第226話 猫族海賊(ニャーマン・パイレーツ)・(後編)
---ラサミス視点---
「うお、これは凄い」
オレは眼前に見える大きな船を見上げながら、思わずそう口にした。
するとエリス達も同様に驚きの声を上げた。
「とてもカッコいい船ですわね」
「これってガレー船よね?」
「そうね、でもかなり大きいわね」
メイリンがそう言うと、ミネルバがそう返した。
「うむ、これはガレー船というより、ガレアス船だな」
「その通りです、ドラガン殿」
「あ、キャプテン・ガラバーン。 どうもです」と、ドラガン。
「いえいえ気になさらずに! 貴方達もこのガレアス船――またの名を
そう言いながら、
そう、彼が云ったように、次の戦いではオレ達はキャプテン・ガラバーンの船に乗る事となった。
ちなみオレ達『暁の大地』だけでなく、マリウス王子、それと
また竜人族の族長アルガスと傭兵隊長アイザックは
さっきの会議の後、アルガスがガラバーンに向かって――
「ところでこの海賊島には、
と、申し出たのでガラバーンが間に入って、アルガスと竜人海賊を引き合わせた模様。その結果、竜人海賊も連合軍に加勢する事となった。
まあ戦力が増える事自体は歓迎すべき事だが、あの爺さんの事だ。
裏で色々と根回ししてそうだな。 まあそれは今気にしてもしょうがない。
それはさておき、このガレアス船――
帆は前マストに四角帆、後ろ二本には三角帆を張っており、前部と後部に
そして黒い
可愛らしい猫を丸で囲んで十字紋が記された黒い
しかしこれだけ巨大な船を人力で漕ぐのはキツそうだな。
などと思っていると、ガラバーンが
「全長60M(メーレル)、最高速度10.5ノット、最大乗組員500名。
大砲20門、32本を超える多数のオール一つ一つに漕ぎ手が5名以上居ます。
これが
「おお~」
と、この場に居るほぼ全員が感嘆の声を上げた。
いや細かいスペックを言われても、正直ピンとこないけどね。
でもなんというか見ただけで凄いと分かる戦闘船だ。
「では『暁の大地』の方々、それとマリウス王子、
オレ達はガラバーンに言われるまま、
外からだけでなく、中から見ても大きな船だ。
というかこんなに大きな船だから、迷子にならないようにしないとな。
「それではワタシが軽く船内を案内しますので、ついて来てください」
「はい」
オレ達はそう大きな声で返事して、ガラバーンの後について行った。
---三人称視点---
ラサミス達はキャプテン・ガラバーンに案内されてブラックサーベル号の内部を一通り見終えた。中でも圧巻だったのは、ガレー船の象徴とでも言うべき両舷に備え付けられた
また船に様々な仕掛け(ギミック)が仕込まれていた。
標的となる船への乗り込みを可能にする固定杭付の跳ね橋をはじめ、遠方の敵船の狙う為に設置された弩や投石器、船ごと転覆を狙う突撃船首などもある。
船の奥底では五、六人で一組になり、それぞれ横一列に並び、一つの大きな
それらの横一列の席が 幾つもあり、彼等はひたすら櫂を漕ぐ。
櫂を漕ぐ手段は大まかに分けて、二種類ある。
一つは単純に人力で漕ぐという方法。
もう一つは風魔法を使って櫂を漕ぐという方法だ。
そしてこの
人力で漕ぐのはヒューマンや竜人族、エルフ族の海賊や水夫が担当して、
彼等が疲れてきたら、
通常時は人力で漕ぐ方法を優先するが、戦闘時は魔法で櫂を漕いだ方が速度が出るので、甲板上の
このようにこの世界の船乗り達は、人力と魔法を上手く使って船を操縦している。
船の中を一通り見たラサミス達は、ガラバーンに案内されて船の甲板上に出た。
するとガラバーンは耳錠のような物体をラサミス達に見せてこう言った。
「この耳錠は魔道具の『イヤリング・デバイス』です。
この『イヤリング・デバイス』は装備者の位置情報の把握に加え、他者と
そう言ってガラバーンは『イヤリング・デバイス』をドラガン、マリウス王子、レビン団長に手渡した。
そして更に銀色の携帯石版をドラガン達に手渡した。
「成る程、これならば確かに海上でも意思の疎通が出来ますね」
ドラガンが感心したようにそう言う。
「そうだニャン。 これは便利だニャン」
と、暢気な声でそう言うマリウス王子。
「ええ、しかし人数分用意するとなると、結構費用がかさばりますね」
レビン団長が少し渋い表情でそう言った。
するとガラバーンは右手を左右に振ってこう言った。
「いえ我々はいつもこの『イヤリング・デバイス』を使って航海してますから、
ちゃんと人数分あります。 基本的に無料でお貸ししますが、故障、破損した場合は
弁償してもらうことになりますので、予めご了承ください」
故障、破損した際に弁償させるところはちゃっかり――しっかりしている。
とはいえドラガン達としても、拒むという選択肢は選べない。
なのでこの場はガラバーンの提案を素直に受け入れた。
そしてラサミス達は自分の右耳に『イヤリング・デバイス』を装着して、他の者と交信できるか試してみた。
すると全員分、問題なく交信できた。 その姿を見てガラバーンは「うむ」と満足そうに頷いた。
「ではマリウス王子は客室で待機してください。
『暁の大地』と
基本的に視界に入った敵を迎撃しながら、船や帆を護ってください。
それでは今よりブラックサーベル号を出発させます。
――
ガラバーンは右手に持った銀色の携帯石版に向かってそう叫んだ。
すると錨アンカーがあがってしまうと、ブラックサーベル号はゆっくりと動き出した。甲板上では
そして船の奥底では、漕ぎ手達が呼吸を合わせて、櫂を漕いだ。
するとブラックサーベル号が大海原へと乗り出した。
「うおおぉ、想像していた以上に速いぜ!」
ラサミスが興奮気味にそう言った。
「ああ、だが皆、船酔いには気をつけろよ。 不安がある奴は酔い止め薬を飲んでおけ」
「ライル兄様、いざとなれば私が解毒魔法をかけますわ」と、エリス。
「だが船酔いの度に解毒魔法を一々かけるのも面倒だ。
とりあえず航海に慣れるまで、各自、自分の体調管理は怠るな!」
「「「「了解」」」」 「「「はい」」」
ドラガンの言葉にラサミス達は声を揃えて返事をした。
すると櫓を漕ぐ速度が一段と増してきて、船の速度がまた上がった。
それと同時に船の奥底、あるいは船室、また甲板上からとある歌が聞こえてきた。
おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
今日も櫂を漕ぐ水夫 今日も漕ぐ、昨日も漕いだ、明日もきっと櫂を漕いでるだろう!
お宝探し求めて、海賊になったが、
それでも胸の内では大きな夢を抱いている。 でも知ってる、それは叶わない妄想。
それでもおれたちゃ海賊しかできない、だから昨日も今日も明日も海賊船で大海原をかける!
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
おれたちゃ海賊、おれたちゃ
気が付けば、周囲の
単純なメロディーだが、妙に耳元に残る歌だった。
気が付けばエリス、メイリン、マリベーレも周囲に釣られて、歌い出した。
そしてブラックサーベル号を先頭にして、他の海賊船、
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