第369話 激戦(後編)
---三人称視点---
夕陽が沈みつつある夕方の十六時過ぎ。
夕焼けに照らされて輝く草原。
この光景だけ見れば非常に美しかったが、
今、このナーレン大草原では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
一度はニャラードの神帝級の合成魔法で陣形を崩された魔王軍だが、
魔元帥アルバンネイルの機転によって、陣形を立て直す事に成功。
そしてアルバンネイル自らが先陣を切り、
連合軍の兵士達を次々と血の海へと沈めていた。
先陣きるアルバンネイルは、魔剣パンヒュアームを振り回して、
視界に入った標的を次々と切り捨て、縦横無尽に戦場を駆け回る。
アルバンネイルは返り血を浴びながら、更なる殺戮を繰り返した。
落馬した連合軍の兵士を
「こ、こいつ……化け物だぁっ!?」
恐れを成した連合軍の騎兵隊がそう叫んだ。
「俺が強いのではない。 貴様等が弱すぎるのだ」
と、一蹴するアルバンネイル。
「な、何っ!?」
「……それを今教えてやろう!」
「ぎ、ぎゃああぁっ……」
アルバンネイルは、次々と自らの魔剣を連合軍兵士の流す血で赤黒く塗装させていく。当然のごとく、連合軍兵士の復讐の対象とされた。
最もアルバンネイルは、そんな事で臆するような男ではない。
むしろその状況を楽しんでいた。
流星のごとく飛んでくる手槍と矢を難なく交わしながら、手綱を引き締め前進する。地べたにうずくまった敵の死体を踏みつけ気勢をあげて、漆黒の大剣を振り回す。
「な、なんだ……こいつ……こんな奴はじめてだ!」
連合軍の兵士にしてみれば、ある種のカルチャーショックであった。
薄い水色の肌に深い紫色の鎧を着込んだ
そして猛禽類のような鋭い二つの瞳。
その双眸で睨まれるだけで、身が縮む思いになる。
得体の知れない恐怖にかられた連合軍兵士に、この男の相手がつとまるわけもなく、
アルバンネイルは、まるで農民が作物を鎌で刈り取るかのように、
平然と敵の手足を切り落としていく。
「……だ、誰か傭兵隊長か、剣聖ヨハンを呼んでくれっ!」
「――他人に頼るなっ!」
アルバンネイルは、眼前の敵兵の手首をバターのように斬り落とした。
そこから首元に大剣の切っ先を刺し込み、また新たな犠牲者を生み出した。
刃先に血を滴らせながら、アルバンネイルの双眸には、
鋭いが情緒を感じさせない冷気を含んでいた。
アルバンネイルに負けずと、
副官のキャスパーも視界に入った連合軍の騎兵を容赦なく斬り捨てる。
キャスパーはゆったりと優雅な身のこなしながらも寸分の隙も見せず、
挨拶代わりに眼前の敵兵の頭を右手に持った白刃の大剣で、兜ごと一刀両断してみせた。男の頭は潰れたトマトのように鈍い音を立て中身を周囲に飛び散らせた。
キャスパーは返り血を浴びながらも、次なる標的を狙う。
キャスパーは
虚を突かれた連合軍の兵士達は、困惑しながらも自己防衛本能が働き反撃体勢に入る。だがキャスパーの剣捌きのスピードは、
相手の防衛本能より俊敏に相手の急所を数秒のうちに狙い打った。
確実に手首を切り落としてから、丁寧に首まで跳ね飛ばした。
飛ばされた首は、何度か地面に跳ねて、
硬直していた連合軍の兵士達の足元まで転がった。
「どうした? 貴様らの力はこの程度か?
この程度の力で我等、龍族と戦おうなど無謀も良いところ。
……さあ、誰でも良い。 かかって来るが良い」
キャスパーは、冷徹さを帯びた声で連合軍の兵士を煽る。
煽られた連合軍の兵士は憤りを感じながらも、眼前の龍族の重圧に呑まれた。
こいつは強い……自分がある程度の技量になれば誰でも体得できるスキル。
すると硬直する兵士達を押しのけて、傭兵隊長アイザックが前へ出た。
「こいつは俺が引き受ける、残りの者は多対一で敵に挑めっ!
龍族の大将は、ヨハン殿やライル、ラサミス達に任せろ」
傭兵隊長アイザックは右手を挙げて、周りの部下達に突撃の合図を出した。
その言葉に従うべく、周囲の兵士達は多々一で龍族に突撃を開始。
「貴様……竜人か?」
「嗚呼、竜人族の傭兵隊長アイザックだ」
「貴様の名など興味はない。
どうせすぐに死ぬのだからな」
キャスパーはそう云って、白刃の大剣を構える。
「同感だ、だが死ぬのは貴様だぁっ!」
アイザックは愛馬に一蹴り入れて、前方へ馬を走らせた。
有無を言わせる間もなく、
アイザックは右手に握った漆黒の魔剣をキャスパーの頭上に振り下ろした。
鈍い金属音と共に、その斬撃を防いだキャスパーが目の前の敵を見て、口の端を持ち上げた。
「ほう、やるではないか」
「まだだ! ――クレセント・ストライクッ!」
アイザックの魔剣が再び振りかざされた。
鋭く迷いがない急所だけを的確に狙う剣筋をキャスパーは冷静に躱し、
反射的に自身の白刃の大剣で応対する。
「良い剣筋だが俺には通用せぬっ!
……では今度は俺の番だっ、アーク・スラッシュッ!」
キャスパーが鋭利な声でそう言い放つ。
野生の肉食動物のような俊敏な動きで、
キャスパーは猪突して、鋭い薙ぎ払いを神速の速さで放った。
アイザックはその鋭い薙ぎ払いをそれ同様の速度で切り払う。
「……気が変わった。 貴様の名をもう一度聞いておこう」
「……アイザックだ、アイザック・レビンスキー」
「……我が名は龍族のキャスパー。
アイザックよ、貴様の命をもらい受けるっ!」
「……その言葉そのまま返そう!」
二人がそう言葉を交わすなり、
アイザックとキャスパーの間で斬撃の応酬が始まった。
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「まるで歯ごたえがない、貴様等、四大種族の力はこの程度か?」
戦場で縦横無尽に暴れまわる魔元帥アルバンネイルに憤りを感じながら、
その殺気と闘志に呑まれた多くの連合軍騎兵隊は静止していた。
それをあざ笑うかのようにアルバンネイルは、更に罵倒を浴びせた。
「どうした? これだけ云われても尻込みしたままか?
貴様等には闘志も勇気もないのか、情けない連中だ」
その時、アルバンネイル目掛けて、投擲石が放たれた。
一寸分の狂いもない正確な射撃。
不意を突かれた魔元帥は一瞬体勢を崩しながらも、その投擲石を避ける。
「ほう、今の一撃を躱すとはな。
魔元帥の名は伊達じゃないようだな」
ラサミスが右手に
「ラサミス君、油断するな。 そいつの相手は全員でするんだ」
後方に陣取っていた剣聖ヨハンがそう口にした。
「わかっていますよ、ヨハンさん。
確かに
「嗚呼、だから奴には多対一で戦いを挑むぞ。
敵は変身した状態だ、絶対に油断するなよ」
と、ヨハン。
「了解ッス、大丈夫ッスよ!
オレもこの若さで死にたくはないですからね!」
と、軽口で返すラサミス。
するとヨハンは左手を上げて、号令を下した。
「よし、奴の相手はボクやカーマイン兄弟。
それと「ヴァンキッシュ」の面々が受け持つ。
他の者達もボク達、同様に多対一で挑むんだ」
ヨハンの号令に周囲の者達は「了解」と声を揃えて応えた。
そして眼前に立ちはだかる魔元帥目掛けて突撃する。
だが当の魔元帥は、臆することなく堂々とした態度で勇ましく叫んだ。
「何人でもかかって来るが良い。
何人掛かりであろうが、この魔元帥アルバンネイルは負けぬっ!」
そして大草原の戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
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