第319話 優勝劣敗(前編)
---ラサミス視点---
「おらあああっ……行くぜっ!! ――諸手突きっ!!」
オレは雄叫びを上げながら、ゼーシオンの正面に飛び込んだ。
そして次の瞬間、オレは目の覚めるような勢いで突きを放った。
だが眼前の竜魔も素早く漆黒の大剣を翻して、突きを受け止める。
硬質な金属音が響き渡る。 オレ達は間髪入れず、一合二合と切り結んだ。
剣戟による飛び散る火花が、周囲に鮮烈な
ゼーシオンの斬撃をオレが受け止める。 オレの一撃をゼーシオンが躱す。
「――ほう、動きにキレがあるな。 あの時よりは成長したようだな」
「舐めるなよ。 オレも魔族とは散々やりあってんだよ!」
「ふむ、そのようだな。 確かにあの頃よりからは強くなっている」
「チッ、上から目線で物を云うんじゃねえよ! ――
オレは猛然と地を蹴り、全身全霊の力を持って、二連撃を放った。
だがゼーシオンも冷静に剣を捌く。
オレの強引な攻めに歯軋りしながらも、
繰り出した剣戟を必死に払い、受け流し、受け止めて弾き返す。
やはりこいつは強い。
だがあの地下迷宮で戦った時程の力の差は感じない。
ならばオレが強くなったのか?
あるいは
多分、前者だろう。
オレもこの一年余りで随分と修羅場を潜ったからな。
となるとここはあえて力業で攻める。
ここでオレが竜魔を倒せば、周囲も勢いづくからな。
「おい、オマエ。 そこのヒューマンと何故知り合いなんだ?」
「ああ、なんか前から知り合いという感じだぜ?」
と、周囲の竜魔達がゼーシオンに視線を向けた。
ああ~、まあ魔族兵からすれば確かに疑問に思うよな。
というか気が付けば連合軍の仲間もこちらを見ていた。
やれやれ、つい話し込んでしまったが、
ゼーシオンとの関係性を聞かれたら説明が面倒だな。
と思っていたら、ゼーシオンが威圧感のある声で周囲の問いに答えた。
「自分は途中から魔王軍に加わったはぐれ竜魔のゼーシオンです。
とはいえ周囲の方々が不審に思うのも当然です。
なので私が此奴を殺す事で私への疑念を晴らさせて頂きます!」
……まあこの場における回答としては正解だな。
おかげでオレも細かい説明をする必要はなくなった。
まあ正直色々と思うところはあるが、
オレにも奴にも立場というものがある。
だからこの場は全力で戦うぜ!
「そういう事。 オマエさんが魔王軍に従属したのであれば、
オレとしても一人の敵として討つまでさ」
「俺も同じだ。 ここからは容赦はせんぞ!」
「――抜かせッ!!」
「甘いっ!!」
オレ達は再び真っ向から衝突して、力と速度の戦いを継続させる。
オレは再度、前進して、くるりと体を捻り、袈裟斬り、逆袈裟を高速で放つ。
しかし薙ぎ払われた漆黒の刃で弾かれる。
だがゼーシオンも防御した勢いで後方にやや吹っ飛びながらも、踏みとどまり、即座に体勢を立て直す。
「やるじゃねえか」
「貴様もな。 どうやらこのままでは貴様に勝てないようだ。
ならば俺も貴様を倒すべく、真の姿になろう!
我は汝、汝は我。 我が名はゼーシオン。 暗黒神ドルガネスよ、
我に力を与えたまえ! ……
ゼーシオンがそう呪文を紡ぐと、周囲に強力な魔力と
そしてその姿を人ではない何かに変貌させた。
細胞の分子配列が変化し、神経網が凄まじい速度で変化する。
それからゼーシオンの口が裂け、その肉体が瞬く間に巨大化した。
両手に鋭い漆黒の鍵爪。
頭の両側からは、二本の太い角がやや反り気味に立ち、
琥珀色の鋭い両眼。 漆黒の硬皮と鱗。
背中に生えた大きな漆黒の両翼。 太くて長い尻尾。
「そういえば此奴にはコレがあった!!」
「良し、俺達も続くぞ!
「了解だ!」
すると周囲の竜魔達も次々と変身を始めた。
その数ざっと数えて十体以上。
ヤベえな、この数で一気に攻められたら一溜まりもない。
「奴等、ドラゴンに変身するつもりだ。
このままじゃ力で押し切られる。
他の皆も力を合わせて奴等を食い止めてくれ!」
オレはそう叫びながら、腰をどっしりと落として両手で刀を構えた。
こりゃ、マズいな。
只では済みそうにないな。
ヤベえ、どうしよう……。
---三人称視点---
黒竜と化したゼーシオンはその鋭い双眸を細め、その口から鋭い牙が覗かせた。
そしてゼーシオンは「ギエエエッ」という轟くような雄叫びを上げた。
体長は五メーレル(約五メートル)以上ありそうだ。
そしてゼーシオンだけでなく、
他の竜魔もドラゴンに変身して、ラサミス達の前に立ちはだかった。
黒竜、白竜、赤竜、青竜、緑竜と様々な種類の竜が大口を開けて、
その琥珀色の双眸で前線に立つラサミス達を睨み付けた。
「くっ、この数はマズいな!
何か手を打たないと……」
急展開に戸惑うラサミス。
だがその近くに居た剣聖ヨハンが高らかな声で仲間に指示を与えた。
「皆、落ち着くんだ。 それにこちらにも手はある!
クロエッ! 今すぐ
「――分かったわ!
団長ヨハンの指示に阿吽の呼吸で動く
クロエは素早く両手で印を結んで魔力を解放する。
クロエがそう叫ぶと、前方の竜の群れの足下の地面に泥沼が発生した。
「グギャアアァァァッ!」
クロエは
粘着質の高い泥に竜の群れの巨体が沈み込んで行く。
「そのまま沈み落ちろっ!」
クロエはそう叫びながら、更に魔力を篭める。
その巨体を乱暴に動かし、泥沼から脱出を試みる竜の群れ。
だが
元々、雨でぬかるんでいた地面は広範囲の泥沼と化した。
そしてこの絶好の機会を逃すまいと、剣聖ヨハンが次なる指示を下した。
「今のうちに魔法使い、魔導師達は攻撃魔法を撃つんだ!」
「りょ、了解ッス! 我は汝、汝は我。
我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブレア』!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。
ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!
せいやァッ! 『ライトニング・カッター!!』」
「我は汝、汝は我。 我が名はリリア。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ!
――はあぁッ! 『フレア・ブラスターッ!!』」
メイリン、
そして放たれた攻撃魔法は泥沼で藻掻く竜の群れに見事に命中。
すると他の中衛、後衛の魔法使い、魔導師達も後に続いた。
「よし、一気に決めてやる!!」
剣聖ヨハンが両手を頭上にかざして、呪文を唱え始めた。
「我は汝、汝は我。 我が名はヒューマン族のヨハン。 我は力を求める。
偉大なる光の覇者よ、 我が願いを叶えたまえ!」
ヨハンが呪文を紡ぐと、彼の両腕に強力な魔力を帯びた眩い光の波動が生じた。
ヨハンは眉間に力を篭めて、呪文を更に唱える。
「天の覇者、光帝よ! 我が名はヒューマン族のヨハン!
我が身を光帝に捧ぐ! 偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」
そしてヨハンは両腕を大きく引き絞った。
それと同時にヨハンは両手に膨大な魔力を蓄積させて、声高らかに砲声した。
「――
次の瞬間、ヨハンの両手から迸った光の波動が前方の竜の群れ目掛けて放たれた。
そして時間差を置いて、光の波動が着弾。
すると激しい爆音と共に大地震でも起きたかのように、地面が激しく揺れた。
「くっ、これは凄い衝撃だ! 皆、後ろに下がるんだ!」
ラサミスがそう叫ぶなり、周囲の者達も素直に従った。
強烈な爆風と衝撃から身を守る為、連合軍の魔法部隊が咄嗟に対魔結界を張った。
だがヨハンの機転により、
しかし前線の兵士達は、目まぐるしく変わる戦局に辟易しながらも戦い続けるしかなかった。
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