第368話 激戦(中編)
---三人称視点---
連合軍騎兵隊と魔王軍騎兵隊は激しく衝突を繰り返しながら、
お互いに押し合い、膠着状態となる。
隊列を保とうと、両軍の激しい押し合いが続く中、
隊列の綻びが僅かに生じて始めた。
こういう状況下では、個々の戦闘能力の差が勝敗の鍵を握るが、
両軍とも一歩も引かず激しい斬撃を繰り返して粘りのある攻防が続く。
両軍がこぞって馬上から戦槍や長槍を突出し、
接近してきた敵には片手剣や大剣を振るって対抗する。
瞬く間に激闘となり、ナーレン大草原に次々と死体の山が積み上げられた。
勢いに呑まれた一部の魔王軍騎兵隊は半ば混乱状態となり、
咄嗟に中衛や後衛の魔導師や
魔王軍の隊列が乱れ始めた。
この機を逃すまいと上空の魔導猫騎士達が再び魔法攻撃を開始。
光の波動や真空波、氷塊、石の雨が地面に降り注ぎ、
隊列が乱れた魔王軍の騎兵隊や魔導師、
「ぐっ……これは厳しい。 ――シャドウ・ウォールッ!」
「私達も対魔結界を張るわよ! ――シャドウ・ウォールッ」
だが先程のニャラードの神帝級の合成魔法による被害は大きく、
隊列が乱れた中衛、後衛の魔導師や
「ちっ、このままだとジリ貧の消耗戦だ。
オレ達も前へ出て魔元帥閣下の部隊をフォローするぞ」
デュークハルトが暴れる黒鹿毛の愛馬をなだめながら、周囲にそう告げる。
「了解です、この場は私にお任せ下さい」
犬頭の副官ジャルタムがそう云うなり、
デュークハルトは彼に向けてサムズアップして――
「オレ様について来れる奴だけついて来い!」
と云って、数十名の部下を連れて前方に馬を走らせた。
そしてアルバンネイル率いる龍族の騎兵隊とデュークハルトの部隊が
右翼に配置されたラサミス達傭兵及び冒険者部隊が交戦状態に入り、
激しい怒号と斬撃による金属音を響かせて一進一退の戦闘を繰り広げた。
魔王軍は数の上は連合軍と互角であったが、
敵の予想外の攻撃と勢いに呑まれて、
連合軍を圧倒するまでには至らず、じわじわとその勢いと戦力を失っていく。
その状況を変えるべく、魔元帥アルバンネイルは布石を打った。
「敵の空戦部隊の攻撃で中衛と後衛の隊列が大きく乱されている。
故に私はその状況を変えるべく、一度中衛に下がって、
魔帝級の
「ははっ……ならば私もお供します」
「いやキャスパー、お前はここに残って私の代わりに指揮を執れっ!」
「……了解致しました」と、キャスパー。
「――では行くぞ!」
アルバンネイルはそう云って、
彼の
部下の多くは彼について行くのがやっとであった。
数分後。
アルバンネイルが中衛陣に到達。
だが先程のニャラードの神帝級の合成魔法で、中衛、後衛共に陣形が大きく崩れていた。ニャラードの合成魔法によって、地面に十字の傷が深く刻まれていた。
――どうやら敵にも超一流の魔導師が居るようだな。
――だがオレも八百年生きた龍族。
――オレもこれぐらいの魔法なら使えるっ!
そしてアルバンネイルは、右手に持った魔剣パンヒュアームで魔法陣を描いた。
アルバンネイルは
「今から
少し時間がかかるから、その間のサポートは任せるぞっ!」
「了解です、シャドウ・ウォールッ!!」
「はあぁっ……ダーク・フォートレスッ!!」
アルバンネイルの周囲に居た龍族達が対魔結界を張る。
その間にも空中から
周囲の魔導師や
「偉大なる闇の精霊よ、我が願いを叶えたまえ!
そして母なる大地ウェルガリアに凶暴なる守護をもたらしたまえ!」
アルバンネイルは天に向かって両手を広げた。
しばらくするとアルバンネイルの頭上の雲が急に曇りだして、闇色の波動が発生する。
「我は汝、汝は我。 我が名はアルバンネイル!
嗚呼、暗黒神ドルガネスよ! この大地を闇で埋め尽くしたまえ!
せいっ……『
呪文の詠唱が終わると、闇色の波動が黒い障壁へと変化した。
そして中衛、後衛の魔王軍を取り囲むように、黒い障壁が異様な速度で広がった。
魔元帥アルバンネイルもそれと同等の
基本的にアルバンネイルは、接近戦を好むがその魔法力と魔力も超一級品である。
八百年生きた龍族の
「アレは何だニャン!」
上空で飛竜に相乗りしながら、魔導猫騎士ニャーランが叫んだ。
「……恐らく神帝級のレベルの対魔結界か、
と、魔導猫騎士ツシマンが云った。
「ぬぬぬっ……アレはとんでもないレベルの対魔結界だニャン。
アレを崩すとなると、かなり魔力を消費するだニャン。
だがボク達は既に魔力を消費した状態。
だからこの場は一旦下がり、魔力の補給をしよう」
「そうですな、それが良いと思うでやんす」
ニャーランの提案にツシマンも同意する。
そして上空の竜騎士部隊は一旦後退する事となった。
それを目で追うアルバンネイル。
それからアルバンネイルは、周囲の部下達に大声で命じた。
「よし、これで敵の空戦部隊は一時撤退した。
この間に陣形を乱した中衛、後衛部隊は隊列を立て直せ!
大丈夫だ、この私が張った
後、数時間くらいなら敵の魔法攻撃に耐えるだろう。
私はその間に前線に出て、敵を一人でも多く倒すっ!
さあ、お前等! 魔王軍の意地の見せ所だぞっ!!」
魔元帥アルバンネイルは、
「――よし、では俺について来れる奴はついて来いっ!
連合軍の奴等に我等の力をみせてやるぞっ!」
「御意っ!」
そしてアルバンネイルは
窮地から一転して
その流れを自ら変えた魔元帥は、
自らの剣で勝利を引き寄せるべく、再び最前線へ向かった。
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