第309話 夜襲


---ラサミス視点---



 翌日の4月27日。

 何処からともなく魔物や魔獣の集団が現れた。

 魔物、魔獣の集団はこのカームナックの街を包囲しながら、攻撃を仕掛けて来た。


 思いの他、随分と統率が取れている。

 これは野生の魔物や魔獣じゃないな。

 恐らく魔王軍に調教テイムされた魔物、魔獣の集団のようだ。


 オーガ、トロル、蜥蜴人間リザードマンゴブリン、コボルド。

 それにガルムやキラービートル、ジャイアント・ビーなどの集団が

 陣形を整えて、連合軍に襲い掛かって来た。


 だが所詮は魔物や魔獣。

 オレ達「暁の大地」は今では上級職ハイクラスの熟練の冒険者の集まり。

 更には「ヴァンキッシュ」のヨハン達、傭兵隊長アイザック率いる傭兵部隊。

 また猫族ニャーマン山猫騎士団オセロット・ナイツとも共闘して、

 オレ達は眼前の魔物や魔獣を次々と蹴散らして行く。


 約二時間後。

 襲撃してきた魔物や魔獣の八割方は駆逐した。

 


「只の魔物じゃオレ達の相手は務まらないぜ」


「まあな、だがこれでここまで来る道中に魔物や魔獣の姿が

 見当たらなかった理由が分かったな」


 と、オレの言葉に兄貴が相槌を打つ。


「でもこの先もずっとこうなのかしら?」


「ん? メイリン、何か気になる事でもあるのか?」


 オレはメイリンにそう問い掛けた。


「うん、ここから先、敵地に進んで行くとそのうち食料の調達に

 困る時が来ると思うよ。 ほら、連合軍こちらの行動線が少し伸び気味じゃない?」


「まあな、でもそれと今の状況がどう関係あるんだ?」


 するとメイリンは眉根を寄せながら、オレの問いに答えた。


「いや最悪、魔物や魔獣を食料代わりにする、という手もありでしょ?

 水は水魔法で真水が手に入るけど、食料の類いは魔法じゃ手に入らないでしょ?」


 成程。

 メイリンの指摘にも一理ある。

 というか、そうか確かにここまで魔族の一般市民どころか、

 魔物や魔獣まで姿を見せなかったからな。


 これは恐らく偶然じゃない。

 敵は意図的にこの状況を作り出してるのだ。

 ……となると敵の真の狙いは何だ?


「そうだな、今の街――カームナックも魔族はおろか家畜の一匹すら

 居なかったもんな。 これを意図的にやっているのであれば、警戒は必要だ」


「でしょ? だからアンタから他の部隊の隊長にもこの事を伝えて欲しいのよ!」


「うん、分かった。 後でオレと兄貴で伝えておくよ」


「しかし出来れば魔物や魔獣は食べたくないですわね」


 と、エリスが少しげんなりした表情で呟く。


「あ、アタシも……」


 と、マリベーレも控えめに相槌を打った。

 まあウチの女性陣は年頃の娘だからな。

 だから魔物や魔獣の肉なんか食いたくない、という気持ちは痛いほど分かる。


 でもこれは戦争なんだ。

 それも魔族相手の戦争。

 だからこれくらいの事は乗り越えなくちゃいけない。


 と思う反面、それを他人に強要すべきでないという事も理解できる。

 こりゃヨハンやアイザック、レビン団長を交えてこの辺の問題を真剣に

 話合う必要があるな。 連合軍には女性の兵士も結構居るからな。


 そんな事を思いながら、オレ達は一度カームナックの街に帰還した。

 すると夜の二十時過ぎに異変が起きた。

 今度はさっきの戦いで倒した魔物や魔獣がゾンビ化して襲い掛かって来たのだ。


「こ、これは……」


 と、傍に居た剣聖ヨハンが声を詰まらせた。


「マジかよ、今度はゾンビ化した魔物や魔獣の相手をするのかよ!

 こりゃ敵に死霊使いネクロマンサーやリッチなどの魔導師が居るな!」


 オレはウンザリしながらそう叫んだ。


「そのようだな、これは単純な戦術だが、効果的だぞ?

 仕掛ける方には負担はあまりないが、迎撃する方の負担は重い。

 この先、このような戦術を何度も使われるのは避けたいな」


 アイザックが少し表情を曇らせてそう云う。


「同感だね。 ならばこの場で敵の魔導師を討とう!

 アイザック隊長が云うように、こんな戦いを何度も経験するのは御免だ!」


 剣聖ヨハンが周囲を見渡してから、そう提案した。

 

「そうッスね、ここはそうすべきですね」


「オレも同意だ」


「我々もです」


 オレの言葉に続くようにアイザックとレビン団長も同意する。

 するとヨハンは大きく頷いて、手にした聖剣を頭上に掲げた。


「よし、腕に覚えがある者はこの剣聖ヨハンの後について来てくれ!

 目的は単純明快さ。 敵の魔導師を見つけ出して撃滅する、それだけさ!」


 すると周囲の者はその言葉に「了解」や「ああ」と答えた。

 よし、ここはヨハンの提案に従うぜ。


「兄貴、ミネルバ、それとメイリンとエリス!

 四人はオレについて来てくれ! マリベーレはこの場に居てくれ!」


 オレは咄嗟にそう指示を出して、ヨハンの後を追う。

 さあ、ここからは敵の魔導師狩りの時間だぜ。

 こんな面倒な戦いはさっさと終わらせるに限るぜ!



---三人称視点---


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 

レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 

『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 エリスの銀の錫杖の先端から眩い白光が放たれて、

 前方のゾンビオークの身体を包み込んだ。


「ギャ……ア゛ァ……ギア゛ァァッ―――ッ!?」


「今だ、一気に仕留めるぞ! 火炎斬かえんざん!」


「ファルコン・スラッシュ!」


「――ヴォーパル・スラスト!」


「シャインセイバー!!」


「パワフル・スマッシュ!!」


 ラサミス、ライル、ミネルバ、ヨハン、アイザックが技名コールしながら、

 手にした武器で周囲のゾンビ化した魔物、魔獣を次々と斬り捨てた。


「雑魚の相手は最小限にするんだ!

 とにかく敵の魔導師を見つけ出して、倒そう!」


「了解!」


 ヨハンの言葉にラサミス達が大きな声で返事する。

 だが次から次へとゾンビ化した魔物、魔獣が襲い掛かって来た。


「しゃらくさい。 我は汝、汝は我。 我が名はヨハン。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ! 我に力を与えたまえ! 

 ――消え去れっ!! 『ライトニング・スマッシャー』ッ!!」


 ヨハンが素早く呪文を紡ぐなり、彼の左手に目映く輝いた光の波動が生み出された。

 そしてその光の波動が激しくうねりながら、前方のゾンビの集団に目掛けて放射された。


「ヴァーア゛―ヴャアアァッ――」


「ギア゛―アア゛……キャアア―ア゛―」


 ヨハンの放った聖人級の光属性魔法が見事に決まり、

 前方に居たゾンビの集団を一気に二十体近く浄化させた。


「す、スゲえ……」


「ああ、流石は剣聖だ」


「これで先に進めるわね!」


 ラサミスとライルが驚く中、ミネルバが冷静に状況を把握する。


「団長、この場はアタシとアーリアとクロエ姉さんに任せてください!」


 と、後方から聖なる弓使いホーリー・アーチャーのカリンが叫んだ。


「そうよ、この場は私達に任せて!」


「うん、大丈夫。 こんな雑魚共、すぐに倒せるわ」


 アーリアとクロエも笑顔でそう告げた。


「分かった、ではラサミスくん、ライルくん、それにアイザック隊長。

 この場はアーリア達に任せて、ボクについて来てくれ!」


「「「了解」」」


「おっとアタシも行くわよ!」と、ミネルバ。


「同じく我々、山猫騎士団オセロット・ナイツを忘れてもらっては困る」


 ミネルバとレビン団長がそう云って、ヨハン達の後に続く。

 その後も何度かゾンビの集団がヨハン達を襲い掛かったが、

 倒す敵は最小限に抑えて、そのまま前進を続けた。


 すると前方に新たな敵の集団が現れた。

 全員、黒の燕尾服姿の吸血鬼ヴァンパイア部隊だ。


吸血鬼ヴァンパイアか、数は……七人ってとこか」


 ヨハンはそう云いながら、聖剣サンドライトを構える。


「……此奴らを相手にして時間を食う訳にはいかんな。

 るなら敵の死霊使いネクロマンサーか、リッチをるべきだ」


 と、アイザック。


「分かってますよ、でも大丈夫。

 此奴ら程度ならボク一人でれますよ」


 ヨハンはそう云って、聖剣の柄を両手で握りしめて、腰を落とす。

 それと同時にヨハンの周囲を固めるように、ラサミス、ライル、ミネルバ、レビン団長も武器を構えた。


「フン、一人でれるだと? 我等、吸血鬼ヴァンパイアも舐められたものだ」


「全くだ、その思い上がりを消し飛ばしてくれよう!」


 と、前方の燕尾服姿の吸血鬼ヴァンパイアがいきり立つ。

 だがヨハンは怯むどころか、落ち着いた表情で煽り返した。


「……五分だ。 五分あればボク一人で貴様等を全滅させてくれよう」


「「な、何っ!?」」


「貴様等に剣聖の剣技というものを教えてやろう」


 ヨハンはそう云いながら、手にした聖剣に光の闘気オーラを宿らせた。

 そして次の瞬間、全力で地を蹴り、眼前の吸血鬼ヴァンパイアに向かって突貫する。


「行くぞ! 我が剣技、受けてみよっ!!」


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