第320話 優勝劣敗(後編)


---三人称視点---



 ヨハンの放った神帝級しんていきゅうの光属性魔法によって、

 前衛の竜の群れはその光の業火に身を焦がされた。

 多くの竜が泥沼に嵌まりながら、

 強烈な光に焼かれる中、ゼーシオンは仲間を踏み台にして

 その両翼を羽ばたかせて、なんとか窮地を脱した。


 だがこの攻撃によって流れは一時的に連合軍に傾いた。

 そして更に流れを変えるべく、中衛、後衛の魔法使い、魔導師達が

 全力で魔法による大攻勢を仕掛けた。


「さあ、皆、今のうちに撃つだニャン! 『覚醒のソナタ』だニャンッ!!」


「了解! さあ、皆、歌って踊れ!」


「――『覚醒のソナタ』」


 周囲の吟遊詩人バード宮廷詩人ミンストレルが美声で歌を歌って仲間を支援する。これによって周囲の仲間達の攻撃魔力が大幅にアップした。


「行くわよっ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『スーパーノヴァ!!』」


 メイリンが素早く呪文を唱えると、彼女の杖の先から激しく燃え盛った紅蓮の炎が生み出された。そして紅蓮の炎が激しくうねりながら、前方の魔族兵に目掛けて放射される。更に追い打ちをかけるべく、聖なる弓使いホーリーアーチャーのカリンが両手で持った黄金と宝石で装飾された聖弓アルデリードを天向けて掲げた。


 そしてカリンが小さく口を動かすと、

 黄金の輝きを放つ弓の弦には肝心の矢がなかったが、

 彼女が魔力を篭めるとと、弓と弦の間に、光のような輝きが生じた。


「――メテオライトッ!!」


 カリンは、弓の弦を力強く引いてそのエーテルのような光の塊を天に目掛けて放った。 弓から放たれた光の塊が空高く舞い上がり、目映い光を放つ。 

 そして光の塊は流星のごとく、急降下して竜の群れを中心に前方の魔族兵に次々と命中した。瞬く間にその光を受けた魔族兵が激しい痙攣を起こして、次々と地面に崩れ落ちる。


「よし、流れはこちらに向いている!

 魔法攻撃を初めとした中距離、遠距離攻撃で攻め立てるんだァッ!!」


 剣聖ヨハンが周囲を鼓舞するようにそう叫んだ。

 すると魔法使いや魔導師だけでなく、中衛、後衛に居た弓兵アーチャー銃士ガンナー魔法銃士マジック・ガンナーも矢や銃弾で敵を狙い撃った。


 その勢いに魔王軍も一時的に前衛部隊が右往左往したが、

 中衛、後衛の白魔導師ホワイト・メイジ部隊が属性に対応した対魔結界を張り、相手の魔法をレジスト及び吸収、そしてその合間に回復魔法ヒールで負傷した仲間を癒やす。


 だが敵の大攻勢の前に竜魔部隊を初めとした魔族兵達の士気は下がり気味になった。しかし後衛で指揮を執っていた魔元帥アルバンネイルはそれを即座に看破した。

 そして竜頭りゅうずの魔元帥は最前線の魔族兵を一時的に後退をさせた。

 そこから前線の穴を埋めるべく、魔元帥の直属部隊である龍族りゅうぞく部隊を投入した。


 龍族りゅうぞくは魔族の中でも高位種族とされるエリートの集まりである。

 殆どの者が身長二メーレル(約ニメートル)超えの鋼の肉体の持ち主。

 全員が重鎧を身につけて、その右手には竜骨で出来た大剣や戦斧、戦槍が握られていた。その異様な殺気と威圧感に剣聖ヨハンも表情を強張らせた。


「……奴等は全員、竜頭りゅうず。 もしかして奴等は龍族なのか?」


「みたいッスね。 前にヨハンさんが戦った龍族の部下っぽいですね」


 と、ラサミス。


「龍族か。 こうして見ると圧倒されるな」


 アイザックも表情を固まらせて、そう云った。


「これは厳しい戦いになりそうですね。

 とはいえここで引くわけにもいかない」


「その通りだ、だからここは全力で奴等を食い止めるぞ」


 ヨハンはライルの言葉に相槌を打ちながら、周囲に聞こえるように大きな声でそう叫んだ。するとラサミスやライル、ミネルバやアイザック、狂戦士ベルセルクボバンも真顔になり、手にした武器を構えて摺り足で前へ進んだ。


「よし、奴等を全力で食い止めるぞっ!

 ここが正念場だ、さあ皆、全力で戦うんだ!」


 ヨハンがそう叫ぶなり、周囲の者も無言で頷いた。

 そして前衛の兵士達は気勢を上げながら、

 前方の龍族部隊目掛けて突撃を開始するのであった。



---ラサミス視点---


「ハアハアハァッ……」


 気が付けば、オレは全身に返り血を浴びた状態となっていた。

 もう何体以上斬ったのか、正確な数は覚えていない。

 兎に角、必死で戦った、戦い続けた。


 結論から云えば龍族は非常に強かった。

 一個体としての単純な戦闘力ならば、

 今まで戦った魔族の中で一番強かったと思う。


 奴等は兎に角デカくて、力に満ち溢れていた。

 だがスピードという項目においては、オレ等が上回っていた。

 オレだけでなく、ヨハンや兄貴、アイザック、レフ団長も途中でその事に気付いたようだ。


 そこからは力業で斬撃をするような真似は控えて、

 相手の隙を突くカウンター戦術で攻めるようになった。

 それが幸いしたのか、次々とカウンターが綺麗に決まった。


 奴等は類い希な肉体の持ち主であったが、

 急所をカウンターで突かれると、意外と脆かった。

 どうやら龍族と云っても完全無欠な生物ではないようだ。

 まあ当たり前と云えば当たり前だがな。


 それに何というか奴等はあまり戦い慣れしてなかった。

 いや強い事は強いんだけど、その動きが妙に正攻法で

 基本に忠実な戦い方なんだよなあ~。


 そういや前の大戦は約六百年前か。

 もしかしたら此奴らもこうした命を賭けた真剣勝負をするのは、

 産まれて初めてなのかもしれない。

 となればオレ達にも勝機がありそうだ。


「兄貴、ヨハンさん、アイザックさん、レフ団長、大丈夫か?」


「ああ」「うん」「……大丈夫だ」「問題ない」


 うん、この四人はまだ戦えそうだ。

 ミネルバやボバン、カチュア辺りは肩で呼吸している状態だ。

 後は「ヴァンキッシュ」の女侍おんなざむらいのアーリアも余裕がありそうだ。良し、ここは一気に攻勢を掛けて、流れを完全にこちらに引き寄せるぜ。


龍族こいつら、思っていた程、強くなくない?

 いやパワーはあるんだけどさ、スピードはそれ程でもないし、

 カウンターにはかなり脆い。 これは意外と行けそうじゃない?」


 オレは兄貴達を見ながらそう云った。

 だが兄貴達はオレの言葉に同意しなかった。


「……いやキツいぞ? 正直一杯一杯だ」


「ライル君に同意。 正直ヘトヘトだよ」


 兄貴とヨハンが苦笑を交えてそう零した。


「……俺もヨハン殿に同意だ。 

 正直、立っているだけでキツい」


「自分もアイザックさんと同意見です」


 アイザックとレフ団長が呼吸を乱しながら、そう言葉を交わす。

 アレ? 皆、結構キツいのか?

 でもオレは結構平気だぞ?


 ……もしかしてオレだけなのか?

 これはオレが強くなったという事なのか?

 まあその辺はいい、だがこの場においてはまだ戦えるという事の方大事だ。

 ……よーし、ならば景気づけにもう少し戦うか。


「……まだだ! 我が龍族はまだ戦えるぞ!

 貴様等も誇り高き龍族なら意地を見せよ!」


 と、眼前の漆黒の武具を装備した龍族がそう叫んだ。

 だが周囲の龍族はそれに同意はするが、余裕があるようには見えない。

 どうやら此奴らもキツいようだな。 よし、ここは攻めるぜ!


 そして次の瞬間、オレは目の覚める勢いで間合いを詰めて、渾身の強撃を繰り出した。 だが眼前の龍族も素早く漆黒の大剣を翻して、白刃を受け止める。 

 そこからオレはスピードを生かした剣技を次々と繰り出す。


 縦斬り、横切り、薙ぎ払いとオレも剣技を駆使するが、

 眼前の龍族はそれを綺麗に防御ガードした。

 う~ん、やっぱり此奴ら龍族は剣技も超一級品だ。 

 オレ達、四大種族とは根本的に違う。

 ならば馬鹿正直に剣術で戦う必要もない。 


「ハアアアァァッ……頭に乗るなよ、人間風情がっ!

 喰らえッ!! 『ヴォーパル・ドライバー』ッ!!」


 眼前の龍族が気勢と共に中段に神速の速さで突き入れて来た。

 だがオレはその中段の突きをサイドステップで華麗に回避。

 そしてがら空きになった龍族の腹部に目掛けて、右膝蹴りを浴びせた。


「うぐっ!?」


 堪らず後ろに後退する眼前の龍族。

 オレはそこから左足で龍族の右大腿部を強打。

 バシンッ、という音と共に龍族が身体を九の字に折った。

 オレは更に追い打ちをかけるべく、

 左足を下から上へ蹴り上げた前蹴りで標的の胸部を蹴り抜いた。


 見事な連続技が決まり、眼前の龍族が身体をふらつかせた。

 よし、ここで一気に決めてやる。

 そしてオレは相手の懐に潜り込んで、右掌で標的の胸部を強打。


「ぬ、ぬぐおっ!!」


 見事に会心の一撃クリティカル・ヒットが決まった。

 オレの『徹し』を喰らった眼前の龍族は、

 後方に五メーレル(約五メートル)ほど、吹っ飛んで背中から地面に倒れた。

 ふう、どうやら龍族相手にもオレの体術は通用するようだ。


「あ、アイツ……強いぞ!」


「あ、嗚呼。 あの若さであそこまで強いとは!?」


 ふふふっ、周囲の龍族も慌てふためいて――


「狼狽えるな、愚か者共ッ!」


 周囲を一括すべく大きな声が発せられた。

 オレは条件反射的にこの聞こえた方向に視線を向けた。

 するとそこには剣聖ヨハンと戦ったあの龍頭の魔元帥が立っていた。

 うはっ、調子乗りすぎた。

 まさか此奴が最前線に出て来るとは計算外だ。


「だが此奴が少し強いのも事実。

 だからこの魔元帥アルバンネイルが貴様等に戦いの手本を見せてやろう!

 さあ、若きヒューマンの勇者よ、かかって来るが良い!」


 そう云って眼前の魔元帥が手にした黒刃の大剣をこちらに向けた。

 ……これオレが戦わなければいけない感じ?

 ヤベえな、少し調子に乗りすぎたぜ。

 だがここで引くわけにもいかまい。

 しゃあねえ、勝てる気はしねえが、ここは奴との一騎打ちを受けてやるぜ!

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