」


 そうだな。

 あまり根を詰めても疲れるからな。

 ここで茶でも飲んで一息ついた方がいいかもな。


 十分後。

 オレ達は猫族ニャーマンの従卒が持って来た紅茶や珈琲の入ったティーカップに口をつけて、小休止したが、猫族ニャーマンの味覚に合わせていたからか、

 この紅茶はあまり美味しくなかった。


 でも出してもらったからには、全部飲むのが礼儀。

 という訳でティーカップの中身を全部飲み干したが、

 やはり微妙な味だったし、周囲の者も渋い表情をしていた。


 なんだ、皆も同じ気持ちのようだな。

 なんか少し安心したよ。

 でも出来ればちゃんとした紅茶や珈琲を飲みたかったぜ。

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