第275話 ラサミス対カーリンネイツ(前編)


---ラサミス視点---



 さて勢いでタイマン勝負の流れになったが、

 ここは一つ冷静に考えるべきだろう。

 現状の仲間で動けるのは、オレと兄貴とアイラのみ。


 だがこの二人もいずれ動けなくなるだろう。

 この結界の重圧はそれぐらい強い。

 とはいえこのオレもそんなに長くは持ちそうにないがな。


 精々持って五、六分といったところか。

 となると早い目に決着をつけたいところが、そう簡単にはいかない。

 此奴こいつ――カーリンネイツの戦闘パターンがまだ分らないからな。


 だからここはオレが此奴と戦い、兄貴達には倒れた仲間の面倒を見てもらおう。

 もしここで此奴が仲間全体に魔法攻撃を仕掛けて来たら全ておじゃんだからな。


「兄貴、アイラ! 此奴はオレが引き受ける!

 だから二人は他の仲間の面倒を見てくれ!」


「……構わんが俺達もいずれ動けなくなるぞ?」


「え、ええ……このままだと五分持てばいい方ね」


 流石、兄貴とアイラだ。

 自分達の行動限界点を即座に見抜いている。


「オレもそう長くは持たないよ。

 だけどこの場でまともに戦えるのはオレだけだ。

 だから二人ともオレを信じてくれ!」


「ああ、分った」「ええ」


 さてコレで仲間の事はなんとかなりそうだ。

 ならば次の問題点は此奴――カーリンネイツとどう戦うかだ。

 此奴は見ての通り、魔導師タイプ。


 恐らく魔法という一点においては、あのザンバルドやプラムナイザーより上だろう。だが予想に反して、接近戦もそれなりにできそうだ。

 とはいえ接近戦に関しては、こちらがやや有利だ。


 ならば今までの幹部戦のように、ひたすら連続技を繰り出して、

 一気に止めを刺しに行くべきか?

 だが此奴の戦闘力は未知数な部分が多い。


 なのでこの場は一気に攻め込まず、様子を見るべきだ。

 但し時間は限られている。

 魔力は吸収の盾サクション・シールドで奪った魔力で補充するとして、

 体力は回復薬ポーションとかに頼るしかないが、それも数量は限られている。


 となれば様子見に二分。

 残り三分で一気に勝負をかけるという策で行くか。

 こりゃ、なかなか厳しい戦いになりそうだな。


「……来ないの?」


「……」


 オレはカーリンネイツの言葉を無視した。

 此奴の魔法攻撃を全て吸収の盾サクション・シールドで吸収するのは不可能だ。

 だからある程度は回避する必要がある。

 ……ここはこちらから攻めず、相手の手の内を探るべきだ。


「……まあいいわ。 それならこちらから行かせてもらうわ!」


 そう云ってカーリンネイツは左腕を前に突き出した。

 それと同時にカーリンネイツの左掌から漆黒の波動が放出される。

 ――これは多分シャドウボルトだな!


 オレはそう思いながら、右側にサイドステップして回避する。

 だが間髪入れずカーリンネイツは無詠唱で連続魔法攻撃を仕掛けて来た。

 オレは上下左右に動き迫り来る攻撃魔法を躱し続けた。


 狭い戦闘空間だからか、カーリンネイツもそれ程、魔力を篭めてないのが分る。 

 使ってくる魔法の大半は、闇属性だ。 それと後は風属性や念動属性。

 火炎属性を多用すれば、自分も二酸化炭素中毒になるからな。


 オレは基本的に回避しながら、時折、吸収の盾サクション・シールドで魔力を吸収する。相手が使う魔法の大半が初級レベルの攻撃魔法だが、

 魔力と熟練度が高い為か、まともに喰らえばそれなりにダメージを負いそうだ。


 オレも時折はブーメランやスリングショットで牽制するが、

 そんな苦し紛れな攻撃が通用する訳もなく、

 徐々にだがオレの体力と魔力が消耗していく。

 とりあえずオレは腰帯のポーチから回復薬ポーションの入った瓶を取り出し、その中身を飲み干す。


 こりゃ厳しいな。

 このままではジリ貧だ。

 中距離、長距離戦ではこちらに勝ち目がない。


 ならばどうすべきか?

 出来るものなら、この結界を解除したいところだが、

 恐らくオレの零の波動ウェイブ オブ ゼロでは結界を解除できないだろう。


 となれば接近戦を仕掛けるしかないな。

 これまでの戦いでもう二、三分は過ぎたろう。

 オレに残された時間は精々三、四分ってところか。


 よし、ならば疾風怒濤の連続攻撃で一気にけりをつけてやるか。

 オレはそう思いながら、左手に盾を、右に刀を構えながら全力で地を蹴った。

 するとカーリンネイツが続け様に攻撃魔法を連射して来た。

 ……これは風属性の攻撃魔法だな。


 一発目は左にサイドステップして回避。

 二発目は吸収の盾サクション・シールドで吸収。

 そして三発目は吸収の盾サクション・シールドで受け止めた。


 盾に風の刃が命中したが、鈍い衝撃こそあったが、

 盾を破壊するまでには、至らなかった。

 どうやら吸収の盾サクション・シールドは素の防御力や対魔力も高いようだ。


 これならば後、数回は防御ガードできるだろう。

 よし、そうと分ればこちらも攻撃を仕掛けるぜ!

 オレは両足に風の闘気オーラを纏い全力で地を蹴る。

 虚を突かれたカーリンネイツは一瞬反応が遅れた。

 オレはその隙を逃さなかった。


 次の瞬間、オレじゃ右手を刀の柄に添えて、腰を深く沈める。

 そしてオレは小さく深呼吸して、呼吸を整えた。


「せいやぁッ――――――」


 オレはそう気勢を上げながら、電光石火の居合斬りを繰り出した。

 するとカーリンネイツは膝を曲げ、斬撃の軌道を目で追いながら、後ろに飛び退いた。

 白光りする刃がカーリンネイツの右肩にわずかに触れる。


 カーリンネイツは歯を食いしばりながら、身体を後ろに数十セレチほどずらす。

 すると刀の切っ先がカーリンネイツの右肩から離れて、ブンと空を斬った。


 ――マズい、躱された。

 するとカーリンネイツは僅かに口の端を持ち上げた。

 そして左手を前に突き出して、腹から声を出して砲声する。


「――ダークネス・フレアァッ!!」


「――クソッ!! させるかあァっ!!」


 オレはそう叫びながら、左手に持った吸収の盾サクション・シールドを前に突き出した。

 それと同時に吸収の盾サクション・シールドに魔力を篭める。

 だが全ての魔力を吸収するには至らず、至近距離で攻撃魔法を受けた。


 オレは思わず「ヤバい」と叫んだが、時は既に遅し。

 至近距離での魔族の幹部の魔法攻撃。

 爆音と共にオレの身体が後方に吹っ飛んだ。

 

 ……怪我は?

 オレは僅かな間に自分の身体を見回した。

 身体には鈍い痛みがあるのが、両手足は問題なく動く。

 

 ……大丈夫だ。

 大したダメージは受けてない。

 オレは地面に着地するなり、すぐに態勢を戻した。


「くっ、浅かったか!?」


 カーリンネイツはそう云いながら、再び左手で印を結んだ。

 もう一撃食らえば多分耐えられない。

 だから攻めるなら今しかない。

 オレは全身に光の闘気オーラ宿らせて、全力で地を蹴った。


 ――ここが勝負の分岐点!

 ――だから恐れず前へ出るぜ。


「うおおおぉっ……おおおぉっ!!」


 オレはそう叫びながら、カーリンネイツに突撃した。

 

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