第四十章 大猫島(おおねこじま)の大海戦(だいかいせん)

第227話 第二次大猫島海戦(前編)


---三人称視点---



 1月18日。

 ラサミス達を乗せた猫族ニャーマンガレアス・ブラックサーベル号がクルレーベの沖合に到着。すると猫族海軍ニャーマンかいぐんの総司令官ジェフリー・アンクロッソン提督はブラックサーベル号をはじめとする海賊艦隊に停船命令を出した。それに対して猫族海賊ニャーマン・パイレーツや竜人海賊の海賊艦隊かいぞくかんたいは停船命令に素直に従った。


 一方、猫族海軍ニャーマンかいぐんの警備艦隊三隻が隊列を組んで、海賊艦隊の真正面で待機する。それからしばらくクルレーベの沖合で緊張感のある無言の睨み合いが続いた。しかし海賊艦隊に不審な点や動きがなかったので、アンクロッソン提督は警備艦隊から木造の小型船を出して、ブラックサーベル号に着艦させた。


 それからお互い小芝居じみた駆け引きして、最低限の妥協点をなんとか見つけ出した。そして何度か交渉を重ねた末、アンクロッソン提督はブラックサーベル号及び猫族海賊ニャーマン・パイレーツの海賊船をクルレーベの船着き場に停泊させる事を許可した。


 それからガラバーンをはじめとした海賊達と猫族海軍ニャーマンかいぐんの総旗艦顔ニャローシップ号の客室で顔を合わせた。

 ラサミス達はその場に同席を許されず、同席したのはマリウス王子とレビン団長、ケビン副団長の三名であった。

 アンクロッソン提督は最初こそ高圧な態度を取っていたが、ガラバーンはあくまで冷静に話し合いに応じた。


 するとアンクロッソン提督も態度を軟化させて、猫族海賊ニャーマン・パイレーツ側の要求をいくつか受け入れた。

 アンクロッソン提督が受け入れた要求は――


 

 1.猫族海賊ニャーマン・パイレーツが連合軍に加勢した際に彼等に『私拿捕しだほ特許状』を与える。

 2.猫族海賊ニャーマン・パイレーツが連合軍に加勢して今度の戦いに勝利した際には、一億グラン(約一億円)の報奨金を出す。

  また猫族海賊ニャーマン・パイレーツが連合軍に加勢した時点で、勝敗を問わず5000万グランを支払う。


 この二点においてはアンクロッソン提督も快く受け入れた。

 だがそれ以降の条件――


 この戦いに勝利した際に、猫族ニャーマンが所有する最新鋭の戦闘型ガレオン船を猫族海賊ニャーマン・パイレーツに一隻を寄贈する件には難色を示した。

 しかしこの件に関しては、ガラバーンも無理に要求する事もなかった。

 当然、その後の【セントライダー海賊共和国かいぞくきょうわこく】の建国に関しては、この場では話題に上げなかった。


 前者もそうだが、後者に関しては今話題にしてもこの場が混乱するだけだ。

 とガラバーンが思ったかは分からないが、とりあえずアンクロッソン提督も上記の二点に関しては――


猫族海軍ニャーマンかいぐんの誇りに掛けて、その二点の約束は必ず守る」


 と、明言したことにより、猫族海賊ニャーマン・パイレーツ側も連合軍に正式に加勢する事となった。

 

 

 そして翌日の1月19日。

 猫族海軍ニャーマンかいぐん、ヒューマン海軍、竜人族の武装商船団の団長、猫族海賊ニャーマン・パイレーツ、竜人海賊の頭目達が顔合わせて、次なる戦いに向けて作戦会議を行った。

 その結果、猫族海軍ニャーマンかいぐんは戦闘型ガレオン船五隻、キャラック船三隻、ヒューマン海軍は戦闘型ガレオン船一隻、ガレー船六隻、

 竜人族の武装商船団はキャラック船四隻、猫族海賊ニャーマン・パイレーツ猫族ニャーマンガレアス三隻、猫族ニャーマンガレー八隻、

 そして竜人海賊はガレアス船一隻、ガレー船六隻の合計三十七隻の大艦隊を持って、大猫島に攻め込む事となった。


 だが敵――魔王軍側にも艦隊戦力が存在する事は、前回の戦いで分かっている。

 前回の戦いでの敵側の艦隊戦力は二十隻前後であった。

 今回の戦いでも同数、あるいはそれ以上の艦隊戦力があると思われる。


 それを主だって迎え討つのが猫族海賊ニャーマン・パイレーツと竜人海賊の艦隊である。彼等が敵艦隊を食い止めている間に、猫族海軍ニャーマンかいぐん、ヒューマン海軍の軍艦が大猫島に着岸して、上陸部隊を上陸させて、大猫島を奪還するというのが、この戦いの主目的である。

 

 ラサミス達『暁の大地』、山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士達は猫族ニャーマンガレアス・ブラックサーベル号に乗船して、

 敵の攻撃を食い止め、艦隊決戦、あるいは艦隊同士の白兵戦に持っていくのが彼等の任務となる。


 今回も敗戦するようだと、今後の戦いに大きな影響を及ぼすのは明白だ。

 故に負けが許されない戦いだ。

 しかしそれは敵――魔王軍も同じだ。


 だからこそ勝つ為にはあらゆる布石を打つ必要がある。

 自尊心の高い連合軍艦隊の提督達が海賊の助力を請うたのも全ては勝つ為である。

 そしてラサミス達に与えられ任務は重要だ。


 敵の艦隊と交戦し、無力化するのが最善の策だが、海の戦いでは向こうに分がある。なので当面の目的は連合軍の上陸部隊が大猫島に上陸するまで、敵を食い止めれたら作戦は成功である。一つのミスが敗因になる危険性がある重要任務だ。

 しかしそれはこの海戦に挑む提督、兵士達も同じである。


 連合軍側の総戦力は艦隊三十七隻、戦闘型ガレオン船六隻、ガレアス船四隻、ガレー船二十隻、キャラック船七隻。

 総兵数はおよそ11500名以上、それに加えて200名の竜騎士団の竜騎士ドラグーンが制空権を得るべく、敵の飛行部隊と交戦する。

 これ程の大戦力を投入するからには、何としても大猫島を奪還しなくてはならない。


 そして軍上層部による作戦会議が終わり、二日後の1月21日。

 猫族ニャーマン領の港クルレーベから多数の軍艦、海賊船が出航して、国旗を翻して、北ニャンドランド海へ向かった。

 すると大猫島からダークエルフ海賊が陣頭指揮を執った海賊艦隊が集結して大猫島の南湾岸にさっそうと現れた。

 北ニャンドランド海の大猫島の南湾岸で四大種族連合艦隊と魔王軍の飛行部隊、

 そして魔王軍に加勢するダークエルフ海賊艦隊による激しい戦いが繰り広げられようとしていた。

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