第271話 ニャルララ迷宮の大決戦(中編)


---三人称視点---



「我は汝、汝は我。 我が名はミラン。 ウェルガリアに集う闇の精霊よ!

 我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ストーム』ッッ!!」


「我は汝、汝は我。 我が名はテス。 ウェルガリアに集う闇の精霊よ!

 我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ボルトッ』!!」


 前方の敵魔導師達が続けざまに、闇属性の攻撃魔法を唱えた。

 しかしライルは左手に持った水色の盾ブルーミラーシールドで迫り来る魔法を反射した。 一方、ラサミスはステップワークを駆使して、なんとか相手の攻撃魔法を回避した。


「くっ!?」


「貰ったぁっ! ――ピアシング・ブレード!!」


 ライルは相手との距離を詰めて、得意の剣技ソードスキルを繰り出した。

 鋭い回転の掛かった突きが眼前の黒いフードケープを着たミランの左肩を抉った。


「うおぉっ!?」


「ちっ、浅かったか!」


「――ハイパー・トマホークッ!!」


 ギランがそう技名スキルめいを叫びながら、中列から前列に飛び出して、

 右手に持ったプラチナ製の手斧を全力でミラン目掛けて投擲する。

 鋭く回転したプラチナ製の手斧がミランの喉笛に命中。


「ご、ごはぁっ!?」


「――今だぁっ! 秘剣・『神速の太刀』」


 ライルはこの瞬間に闘気オーラを最大限まで高め、自身の得意とする独創的技オリジナル・スキルを放った。

 そしてその鋭い剣線がミランの首を両断した。


「ぬ、ぬあああぁぁぁっっ!!」


 ミランの悲鳴と同時にその首が宙を舞った。

 疾風怒濤の一撃に敵の魔導師部隊も思わず驚き戸惑う。

 その間隙を突くように、マリベーレが中列に出て、膝撃ち態勢を取る。

 マリベーレは右目で銀色の魔法中のスコープを見据えながら、銃口を前方の敵に向けた。


 マリベーレはスコープ越しに標的である白いフードケープを着たテスに狙いを定めると、魔法銃の引き金を引き絞り、氷と風の合成弾を放った。

 次の瞬間、テスの胸部から赤い鮮血が噴出する。

 150メーレル(約150メートル)の狙撃スナイプを難なく決めるマリベーレ。


「マリベーレ、ナイス!」


 と、ラサミスが後ろに振り返り叫んだ。


「ラサミスお兄ちゃん、まだ敵は死んでないわ!」


「――チャンスッ! ここは拙者が決める!」


 そう叫んで、中列からドラガンが飛び出した。

 ドラガンは軽快なステップを踏み、テスとの間合いを詰めた。


「――見せてくれよう、我が奥義を! 

 必殺・『プロセクション・ドライバー』ッ!!


 ドラガンはそう技名わざめいコールをして、手にした刺突剣を鋭く突き刺した。まずはテスの左肩、続いて右肩を突き刺す。


「あぁっ!?」と、呻くテス。


 だがドラガンの攻撃はまだ続く。

 そこから更に鋭い突きで、テスの左大腿部、右大腿部を抉る。

 疾風怒濤の四連撃が決まる。

 そしてドラガンは最後の止めを刺すべく、身を捻って、光の闘気オーラを宿らせてた渾身の突きでテスの心臓部を狙った。


「がはあぁぁっ……あああぁっ!?」


 テスは怒濤の五連撃を喰らい、断末魔を上げた。

 ドラガンの隠し技とも言える彼の独創的技オリジナル・スキルが見事に決まった。 テスは声にならない声をあげて、胸部を押さえながら、悶絶する。

 大きく開かれたテスの目は白目となり、

 その胸部から赤い鮮血がだらりと流れる。


 そして口をパクパクと開閉しながら、

 前のめりに地面に倒れて、数秒後には動かなくなった。 

 返り血を浴びたドラガンは青いコートの袖で血を拭い、呼吸を整える。


「これで残る三人!」


 ドラガンが凜々しい声でそう叫んだ。

 残すはカーリンネイツとエレクサレドとジーナの三人だ。

 だがカーリンネイツは慌てる事無く、落ち着いた声で指示を出した。


「慌てる必要はないわ。 ここからは持久戦に持っていくわ。 持久戦なら必ずこちらが勝つわ!」


「り、了解です!」「……了解!!」


 エレクサレドとジーナは声を揃えて返事して、咄嗟に身構えた。

 そして前方にエレクサレドとジーナが立ち、その後ろにカーリンネイツが陣取った。 対するラサミス達も陣形を組んで、迎撃態勢を取る。


「これで数的有利になったが、油断はするな!

 とりあえず敵の親玉の力量を測る為、様子を見ながら防御陣を敷くぞ!!」


「分ったぜ、兄貴!!」


 ライルの言葉に全員が大きく頷いた。

 そしてラサミス達はゆっくりと身構えて、防御陣を敷いた。


---------


「――ハアッ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『ライトニング・ダスト』ッ!!」


「――せいッ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『フレア・ブラスター』ッ!」


「我は汝、汝は我。 母なる大地ウェルガリアよ。 

 我に力を与えたまえっ! 『フレミング・ブラスター』!」 


 メイリンとエリーザが柳眉を吊り上げ、呪文を詠唱する。

 更にエリーザが召喚した炎の蜥蜴サラマンダーも呪文を詠唱した。

 次の瞬間、目映い光の波動と緋色の光が迸り、前方に目掛けて放たれた。

 だがその前に青いフードケープを纏ったカーリンネイツが指で十字を切り、素早く呪文を唱えた。


「――はっ! 我は汝、汝は我。 我が名はカーリンネイツ。 

 暗黒神ドルガネスよ、我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』ッ!」


 するとカーリンネイツ達の前方に長方形型の漆黒の壁が生み出された。

 そして「ゴオオオンッ」という轟音を立てながら、放たれた緋色の炎が漆黒の壁を呑み込んだ。 だが漆黒の壁シャドウ・ウォールを破壊するまでには至らず、爆音だけが周囲に空しく鳴り響いた。


「ハアハアッ……、あの女魔導師おんなまどうし! アイツの魔法の腕は超一級品よ!」


 メイリンは呼吸を乱しながら、忌々しそうに呟いた。

 先ほどから放ったメイリンとエリーザ、そして炎の蜥蜴サラマンダーの放った魔法は、全て漆黒の壁シャドウ・ウォールに防がれていた。


「我は汝、汝は我。 我が名はドラガン。 猫神ニャレスよ!

 我が魔力を我が友に分け与えたまえ! 『ダブル魔力マナパサッー』!」


 ドラガンが魔法戦士の職業能力ジョブ・アビリティである『魔力マナパサー』を連続で発動する。するとメイリンとエリーザにドラガンの魔力が分け与えられた。そしてドラガンはすかさず魔力回復薬マジック・ポーションの入った瓶の中身を飲み干した。


 先程からこのように攻撃魔法、あるいは対魔結界を張るという魔法の攻防戦が続いているが、敵側は三人にも関わらず、まるで疲れる素振りを見せずに淡々と攻防戦を続ける。


「……このままだとジリ貧だな」と、ライル。


「ああ、だが敵のあの女魔導師には見覚えがある。

 アイツは港町クルレーベの戦いでも居た凄腕の魔導師だ。

 だからある程度、アイツの戦闘法を見極めないで突撃するのは危険だ」


 ラサミスが低い声でライルにそう伝える。


「それは分っている。 だがこの結界に居る限り、

 オレ達の体力や魔力はドンドン消耗していくばかりだ。

 だからここは不利と分っていても、打って出るべきだ」


 ライルの云う事も一理ある。

 だが相手の手の内が見えない状況での突撃は、前衛のラサミス達も躊躇いを覚えた。 そしてそんな彼等の間隙を突くように、カーリンネイツが新たなカードを切った。


「我が名はカーリンネイツ。 暗黒神ドルガネスよ、我に力を与えたまえ!

 ふぅぅぅっ……はっっ!! 三重詠唱トリプル・キャストッ!!」


 カーリンネイツはそう叫んで、能力アビリティ三重詠唱トリプル・キャストを発動させた。この能力アビリティを発動させると、三連続で魔法を放つことができる。同属性、あるいは異なる属性の魔法が連続して使える為、一人で単独連携することも可能だ。 


 いやその為の能力アビリティと云っても過言はなかった。

 そしてカーリンネイツは連続して魔法攻撃を唱えた。


「『シャドウ・ボルトッ』!!」


 まずは短縮詠唱で初級闇属性の攻撃魔法を放つ。

 そして間髪入れずに、第二射が放たれる。


「――クリムゾン・ブラスターッ!!」


 今度は英雄級えいゆうきゅうの火炎魔法が放たれた。

 この時点で魔力反応『闇火やみび』が発生できるが、

 カーリンネイツはそこから更に新たな攻撃魔法を唱えた。


「我は汝、汝は我。 我が名はカーリンネイツ。 暗黒神ドルガネスよ!

 我に力を与えたまえ! 『ダークネス・フレア』ッ!!」


「くっ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 

 『ライト・ウォール』!!」


「させないわ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 

『ライト・ウォール』!」


 メイリンやエリーザが素早く呪文を詠唱して、前方に長方形型の光の壁が張った。

 そして敵が放った漆黒の波動と緋色の熱線と闇の炎が光の壁に衝突する。

 止めの三発目は英雄級えいゆうきゅうの闇属性の攻撃魔法。

 『闇火やみび』に更に闇属性が交わり、魔力反応『暗黒炎あんこくえん』が発生する。


「ぬうううっ……これはとても持ちそうにないわ!」


「どうやらそのようね! 周囲の皆は回避行動を取って!!」


「しかしそうするとキミ達が!!」


 メイリンとエリーザの言葉にドラガンがそう云う。

 すると二人は微笑を浮かべながら、言葉を返した。


「皆を護るのが今のアタシの役目よ!」


「そういう事!」


「いや二人を犠牲には出来ねえよ。兄貴、二人の結界が破れたら、水色の盾ブルーミラーシールドで二人を護るんだ。オレも吸収の盾サクション・シールドで魔力を吸い上げて見せる!」


「了解だ、ラサミス!」と、ライル。


 そして次の瞬間、「メキメキ」と音を立てて、メイリン達の光の壁に皹が入る。

 次第に皹が広がり、パリンという破壊音と共に光の壁が粉々に砕かれた。

 それと同時にライルとラサミスが前方に躍り出て、左手で構えた盾を前方に突き出した。


「うおおおっ……おおおっ!!」


 絶体絶命のピンチにラサミスは雄叫びを上げて、

 吸収の盾サクション・シールドに全力の魔力を篭めるのであった。


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