第224話 海賊島(かいぞくとう)


---ラサミス視点---



 こちらのガレオン船三隻と猫族海賊ニャーマン・パイレーツと思われるガレー船三隻が海上で無言の睨み合いを続ける。

 気が付けば甲板上に猫族ニャーマンの大臣、マリウス王子、そのお供のメインクーン二匹。

 更には山猫騎士団オセロット・ナイツの面々、それと族長アルガス、アイザックの姿があった。

 一触即発の空気の中、マリウス王子が一つの提案を出した。


「ここに猫族海賊ニャーマン・パイレーツ宛ての親書があるニャン。

 だれか魔法で向こう側の船まで届けてくれないかニャン?」


 成る程、どういう親書かは分からないが悪くはない手だ。

 恐らくマリウス王子だけでなく、猫族ニャーマンの大臣も吟味した上で書いた親書だろう。ならばいきなり向こうがドンパチを仕掛けてくるということはなさそうだ。だが族長アルガスがそれに対して異を唱えた。


「その親書の内容はどのようなものでしょうか?」


「それにはお答えできません。 

 何故なら我が猫族ニャーマンの機密文書ですからね!」


 と、猫族ニャーマンの大臣が軽く一蹴した。

 すると族長アルガスは露骨に不満げな表情になったが、それ以上は何も言わなかった。そして空気を変えるべく、アイザックがこう告げた。


「この船に伝書鳩はいますかね?」


「居るだニャン。 伝書鳩で相手に親書を渡すのかニャン?」


 と、マリウス王子。


「ええ、この場合は暗黒魔法の『追跡トラッカー』を使うのが好ましいですが、

 追跡トラッカーは一度自分で行った場所じゃないと使えません。

 なので暗黒魔法の『動物操作アニマル・マニピュレーション』で伝書鳩を操って向こうの船まで飛ばします」


 へえ、暗黒魔法ってそんなことが出来るんだ。

 というか何気にアイザックが暗黒魔法を使える事を忘れていた。


「それがいいでしょう。 では早速伝書鳩を持ってきます」


「……お願いします」


 猫族ニャーマンの大臣の言葉にアイザックが小さく頷いた。

 そして五分後。 白黒のぶち猫の猫族海兵ニャーマン・マリーンの一匹が腕に伝書鳩を乗せてやって来た。


「この伝書鳩、というか正確には往復鳩おうふくばとはかなり調教ティムされている品種です。なので貴重なので、極力死なないように操作していただきたいです」


「ええ、勿論です。 その辺は安心してください」と、アイザック。


 そして白黒のぶち猫の猫族海兵ニャーマン・マリーンが伝書鳩――往復鳩の足に親書を括り付けて、アイザックに手渡した。

 するとアイザックは軽く深呼吸してから、ゆっくりと右手に魔力を篭めて、呪文を詠唱した。


「――『動物操作アニマル・マニピュレーション』!!」


 すると往復鳩がアイザックの右手の平から飛び羽ばたいた。

 そこからアイザックは全身にゆっくりと魔力を覆いながら、右手を前に突きだした。

 それから往復鳩が向こうの船に着くまでの三分間、アイザックは一挙手一投足に全神経を集中させていた。


「向こうの連中が往復鳩の親書を受け取ったようです。

 どうします? すぐに往復鳩を戻しますか?」


 アイザックの言葉に大臣やマリウス王子が「う~ん」と唸って何やら考え込んでいる様子。すると考えがまとまったのか、大臣がこう答えた。


「少し相手の出方を見ましょう。 

 相手が往復鳩に手紙の類いを括り付けて、送り返す可能性もあると思いますので」


「そうですね、ならばしばらく待ちますか」


 アイザックの提案にオレを含めた周囲の者達が無言で頷いた。

 それから待つこと、五分あまり、往復鳩は足に手紙を括り付けて戻ってきた。

 そしてマリウス王子が往復鳩の足から手紙を外した。

 それから大臣と一緒に並んで手紙の内容を確認する。


「う~む、これは悪くない展開だニャン」


「マリウス王子、よろしければ我々にも手紙を見せていただけませんか?」


 というドラガンの言葉にマリウス王子は大臣と顔を見合わせた。

 すると猫族ニャーマンの大臣は「まあ構わないでしょう」と言ったので、周囲の者で手紙を回し読みした。

 手紙の内容は――


『そちらの用件は分かった。 今から上に掛け合うから、貴公達もついてくるが良い。ただし必ず一定の距離は保つように! それと怪しい動きがあえば躊躇いなく大砲を撃つので、くれぐれも馬鹿な真似はしないようにお願いする』


 というものだった。

 まあ向こうからすれば当然の要求だよな。

 こちらとしても拒む理由はなかったので、この場に居た全員が賛成の意を示した。

 

 そして先方のガレー船がゆっくりとセントライダー島へ向かった。

 それに合わせてこちらもゆっくりと後をガレー船の後を追った。

 そしてしばらくすると大きな島が見えてきた。

 あれがセントライダー島か。


 海賊が統治する海賊島。

 噂では色々を聞くが、その実態はあまり知られていない。

 それをこの目で確かめられるのは少し貴重な体験かもな。 

 そう思いながら、オレはやや緊張しながら甲板上からその海賊島を見据えていた。



---三人称視点---



 西ニャンドランド海の南西に浮かぶ大きな島――セントライダー島。

 島の形は南北方向に長く約1500km(キールメーレル)、東西方向で約550km(約550キロメートル)。セントライダー島は、南北に走る中央高原と、東側および西側の平原の三つに分けることができる。


 この島を海賊が拠点にするようになったのは、今から150年程前である。

 海賊がこのウェルガリアで勢力を伸ばし始めたのは、第一次ウェルガリア大戦以降のウェルガリア歴1300年くらいだ。


 特に激しく衝突したのが、エルフ海賊と猫族海賊ニャーマン・パイレーツだ。

 両者は北ニャンドランド海や北エルドリア海で制海権を得るために激しく争った。


 これらの海賊行為は表面的には私掠しりゃくだったが、真の狙いは別にあった。

 この海賊達は皆、各国の王や君主くんしゅ及び海軍当局から『私拿捕しだほ特許状』を持っていた。

 端的に云えば、大戦以降の四大種族は海賊達に制海権の獲得を秘密裏に命じていたのである。


 これらの行為を正規の海軍にさせると、国家間の衝突に発展する。

 それらの事態は避けたかった。 表向きは各種族で停戦協定を結んでいたからだ。

 だから四大種族は海賊達に制海権獲得戦争を代行させていたが、

 表向きは海賊達が勝手に暴れているという言い訳を用意していた。

 要するに自らは泥を被らないというスタンスだ。


 それから150年後のウェルガリア歴1450年。

 制海権獲得戦争で猫族ニャーマン、竜人族を追い落としたエルフ、ヒューマンが役割を終えた海賊達を切り捨て始めた。

 

 そこで海賊達は猛反発、反乱して、国家という枠組みから離れて、自らの手で国家のようなものを作り始めた。

 このセントライダー島もその一つである。


 ラサミス達が乗るガレオン船――ニャローシップ号は猫族海賊ニャーマン・パイレーツのガレー船に先導されて、セントライダー島の船着場でいかりを下ろし、船を停泊させた。


「では船から降りてもらう!

 ただしおかしな真似はするなよ!!」


 と、船着き場の近くでサーベル拳銃ハンドガンを構える猫族海賊ニャーマン・パイレーツの面々。

 その見かけは海賊っぽいラフな格好が多く、船を降りるラサミス達を険しい表情で睨んでいた。

 そして軽くボディチェックされてから、体格の良いキジトラ猫族ニャーマンが顎をしゃくって「ついて来い」という意図を示した。


 ラサミス達は言われるがまま後をついて行った。

 するとその道中で様々な種族を目の当たりにした。

 猫族ニャーマンは当然として、ヒューマン、エルフ族、竜人族の姿もあった。


 彼等、彼女等は農作業する者から、道ばたで露天を開く者、と様々な仕事をしていた。ラサミス達はその光景に少し目を奪われながらも、キジトラ猫族ニャーマンの後をゆっくりと追う。


 そして徒歩で歩くこと、三十分余り。

 ラサミス達が辿り着いたのは、森の奥の大きな黒いログハウスである。

 ログハウスの近くには、小川が流れており、水車がゆっくりと回っていた。

 するとキジトラ猫族ニャーマンは近くの部下に何やら耳打ちをした。


 それと同時に耳打ちされた猫族ニャーマンはログハウスの中に入った。

 そしてキジトラ猫族ニャーマンはこちらを見て、一言こう告げた。


「中に入れるのは十人までだ。

 だから今すぐ中に入る者を決めろ!」


 恐らく中に猫族海賊ニャーマン・パイレーツの頭目が居る。

 なのでこの会談でミスすると後々に響く。

 だからこの中に入る者は厳選しなくてはならない。

 そう思いながら、ラサミス達は不平等のないように話で中に入るメンバーを決めることにした。


 その結果、『暁の大地』からはドラガン、ライル、ラサミス、ミネルバの四人。

 猫族ニャーマンからは大臣、マリウス王子、レビン団長、ケビン副団長。

 竜人族は族長アルガスと傭兵隊長のアイザックという顔ぶれになった。


「では中に入る前に武装解除するんだ!」


 ラサミス達はキジトラ猫族ニャーマンに言われるまま武装解除した。

 そして再びボディチェックされて、安全が確認されると「よし、では中に入れ」と言われたので、

 黒いログハウスの中に入って行った。


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