第367話 激戦(前編)


---三人称視点---


 

 ナーレン大草原の上空。

 竜騎士達は飛竜に猫族ニャーマンを相乗りさせながら、

 地上目掛けて急降下を開始。


「さあ、さあ、行くだニャン! 草原の草木が燃えると面倒なので、

 光属性を中心に攻めるニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!  『ライトニング・ダスト」


「了解だニャーンッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 

 ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ――ニャーンッッ! ……『アーク・テンペスト』」


「おいどんもやるニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。 

 ウェルガリアに集う土の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ――ふんはぁッ! 『ロック・バルカンッッ』」


 王国魔導猫騎士団おうこくまどうねこきしだんの騎士団長ニャラードが先陣を切るなり、後に続くように他の魔導猫騎士達も一斉に魔法攻撃を開始する。


「……成る程、その手で来たか。

 だが慌てる必要はない。 こちらも対魔結界を張って応戦するぞぉっ」


「はっ!」


 魔元帥アルバンネイルは、声を荒げて周囲の部下達にそう命じた。

 それはこの場においては適切な判断であった。


「我は汝、汝は我。 我が名はアルバンネイル。 暗黒神ドルガネスよ!

 我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」


「閣下に続けっ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」


「了解ですっ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」


 すると魔王軍の龍族の騎兵隊の周囲に漆黒の壁が生み出された。

 魔導猫騎士達が放った光の波動や旋風、石の雨をその漆黒の壁が呑み込んだ。 

 それと共に周囲に激しい爆音が鳴り響き、爆風が巻き上がる。


「まだだニャンッ! 相手の対魔結界ごと吹き飛ばすニャンッ!

 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 『ライトニング・カッター』」


「団長に続くだニャーン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 

 ウェルガリアに集う水の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ニャンニャン、ニャオーンッ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」


「了解でニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。 

 ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ――にゃにゃんッ! ……『アーク・テンペスト』!!」


 再度、魔法攻撃を詠唱する猫族ニャーマンの魔導猫騎士達。

 ひたすら詠唱キャスト、魔力を補充、そしてまた詠唱キャスト

 魔王軍の龍族の騎兵隊も強烈な対魔結界を張っていたが、

 数の暴力の前では無力であった。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 次々と龍族の騎兵隊の周囲に張られた漆黒の壁が音を立てて崩れ落ちる。

 この好機を逃すまいと、

 剣聖ヨハンが白馬に跨がりながら右手に持った聖剣を頭上に掲げた。


「――今だぁっ! 我々も魔法攻撃かスキルで攻めるんだぁっ!」


 ヨハンがそう叫ぶなり、

 中衛に居たクロエとカリンが馬に一蹴り入れて、前方へ馬を走らせた。


「――行くわよ、シャイニング・パイルッ!」


 女錬金術師アルケミストクロエは錬金魔法れんきんまほうを短縮詠唱で唱えた。するとクロエの周囲の大気が激しく震える。

 次の瞬間、彼女の周りに目映い光が生じて、

 太い杭のような形状になり、鋭い刃と化した。

 そしてその光の杭が前方に向けて素早く放たれた。


「ぐはぁっ!?」


 クロエの放った光の杭が前方の龍族の騎兵の左眼に命中。

 左眼を貫かれた龍族は呻き声と「があぁぁっ」と大音声で悲鳴を上げる。

 更に光の杭が龍族の喉元に綺麗に突き刺さった。


 それと同時にその龍族の騎兵は騎乗竜ランギッツから落馬した。

 いくら龍族といえど急所をまともに貫かれたら絶命する。

 彼等は強靱な肉体の持ち主であったが、不死身ではなかった。


 クロエの攻撃が終わると今度は聖なる弓使いホーリーアーチャーのカリンが、手にした聖弓アルデリードを天向けて掲げて、小声で何やら呟いた。

 それから彼女が魔力を篭めると、弓と弦の間に、光のような輝きが生じた。


「――メテオライトッ!!」


 カリンは弓の弦を力強く引いて、その光の塊を天に目掛けて放った。 

 弓から放たれた光の塊が空高く舞い上がり、眩く光り輝いた。 

 そして光の塊は流星のごとく急降下して、前方の敵の騎兵隊に次々と命中。

 その光を受けた龍族の騎兵隊は激しい痙攣を起こして、

 次々と騎乗竜ランギッツや軍馬から落馬して、地面に転がった。


「カリン、やるじゃんっ!」


「ラサミスくん、これぐらい朝飯前よ!」


「二人ともお喋りしている暇はないぞ。

 聖剣、魔剣持ちはこの間に遠隔攻撃で敵に畳み込むぞっ!」


 と、ヨハンが軽く叱責する。


「了解ッス、じゃあ兄貴、ミネルバッ! 準備はいいか?」


「ああ」「大丈夫よ」


 ラサミス達は手にした聖刀や聖剣、魔剣、魔槍を力強く縦に振る。

 すると生み出された真空波や光の波動や闇色の炎が放出された。

 そして放たれた真空波や光の波動が敵の騎兵隊に命中する。

 次の瞬間、耳をつんざく乾いた爆発音が周囲に響き渡った。


「あ、あああぁっ!?」


「ぐほっ……」


 連合軍の怒濤の連続攻撃を受けて、

 龍族の騎兵隊も蜘蛛の子を散らす様に四方八方と逃げ回った。


「糞っ……奴等なかなかえげつない真似をする」


「閣下、ここは一旦引きましょう」


 と、キャスパーがアルバンネイルに進言する。

 だが自尊心プライドの高いアルバンネイルはすぐには後退命令を出さなかった。それが結果として更なる被害の呼び水となった。


「よーし、敵が怯んでいるんだニャン。

 ここで一発どでかいのを打ち込んでやるニャンッ!

 ニャーラン、ツシマン! サポートを頼むニャン!」


「了解ニャン」「了解でやんす」


 するとニャラードが両手を頭上にかざして、呪文を唱えた。


「我は汝、汝は我。 我が名は猫族ニャーマンのニャラード。 我は力を求める。 偉大なる光の覇者と大地の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 するとニャラードの両腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じた。

 ニャラードは全身から魔力を放ちながら、呪文を更に唱える。


「天の覇者、光帝よ! 大地の覇者、地帝よ!

 我が名は猫族ニャーマンのニャラード! 

 我が身を光帝と地帝に捧ぐ! 偉大なる光帝と地帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 そしてニャラードは両腕を力強く引き絞った。

 攻撃する座標点は敵部隊の中衛から後衛にかけて地点に定めた。

 更に魔力を蓄積すべく、ニャラードはニャーラン達に援助を請うた。


「ニャーラン、ツシマン!

 君らも魔力を放出するだニャンッ」


「了解だニャン」


「分かったでやんす!」


 ニャーランとツシマンも両手で印を結び、魔力を放出する。

 その魔力がニャラードに吸い寄せられて、彼の魔力が更に高まった。

 それと同時にニャラードは両手で素早く印を結んで、大きな声で砲声した。



「――グランド・クロスッ!!」



 次の瞬間、ニャラード両手から迸った光の波動が大地に十の文字を刻んだ。 

 光属性と土属性の神帝級しんていきゅうの合成魔法。

 大地に十の文字が刻まれるなり、

 鼓膜を振動する爆音と共に、大地震でも起きたかのように、地面が激しく揺れた。


「ぎ、ぎゃあああぁっ!」


「な、なんだぁ……これはぁっ!?」


「いかん、いますぐ対魔結界を張るんだっ! ――シャドウ・ウォール」


 大地が激しく揺れて、騎乗竜ランギッツや軍馬から兵士や魔導師達が次々と落馬する。そして十の文字に刻まれた光の波動に触れた者は、

 瞬間的に皮膚を焼かれて、地獄の痛みで地面にのたうち回った。


 土と草が燃えた焦げくさい臭いが周囲に漂い、 

 気が付けば、魔族兵の死体が山のように積み上げられていた。

 まさしく死屍累々といった有様であった。


 瞬く間に魔王軍の中衛部隊と後衛部隊が瓦解する。

 今の一撃だけで、敵兵を百人以上は倒しただろう。

 それぐらい破壊力に満ちた一撃であった。

 だがこの一撃でニャラードは魔力の殆どを使い果たした。


「ハア、ハア、ハアァッ……ぶっつけ本番だったが、

 なんとか……成功しただニャン。 とりあえずボクは後ろに下がるニャン。

 この後の指揮はニャーラン。 君が執ってくれ」


「了解ですニャン」


「じゃ、じゃあ後は任せたニャン。

 それじゃ竜騎士さん、後ろに下がってください」


「了解したっ!」


 突然の異変に敵将アルバンネイルと剣聖ヨハンと傭兵隊長アイザックも硬直していた。だがヨハンとアイザックはこれが味方の攻撃だと理解すると、

 ここで自分達が攻勢に出るべきだ、という事を即座に理解した。


「よし、今だ。 前進して敵部隊を制圧するぞ!」


「我々も後に続くぞ!」


 ヨハンやアイザックがそう叫ぶなり、

 連合軍の騎兵隊も気勢を上げながら、前方へ走らせた。


「奴等を食い止めるぞぉっ!」


 と、アルバンネイルが叫ぶ。

 そして両軍が再び真正面から衝突する。

 両軍の兵士達は燃えるような闘志で身を焦がしながら、戦いを繰り広げた。

 ナーレン大草原での戦いは佳境を迎えようとしていた。


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