第162話 俺がやるしかねえ!

 ライルは一気に間合いを詰めて、標的を射程圏内に捉えた。

 しかし相手は無詠唱で魔法を唱えることが可能だ。

 ライルの見立てでは、魔法に関してはプラムナイザーは、あのザンバルドより上回ると予測した。


 故に距離を取った戦いでは、勝ち目が薄い。

 だが接近戦に関しては、プラムナイザーはザンバルド程ではないと思う。

 ならばこちらとしては、接近戦で活路を見出すまでだ。

 連続技で相手を怯ませるか?

 いやそれより確実に一撃で仕留めるべきだ。


「秘剣・『神速しんそく太刀たち』!!」


 ライルはこの瞬時に闘気を最大限まで高め、渾身の薙ぎ払いを放った。

 頭部は狙わず、確実に命中させる為に相手の腹部を狙った。

 だがそれと同時にプラムナイザーは地面を浮遊しながら、後ろに下がった。

 しかしその前にライルの放った鋭い剣線がプラムナイザーの腹部を切り裂いた。


「ぐふっ!?」


 低い呻き声を上げるプラムナイザー。

 速度もタイミングも完璧な一撃であった。

 だが僅かな差でプラムナイザーの腹部を完全に切り裂くまでには至らなかった。


「き、貴様ぁっ! ヒューマン如きがわたくしの美しい肌を切り裂いたな! 赦さん、赦さん、絶対に赦さんぞ! 貴様は確実に殺す!」


 不意にプラムナイザーの身体に強い怒りと闘争心がマグマのように沸きあがった。

 そして両手を前に突き出して、全力で魔力を練り上げた。


 ――いかん! この距離で喰らうと不味い!


 ライルはそう思いながら、咄嗟に後ろに下がった。

 それとほぼ同時にプラムナイザーの両掌から猛り狂う闇の炎が放たれた。

 横に回避すべきか! いやもう間に合わない。

 ならば全力で闘気オーラを練って防御ガードするしかない!

 咄嗟にそう判断したライルは全身に光の闘気オーラを纏い、両手で白銀の宝剣を構えながら、頭を低くしながら身構えた。


 そして猛り狂う闇の炎がライルに命中。

 ドゴオオオンッ、という爆音と共にライルの身体が揺れ動く。

 ライルはその衝撃で後方に十メーレル(約十メートル)程吹っ飛んだ。

 両腕に強烈な火傷が刻まれて、大の字に床に倒れこむライル。


 かなりの重傷だが、命には別状はないようだ。

 だがこれでライルはほぼ戦闘不能状態。

 残されたのはラサミス、アイラ、ミネルバ、ドラガン、メイリンの五人。

 

 ――兄貴がやられた今俺がやるしかねえ!


 ラサミスは危機的状況で心臓の鼓動を高めながらもそう決意を固めた。


「アイラ、兄貴とアイザックさんに回復魔法を頼む!」


「あ、ああ! 分かった、ラサミス! この盾を使え!」


 アイラはそう答えながら、手にしたブルーミラーシールドをラサミスに投げ渡した。

 ラサミスは投げ渡された水色の盾を両手でなんとかキャッチした。

 そして即座に左手で投げ渡されたブルーミラーシールドを構えた。


 ――この盾なら奴の無詠唱魔法攻撃も反射できる筈。

 ――ならば接近戦に持ち込んで、渾身の一撃を叩き込む。

 ――だからやるからには、確実にるしかねえ!

 ――だが俺の見立てでは、この大結界を張ったもう一人の幹部が居ると見た。


「ドラガン! 俺に魔力をくれ!」


「分かった! せいっ! 『魔力マナパサー』」


 ラサミスがそう言うなり、ドラガンが魔力マナパサーを発動。

 これでさっきの手下の吸血鬼ヴァンパイアの戦いで消耗した魔力も補充された。


「ドラガンとミネルバはアイラが回復ヒールに専念できるようにフォローしてくれ! メイリンはエリスにかけられた呪縛バインドを解除できるか試してくれ!」


「「分かった!」「分かったわ!」


 もう少ししたら援軍が来ると思う。

 しかしそれまで最低でも十分は要するだろう。

 だからこの十分の間は、この女王吸血鬼クイーン・ヴァンパイアを食い止める必要がある。


 だがアイザックやライルが敵わなかった相手だ。

 果たして俺なんかで相手が務まるだろうか?

 ラサミスの脳裏に不安が過る。


 でも彼の中に諦めるという選択肢はなかった。

 だからラサミスは胸の内に不安と恐怖心を抱きながらも、走り出した。

 恐らくこのブルーミラーシールドがあれば、一、二発は相手の魔法を防げるだろう。 ならば俺はあくまで愚直に前進して、奴に渾身の一撃をぶち込む。


 戦闘計画せんとうプランは単純明快だ。

 左手でブルーミラーシールドを構えながら、相手に接近。

 そして『黄金の息吹ゴールデン・ブレス』を発動させて、全魔力を解放して、得意の『徹し』を相手の胸部に叩き込む。


 相手は数百年生きる吸血鬼ヴァンパイア

 自分なんかの浅知恵や小細工が通用する相手ではない。

 ならば強固なる意思を持って、自分ができることを最大限にやるまでだ。


 ――しかし全身全霊の『徹し』を打つ前に相手を一瞬怯ませる必要がある。

 ――どうする?

 ――左手に光の闘気オーラを宿らせて、

 ――光弾を放ち、相手の眼前で弾けさせて、目くらましするか?

 ――我ながらセコい手だ。 だが他に妙案はない。

 ――ならばやるしかねえ!


 ラサミスはそう覚悟を決めて、間合いを詰めた。

 プラムナイザーもさっきの戦いでブルーミラーシールドの効果を理解した。

 これでは至近距離での魔法攻撃はできない。

 プラムナイザーはやや歯ぎしりしながら、右手で右手で地面に落ちた片手剣を拾い上げた。 忌々しい人間め、だがこいつ程度なら我が剣技で倒せる!



 そう思った矢先にプラムナイザーの胸部から赤い鮮血が噴出する。

 すると周囲に火薬の匂いが充満した。


 ――そうか、マリベーレが場所を移動して長距離狙撃してくれたんだな。

 ――マリベーレ、ありがとな。 この千載一遇のチャンスは必ず生かすぜ!


「はあああぁっ……『黄金の息吹ゴールデン・ブレス』!!」


 ラサミスは全魔力を解放して、『黄金の息吹ゴールデン・ブレス』を発動させた。

 そして右腕に全魔力を注いだ光の闘気オーラを宿らせた。

 

「ご、ご主人様! あ、危ない!」


 と、上空で叫ぶ使い魔のミアン。

 だがプラムナイザーはマリベーレが放った光と炎の合成弾で、胸部を撃ちぬかれた為、動きが鈍っていた。 そしてラサミスは眩く光る右手でプラムナイザーの胸部を強打。


「が、が、がはああぁぁっ!?」


 ラサミスの右手に伝わる強烈な衝撃。

 その衝撃でラサミスの右手首に痛みが走った。

 強烈な強打は打った者の肉体にも跳ね返るものだ。

 だがそれ以上にその強打を受けた者のダメージは大きい。


 プラムナイザーは口から胃液と血液を逆流させながら、物凄い勢いで後方に二十メーレル(約二十メートル)くらい吹っ飛んだ。 そして叩きつけられるように背中から地面に倒れ込んだ。

それと同時に「うぐっ」と呻き声を上げて、口から大量の血液を吐き出した。

 

 恐らく今の一撃で肺が潰れたのだろう。

 プラムナイザーの瞳から急速に輝きが失われていく。

 今の状態なら止めを刺すことも可能だ。

 だがラサミスも全魔力を解放した為、力尽きたかのように両膝を地面につけた。


 まさに全神経を研ぎ澄ませて放った渾身の一撃だった。

 だがそれはラサミス一人による勝利ではなかった。

 アイザックとライルがプラムナイザーと対峙して、彼女を弱らせ、彼女の能力と戦闘法を白日の下に晒した。


 それによって彼女の一番危険な攻撃は、無詠唱による攻撃魔法と周囲の仲間に理解させて、それぞれが己のやれる役割を果たした。 それはまさに個人戦の勝利ではなく、パーティ戦による勝利であった。

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