第225話 猫族海賊(ニャーマン・パイレーツ)・(前編)


---ラサミス視点---



 オレ達は言われた通り、武装解除して目の前の黒いログハウスの中に入った。

 ログハウスの中は必要最低限の調度品しか置いてないが、そのセンスは良い。

 シックな外観に合わせるように、内装もシックな雰囲気を漂わせていた。


 そしてキジトラ猫族ニャーマンの案内に従って、後をついて行く。

 すると大広間のような部屋に通されて、


「――ここで待っていろ!」


 と、言われたので部屋に中央に配置された長テーブルの前の木製の椅子に腰掛けた。長テーブルの左側にドラガン、兄貴、オレ、ミネルバ、族長アルガス、アイザックが陣取り、猫族ニャーマンの大臣、マリウス王子、レビン団長、ケビン副団長が右側の椅子に座る。

 

 それから五分ほど待たされた。

 すると左右にお供の猫族ニャーマンを引き連れた海賊コート姿の猫族ニャーマンが颯爽と現れた。

 体長は70セレチ(約70センチ)くらいか?

 左目に黒い眼帯アイパッチをつけており、品種は……多分、黒灰色のハイランダーだろう。



 頭には漆黒の海賊帽、上半身に白いシャツの上にふちが銀色な黒いロングコートを羽織り、下半身は黒いズボンに、茶色の革ブーツというスタイル。

 そして腰の剣帯に曲剣カトラスをぶら下げていた。


 それから海賊コート姿の猫族ニャーマンはテーブルの上座に腰掛けた。

 するとお供のキジトラ猫はその左隣に、サバトラの白猫は右隣に腰掛ける。


 自然とこの場に独特の緊張感が走り、最初はしばしの沈黙があったが、

 海賊コート姿の黒灰色のハイランダー猫族ニャーマンがゆっくりとした口調で語り出した。


「皆様、ワタシが猫族海賊ニャーマン・パイレーツのキャプテン・ガラバーンです。ガラバーン、あるいはガラと呼んでください。 それはさておき早速本題に入りましょうか!」


 キャプテン・ガラバーンはそこで言葉を切り、ゆっくりとした視線で室内を見渡した。なんというか思っていたより、穏やかな雰囲気を漂わせている。

 だがそれでいて身体から強者特有の強者つわものオーラを発していた。


「まず猫族ニャーマンの方々から頂いた親書について語ろうかと思います。

 其の一の項目である我々、猫族海賊ニャーマン・パイレーツが連合軍に加勢すれば、『私拿捕しだほ特許状』を頂けるという話は事実ですか?」


 成る程、まず第一条件がそれなのは頷ける。

 猫族海賊ニャーマン・パイレーツは義賊的な様子が強く大衆の評判も良いが、海賊行為自体は犯罪である。

 だから猫族ニャーマン政府から『私拿捕特許状』を貰えるなら、それを拒む理由はない。


「ええ、それに関しては我が猫族ニャーマンの誇りにかけて保障します」

 

 と、猫族ニャーマンの大臣が毅然とした口調で答えた。

 だがキャプテン・ガラバーンはさも当然といった表情で言葉を続けた。


「了解しました。 では次の項目に移ります。其の二の項目――連合軍に加勢して魔王軍に勝利した際には、一億グラン(約一億円)の報奨金を出す、というのも本当ですかな?」


 一億グラン(約一億円)かぁ。

 この金額が低いのか、高いのかは現時点では判断がつかないな。

 しかし金で釣るというアイデア自体は良いと思う。


「ええ、それに関しても我々、猫族ニャーマン政府が保障致します」


 と、大臣。

 するとガラバーンは「うむ」と小さく頷いて、こう付け加えた。


「だがこの項目には敗戦した時の保障については書かれていません。

 なので我々が連合軍に加勢した時点で、勝敗を問わず5000万グランを払っていただきたい」


「……それは私の一存では決めかねます」と、大臣。


「いや大臣、それは王族であるボクが保障するニャン。

 なんならその書状に一筆書いてもいいだニャン」


 マリウス王子が口を濁す大臣の代わりにそう言った。

 するとガラバーンは顎に右手を当てて、「そうですか」と答えた。

 まあこの辺は猫族ニャーマンの問題だからな。

 オレが口を挟む問題じゃない。

 しかしガラバーンの要求はそれで終わらなかった。


「ではもう一つ約束していただきたい」


「ウニャ? 何かニャ?」と、マリウス王子。


「この戦いに勝利した暁には猫族ニャーマンが所有する最新鋭の戦闘型ガレオン船を我々に一隻進呈していただきたい」


 なっ、さ、流石にそれは無茶な要求じゃね?

 そう思ったのはオレだけじゃなかった。


「最新鋭の戦闘型ガレオン船!? いくらなんでもそれは無理だ!」


「ええ、それに我が猫族ニャーマンの軍事機密に関わる問題です」


「……流石にこの条件は呑めませんな」


 大臣の言葉に追従するレビン団長とケビン副団長。

 まったくだ。 いくら何でもこの要求は厚かましすぎる。

 と、思った矢先、マリウス王子がガラバーンの要求に応じた。


「ボクはこの条件でも良いと思ってるだニャン」


「しかし殿下、こんな要求を呑む必要はありません」


 大臣がやや興奮しながら、そう言った。

 だがマリウス王子は落ち着いた口調で返答した。


「だが今回の戦いは猫族海賊ニャーマン・パイレーツの協力なしでは成り立たないだニャン。前回の海戦で猫族海軍ニャーマンかいぐんは三隻も戦闘型ガレオン船を撃沈されたニャン。ならばここで猫族海賊ニャーマン・パイレーツに進呈してもいいと思うニャン。とはいえ流石にそう簡単にあげるわけにもいかないニャン。 だからこの条件は戦いに勝った時のみでいいかニャン?」


「ええ、元よりそのつもりです」と、返すキャプテン・ガラバーン。


「ですが殿下――」


「大臣、黙るだニャン! これは第二王子としての命令だニャン!」


「……分かりました」


 するとマリウス王子はガラバーンを見据えながら、笑顔を浮かべて言った。


「……という訳だニャン。 条件はこれぐらいでいいかニャ?」


「……まだもう一つ条件、というかお願いがあります」と、ガラバーン。


「え? まだあるの?」と、マリウス王子。


 おい、おい、おい、これ以上の要求は流石に呑むべきじゃねえだろう。

 とはいえオレが口を挟める空気じゃない。

 というかこの件に関しては、竜人族の代表であるアルガスも押し黙っている。


 同様にお人好し――お猫良しのマリウス王子も口をつぐんで、ガラバーンの言葉を待った。そしてガラバーンはオレ達が想像もしなかった事を言い始めた。


「この戦いで勝利を収めた暁には、このセントライダー島に【セントライダー海賊共和国かいぞくきょうわこく】を建国したいと思ってますので、猫族ニャーマン政府には、【セントライダー海賊共和国】を独立国として認めて頂きたい!」


「「「「「セントライダー海賊共和国かいぞくきょうわこくッ!?」」」」」


 な、何言ってるだ、コイツ!?

 そう思ったのはオレだけではなかった。

 大臣、マリウス王子、レビン団長、そしてドラガンと兄貴も目を丸くしていた。


 なんだ、それ?

 つまり海賊を主体とした国家の建国を目指しているというのか?

 そう思ったのは、オレだけではなかったようだ。


「……海賊共和国かいぞくきょうわこく? 

 つまり貴方方あなたがた、海賊が主体となって国家を統治するということですか?」


 猫族ニャーマンの大臣が怪訝な表情でそう問うた。


「ええ、そのつもりです」


 と、真顔で返すガラバーン。


「……流石にそれを無条件で認めることは出来ないニャン!」


「マリウス王子の仰るとおりです。 いくら何でもその要求は無茶だ!」


 レビン団長は珍しく興奮しながらそう言った。

 左隣に座るケビン副団長も「全くです」と相槌を打つ。

 まあ当たり前だよな。


 というか猫族海賊ニャーマン・パイレーツの連中、少し調子に乗っている?

 だが動じた素振りも見せず、ガラバーン言葉を返した。


「勿論、その辺は理解しています。 なので海賊共和国を正式に承認する必要はありません」


「……それはどういう意味ですかな?」と、大臣。


「そのままの意味です。 我々が頃合いを見計らって海賊共和国の建国を宣言します。それに対して猫族ニャーマン政府は、肯定も否定もしない立場で頂きたいのです」


「……え~と簡単に言うと、見て見ぬふりをしろということかニャ?」


「そういう事です」


「……」


 う~ん、要するに表向きは無視するが、裏では国家の存在を認めろ。

 あるいは海賊共和国のやる事に干渉するな、という事か?

 成る程、そういう話なら聞く耳くらいは持ってやってもいいかもな。


「この件に関しては、あくまでお願いであります。

 なので現時点ではそういう話もある程度に考えていてください」


 と、ガラバーン。


「成る程、分かりました」と、大臣。


「それならいいだニャン。 

 では猫族海賊ニャーマン・パイレーツは我が連合軍に協力してもらえる、という話でいいのかニャ?」


「ええ、我が猫族海賊ニャーマン・パイレーツは連合軍に加勢します」


「うん、よろしくだニャン!」


「ええ、こちらこそよろしくです」


 マリウス王子とガラバーンはそう言葉を交わしながら、右手で固く握手を交わした。こうして猫族海賊ニャーマン・パイレーツは正式に連合軍に加勢することになった。とりあえず最低限の任務は果たした……と言ってもいいだろう。


 しかしこれは最低限の条件が揃ったに過ぎない。

 だが次の戦いが始まるまでは、軽くリラックスしてもいいだろう、多分。

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