第251話 オークションへ行こう(前編)
---ラサミス視点---
「ねえ、ねえ、ラサミス。 オークション会場へはいつ行くの?」
オレがいつものように
オレの目の前の席に座ったメイリンがそう云ってきた。
「まあ出来れば早く行きたいんだが、ぶっちゃけオレ、オークションの
知識がないんだよな。 なんつーか今までのオレには無縁の世界、
って感じでオークションに関する噂話とかも興味なかったのよ」
「うん、それはアタシも同じ!
でもアンタが言い出しっぺでしょ? その辺はアンタが仕切りなさいよ!」
メイリンが少しプリプリしながら、そう云った。
まあメイリンの云う事も一理ある。
だから明日から色々調べようと思ってたんだよ。
大猫島のあの大決戦後は、戦後処理などで色々大変だったからな。
するとエリスが場を空気を和ませるように、助け船を出してくれた。
「まあまあ、メイリン。 どうせしばらくお休みなんだから、
私は皆で色々調べてから、オークションへ行けばいいと思うな」
「まあ……それもそうね」
と、メイリンも少し態度を軟化させた。
すると傍でオレ達の会話を聞いていたドラガンがやんわりと声で口を挟んできた。
「オマエ等、本気でオークションするつもりなのか?
ラサミス、お前は何か欲しい物でもあるのか?」
「あ、団長。 はい、オレあの女幹部倒して結構な報奨金貰ったでしょ?
だからその金で魔力耐性が強くて、魔法反射する盾が欲しいんスよ!」
「成る程、確かにそれは友好的な金の使い方だ。
分かった、拙者がオマエ等について行ってやろう」
「え? いいんスか?」と、メイリン。
「ああ、但しオークション会場へ入場するには最低限のルールがある。
まずそれなりの貸衣装屋でドレスコートすること!
それとオークション会場へ入場するには入場料十万グラン(約十万円)が必要だ」
「ふむふむ、団長はオークション経験あるんスか?」
ドラガンはオレの問いに「ああ」と頷いた。
「まあ半分冷やかしくらいな感じで、
大金を払ってオークション品を競り落とした事はないが、
一応最低限のルールみたいなのは知ってるぞ」
ほう、流石は
なんだかんだでドラガンって色々知ってるんだよな。
この辺が兄貴でなく、ドラガンが団長を務めている理由の一つだろうな。
「とりあえず明日は貸衣装屋でドレスコート用のスーツやドレスを見て来い。
そしてその間に拙者がラサミスが望む物がオークションに出展されるか、調べておこう。 後、入場料十万グラン(約十万円)は個人個人で払う事。入場料が惜しいと思う者は事前に辞退しろ! オークションは遊びじゃないからな」
するとマリベーレが恐る恐る右手を上げた。
「は、はい。 なんか色々ルールが大変そうだから、あたしは辞退します」
「うむ、それも良かろう。 只の付き合いで十万払うのは勿体ないからな。
エリスとメイリンはどうする?」
「私は行きますわ。 オークションにも興味ありますので!」
「あたしもッス! 前々から興味あったんスよ!」
「そうか、なら当日は目一杯ドレスアップするんだな!」
「「はい!!」」
「うむ、でラサミスはどれくらい軍資金を持って行くつもりだ?」
そうだな、ここはケチるところじゃないな。
ここはドーンと一千万くらい持って行くかな。
って最近のオレって結構金遣い荒い?
でもまあいいや、銀行に大金残して戦死するよりはいいだろう。
「とりあえず一千万くらい持って行こうと思います」
「ほう、成る程。 オマエも本気と云うわけか。
分かった、拙者も少し本気でオマエが望む品を探してみるよ」
「あざっス!」
「うむ、じゃあ明日は商業区の貸衣装屋でドレスコート用の礼服とドレスを見繕って来い!」
「「はい!!」」「了解ッス!」
---------
翌日の正午過ぎ。
オレとエリス、メイリンの三人は
リアーナの商業区に向かい、貸衣装屋を探した。
とりあえず何軒か見てから、値段的にもリーズナブルなオルテール商会で
オークション用の礼服とドレスを見繕ってもらった。
「では寸法を測るので、こちらの礼服を試着してください」
「あ、はい」
オレは店員に云われるまま、最高級に仕立てられた黒い礼服に袖を通した。
うん、手足の長さ共にぴったしだ。
それと肌を擦る礼服の裏地が妙に心地よい。
こりゃかなり上質の生地が使われてるな。
それからオレは鏡の前で、オレの特徴の一つである銀色の髪の手入れをする。
長すぎず、短すぎずといった程よい長さの髪を櫛で丁寧に整える。
櫛である程度髪型を整えてから、両手の指で細かい部分を修正する。
「……こんなものでいいかな?」
鏡の前から振り返り、オレは店員にそう尋ねた。すると二十半ばぐらいのヒューマンの男性店員が「おお」とやや大袈裟な声を上げた。
「とても良くお似合いですよ。 なんならレンタルでなく、購入する事もお薦めします」
と、さりげなく購入を勧める男性店員。
まあこう云われると悪い気はしないけどな。
でもどうせ直に着る機会は少ないからな。 だから買う気にはなれない。
「有り難う、で一日のレンタル料はいくらだい?」
「……はい、5万グラン(約5万円)となっております」
……5万か。
まあそれなら大して痛くもない出費だ。
ってオレの金銭感覚も随分と壊れてきたな。
まあでも自分で稼いだ金だ、だから問題なかろう。
「了解、なら先払いで払うよ。 はい、5万グラン」
オレはそう云ってグラン金貨五枚を店員に手渡した。
すると店員は営業スマイルで「ありがとうございます!」と告げた。
「あ~、ちょっと連れの様子を見て来たいから、このまま行っていいかな?」
「勿論構いませんが、くれぐれもお汚しにならないように」
「……はい」
そしてオレは貸衣装屋の婦人服コーナーへ移動した。
すると妙齢のご婦人方が派手なドレスを着飾って店員相手に談笑していた。
……なんかこういう場所に来ると落ち着かない気分になるな。
「あ、ラサミス! ねえ、ねえ、見て見て!」
と、黒い絹のドレスに装飾品を身に着けたエリスが姿を現せた。
髪もアップにしており、普段より大人びていた雰囲気を醸し出していたが、本人は少し恥ずかしそうであった。
「……どう似合うかな?」
と、上目遣いでこちらを見るエリス。
……こうして改めて見ると、この幼馴染は紛うことなき美少女だと再認識させられた。
「ね、ねえ。 何か云ってよ?」
「あ、ああ……とても似合ってるぞ。 普段以上に可愛いぞ」
「……そう、有り難う」
エリスはそう云って頬を赤らめた。
なんというか悪くない、というか良い雰囲気だ。
だがその雰囲気ももう一人の美少女が現れた事で一変した。
「コラァッ! そこ、公共の場でいちゃつかないの!!」
するとそこにはエリス同様、ドレスアップしたメイリンが立っていた。
メイリンは両肩が出た光沢感のある黒ドレスを着ており、
スカート部分には、スリットが入っていた。
髪もエリスと同じようにアップにしており、普段より随分と大人っぽく見えた。
「悪い、悪い。 というかメイリン、お前も似合ってるぞ!」
「そう? まあ元が良いからね!」
と、どや顔でそう返すメイリン。
相変わらず自信満々だ、コイツのこういうところ嫌いじゃない。
しかしアレだな、エリスに比べると胸元の自己主張が随分謙虚だな。
というかコレ、気をつけないといけないんじゃね?
「なあ、メイリン。 自信満々のところ悪いが、
その凄く謙虚な胸元にもう少し自己主張させてやれよ。
というか端的に云うぞ、パットを詰めた方がいいぞ!」
するとメイリンは「なっ」と言葉を一瞬詰まらせたが、
見る見るうちに顔を紅潮させた。
「あ、アンタ……それは超ど直球のセクハラ発言よ!?
レディーに向かってそんな事云うなんて見損なったわ!」
まあ云わんとする事は分かる。
でもオレの云いたいことはそう云う事じゃない。
ぶっちゃければ、貧乳の女性が胸元の採寸が合わない服を着たとき、
身を屈めたりすると、結構危険なのだ。 ……色々とな。
するとエリスはそれを察したように「あ!」と云って、
メイリンの傍に寄って、耳元で何やら囁いた。
すると興奮気味だったメイリンも少し落ち着いた。
そしてこちらを見ながら――
「ああ……そういう事ね。 それは有り難いご忠告だわ。
正直その辺の配慮はなかったわ。 でももうちょい優しい云い方もあるんじゃない?」
メイリンは胸元で両腕を組みながら、チラチラとこちらを見る。
するとエリスがこちらを見て、「まあまあ」と云ってメイリンをあやした。
しゃあねえな、ここは一言謝っておくか。
「そうだな、少し無神経な云い方だったな。 ……悪かったよ」
「……まあいいわ、今回は許してあげるわ」
メイリンはそう云って、怒りの矛を収めた。
そしてエリスとメイリンも貸衣装代を前金で払った。
んじゃこれで衣装の方はなんとかなるな。
とりあえず
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