第264話 今後の方針
---ラサミス視点---
「成る程、話合いの結果、そうなったのね。
分かったわ。 私はそれでいいわ。 マライアとギランもそれでいいでしょ?」
「ええ」「ああ」
オレ達は冒険者ギルドに紹介してもらったニャンドランドの高級宿屋で
エリーザ達と合流を果たした。
ん? 中級から上級の宿屋に変わってるって?
これはニャンドランド内で活動するニャルレオーネ・ファミリーが
オレ達に気を付かして、自分達の管轄街の高級宿屋に無料で泊めてくれたのだ。
だからオレ達もその厚意を素直に受け取った、というわけさ。
そしてエリーザ達にニャンドランド城で話し合った話の内容を聞かせたところだ。
これに関しては、情報の公正性を保つ為に正直に話した。
オレ達は過去に何度かやり合った仲だが、今は協力関係にある。
だから仲間となった以上、伝えるべき情報は伝える。
「納得してもらえたかな?
なら今夜はこの宿に泊まって、明日から本格的に敵の追跡にあたる」
「それはいいけど、敵の行き先に心当たりでもあるの?」
と、エリーザ。
「まあな」
「ならそれを今教えてくれてもいいんじゃないの?
あたし達もそれを口外する程、間抜けじゃないわ」
と、マライアが会話に加わってきたが、
ドラガンは首を左右に振り「駄目だ」と返した。
するとマライアはムッとした表情になり、柳眉を逆立てた。
だがギランがマライアの差肩に自分の右手を置いて、彼女を制止してこう云った。
「まあそれに関しては、団長のアンタの判断に任せるよ。
一時的とはいえオレ達はアンタの指揮下にある。
だから命令には素直に従うよ、マライアもそれでいいな?」
「……まあいいけど」
「そう云ってもらえると助かる。
では明日は昼過ぎには旅立つから、今夜は早めに寝よう。
そういう訳で解さ――」
「あ、ちょっと待って! 早く寝ることには賛成だけど、
明日旅立つ前に寄りたい所があるのよ」
と、マライア。
「何処に寄るつもりなんだ?」と、ドラガン。
「
そこで
そうすると追跡にも役に立つわ、絶対に!」
「分かった、その件に関しては許可しよう」
「ありがとう」と、マライア。
するとドラガンは右手で青い羽根つき帽子のつばをくいっと下げた。
「いやそれくらいの自由は認めるさ。
それじゃ今度こそ解散だ、皆早く眠れよ」
オレ達はドラガンの言葉に大きな声で「はい!」と返事した。
さてそれじゃオレも明日に向けて、早く眠るか。
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「お待たせ!
品種はベルジアン・マリノアよ。 一通りの訓練を受けている犬だから
色々と出来るから、これから先の戦いにきっと役立つと思うわ」
マライアはそう云って、体高56から66セレチ(約56から66センチ)の大型犬をリードに繋いでこちらに引き寄せた。
耳は立ち耳で、尾は垂れ尾。 脚は長くて、身体は筋肉質で引き締まっている。
オレ達を見ても吠えたりせず、ハンドラーであるマライアの横で静かにお座りしていた。
「うむ、非常に賢そうな犬だな」と、ドラガン。
「ええ、それに加えて
「それは頼もしいな」と、兄貴。
「ええ、期待して頂戴」と、返すマライア。
「それとニャンドランドを根城にするファミリーの方々と連絡を取ったが、
目的地まで馬車を出してもらう事になった。 我々十一人を三つの馬車に
割り振って目的地まで運んでくれる事となった」
「そう、流石ファミリーの組員、仕事が早いわね。
で彼等の情報網に敵はかかったのかしら?」
エリーザがドラガンにそう尋ねた。
するとドラガンはやや渋い表情をしながら、エリーザの問いに答える。
「ああ、ここ数日間で
何でも関所勤めの
事態が相次いでるようだ。
自分の与えられた仕事を放棄する程、無責任でもない。
拙者が思うにこれは侵入した敵の偽装工作だと思っている」
「そうだな、同じ事態が何度も続いている点は確かにおかしい」と、兄貴。
「そうッスよね、いくら
連日開く事はないっしょ!? こりゃ怪しい匂いがプンプンするわ」
メイリンはそう云って、胸の前で両腕を組んで独りで頷いていた。
一見擁護しているようで、無意識で
「ああ、だから我々も今すぐ目的地に向かう事にする。
とりあえず一つ目の馬車には、拙者とライル、それとラサミスとメイリンが乗る。
二つ目の馬車は、アイラ、エリス、ミネルバ、マリベーレが乗れ!
最後の馬車にはエリーザ、キミ達が乗ってくれ」
ドラガンがそう云って、馬車に乗る順番を決めた。
そしてオレ達はニャルレオーネ・ファミリーが用意してくれた黒い馬車に乗り込んだ。御者台と一体になった乗客席の後ろに、荷台部分が接続されているという仕組みの馬車だ。とりあえずオレ達は必要最低限の荷物だけ持って、残りの荷物は荷台に置いた。
馬車が小刻みに揺れて動き出した。
目的地はニャルララ迷宮。
前に向かった時は、大体二日ほどかかったな。
今回も同じくらいの時間がかかりそうだ。
オレと兄貴が並んで座り、俺達の正面にドラガンとメイリンが座った。
馬車の横手には小さな窓がついており、オレとメイリンはそこから外の風景をぼんやりと眺めていた。ドラガンと兄貴は腕組みしながら、何やら考え込んでいるようだった。
……。
馬車内にやや重い空気が流れる。
その空気を変えるべく、メイリンが明るい口調で話を振った。
「しかしまさかこうしてまたニャルララ迷宮へ行く事になるなんて、
思いもしませんでしたよ。 あれから一年半くらいになるんですね」
「そう云えばそうだな。 しかし今度の相手は魔族だ。
恐らく前回以上に厳しい戦いになるだろう」
兄貴が沈黙を破って、喋り出した。
そうか、もうあのマルクス事件から一年半も経つんだな。
ほんの少し前までは、ド底辺の冒険者だったオレが今では、
「
「そうか、もうそんなに経つのか。
時の流れは本当に早いものだな」
と、ドラガンが遠い目をしながら、そう云う。
……。 この戦いが終われば、ドラガンは冒険者を引退する。
恐らくその決意は固いのであろう。
だからエリス達も「辞めないで!」と云って止めるような真似はしなかった。
「……はい、早いもんッス。 アタシも本来なら今年の夏からハイネダルク魔法大学に入学する予定でしたが、どうやらそれも難しい感じになりそうッス」
ああ、そう言えばメイリンは、飛び級で魔法課高等学院を卒業して、
今年の夏からハイネダルク魔法大学の大学生になる筈だったな。
普段の言動が少しアレな為、アホに見えるところもあるがメイリンはかなり頭が良い。17歳で
「……後、半年でこの戦いが終わり……そうにはねえよな」
「うん、まあでもそれは仕方ないよ。 なんせ世界大戦だもん。
でもむしろこの戦いで経験や名声を上げておけば、
魔法大学に入学の際にも色々と厚遇される可能性は高いわ」
「へえ、意外と色々と考えてるんだな」
オレは少し感心しながら、そう云った。
「まあね、でもそれもこの大戦に勝たないと全て無駄になるわ。
だから今は将来の事より、目の前の戦いに集中するわ」
「なんだかメイリンも随分と頼もしくなったな」
「まあね、それくらいの気概を持たないと、
この戦いは勝ち抜けないわ。 それにアンタに負けるのも癪だしね」
「オレに負ける?」
オレがそう答えると、メイリンは「やれやれ」と云いながら両肩を竦めた。
「本人に自覚症状なしか……。 ラサミス、やっぱりアンタって鈍感ね」
「別に仲間内で競う必要はねえだろう。
後、オレは自分のやれる事を全力でやるようになっただけさ」
オレは思った通りにそう云った。
するとそれまで黙って話を聞いていたドラガンが口を開いた。
「それが出来るようになったのは、一人前の証さ。
拙者はもう肉体的にも精神的にも奴等――魔族と戦う事に疲れた。
だが今回の件だけは、逃げ出す訳にはいかん。
全ては拙者達がニャルララ迷宮の地下で
見つけた事から始まった。 だから拙者の最後の仕事として、
あの禁断の果実が魔族の手に渡らないように全力で阻止する。
だからライル、ラサミス、メイリン。 拙者に力を貸してくれ」
「ああ、当然だ」
兄貴はいつも変わらぬ口調でそう答えた。
オレとメイリンも「了解」「勿論です」と大きな声で返事する。
するとドラガンは右手で青い羽根つき帽子のつばをくいっと下げて、顔を隠した。
これがドラガンの最後の戦いになるのか。
ならばオレとしては、彼の引退の花道を飾るために全力を尽すぜ。
だがやはりドラガンが引退するのは、寂しいな。
そう思ったのは、オレだけじゃないようだ。
その後は兄貴もメイリンも黙り、黙って窓の外の景色を観るか、
軽い眠りについて、馬車の中はしばしの間、静寂に包まれた。
そしてオレも皆と同じように、
両腕を胸の前で組みながら両眼を瞑って、そのまま眠りについた。
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