第370話 魔元帥の底力(前編)
---三人称視点---
綺麗な夕焼けに染まったナーレン大草原。
実に美しい風景であったが、今はこの大草原で野蛮な戦いが行われていた。
連合軍、魔王軍共に軍馬や
夕日が差す中、血生臭い戦闘を繰り返していた。
数の上では互角、あるいは連合軍が少し
敵将アルバンネイル率いる龍族騎兵隊は、
強大な力と恐ろしいまでの獰猛さで、次々に敵兵を蹴散らしていく。
そして夕日に染められた大草原で、二人の男が睨みあっていた。
一人は冒険者として名を馳せつつある銀髪の少年ラサミス。
もう一人は、魔王という名の絶対的存在の下で戦う魔王軍の魔元帥。
とにかく先手を打って少しでも時間を稼がなければ、
と、ラサミスは自分の役割を再確認する。
此奴の実力は折り紙付きだ。
だがこの場で何もせず逃げ出す訳にいかない。
少しでもこの男――アルバンネイルの戦闘技術や戦闘パターンを引き出す。
出来るものならオレの手で倒したいが、
結果的にこの男を倒せればそれが最善。
そしてラサミスはその言葉を実践するかのように、
馬を走らせて、アルバンネイルに接近して斬りかかった。
「――せいっ!」
「遅いわっ!」
剣の軌跡が空気を切り裂き、聖刀と魔剣が衝突する。
激しい斬撃を繰り返しながら、
一進一退の攻防を繰り広げるラサミスと魔元帥。
「喰らえっ……一の太刀っ!!」
激しい斬撃を繰り返して、
ラサミスは苦心の末に相手の頭部に目掛けて、横薙の一閃を繰り出した。
「甘いわ、ブラッディ・ソーンッ!!」
アルバンネイルも全力で薙ぎ払いを放った。
一点に闇属性の
薙ぎ払いと薙ぎ払いが衝突。
だが体格差で上回るアルバンネイルが押し勝った。
「ぐっ……」
ラサミスが軽く呻くなり、勢いに呑まれた彼の馬も僅かに後ずさりした。
アルバンネイルは、好機と見るなり、
両手で持った魔剣パンヒュアームを縦横に振り回した。
――此奴、マジで強いっ!
――プラムナイザーやカーリンネイツも強かったが、
――此奴はその比じゃねえっ!
――単純に体格差が違う。
――いやそれだけじゃない。
――まるでライト級のスピードとヘビー級のパワーを持った
一見、力任せに打っているようで、
的確に急所を狙うアルバンネイルの連撃に、
ラサミスは肝を冷やしながら、途中から防戦一方になっていた。
ラサミスは前回の戦いでは、アルバンネイルと互角以上の戦いを演じた。
だが今のアルバンネイルは、龍化した状態。
体長も250セレチ(約250センチ)から体長三メートル(約三メートル)まで大きくなっていた。
対するラサミスの身長は176セレチ(約176センチ)。
両者の身長差は一メーレル(約一メートル)以上の開きがあった。
大人と子供以上の体格差だ。
最近のラサミスの成長には著しいものがあったが、
流石にこの体格差では、ラサミスといえど厳しかった。
「――どうした!? もう終わりかぁっ!」
「くっ……」
アルバンネイルの強撃を何とか受け止めるラサミス。
だが一撃受けるだけで、両手が強く痺れるような衝撃を受けた。
ラサミスの劣勢が続く。
「――皆でラサミス君を助けるぞっ!」
「「「了解っ!!!」」」
味方の窮地を救うべく、
ヨハンとアーリア、クロエ、カリンが馬を走らせて魔元帥に迫った。
「――ウインド・パイル!!」
すると彼女周囲の大気が激しく振動する。
そして風が巻き起こり、太い杭のような形状になり、鋭い刃となった。
その風の杭が前方のアルバンネイルに向けて放たれた。
「――はっ! シャドウ・ウォールッ!」
アルバンネイルも短縮詠唱で闇属性の対魔結界を張った。
するとその漆黒の壁がクロエの放った風の杭を綺麗に弾いた。
龍化した事により、筋力や身体能力だけでなく、魔力も強化されていた。
「これならどうっ! ――ピンポイント・ショットォッ!!」
カリンが栗毛の馬を走らせ、馬上から矢を射った。
馬上から放たれたカリンの
カリンの叫びと共に銀の矢が放たれて、
アルバンネイルの左腕上腕部に突き刺さった。
「くっ……小癪な真似をっ!」
「カリン、ナイスっ! よし、一気に畳み込むわよっ!」
と、
「待て、アーリアッ! 一人で突っ込むのは危険だ」
「大丈夫、ヨハンだけに頼るわけにはいかないわ」
アーリアはそう云って、白銀の髪を翻して猛然と馬を走らせた。
そしてアルバンネイルとの距離が詰まるなり、刀術スキルを放った。
「――
「――ブラッディ・ソーンッ!!」
アーリアとアルバンネイルが素早く剣技を繰り出した。
黒刃の大剣と白刃の
だが片手で撃ったので、アルバンネイルの剣技は威力が落ちており、
アーリアの斬撃を完全に弾くまでには至らなかった。
そこから二人は更に一合、二合と馬上で切り結んだ。
アルバンネイルは、アーリアの斬撃を漆黒の大剣で見事に捌いているが、
打ち返す力は徐々に弱まっていった。
いくらアルバンネイルと云えど、片腕では不利な状況が続いた。
それを即座に見抜いたアーリアは、
「喰らえっ!
アーリアはここで
アーリアは馬上から、白刃の切っ先を高速で前方に突き刺す。
高速で繰り出される五連撃の突きが見事に決まった。
「ぐはっ!?」
思わず呻くアルバンネイル。
鎧の上から突き刺したが、切っ先に宿らせた光の
アルバンネイルに十分なダメージを与えた。
「――貰ったぁっ!」
「舐めるなぁ、ノアール・フラムッ!」
アルバンネイルは、負傷した左手を前に突き出して砲声する。
するとアルバンネイルの左手から闇色の炎を放射された。
「あああぁっ!?」
乾いた爆発音が周囲に鳴り響く。
至近距離で魔法攻撃を受けたアーリアは馬と共によろめいた。
だがアーリアも馬も耐魔力の高い鎧や防具を装着していたので、
今の一撃にも何とか耐える事が出来た。
そしてアーリアは何とか落馬しないように、動揺する馬を落ち着かせた。
好機から一転して窮地。
その好機を逃すまいとアルバンネイルは次なる行動に出ようとするが――
「――筋力吸収(ストレングス・アブソープション!!」
そこでヨハンが
ヨハンはアルバンネイルから筋力を奪って、自分の筋力値を強化させた。
不意を突かれたアルバンネイルは驚いて一瞬硬直する。
ヨハンはその隙を逃さなかった。
「――ストレングス・エンハンスッ!!」
ヨハンは左手で印を結んで、
ヨハンは相手から筋力を奪い、更に自らの筋力も強化させた。
これによってヨハンとアルバンネイルの筋力差が大きく縮まった。
そしてヨハンは更に布石を打った。
「――クロエッ!
「あいよっ!
クロエは素早く両手で印を結んで魔力を解き放った。
そして半瞬ほど遅れて、魔元帥が乗る
「グギャアアァンッ!」
急な事態に魔元帥が乗る
クロエは
魔元帥が乗る
「……行くぞぉっ!! 『ゾディアック・スティンガー』!!」
ヨハンの聖剣サンドライトの切っ先から、黄緑色の衝撃波が放たれた。
黄緑色の衝撃波が激しく唸りながら、太いビーム状になり、高速で大気を切り裂いた。
黄緑色の衝撃波は暴力的に渦巻きながら、アルバンネイルに迫った。
「くっ……仕方あるまいっ!」
アルバンネイルは背中の漆黒の両翼を羽ばたかせて、
アルバンネイルはあっという間に空中に宙に浮上する。
「グギャアアァ……アアァッ!」
そして黄緑色のビーム状の衝撃波が乗り捨てられた
ビーム状の衝撃波が
その背後にあった岩石も貫通して、止まる事無く突き進んで行く。
そして天に昇るような軌道で、黄昏色の夕空に吸い込まれるように消えていった。
「――躱したか。 流石は龍族の
ヨハンが感心したように呟いた。
だが当の魔元帥は、怒り心頭だった。
「――貴様等、許さなんぞぉっ!
我が
アルバンネイルは宙に浮かんだまま、身体の全身から魔力を解放させた。
すると彼の周囲の大気がビリビリと震え始めた。
「す、凄い魔力ね」と、アーリア。
「え、ええ……やはり奴はとんでもないわ」
と、クロエも相槌を打つ。
だが彼等の頭目であるヨハンは落ち着いた口調で仲間に語りかけた。
「大丈夫だ、ボク達が力を合わせれば、必ず奴に勝てるっ!」
「……信じますよ、団長」と、カリン。
「嗚呼、信じてくれ。 では皆、引き続き戦闘態勢を維持してくれっ!」
「「「了解」」」
そしてヨハンは聖剣サンドライトを構えて、
双眸を細めて、宙に浮かぶアルバンネイルを見据えた。
――奴とは二度目の戦いになるな。
――だが奴は巨大化した状態。
――故にここは一人で戦わず、皆で戦うべきだ。
――そうすれば必ず勝機が訪れるっ!
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