第316話 魔法合戦


---ラサミス視点--



「偉大なる光と風の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 そして母なる大地ウェルガリアに太陽の恵みをもたらしたまえ!」


 王国魔導猫騎士団おうこくまどうきしだんの騎士団長ニャラードは大きな魔法陣の上に乗りながら、他の魔導猫騎士と共に呪文を紡ぎ出す。

 ニャラードだけでなく、他の魔導猫騎士や猫魔導師。

 更にはメイリンやエルフ族の賢者セージベルロームや女魔導師ソーサレスのリリアなどの連合軍の魔法に長けた魔導師達がそれそれ描いた魔法陣に乗りながら、天に向かって両手を広げる。


 すると頭上の雨雲が急に散りばり始めて、雨が一瞬止んだ。

 おお、凄いこれが天候操作系の魔法か。

 まあ基本となるのは光と風の合成魔法らしいが、

 いざこうして目の当たりにすると、感慨深いものがあるな。


「ヌニャニャニャッ……」


「くっ、まだだ! 魔力が全然足りないだニャン」


「了解だニャン! 『魔力マナパサー』ッ!!」


「ヌニャニャ、これは想像以上に厳しいだニャン。

 敵には恐らく神帝級しんていきゅうレベルの魔導師が数人居るだニャン。

 一瞬、雨雲を散らして、光を注ぐ事に成功したが、

 すぐにまた強烈な魔力で押し返されただニャン」


 ニャラードが渋い表情でそう呟く。


「ホント、マジでキツいわ……。

 ニャラードさんの云うように敵にはとんでもない魔導師が居るようね」


 と、苦悶の表情を浮かべるメイリン。


「ぐぐっ……確かに正攻法では勝ち目がなさそうだ」


 と、賢者セージベルロームも相槌を打つ。

 それ以外の魔法陣に乗った魔法使い、魔導師達も苦悶の表情を浮かべていた。

 これはオレが想像する以上にキツそうだな。

 

 だがニャラード達にも魔導師としての自尊心プライドがあった。

 故にすぐに魔法の詠唱を中止する事はなく、

 激しく魔力を消耗させながらも敵の天候操作魔法に対抗してみせた。


「まだだニャン! まだ諦めるニャ!

 ここでこの雨を止めるか、どうかで今後の戦局が変わるだニャン1

 ここは僕達、魔導師の腕の見せ所だニャン!」


「そうッスね、了解ッス」


 と、メイリン。


「……了解です。

 ならばにこのまま呪文を詠唱しましょう」


 賢者セージベルロームがそう云ってニャラードに視線を送る。


「分かっただニャン!

 嗚呼、空よ! この大地に太陽の恵みを与えたまえっ!

 ニャアアアッ……『大快晴グレート・ウェザー』ッ!!」


「「ぬうううっ……ハアアアァッ!!!」


「フンッ! さあ、皆も魔力を解放するだニャンッ!」


 と、ニャラードが叫ぶと、

 周囲の魔導師達もと天に向かって両手を上げた。

 呪文の詠唱が終わると、何十秒間か、間を置いてから雨雲が異常な速度で押し流された。


 おお、凄い!

 本当に雨を止ませた、こんな事を実現させるとは……魔法ってマジ凄い。

 だがオレ達が空を見上げてる間もニャラード達は苦しそうだった。


 全員が眉間に皺を寄せて歯ぎしりしていた。

 すると押し流された雨雲がまた急速に広がり始めた。

 うお、これは恐らく敵が天候操作系の魔法をまた使ったのであろう。

 これはとてつもない魔法合戦だ。


「だ、駄目だニャン!

 天候操作魔法じゃこちらが分が悪すぎる。

 だからここからは天候操作魔法は止めて、大結界に切り替える。

 この雨を弾く水属性の耐魔結界を張るだニャン!」


「了解ですニャン!」


 と、白黒猫のマンクスのニャーランが元気よく返事する。


「ぐっ……ここから大結界を張るんですか?」


 メイリンが苦しげな表情でそう云う。

 するとニャラードは首を左右に振った。


「いやここから先は我々、猫族ニャーマンだけで大結界を張るだンニャン。

 我等、猫族ニャーマンは小柄で魔族相手だと分が悪い。

 だけど魔力だけなら四種族の中でも一、二を争うだニャン。

 だから我々は雨を防ぐ為に、この大結界の中で大結界をまた張るだニャン!

 そして君達はこれから襲って来る敵を迎え討ってくれだニャン!」


 ニャラードは真剣な表情で周囲にそう語りかけた。

 するとベルロームやリリア、メイリン達も納得した感じで――


「「了解です」」


「了解ッス、とりあえず大結界は猫族ニャーマンの皆さんにお任せします」


 と、笑顔で返した。

 そうだな、巨漢の魔族と比較すると、猫族ニャーマンはあまり小柄だ。

 だからここは分業制で行くべきであろう。


「とりあえず君達は今のうちに魔力を補充したまえ」


「「「了解」」」


 ニャラードがそう云うと、

 メイリン達は携帯していた魔力回復薬マナ・ポーションを取り出して、それをごくりと飲み干した。

 ニャラード達も魔法陣の上に乗りながら、同様に魔力を補充する。

 

「……御苦労様です」


 オレは気が付いたら、労いの言葉をかけていた。

 正直、猫族ニャーマンって種族を少し侮っていた。

 だがこのニャラードやこの場に居る魔導猫騎士や猫魔導師は他の猫族ニャーマンとは少し違う。この危機的状況を乗り越える為に、全力で問題を解決しようとしている。


「……気にするなだニャン。

 これが我々の仕事だニャン、だから君達も自分の仕事をしてくれ。

 そろそろ敵が現れる頃だ、だから君達は其奴らを迎撃してくれ」


「……了解ッス。

 じゃあ兄貴、それとヨハンさん、アイザックさん、

 オレ達もいつでも敵と交戦出来るように準備しておきましょう」


「ああ」「そうだね」「分かった」


 兄貴達もオレの言葉に素直に従ってくれた。

 とにかく結界に関しては、猫族ニャーマンに任せよう。

 オレ達も自分の仕事に専念するぜ!



---------


「ニャニャニャッ! もっと魔力を注ぎ篭めっ!」


「了解だニャンッ!」


「あ、魔法戦士さん。 『魔力マナパサー』、お願いだニャン!」


「くっ……想像以上に魔力の消耗が激しいニャンッ!」


「ニャラードさん、やっぱりウチ等も協力した方がいいんじゃないッスか?」


 メイリンが魔法陣に魔力を注ぐ込むニャラード達に向かってそう云ったが、 

 ニャラードは首を左右に振り、「いや大丈夫だニャン」と遠慮する素振りを見せた。


「この大結界の発動は我々、猫族ニャーマンに任せて欲しい。

 その代りに君達、ヒューマン、エルフ、竜人族の魔導師は、

 敵が襲撃してきた時に全力で前衛と中衛をサポートして欲しい」


「……了解ッス!」と、メイリン。


 そうこう云っている間にも猫族ニャーマンの魔導師達は、ひたすら魔法陣に魔力を注ぎ続けた。するとニャラード達が乗る大きな魔法陣が目映い光を放ちながら、明滅する。同様にその近くの地面に敷かれた魔法陣も様々な色に変えつつ、周囲を光で照らした。これだけの数の魔法陣が一斉に光を放つのは、圧巻な光景であった。


「魔力数値正常は正常だニャン!」


「よし、では今より大結界を発動させるニャン。

 基本的には水属性の対魔結界を軸にしながら、

 この豪雨を弾く、あるいは吸収出来るような結界にするだニャン!」


「分かったニャン!」


「――では大結界発動だニャン!」


 ニャラードはそう叫ぶなり、全力で魔力を解放した。

 マンクスのニャーランや他の猫魔導師も後に続く。

 次々と魔力が注ぎ込まれて、魔法陣はチカチカと点滅して激しく光った。


 そしてこの穀倉地帯を中心に巨大なドーム状の大結界が張り巡らされた。

 猫族ニャーマンの魔導猫騎士や猫魔導師達が結集して発動させた大結界。

 その大結界は強力な魔力を帯びながら、物凄い勢いで周囲に広がった。


「ニャニャニャッ!! さあ、もう一踏ん張りだニャン!」


「ニャー、もう苦しいだニャン!」


「苦しいのは皆、同じだニャン!

 ここで踏ん張れるか、どうかで今後の展開が変わるだニャン!

 だから余力を振り絞って、頑張れニャン!」


「ニャー、が、頑張ってみるだニャン!」


 みたいな会話が至るところから聞こえてきた。

 凄いな、猫族ニャーマンがこれだけ結束した姿を見るのは初めてかもしれん。

 そして大結界はなんとか無事発動させられた。

 そのおかげでオレ達は雨露をしのぐことができた。


「よし、これで何とか雨露をしのぐことが可能となった。

 この間に各自、食事や魔力の補充をするだニャン。

 でもあまり気を緩めるんじゃないだニャン。

 恐らくもう少しで敵が攻めてくる筈だニャン」


 マリウス王子からそう指示が下されて、オレ達は小休止した。

 多くの者が何人か見張り番を置いて、お互いに仮眠を取った。

 なにせ、真夜中に火攻めを喰らったからな。


 だから周囲の者も想像以上に疲弊していた。

 それは各部隊の隊長クラスも同じであった。

 兄貴やヨハン、アイザック、レフ団長、レビン団長も

 自分達の部隊を切り盛りしながら、しばしの仮眠を取った。


 オレもとりあえず四、五時間程、仮眠を取った。

 それで疲労が完全に回復した訳ではなかったが、最低限の体力の回復は出来た。

 それから薪を集めて火属性の魔法で焚き火を焚いて、身体を温めた。


 だがすぐに敵がやって来た。

 この穀倉地帯の西側に魔王軍と思われる敵影が露わになった。

 その数……軽く見積もっても数千単位だ。


「よし、予想通り敵が現れた。

 皆、ここが踏ん張りどころだ。

 オレ達も苦しいが、敵も楽じゃない筈だ。

 だから皆で力を合わせて、なんとか敵を迎撃するぞ」


 オレはやや定石通りの陳腐な激励をしたが、

 周囲の仲間はオレの言葉に素直に頷いてくれたようだ。

 さあ、ここからが本当の戦いだ。


 ――果たして生き残る事は出来るだろうか?

 ――まあいい、とにかくやれるだけの事はやろう。


 オレはそう思いながら、両手に白刃の日本刀にぽんとうを構えて戦闘準備に入った。そしてこの穀倉地帯で連合軍と魔王軍の激しい戦いが始まった。


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