第272話 ニャルララ迷宮の大決戦(後編)


---ラサミス視点---



「う、うおおおっ……おおおぉっ!!」


 光の壁を打ち破ったが敵の強烈な魔法攻撃がこちらに迫って来た。

 オレは左手で掲げた吸収の盾サクション・シールドに全力で魔力を篭める。

 すると魔力反応『暗黒炎あんこくえん』と化した敵の魔法攻撃が吸収の盾サクション・シールドに吸い込まれた。

 

「ぬぬぬっ……こ、これは凄い魔力だ!」


「ラサミス、一度魔力を解放して拙者に渡すんだぁっ!」


 と、中列に陣取ったドラガンがそう叫んだ。

 そうだな、ここはドラガンの云うとおりにしよう!


「団長、受け取ってくれ! 『魔力解放(マジック・リリース』っ!!」


「ああ、任せろ!!」


 オレはそう叫んでドラガンに魔力を受け渡した。

 再び吸収の盾サクション・シールドを構えたが、

 オレの前方の敵の放った攻撃魔法が綺麗に消え失せていた。

 また兄貴も何とか水色の盾ブルーミラーシールドで反射できた模様。


 だがそれでも敵の魔法攻撃を完全に無力化する事は出来なかった。

 そして吸収し損ねた魔力反応『暗黒炎あんこくえん』と化した敵の魔法攻撃がエリーザに襲い掛かった。 マズい、このままだとエリーザが直撃を喰らう!?

 そう思った矢先にエリーザの前に何かが飛び出した。


「ギ、ギャインッ!?」


 なっ!?

 この鳴き声はミスティか!?

 

「くっ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 『ライト・ウォール』!」


 再び光の壁を発動するエリーザ。

 そして『暗黒炎あんこくえん』と化した敵の魔法攻撃が光の壁に命中。

 

「アタシも加勢するわ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 『ライト・ウォール』!」


 メイリンがそう叫んで、エリーザに加勢した。

 だが二人の力を持ってしても、『暗黒炎あんこくえん』は完全に防げなかった。 ならばオレの吸収の盾サクション・シールドで吸収してやる。


「オレに任せろぉっ!!」


 オレは左手で掲げた吸収の盾サクション・シールドに再び全力で魔力を篭めた。すると『暗黒炎あんこくえん』と化した敵の魔法攻撃が吸収の盾サクション・シールドに綺麗に吸い込まれた。

 よし、これで完全に敵の魔法攻撃は吸収できたようだ。

 ならばこの吸収した魔力をメイリンに受け渡そう。


「メイリン、魔力を受け渡すぞ! 『魔力解放(マジック・リリース』っ!!」


「分ったわ!!」


 オレはそう叫んでメイリンに魔力を受け渡した。

 これでメイリンの魔力は補充できただろう。

 だがまだ油断できない状況だ。


 そしてマライアがエリーザを庇って、

 焼け死んだミスティの亡骸を見ながら、苦々しげに呟いた。


「……ミスティ、咄嗟にエリーザを庇ってくれて、ありがとう。

 短い付き合いだったけど、アンタの死は無駄にしないわ!」


 マライアはそう云って、立ち上がるなり、くれないいばらの鞭を右手に構えた。だが怒りで興奮気味のマライアをギランが制止した。


「マライア、落ち着け! ここで慌てたら命を落とすぞ!」


「……ギラン、そうね。 ここで私が死んだらミスティはそれこそ犬死。

 分ったわ、ここは皆で協力して戦うわ!」


 どうやらマライアも落ち着きを取り戻したようだ。

 よし、ならばこれで三対十一。

 この数的有利を生かさない手はない。


「マリベーレ、また狙撃スナイプを頼む。

 狙うのは親玉でなく、残り二人の子分の方だ」


 オレは耳錠の魔道具イヤリング・デバイス越しにマリベーレにそう指示を出す。すると彼女も耳錠の魔道具イヤリング・デバイスを使って返信する。


「分ったわ。 でもその前に敵の動きを攪乱かくらんして欲しいわ。

 普通に狙撃したら、あの女ボスが妨害するのは眼に見えているから!」


「そうだな、なんとか攪乱してみるよ!」


 とは云ったものもどうすべきかな。

 オレ達の遠距離攻撃はメイリン達、魔導師による魔法攻撃。

 それとマリベーレの魔法中による狙撃がメインだ。


 魔法攻撃は相手の対魔結界で弾かれるのが目に見えている。

 ならばここはギランの手斧の投擲、それとオレのブーメランか、投擲紐スリングで攻めるか!


「ギラン……さん、こちらの狙撃手スナイパー狙撃スナイプを成功させる為に、相手を攪乱したのだが、何か良い手があるかい?」


 するとギランがしばらく何やら考え込んでから、こう返した。


「そうだな、オレの手斧の投擲で攻めるのが一番効果がありそうだな。

 とはいえ既に何度か敵に見せた手でもあるから、その前に布石を打つ必要があるな」


「確かにそうだな、あっ! いい手を思いついたかもしれん。

 メイリン、敵に目掛けて英雄級の魔法攻撃を仕掛けられるか?」


「出来るけど、敵の対魔結界で弾かれるのが落ちよ?」


「いいから、いいから! オレに考えがあるんだ!

 ギランさん、メイリンが攻撃魔法を撃つと同時にオレは前進するから、

 アンタもそれと同時に前進して、敵を投擲の射程圏内に捉えてくれ」


「なにやら策が思いついたようだな。 良かろう、お前の指示に従うよ」


 と、ギラン。


「ありがとさん、じゃあメイリン!」


「はい、はい、じゃあ行くわよ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 炎殺えんさつ!」


 メイリンが素早く呪文を唱えると、

 彼女の両手杖から激しく燃え盛る炎の塊が生み出された。

 そして両杖の先端の赤い魔石から、緋色の炎の塊を連続して解き放たれた。


「ふん、馬鹿の一つ覚えがっ!」


 と、女ボスの前に立つ赤いフードケープを着た敵魔導師が身構えた。

 よし、ここがチャンスだ! オレはそう思いながら、敵目掛けて突進した。


---------


「――ふんっ! 我は汝、汝は我。 我が名はミラン。 

 暗黒神ドルガネスよ、我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』ッ!」


「――甘いぜ! 零の波動ウェイブ オブ ゼロ!!」


 オレは右手を前にかざして、黄金の手ゴールデン・ハンド職業能力ジョブ・アビリティ・『零の波動ウェイブ オブ ゼロ』を発動させた。

 すると次の瞬間、オレの右手から白い波動がほとばしり、前方の漆黒の壁を打ち消した。よし、想像以上に上手くいったぜ。


 そしてオレは斜め後ろにバックステップして、腰帯から投擲紐スリングを引き抜き両手で構えた。 そこから投擲紐の上に乗せた小さな鉄球に光の闘気オーラを宿らせて、赤いフードケープを着た敵魔導師を照準に入れて、スリングショットを放った。


「!?」


 完全に不意を突いた。

 そして放たれた小さな鉄球は敵の額に命中。


「あぁっ……あがっ!?」


 溜まらず悶絶する赤いフードケープの魔導師。

 その隙を逃すまいと、ギランが中列から前列に飛び出した。

 そして右手に持ったプラチナ製の手斧を全力で投擲する。


「――ハイパー・トマホークッ!!」


 空を裂きながら、投擲された手斧が赤いフードケープの魔導師の胸部に命中。

 「ぐあっ」と、再度悶える赤いフードケープの魔導師。

 そして後方で待機していたマリベーレが膝撃ち状態で、右手の人差し指で魔法銃のトリガーを引いた。 銀色の魔法銃の銃口から放たれた氷と風の合成弾が赤いフードケープの魔導師の眉間に命中。 


 見事なまでのヘッドショット。

 だがマリベーレは表情を変えることなく、魔法銃のボルトハンドルを引く。

 金属音と共に薬莢が排出され、近くの地面に転がった。


 よし、これで残りは二人!

 このままの勢いで相手を倒す――

 そう思った矢先に青いフードケープを着た女魔導師が素早く前方に右手を突き出した。


 そして次の瞬間にその右手から、漆黒の波動が放たれてギランに命中。 

 今のは無詠唱の魔法攻撃か!?

 となると敵は更に魔法攻撃を仕掛ける可能性が高い。


「ギランさん、逃げろぉっ!!」


「遅い! 我は汝、汝は我。 我が名はカーリンネイツ。 暗黒神ドルガネスよ!

 我に力を与えたまえ! 『ダークネス・フレア』ッ!!」


 青いフードケープの女魔導師は眉間に力を込めて、右手から闇の炎を放射した。

 放たれた闇の炎が棒立ち状態のギランに命中。


「あ、ああっ……あああぁっ!?」


 ギランは断末魔のような悲鳴を上げた。

 それと同時に周囲に爆音が鳴り響いた。

 その爆音と共に生み出される爆風と爆発。 

 火炎属性と闇属性が交わり、魔力反応『闇火』が発生。

 そして生み出された闇火がギランの全身を燃やす。


「――まずいわ! アクア・スプラッシュ!」


「エリス、回復ヒールの準備をお願い! ――アクア・スプラッシュ!」


 咄嗟にエリーザとメイリンが水魔法を使って、

 ギランの全身を覆った闇火の消火活動を行う。

 二人は何度もアクア・スプラッシュを使って、なんとか消火に成功。


 だがギランは全身に強烈な火傷が刻まれ、数秒ほど全身を小刻みに痙攣させていたが、しばらくするとそのまま動かなくなった。


「ぎ、ギランッ!!」


「ギラン、しっかりして!」


 エリーザとマライアがそう叫ぶが、ギランは返事しない。

 そして彼の身体からも魔力反応が消えた。

 つまりそれは残念ながら、ギランが死んだという事だ。

 クソッ、なんてことだ。 こうもあっさり仲間がやられるとは!?


「エリーザにマライア! とにかく落ち着くんだ。

 ここでキミ達が逆上したら、それこそ相手の思う壺だ」


「……そうね」


「……分ったわ」


 二人はドラガンの忠告に素直に従った。

 オレ達は、しばらく呆然としていたが、すぐに我に返った。

 そしてオレ達は再び陣形を組みながら、残り二人となった敵と向かい合った。


 もうこれ以上の犠牲は出さない。

 その為にもあの青いフードケープの女魔導師を確実に倒す!!

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