第253話 オークション会場


---ラサミス視点---


 2月6日。

 オレ、ドラガン、エリス、メイリンの四人は礼服とドレスを着て、

 リアーナの娯楽区にあるオークション会場にやってきた。

 ドラガンは黒い礼服に赤の蝶ネクタイという格好だ。

 なかなか様になっているというか結構可愛い。

 ま、口に出したら怒られるから云わないけどね。

 

 オークション会場は金箔と大理石で彩られた大きな建物だった。

 遠目からは観た事はあったが、こう間近で観るのは初めてだ。

 なんというか金持ち以外はお呼びじゃない。

 という雰囲気が建物からもその周囲で警備する警備員から漂っていた。


 しかし今日は正装もしてるし、資金もたっぷりと用意してきた。

 だから怖じけず堂々と正門から入ろう。

 と、意気込んだが――


「はい、今からボディチェックを始めます。

 くれぐれも変な動きや真似はしないように!」


 と、屈強な身体をした警備員達に体中をまさぐられた。

 ちなみにエリス達は屈強な女性警備委員に同様の真似をされていた。

 そして入念なボディチェックが終わり、

 各自、魔力を封じる魔封まふう効果のある腕輪を填められた。


 まあ少々入場条件が厳しいが、強盗やテロの類いが起こさない為の処置だから、

 この場は素直に従うしかない。 それがオークションのルールの一つだからな。

 そしてオレ達は入場料十万グラン(約十万円)を支払って、会場内に入った。


 会場内も外装同様に金箔と大理石で造られており、

 床に敷かれた赤い絨毯が近くの扉や階段へと延びていた。

 所々に礼服を着た男性従業員、同様に礼服を着た女性従業員。

 中にはバニーガール姿の女性従業員の姿もちらほら見えた。


「へえ、流石オークション会場って感じだな。

 こうして直に観るとやはり圧倒されるな」


「うん、うん、でもワタシ、こういう雰囲気結構好きよ」


 と、エリス。


「ウン、高い入場料取るだけの事はあるわね!」


 メイリンがそう相槌を打った。

 

「オマエ等、あんまりジロジロ周囲を観るな。

 おのぼりさんと思われるぞ?」


 ドラガンがやや苦笑しながらそう云う。

 まあ彼の云うことも分かるが、やはりこういう高級な雰囲気の場所に

 来ると自然とテンションが上がってきてしまうぜ。


「まあ、まあ、団長。 どうせ早々来る場所じゃないんだから、

 今日ぐらい羽目を外しても問題ないっしょ?」


 だがドラガンはオレの言葉を聞くなり、

 近くに寄って来て、オレの耳元でこう囁いた。


「周囲をよく見てみろ? 他の参加者から注目されているぞ。

 まあこの場合は主にオマエ――ラサミスがな」


「え?」


 オレはドラガンに云われて、軽く周囲を見回してみた。

 すると確かに周囲の参加者達の視線が主にオレの方に向いていた。

 なかには露骨に聞こえる声で――


「アレがカーマイン兄弟の弟かァ?

 まだガキじゃねえか、あんなのが本当に強いのかぁ~?」


「ふうん、まだ坊やじゃないの!」


「いやアイツ、昨年末の無差別級フィスティング大会の準優勝者だぜ?

 ああ見えて格闘戦のセンスはかなりのものだ」


 みたいな囁き声が周囲から聞こえてくる。

 ……どうやら本当にオレは注目されてるようだな。

 なんか嬉しいというより、やりにくい、更に端的に云えば面倒臭い。

 などと思っていると、正面の方向から知った顔が見えた。


「お! ラサミスくんじゃないの!?

 こんな所で会うなんて奇遇ね!」


 オレをそう呼ぶのは連合ユニオン「ヴァンキッシュ」の錬金術師の女竜人クロエだ。その見事なプラチナシルバーの髪をアップにしており、両肩の出た胸元が大きく開いた黒ドレスに黒のパンプスという格好。そして彼女の両隣に見覚えのある女性のエルフと栗色髪のヒューマンの少女が立っていた。


「ラサミス? じゃあこの子が噂の『吸血鬼殺しヴァンパイア』なの?」


 と、20半ばくらいの女性のエルフがこちらを指差してそう云った。

 ……。 『吸血鬼殺しヴァンパイア』かあ。

 こうして直に云われてみると、なんか微妙に背中がむずかゆくなるな。


「そうよ、こう見えてかなりの使い手よ。

 あの女吸血鬼をぶっ倒した格闘コンボは凄かったよ!」


 クロエがこちらを見ながら、ごく自然な口調でそう云った。

 するとクロエの左隣に立つ栗色髪を右側に結ったヒューマンの少女がじーとこちらを見た。


「な、何スか!?」


「よく見ると結構イケメンね。 ねえ、キミ! 

 アタシは「ヴァンキッシュ」の聖なる弓使いホーリーアーチャーのカリンよ。良かったら兄弟揃って、ウチに移籍しない? 今なら厚遇するわよ!」


 と、カリンと名乗ったヒューマンの少女がストレートにそう云った。


「何? この子、カリンのタイプなの?

 でも年齢的には確かにお似合いよね」


 と、クロエの右隣に立つやや内側にカールした金髪の女エルフがこちらをじっと見ていた。なんというか露骨に品定めされている感じがするなぁ。

 というか何気にオレと兄貴がスカウトされてるのか?

 まあ移籍する気はさらさらねえが、こういう云われると悪い気はしねえな。


「いやオレは現状で満足してるから、何処へも移籍する気はないよ」


「あら、残念。 カリン、アナタ振られたわよ?」


 と、銀髪の女エルフ。


「むう~、アーリア。 嫌な云い方しないでよ!」


 そう云ってカリンは少し頬を膨らませた。


「というかラサミスくん、なんでオークション会場に来たの?

 何か欲しいものでもあるの?」


「あ、クロエさん。 まああるからわざわざこうして来てるんじゃないですか」


「それもそうね。 というかウチの女共、五月蠅いよね? ごめんねえ~」


「ん! という事はラサミス君、君それなりに軍資金を持って来たのね!」


 途端に獲物を見るような視線でこちらの様子を伺うカリン。

 するとアーリアと呼ばれた金髪の女エルフもこちらを見て微笑を浮かべた。


「キミ、確か敵の幹部を倒して結構な報奨金を手にしたらしいわね。

 へえ、となると最低でも500万~1000万は持ってきていそうね」


 ぎくっ!?

 鋭いな、こちらの懐事情を一瞬で当てるとは流石は最強の連合ユニオンの団員だ。


「ねえ、ねえ、何が欲しいの? 云ってみなさいよ~。

 仮にオークションで買えなくても、ウチ等「ヴァンキッシュ」の秘蔵のお宝を

 特別に売ってあげてもいいわよ?」


 と、カリンが少しこちらに近づいて甘ったるい声でそう云った。

 なんかこの子、見かけによらずぐいぐい来るよな。

 でも正直悪い気分はしないが、我が連合ユニオンのお嬢様方は――


「……」


「……何よ、デレデレしちゃって」


 ほらな? エリスとメイリンが見事なまでに不機嫌だ。

 アハハハ、世の中そう簡単にいかねえよな。

 誰からにも無条件に好かれるなんてのは物語の中だけさ!

 でも「ヴァンキッシュ」の秘蔵のお宝は少し気になるな。

 ならばここは念の為に保険をうっておくか。


「へえ、「ヴァンキッシュ」の秘蔵のお宝かぁ~。なんか凄そうだね。 じゃあ欲しい物を競り落とせなかったら、お世話になるかな?」


「お? いいねえ、その抜け目がないところは流石ね。

 じゃあ今度ウチの拠点ホームに遊びに来なさいよ?

 色々と融通させてあげるわよ?」


 カリンが良い笑顔でそう云う。

 なんだ、この子? 狙ってやってるのか、天然なのか?

 いまいちそのキャラが掴めないな。

 するとドラガンがわざとらしく「コホン」と咳払いした。


「お話が盛り上がってるところ申し訳ないが、

 我々もそろそろ会場内に向かうので、この場は失礼させて頂きます。

 ラサミス、エリス、メイリン、行くぞ!」


「はい!」「「……はい」」


「じゃあね、ラサミス君!」


「また会おうね~」


 クロエとカリンがそう云うから、オレも軽く手を振り替えした。

 そして扉の前で再度ボディチェックを受けてオークション会場に入った。

 会場内は少し薄暗い歌劇場オペラハウスのような雰囲気で、

 会場の中央に展示品置き場が設けられているという構造だ。


 展示品置き場の周囲には客席が設けられており、

 部屋の隅にはちょっとしたバーカウンターもあり、なかなかお洒落な感じだ。


「とりあえず適当な席に座るぞ」


「「「はい」」」


 オレ達はドラガンに云われるまま、近くの席に座った。

 すると「ヴァンキッシュ」の三人娘?も「やっほー」と云いながら、

 オレ達の近くの席に座った。 な、なんかやりずれえな。

 などと思っていたら、展示品置き場に向けて、ライトが放たれた。

 すると展示品置き場の中央に立ったヒューマンの男が一礼してから、

 会場の客席の観客に向かって、声高らかに叫んだ。



「ご来場の皆様、本日はご来場賜りまして誠に光栄でございます。

 本オークションでは、皆様を納得させる多数の品揃えております。

 是非ともふるってご参加ください!」


 すると会場のライトが消えて、展示品置き場の中央部分にだけライトが照らされた。


「それでは、ただいまよりオークションを開催いたします。

 最初の商品は万能薬エリクサーの詰め合わせセットでございます!」


 いよいよ、オークションが始まったぜ。

 とりあえずまずはこの空気に慣れておく必要があるな。

 オレはそう思いながら、会場に目を配りながら来たるべき時に向けて集中力を高めた。


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