第196話 ダークエルフ
「
「左様でございます、魔王陛下」
情報隊長マーネスは魔王の言葉に鷹揚に頷いて、
床に片膝をついて、ぺこりと
あまり冴えない風貌だな。
それがレクサーがマーネスに持った第一印象だ。
まあ別にそれはいい。 要は
レクサーはそう思いながら、次のように問い
「まずはエルフ領の状況を知りたい。
ザンバルドが死んだのは事実だが、
グリファムやエンドラは無事なのか?」
「はい、エルフの居城から撤退はしましたが、
エルフ領の古都で残存部隊を率いているおられるようです。
またリッチ・マスターのカルネス殿は、陛下のご命令通り
「そうか、グリファムやエンドラは無事なのだな。
それは良いことだ。 では今後はカルネスにエルフ領の指揮権を与える。
そしてこう命じよ、敵軍の追撃を徹底して妨害せよ、とな」
「御意」
「とりあえずエルフ領はなんとかなりそうだな。
魔元帥アルバンネイルが率いる
すると情報隊長マーネスは淡々とした口調で、事実を述べる。
「そちらの方は先の戦いで負けたこともあり、
「成る程、
「恐らくそうだと思われます」
「しかしそれは少し厄介だな。 我が魔王軍の
「ええ、ですが手がないわけではありません」
マーネスの言葉にレクサーは「ほう」と興味深そう顔でマーネスを見据えた。
この男、意外と頭の回転が早いな。 それとこちらの意図も正確に把握している。 正直、最初は見くびっていたが、意外と使える人材かもしれん、と思うレクサー。
「……何だ、申してみよ?」
「はい、陛下はご存じじゃないかもしれませんが、
我々、情報部隊は魔大陸だけでなく、四大種族の領土に
密偵や偵察部隊を長らく派遣しておりました。
その中には、我々魔族に協力的な者もおります」
「うむ、それで?」
「端的に申し上げれば、何十年も前から我ら魔族と
懇意している種族が居ます。 その種族はダークエルフです」
「……成る程、ダークエルフか」
ダークエルフはエルフ族の
ダークエルフの主な活動拠点はエルフ領の北西にあるレリー
レリー島には、暗黒大樹という巨大な木が生えており、
魔力を吸収する性質をもつため、暗黒大樹の周囲には、
強い魔力が宿っており、多くのダークエルフがその周囲で暮らしている。
単純な能力や特性では、一般のエルフより優れていると云われているが、
非常に好戦的な性格の為、エルフだけでなく他の種族とも折り合いが悪い。
そしてそんなダークエルフは、長年孤立していたが、
彼等、彼女等に救いの手を差し伸べた者が居る。 それが魔族である。
「ダークエルフの
あるいは従属してもいいと云っております。
しかしその対価として、それ相応の地位と保障を求めております」
「まあ奴等の立場なら当然の要求だろうな。
とはいえいきなり魔族に組み込むわけにもいかぬ。 だから我々に
従属するつもりながら、それなりの働きと忠誠心を見せてもらはねばならん」
魔族とは多くの異種族が混在した魔王を頂点とした種族の総称である。
魔族は約一千年周期で一つの世界を滅ぼし、
魔族に滅ぼされた世界は
だが世界を滅ぼす際に、魔族の軍門に下った種族は、
同胞として迎える。 そして時空転移して、また違う世界へ行き、
また約一千年周期で世界を滅ぼす。
そのような事を延々と繰り返して、
他種族や亜人などの種族を加えたのが、魔族という存在である。
そういうわけなので、今の魔族は、
様々な種族が混合した少し特異的な存在である。
しかし安易に異種族を魔族に組み込むことは好ましいことではない。
それは現状の魔族社会においても、確固たるヒエラルキーが存在するからだ。
組織とは、巨大化すると必ず上位と下位の存在が生まれる。
特に古参の魔族は、新参者の加入を良しとしない。
だから魔族に組み込まれる異種族は、慎重に選別される。
レクサーとて馬鹿ではない。
その辺の事情には細心の注意を払っている。
「ええ、ですから
「ふむ、それで具体的には、どのような土産だ?」
「それは先程、話題に上がった海上戦力です。 はっきり申し上げれば、
彼奴等、ダークエルフの中に海賊の世界で名を馳せた海賊が居るとの事です。
そして陛下のお許しさえでれば、ダークエルフだけでなく、近隣の海賊達と
「ほう、それは悪い話ではないな。
だが奴等――海賊共もこちらに対して、何か要求したのではないか?」
「はい、まずは魔王軍内における最低限の地位と立場の保障。それと魔王軍における
「成る程な」
ふむ、ダークエルフという種族は馬鹿ではないようだな。
話の落としどころというものが分かっている。
実際、魔王軍だけで敵の海上戦力と戦うのには不安があった。
ならばこの機を生かして、ダークエルフ共を使うのは悪い手ではないな。
レクサーはそう思いながらも、
表面上は勿体をつけながら、様子を見ることにした。
「まあならばダークエルフ共を我が魔族の配下に組み込むことを
考えてやってもいい。 だがそれには余だけでなく、
周囲の者を納得させる手土産が必要だ。
そういうわけで、奴等との交渉はマーネス、卿に任せる。
卿一人で不安なら、エルフ領に居るグリファムやエンドラ、カーネスに
助力を請うと良い。 余の話は以上だ、もう下がってよいぞ!!」
「ははぁっ!!」
マーネスは大仰にそう叫んで、綺麗にお辞儀して、踵を返した。
その後ろ姿を見ながら、レクサーはマーネスという魔族を評した。
頭もそれなりに回り、こちらの意図も明確に理解しているな。
それでいてその能力を誇ることもせず、淡々と仕事する男だな。
これは案外、掘り出し物の人材かもな。
よし、これで最低限の手は打ったが、
やはりオレ一人の頭脳では考えられることも限られる。
そうだな、奴の――シーネンレムスの意見が聞きたい。
ならば早速、奴を呼びつけるべきだ。
「ミルトバッハ、シーネンレムスをこの場に呼べ!」
「御意!」
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