第278話 新団長(しんだんちょう)
---ラサミス視点---
オレ達がニャルララ迷宮から出た時、空は既に黄昏色に染まっていた。
そこから近くのログハウスで休み、
仕方ない。 夜はログハウスで過ごし、一夜を明かすか。
そして翌朝の正午。
ようやく猫騎士部隊と魔導猫騎士部隊が到着した。
ドラガンが事情を説明すると、彼等は迷宮外、迷宮内に再び結界を張った。
とりあえずこの場は彼等に任せよう。
そしてオレ達は伝書鳩をニャンドランドへ飛ばした。
ここからニャンドランドまで徒歩で帰るのは疲れるからな。
だからニャルレオーネ・ファミリーに馬車を用意してくれ、と伝書鳩で伝えた。
だが馬車が来るまでずっと待っているのも退屈だったので、
とりあえず徒歩で行ける所まで進んだ。
そして夜は適当な場所で野営して、一夜を過ごした。
翌日の正午。
ニャルレオーネ・ファミリーが用意してくれた馬車と合流。
そしてそこからは、馬車に乗ってニャンドランドへ戻った。
オレは何時間も馬車の中で揺られながら、浅い眠りについた。
数時間後、何事もなくニャンドランド城に無事到着した。
オレ達はニャンドランド城に着くなり、国王と大臣に謁見した。
オレ達は今回の任務の結末を国王ガリウス三世と大臣に伝えた。
するとガリウス三世は、幹部討伐の報奨金として、オレに1500万グラン(約1500万円)をその場で
この報奨金をギランを含めた十一人で均等に割った。
一人頭、大体180万グラン(約180万円)くらいの稼ぎ。
まあ悪くない稼ぎだが、今回は頭数が多かったので一人当たりの受取額は少し少ないな。 ちなみにギランの分はエリーザとマライアに払った。
彼女等はその金でリアーナにギランの墓を建てるそうだ。
そしてオレ達はニャンドランドの宿屋で一泊してから、
次の日に
「ふう、久しぶりのリアーナだな」
オレはそう云いながら、その場で大きく伸びをした。
「そうね、今回の任務もきつかったわ」
「うん、いやあ~。 ホントに疲れた」
と、エリスとメイリンがやや疲れた感じでそう云った。
全くだぜ、我ながらよく戦ったと思うぜ。
ちなみにカーリンネイツを倒した事によって、
オレのレベルは66まで上がった。
……二ヶ月足らずでレベル66か。
こりゃまた
というかレベルだけ見たら、もう兄貴やアイザックより高いんじゃね?
とはいえ、そんな実感はねえけどな。
とりあえずスキルポイントがまた100以上入ったから、
よくよく考え込んでから、スキルの割り振りを決めるか。
「じゃあ私達はここで別れるわ」
「ええ、世話になったわね」
エリーザとマライアがそう云って、この場から去ろうとする。
……まあエリーザ達とも色々あったが、
今回の戦いを経て、過去の事は水に流すことが出来たと思う。
だから無駄かもしれないが、オレは彼女達を引き留めて、次のように云った。
「なあ、良かったらウチに――『暁の大地』に来ないか?」
するとエリーザ達だけでなく、ドラガン達もこちらに視線を向けた。
だがエリーザとマライアはその申し出をきっぱりと断った。
「有り難い申し出だけど、断るわ。
今回の件で貴方達と協力はしたけど、
それで過去の事が全てチャラになるとは思わないわ」
と、エリーザ。
「そうそう、それにアタシ達にも帰る場所はあるのよ」
マライアがエリーザの言葉に頷きながら、そう云った。
まあそうだろうな。
だがこれで完全にお別れというのも少し寂しい。
だからオレは彼女達に「今後どうするつもりだ?」と問い掛けた。
「そうねえ~。 少し前までは連合軍の一員として魔王軍と戦っていたけど、
文明派が事実上滅びた現状の中、連合軍に従軍する気にはなれないわ。
今のエルフ軍の主流派は穏健派ですからね。 流石に穏健派に
「そうそう、これからは何かに縛られる事無く、自由に生きていくわ。
何せここは中立都市リアーナですからね」
まあエリーザやマライアの立場からすればそうだろうな。
いくら同じ種族とは云え、旧文明派と穏健派は長年争っていた犬猿の仲。
だから今更穏健派に与する事は、彼女等の
「そうか、じゃあまた何かあったら、
「有り難う。 でも多分この後はもう会う事もないと思うわ。
じゃあね、ラサミス、それと『暁の大地』の皆! さようならっ!!」
「じゃあね、バイバーイ!」
そう云ってエリーザとマライアはこの場から去った。
……まあこれで良かったのかもしれない。
あの二人にも自分の人生があるからな。
それじゃオレ達もそろそろ
そしてオレ達は
するとドラガンが真面目な顔で皆にこう云った。
「これから少し皆に話したい事があるので、一階の談話室に来てくれ」
オレ達は小休止してから、ドラガンに云われるまま談話室に集まった。
すると全員が揃うなり、ドラガンが皆に向けて、小さく頭を下げた。
「……皆のおかげで今回の任務を無事終わらせる事が出来た。
これで拙者ももう思い直す事はない。 そして宣言通り拙者は冒険者を引退するつもりだ。となれば拙者の抜けた後、
そして団長の最後の仕事として、拙者がこの場で新団長を任命しようと思う」
そう云ってドラガンは周囲を見渡した。
そうだよな、ドラガンの抜けた後の団長も決めないとな。
まあここは無難に兄貴で決まるだろう。
それで副団長はアイラ、っていう人事になるだろう。
だが次のドラガンの言葉で周囲が俄にどよめいた。
「……新団長はラサミス、ラサミス・カーマインだ!」
……へっ?
「……えっ? オレなの?」
「そうだ、オマエに次の団長を任せようと思う」
「え、えええっ……えええっ!?」
オレは予想外の言葉に思わず叫んでしまった。
え? マジでオレなの?
---------
……。
オレはドラガンの言葉に耳を疑った。
オレの聞き間違いだよね?
「……何だ、ラサミス。 不服なのか?」
「いえ団長、なんでオレなんスか? ここは無難に兄貴で決まりでしょ?」
「拙者はもう団長ではない、オマエが新団長だ」
と、ドラガンが真顔で答えた。
……どうやらオレの聞き間違いではなさそうだ。
「じゃあドラガン、なんでオレにしたの?」
するとドラガンはオレの顔を見据えながら、静かな声で説明を始めた。
「いや拙者も最初はライルに任せようと思っていた。
だが今の『暁の大地』は随分と若手が増えた。
だからここはライルより若手内でも人望があるオマエに託す事にした。
それに今のオマエはとてつもなく強い。 なにせ魔族の幹部を二人も倒したんだからな。そして戦闘力だけでなく、お前には人望がある。 だから新団長はお前しかいない」
「で、でもやっぱりオレ一人じゃとてもドラガンの穴は埋められないよ」
「そうか、ならば団長の補佐も兼ねて、ライルに副団長をやってもらおう。
ライル、それで構わないな?」
「ああ、俺でよければやらせてもらうよ」と、兄貴。
……。
どうやらオレが新団長という人事は変わりそうにない。
でもなあ、オレとしては自信がないよ。
「私もその人事で良いと思う」
と、アイラが相槌を打つ。
「そうね、確かに長い目で見れば、ここはラサミスに任せるべきと思うわ」
「うん、今じゃライルさんを除けば、この中で一番強いもんね」
ミネルバとメイリンもそう云って同意する。
……なんか外堀から埋められていってるな。
「わたくしも賛成ですわ! 今のラサミスならきっと良い団長になれますわ」
と、エリス。
「あ、あたしもそう思う」
「うんうん、そうだわさ」
マリベーレと
……こりゃどうやらオレで決まりのようだな。
……仕方ねえ、こうなれば腹を括るか。
「……分ったよ、皆にここまで云われたんだ。
オレも覚悟を決めて新団長を引き受けるよ。
でもオレはまだまだ若輩者だ。 確かに戦闘力は上がったが、
心の方はまだまだガキだ。 だから皆でオレを支えてくれ。
これがオレが皆に出す条件だ」
すると皆は「勿論」や「分ったわ」と笑顔で応じてくれた。
……ここまでお膳立てされたら、もう逃げる訳にはいかねえよな。
よし、オレに何が出来るか、わからないけど、オレなりに一生懸命やるぜ。
「……では決まりだな。 これで拙者の最後の仕事が終わった」
ドラガンはそう云って、近くの椅子に座り、吐息を漏らした。
……気丈に振る舞っているが、ドラガンも随分と無理をしてきたのであろう。
なにせ猫年齢で八歳だからな。
人間の年齢に換算すれば、もう
「ドラガン、今まで御苦労様」
「ええ、貴方には随分と世話になったわ」
古くからの仲間である兄貴とアイラがそう云って、ドラガンを労う。
そうだよな、この二人はオレ達よりもドラガンと長い付き合いなんだからな。
ドラガンの引退には色々思うところがあるだろう。
「気にするな、冒険者は引退するが、芸人一座の座長はしばらくやるつもりだ。
そして三日後に芸人一座の公演を再開するから、オマエ等にも是非観て欲しい」
「おお、公演再開ッスか!?」
「ドラさんも出演するんですか!?」
メイリンとエリスが目を輝かせて、そう問う。
するとドラガンが「ああ」と答えた。
そうか、ドラガンも出演するのか。
こりゃ観に行くしかないな。
「では新団長として命じる!
三日後の公演には全員で観に行くぞ」
と、オレは団長らしくそう命じた。
それに対して皆、良い笑顔で「ああ」や「うん」と大きく頷いた。
するとドラガンは照れた様子で両肩を竦めた。
こうしてオレが『暁の大地』の新団長となった。
正直まだ実感は沸かないが、任された以上は全力を尽すつもりだ。
とはいえ変にやる気を出しすぎるのもアレだからな。
だからあくまで自然体で行こう、自然体でな。
まあオレに何が出来るか、分らないがオレのやれる事をやって行くしかない。
でもそれと同時にやはりドラガンの引退は寂しいな。
だけどこういう事を繰り返して、人は大人になっていくのかもしれないな。
そしてオレは自分の部屋に戻り、寝間着になってベッドで眠りについた。
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