第261話 模索


---ラサミス視点---



「属性技の連続攻撃で単独連携を起こす独創的技オリジナル・スキルを覚えたいってか!?」


「はい、バルバーンさんが前に云ってたじゃないですか。

 それを急に実戦してみたくなったのですよ」


「……そうか」


 オレは正午前に消耗品やアイテムの補充を終えて、

 黄金の手ゴールデン・ハンド職業ジョブギルドにやって来た。

 そして師範代のスカーレットや師範のバルバーン相手に、

 新たに覚えるつもりの独創的技オリジナル・スキルについて色々聞いてみた。


「属性技の連続攻撃で単独連携を起こす独創的技オリジナル・スキルかあ。

 確かに決まれば、一撃必殺の奥義になりそうだけど、

 魔族相手に実戦で決めるのは少し厳しそうね」


 師範代の女竜人のスカーレットがぼそりとそう云った。

 まあオレも厳しいとは思うけどね。

 でも色々と自分の可能性を探りたいんだよ。


「ちなみにどういう属性の連続技にするつもりなんだ?」


 バルバーンは前に会った時と同じ緑の革ジャケットに黒のシャツ、下は緑のズボンという格好だ。ちなみにスカーレットはノースリーブの青い武道着と黒いズボンいう格好だ。まあそれよりバルバーンの質問に答えないとな。

 その件についてはオレなりに色々考えたからな。


「基本的に火炎属性から風属性攻撃、そして光属性攻撃で締める三連続攻撃に

 するつもりです。 この三連続攻撃が決まれば、光属性の魔力反応・太陽光サンライトが発生しますよね? 光属性は魔族の弱点属性だし、悪くないアイデアとは思うんですが……」


「ふん、ふん、成る程。 それなりに考えてきたんだな」


「そうね、三連続攻撃ならギリギリ決められるかも」


 バルバーンとスカーレットが感心したような口調でそう云う。

 ほう、師範代や師範から見ても、及第点は貰えたようだ。

 

「実は既に名前も決めてるんですよ。

 その名も乱火風光剣らんかふうこうけん! どうです?

 悪くないネーミングでしょ?」


「ん? いやまあお前が気に入ってるんなら、それでいいんじゃねえ?」


「……うん」


 ……。

 なんかバルバーンとスカーレットが微妙な反応した。

 いやこういう反応されると、少し凹むんだが……。

 乱火風光剣らんかふうこうけんってカッコ良くない?

 ……駄目?


「まあ名前の事はどうでもいい、でどういう形の連続技にするつもりなんだ?」


 と、バルバーン。


「はい、最初は炎属性の居合斬りを放ちます、そしてそれが決まれば、

 高速で袈裟斬りを風属性で、逆袈裟斬りを光属性で放つ、という感じです」


 するとバルバーンとスカーレットは「ほう」や「へえ」と感心したような声を上げた。


「流石は今売り出し中の若き英雄と呼ばれるだけの事はあるな。

 そう、そう、独創的技オリジナル・スキルってのはシンプルな連続技が一番向いてるんだ。連続攻撃とかに憧れる奴も居るが、実戦――しかも対人戦を想定すれば、五連続攻撃以上の独創的技オリジナル・スキルは実戦ではまず決まらんからな」


「そうそう、調子こいて十回連続攻撃とかにしても、

 結局使えないから、泣く泣くその技を削除するか、また新たな技を登録する羽目になるのよ」


 この辺は兄貴も同じ事を云ってたな。

 というか売り出し中の若き英雄って誰?

 ……もしかしてオレの事?


「その辺はウチの兄貴も云ってましたよ」


「兄貴? ああ、噂の『雷光のライル』かあ。

 成る程、兄弟そろって戦闘センスに恵まれてるんだな」


「……いやあ、兄貴はともかくオレはほんの一年前くらいまでは、

 全然駄目でしたけどね。 いや謙遜じゃなくて事実です」


「そりゃそうだろうさ。 お前のように色んな職業ジョブをしてたら、

 中途半端な器用貧乏になるさ、でもお前はそれを辛抱強く続けた結果、

 器用貧乏から万能型になれたんだ。 そこはもっと誇っていいぞ」


 バルバーンはそう云って、大きな右手でオレの左肩をポンポンと叩いた。

 なんだかんだでこの人、良い人だな。

 そうだな、オレも少しは自信を持っていいレベルまできたようだ。


「アドバイスどうもです。 ちなみにこの連続技を決めてから、

 体術で攻めるというのも手ですよね? 例えば太陽光サンライトを発生させた状態で、黄金の息吹ゴールデン・ブレスを発動させて、徹しで胸部を強打、みたいな感じとか」


「ああ、それは面白い手、戦術だな」


「うん、私も良い手と思うわ」


「そうッスか」


「まあ色々模索する事は良い事だよ。 ところでラサミス」


「ん? 何スか?」


 するとバルバーンはこちらをチラリと見て、探るようにこう云った。


「ところでお前はどんな風に魔族の幹部を倒したんだ? いや無理に云えとは云わんよ。 ただ差し障りのない範囲で教えてもらえないか?」


 ああ、そういう事ね。

 成る程、バルバーンにしてもその辺は気になるんだ。

 まあ流石に全てを教える気にはならないが、ちょっとくらいなら話していいだろう。


「え~と基本的に魔族の幹部って接近戦も強くて、

 無詠唱で魔法を唱えてくるんですよ。 だからこちらが中距離や遠距離で戦うのは、かなり厳しいんですよ。 魔法に関しては奴等の方が一枚上手だと思います」


「ああ、噂では聞いていたが、本当に無詠唱で魔法を唱えるんだな」


「ええ、だから奴等と戦うなら、攻撃役アタッカー職が一番良いと思います。

 とは云え接近し過ぎると、無詠唱の魔法攻撃で零距離砲撃受けたりするから大変ッスね」


「……そりゃキツいな」


「うん、というかかなり無茶な戦いね」


 バルバーンがそう呟き、スカーレットも同調した。

 まあ改めてこういうと、本当に厳しい戦いだよな。

 でもザンバルドやプラムナイザーの戦いを得て、オレもいくつか気付いた点はある。バルバーンには世話になったし、その触りの部分ぐらい話しても良いだろう。


「だから奴等の魔法攻撃を無力化するのが一番ですね。

 オレはその為にオークションで一千万近く使って、魔力を吸収する盾を購入しました」


「「一千万っ!?」」


「はい、でも奴等を戦うなら、これくらいは投資の一貫ですよ。

 それに奴等は無詠唱の魔法攻撃は使えますが、回復魔法は使えないみたいです」


「……そうなのか?」


「少なくともオレ達が戦った二人の幹部はそうでした。

 そして奴等の攻略法としては、とにかく高速の連続技で攻めるべきですね。

 ただ同じ技やリズムが単調な連続技じゃ通用しないですね。

 後、出来れば初見の連続技で倒すのが一番ですね。

 ああいう化け物共は「初太刀しょだちで殺す」のが一番です」


「……成る程」と、バルバーン。


「後は口述こうじゅつ詠唱をさせない為に、

 標的の顎を砕くか、肺を潰すのが効果的ですね。

 オレの時はサマーソルトキックで女吸血鬼の顎を砕いてやりましたよ。

 そこからフックを連打して、黄金の息吹ゴールデン・ブレスを発動させから「徹し」で胸部を強打! みたいなコンボで倒しました」


 するとバルバーンとスカーレットはしばらく押し黙った。

 ん? どういう事? というかこの反応の意味するところは?

 などと思ってると、バルバーンが「スゲえ!」と大声で叫んだ。


「ラサミス、お前さんはマジでスゲえな。

 まだ17、18という年齢だろ? よくそこまで思いつくな。

 成る程、そりゃ敵の幹部を倒すだけの事はあるわ」


「ええ、こりゃ私が一ヶ月で抜かれたのも無理ないわ。

 なんというか桁や器が違う感じね」


「そ、そりゃどうも……」


 こういう風にあからさまに褒められるのも少しこそばぬいな。

 でもこの二人に認められたところは、少しは自信を持っていいかもな。


「ラサミス!」


「……何スか?」


「オレは正直云えば魔族と戦う根性はない。

 だからこうして師範としてリアーナに残っているが、

 オレの出来る事や教えられる事なんて些細なモンよ。

 でもリアーナに帰って来た時はオレに色々相談してくれ。

 オレの出来る範囲で色々サポートするからよ」


「うん、私もするわ!」


「……ありがとうございます。

 それじゃオレはもうそろそろ行きます」


「ああ、お前さんの武運を祈ってるよ」


「ラサミスくん、また会おうね」


「はい、では失礼します!」


---------


「さて皆、準備はいいか?」


「「「ああ」」」「「「「はい」」」」


 オレ達はドラガンの言葉に口を揃えてそう返事する。

 各自、いつもと同じ格好、服装でそれそれ背中にバックパックを背負っていた。

 エリーザ達は予定通り、既に馬車でニャンドランドに向かっていた。


 ちなみにオレはあの後、冒険者ギルドに立ち寄って、

 『乱火風光剣らんかふうこうけん』を正式に自分の独創的技オリジナル・スキルとして登録した。

 まあ今すぐ使い物になるとは思わんが、熟練度も上げておく必要があるからな。


 他の皆も普段と大体同じだ。

 一つ違う点があるとすれば、ミネルバが小竜族ミニマムドラゴンのブルーを引き連れてる事だ。

 ミネルバ曰く――


「最近、『竜の調教ドラゴン・テイム』を習得したから、

 実戦で試してみたいので、良いかしら?」


 との話だったが、ドラガンはすぐには肯定しなかった。

 でもブルーは人語喋るからなぁ~。

 だがミネルバもわりとしつこく食い下がった。

 まあ彼女も竜騎士ドラグーンだからな、その気持ちも分かる。


 ドラガンも結局最後は「いいだろう」と了承したが、

 ニャルララ迷宮につくまではブルーを霊体化して「召喚札」に封印するべきという条件を出した。ミネルバもその条件に対して「了解です」と素直に従ったので、

 オレ達と一緒にブルーを同行させる事が正式に決定した。


 しかしニャルララ迷宮に小竜族ミニマムドラゴンのブルーという組み合わせは、あのマルクスとの激闘が嫌でも思い出されるな。

 今にして思えば、エリス達とゴブリン狩りの帰りにアイラと出会ったことが、

 全ての始まりだった。 もうアレから一年半以上経つんだな。


 そして今回は魔族が知性の実グノシア・フルーツを狙っている模様。

 奴等が知性の実グノシア・フルーツをどうするつもりかは分からないが、

 魔族にだけは渡してはいけない。 


 だからオレ達はそれを防ぐ為に再びニャルララ迷宮へ向かう。

 そして今回の任務がドラガンの最後の戦いになる。


 オレとしてはまだまだドラガンに団長を務めて欲しいが、

 彼自身が引退を決意したんだ、だからオレ達はその決定に従う。

 色々な思いが交錯する中、オレ達はリアーナからニャンドランドへと瞬間移動テレポートした。

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