第252話 オークションへ行こう(後編)


---ラサミス視点---



 夕食後。

 オレ達はドラガンに「とりあえず三人で談話室に来い」と云われたので、

 二階の談話室へ三人で向かった。


 そしてオレは談話室の前で軽くドアをノックした。

 しばらくすると「入っていいぞ」というドラガンの声が聞こえたので、

 オレはゆっくりとドアのノブを捻り、扉を開けた。


 談話室の中はそれなりの広さで、小まめに掃除しているのか、清潔感があった。 

 小さな木のタンスと机。  それと革製の黒ソファが置いてあった。

 ドラガンは机で何かを調べているようだ。

 

「とりあえずそこのソファに座るといい」


「「「はい」」」


 オレ達は云われるまま、黒革のソファに腰掛けた。

 するとドラガンは机の椅子に座ったまま、こちらに視線を向けた。


「ちゃんと貸衣装をレンタルしてきたか?」


「うん、とりあえずオレ達全員分を揃えたよ」


「そうか、ならまずラサミスが欲している盾に相応しい物を見つけた。

 その盾の名前は吸収の盾サクション・シールド。超高級かつ高純度の吸魔石で作られた盾だ。 その名の通り魔力や魔法を吸収する。武具としての価値はAクラス、あるいはSクラスといったところだろ」


「成る程、吸魔石で作られた盾かあ。

 確かにそれなり敵の魔法攻撃も魔力ごと吸収できそうッスね」


「ああ、この吸収の盾サクション・シールドがオークションに出展されるのは、二日後の2月6日だ。 恐らくラサミスの軍資金一千万あれば落札できるだろうが、当日は両替して、金貨と白銀貨を用意しておけ!」


「あ、了解です」


 まあそうだな、銅貨や銀貨じゃ嵩張かさばるからな。

 ちなみにグラン金貨一枚で一万グラン、白銀貨一枚で百万グランの価値がある。

 金貨や白銀貨なら支払う貨幣も少なくて楽だ。


「しかしオマエが吸収の盾サクション・シールドが欲しがってる事をオークション前に他人に悟られないようにしろ!」


「え? どうして?」


 するとドラガンは少し渋い表情で一言漏らした。


「まあ端的に云えば、転売の対象になりかねんのだ」


「え? 何でそうなるの?」


「ん~、オマエにはその自覚はないのかもしれないが、

 今やオマエとライルはリアーナ中の有名人なんだ。

 なにせ兄弟で魔王軍の幹部を倒したんだからな。

 でも良い事ばかりじゃない、オマエが幹部討伐で得た報奨金目当てで

 転売を試みる輩も出てくる、というわけさ」


 え? そうなの?

 いやその実感はまるでない……わけではないかな。

 最近街中を歩いていても、妙に視線を感じるからな。

 でもいざ注目されて見ると、嬉しいという感情より戸惑いの方が強い。


 というか転売目的か!

 要するにオレの報奨金目当てて、ふっかけるつもりか。

 成る程、そういう方面には考えが至らなかったな。


「成る程、情報どうもッス。 オレもカモられるのも面白くないんで、

 その辺気をつけることにします。 エリスとメイリンも頼むぜ」


「うん」「分かってるわよ!」


「それじゃそれ以外のオークションの基本的な知識を教えるぞ。

 だからこれから話す事を真面目に聞くようにな!」


「「「はい!!!」」」



---------


「……以上だ」


 と、ドラガンがオークションにおける一通りのルールを教えてくれた。

 と云っても完全には理解してない、仕方ない。

 ドラガンの話を思い出しながら、頭の中を整理するか。


 まずオークション会場における重要なルールが二つある。


 1.誰かと会話する際に相手の身分を探らない事。

 2.オークション会場では、自分の身分を名乗ってはいけない。


 この二つのルールは絶対に守らないといけないらしい。

 他にも入場の際には、魔力を封じる魔封まふうの腕輪を填められる。

 また暴力、強盗行為は当然御法度。 場合によっては殺されても文句は言えない。

 だがそれさえ守れば、通常では手に入らない品物を入手する事が出来る。

 まあ要するにオークション会場は、云わば治外法権の世界なのだ。


 オークション会場では様々なものが売買される。

 貴重な武具、貴重な魔法スクロールやレアな骨董品、美術品。

 更には大きな声で云えないが、表には出せない奴隷の売買なども行われるらしい。

 まあ奴隷と云っても、買い手に落札された後は、その買い手の家や屋敷で執事やメイドとして働き、表向きは主と従者という雇用形態を取るのが暗黙の了解らしい。



 成る程。

 今まで考えなかったが、貴族の館とかに居る使用人達もそういう訳ありだった可能があるんだな。そう考えると、色々思うところもあるが、オレ個人でどうにかなる問題でもないな。


 肝心なのはオークションにおけるルールだ。

 リアーナのオークションでは、上三桁までの金額で競売きょうばいを行う。

 まず最初に主催者側は最低落札価格を宣言する。

 そうだな、仮に百万グラン(約百万円)の競売品と仮定しよう。

 

 そして右手の人差し指を伸ばしたハンドシグナルで1万アップ。

 右手の人差し指と中指を伸ばしたハンドシグナルで10万アップ。

 右手の人差し指と中指と薬指を伸ばしたハンドシグナルで100万アップ。

 そして右手をグーに握りしめて、頭上にかざすと倍額アップという感じだ。


 また競売品を落札したのに、支払い能力がない場合は、

 最悪の場合、悪質な妨害行為として多額の慰謝料と刑罰を喰らう事もある。


「……って感じでいいンスよね?」


 オレは念の為にドラガンに頭の中を整理してから、

 オークションのルールを再確認するべく、そう問うた。


「うむ、それで問題ないぞ。 なかなか呑み込みが早いな」


「いやオレも本気で吸収の盾サクション・シールドが欲しいッスからね!」


「うむ、今のオマエが使えば、新たな魔王軍の幹部とも十二分に渡りあえそうだな」


「……そうなるかどうかは分かりませんが、極力悔いは残したくないので最善は尽すつもりです」


「そうか、オマエも一人前になったんだな。 これならば……」


 ん? これならば? それどういう意味――


「ねえ、ねえ、団長。 ついでだからアタシ達も参加していいかな。

 とりあえずアタシとエリスは軍資金300万くらい持っていこうと思ってるッス!」


 ややハイテンションにそう云うメイリン。

 というかオマエ等もオークションに参加するのか?


「ん、オマエ等も何か欲しい物でもあるのか?」


「いや特にないけど、せっかく参加するなら何か競り落とすのも

 良い経験になると思うのよ。 大丈夫、こう見えてアタシ達もそこそこ稼いでるから!」


「そうね、メイリンがそうするなら、ワタシもそうしようかな」と、エリス。


「そうか、まあいいんじゃねえ」


「「うん」」


 でも云っちゃなんだが、この二人の場合はまたなんか猫族ニャーマン絡みの商品を

 買いそうなんだよな。 しかもあまり実用性がない骨董品とかを。

 とはいえ自分で稼いだ金だしな。

 それをどう使うかは二人の自由だろう。


「じゃあとりあえず明後日までゆっくりしていろ!」


「「「はい」」」


 まあとりあえずオレはもう一度オークションのルールでも再確認するか。

 それと冒険者ギルドや職業ジョブギルドに顔出して見るのも手だな。

 いずれにせよ、オークションまで二日ある。

 ならその間にやれることはやっておこう、っと!


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