第273話 竜虎相搏(りょうこそうはく)


---三人称視点---



 二対十。

 数の上では断然有利となったが、ラサミス達は油断せず相手の様子を伺った。

 特にカーリンネイツに対しては最大限に警戒心を高めた。


 今まで倒した幹部――ザンバルドは基本的に接近戦での戦い、

 プラムナイザー戦も結局は接近戦での戦い方がメインとなったが、

 今回の敵――カーリンネイツに関しては違った。


 これまでの戦いでも分るように、彼女は魔法戦の専門家スペシャリスト

 特に三重詠唱トリプル・キャストによる三連続魔法攻撃は完全に想定外であった。 故に迂闊に前へ出れない。


 しかしそれでもここはあえて攻めるべきだ。

 中距離、遠距離での戦いじゃどう見ても分が悪い。

 だがこれ程、魔法に特化したタイプだから、接近戦はそこまで優れてないだろう。

 ならばここは多少リスクを背負っても攻めるべきだ、とラサミスは思った。


 とりあえず自分がカーリンネイツと相対して、

 その間にライル達にもう一人の女魔導師――ジーナを倒してもらおう。

 そうすれば一対十。 これならば相手としてもかなりの重圧プレッシャーを感じるであろう。


「兄貴、オレがアイツと戦うから、その間に兄貴、ミネルバの二人でもう一人の魔導師を倒してくれ。メイリンとエリーザは結界の解除をしてくれ。 あの女相手に魔法戦じゃ通用しないだろうからな」


「そうだな、分った」


「うん、了解よ」


 ラサミスの言葉にライルとミネルバは納得した表情で頷く。

 一方のメイリンとエリーザは少し渋い表情をしながら言葉を返す。


「……まあやってみるけど、あまり期待しないでね?

 正直アタシじゃ手に負えないレベルの結界の可能性が高いのよ」


「うん、悔しいけど魔導師としては、あの女ボスの方が私達より数段上だわ。

 でもやれるだけの事はやってみるわ!」


 ラサミスはメイリンとエリーザの言葉に「それで構わんよ!」と返した。

 そしてラサミスは続け様に他の仲間にも指示を出した。


「ドラガンとマライアは中列で様子を見ながら、加勢してくれ!

 アイラは基本的に後衛の仲間を護ってくれ!

 エリスはいつでも回復ヒールできる状態をキープ。

 マリベーレは状況に応じて狙撃スナイプしてくれ!」


 ラサミスの指示に仲間達も「ああ」「ええ」と納得した表情で頷いた。

 とりあえず作戦は決まった、後は実践するだけだ!

 ラサミスはそう思いながら、再び前方に視線を向けたがそこで異変に気付いた。


 敵の魔導師二人組は中くらいの大きさの魔法陣の上に身を寄せ合って乗っていた。

 遠目からでもかなり強力な魔法陣という事が分る。

 これは少し面倒になりそうだ、とラサミスは下で唇を舐めた。


「これは面倒な事になりそうだな。 ラサミス、どうする?」


「そうだな、とりあえずオレは敵の魔力を吸収、兄貴は反射を担当してくれ。

 そしてドラガンも出来そうなら、『魔力吸収マナ・アブソーブ』をしてくれ!

 吸収した魔力はメイリン、エリーザ、エリスの三人に分け与えよう。

 少し長期戦になりそうだが、敵の魔力も無尽蔵ではないだろう。

 だからここはあえて我慢比べをしよう」


「そうだな」


「うむ、そうしよう!」


 ライルとドラガンがそう云って身構えた。

 ラサミスも吸収のサクション・シールドを左手で構えながら摺り足で間合いを詰める。しかし敵は何もしてこない。


 お互い無言のまま睨み合いが続く。

 そうした中でもメイリンとエリーザは結界の解除を進めるが、なかなか進展しない。その間にも結界による体力と魔力の消耗が進んでいく。


 痺れを切らしたラサミス達は間合いを詰めようとしたが、

 その都度、カーリンネイツとジーナの魔法攻撃で足止めを喰らう。

 ラサミスは敵から吸収した魔力を自分やメイリン達に分け与えるが、

 結界による体力や魔力の消耗を抑える程度にしかならない。


 このまま無意味な睨み合いが続くと、ラサミス達の方が分が悪い。

 何故ならカーリンネイツは総魔力量に関しては、魔王レクサーを上回る程の魔力の持ち主だ。更にこの一帯に張られた結界は、強力でメイリン達では解除しようのない代物だ。それが分っているからこそ、彼女等は動かずただ時間が過ぎるのを待っていた。


 ラサミスもそれを何処かで感じ取ったようで、

 このままでは負けるという事実を理解した。

 だから彼は現状を打開すべく、リスクを背負っても攻めるという選択肢を選んだ。


「団長、兄貴、ミネルバ、マライア。 多分このままじゃ埒があかない。 だから危険を覚悟で攻めるぞ。オレがあの女幹部を引きつけるから、皆はなんとかもう一人の魔導師を倒してくれ!」


「「分った」」「「了解」」


 ラサミスの指示に仲間達も素直に従った。

 そして手にした武具を構えて戦闘態勢を取る。

 それと同時にラサミスは腹から声を出して叫んだ。


「――じゃあ行くぞ!!」



---------


「ダークネスショット!!」


「せいっ!」


 カーリンネイツが放つ闇属性魔法を吸収するラサミス。

 先程から何度も同じような光景が続いていた。

 だが何度も何度も魔法を放っているカーリンネイツも僅かに呼吸を乱していた。

 

 ――よし、この好機を逃す手はない!


 ラサミスはそう思いながら、左手で吸収の盾サクション・シールドを構えながら、突撃した。するとカーリンネイツが再び身構えたが、彼の狙いは別にあった。

 

「――零の波動ウェイブ オブ ゼロ!!」


 ラサミスは右手を前にかざして、職業能力ジョブ・アビリティ・『零の波動ウェイブ オブ ゼロ』を発動させた。 次の瞬間、オレの右手から白い波動がほとばしり、前方の魔法陣を打ち消した。 これにはカーリンネイツも一瞬躊躇って、僅かに身体を硬直させた。


 次の瞬間、ラサミスは右手を刀の柄に添えて、腰を沈める。

 それからラサミスは肩の力を抜き、腰を綺麗に据わらせた。


「イヤアッ――――――」


 ラサミスの雄叫びが周囲に鳴り響く。

 カーリンネイツも咄嗟に後方に跳躍していたが――

 気が付くとラサミスの一の太刀で額を割られていた。


 幸いにも致命傷は避けたが、カーリンネイツの額に綺麗に一の文字が刻まれる。、

 そして次の瞬間、カーリンネイツの額から血が流れ落ちる。

 後、半瞬反応が遅ければ、今の一撃で勝負が決まっていた。


「隙ありぃぃぃ――――――」


 そう叫びながらラサミスが先手を打った。

 凄い勢いの踏み込みで一気に距離を潰す。

 相手は両手杖。 接近戦ではこちらに分がある!


 そう思って連続攻撃を繰り出すラサミス。

 しかし次の瞬間、カーリンネイツは手にした両手杖を左右に引いた。

 すると杖の中から70セレチ(約70センチ)くらいの刀身が露わになった。


「し、仕込み杖か!?」


「――アクセルブレードッ!!」


「させるかっ!?」


 カーリンネイツの雄叫びが、静寂を切り裂いた。

 条件反射的に刀を構えるラサミス。

 ブンッ、という音とともに、二人の刀身が前後に弾き合う。

 次の瞬間、ラサミスの黒いフーデットローブの肩先が裂け、肌から血が流れ落ちる。対してラサミスの繰り出した太刀は、カーリンネイツの頬をかすめたに留まった。


 今の一撃で分った。

 この女魔導師は魔法だけじゃない。

 剣術に関してもかなりの腕前だ。

 少なくとも自分自身を護るすべを持っている。


 だがそれでも戦えない事はなかった。

 少なくとも魔法戦を仕掛けられるよりは全然良い。ならばここは苦戦しているふりをして、このまま接近戦に持ち込もう、と思うラサミス。


 

 一方、ライル、ミネルバ、ドラガン、マライアと対峙したジーナは苦戦を強いられていた。彼女も暗黒魔導師部隊の中では十指に入る程の魔導師であったが、ジーナはあくまで魔法戦に特化したタイプであった。


 故にライルやミネルバを相手に接近戦を出来る訳はなく、

 中間距離から魔法攻撃を仕掛けて、相手の動きをなんとか牽制する。


 しかしライル達は慌てることなく、

 ジーナの放った魔法攻撃はライルの水色の盾ブルーミラーシールドできっちり反射して、ドラガンが『魔力吸収マナ・アブソーブ』でジーナから奪った魔力を仲間に分け与える。


 次第にジワジワと追い込まれていくジーナ。

 そして僅かに生じた隙をミネルバが突いた。


「――ブラスト・ジャベリン!」


 ミネルバはそう叫びながら、手にした漆黒の魔槍に光の闘気オーラを宿らせて投擲した。投擲された漆黒の魔槍は、ジーナの胸部に突き刺さった。 急所に加えて、肺を潰して相手の魔法詠唱を防ぐという効果的な戦術が見事に決まった。


「がはっ!?」


 ジーナは口から吐血して、身体を悶えさせた。 

 既にこの時点で勝敗はついていたが、勝利を確実にする為、

 ドラガンが中列から前列に飛び出し、ジーナ目掛けて突撃する。


「必殺・『プロセクション・ドライバー』ッ!!」


 ドラガンはそう叫んで、再び独創的技オリジナル・スキルを繰り出した。

 まずはジーナの左肩、更に右肩を突き刺した。


「うっ!?」と、堪らず悲鳴を上げるジーナ。


 だがドラガンは躊躇うことなく、攻撃を続けた。

 更に鋭い突きで、ジーナの左大腿部、右大腿部を突き刺した。

 そこからドラガンは最後の止めを刺すべく、身を綺麗に捻って、光の闘気オーラを宿らせてた渾身の突きでジーナの眉間を狙った。


「あああぁぁっ!?」


 ジーナはドラガンの五連撃をまともに喰らい、断末魔の悲鳴を上げた。

 大きく開かれたジーナの目は白目となり、その眉間から赤い鮮血が流れ落ちた。

 そして前のめりに地面に倒れて、数秒後には完全に生命活動を停止した。 

 だがドラガンはあくまで冷静クールに刺突剣の切っ先を何度か振って、

 剣身にこびりついたジーナの血を振るい落とし、視線を周囲の仲間に向けた。


「よしこれで残りはあの女幹部一人。

 全員で協力して、アイツを倒すぞ!」


 ドラガンの言葉にライル達は「了解」と大きな声で返事する。

 これで一対十。

 数の上では圧倒的に有利になったが、

 ラサミスの眼前に立つカーリンネイツは動揺する事はなく、

 手にした仕込み杖を悠然と構えた。



 ――此奴こいつ、この状況で異様に落ち着いてやがる。

 ――とことん冷静クールだな。

 ――だが数の上では、こちらが圧倒的に有利。

 ――このアドバンテージを生かして確実に倒す。


 ラサミスは内心でそう思いながら、

 手にした雪風を両手で構えて、どっしりと腰を座らせた。


 ラサミス対カーリンネイツ。

 戦いの第二幕が今始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る