第158話 灯台を目指して!(中編)


 ハア、ハア、ハア、ハアッ!

 俺達は両足に風の闘気オーラを纏いながら、全力で地を駆けた。

 周囲には、グール、グーラー化した猫族ニャーマンやヒューマン、それに魔族とその部下と思われる魔獣や魔物の姿が見える。


 しかし今はこいつ等に構っている余裕などない。

 だから俺達は全力で走り、灯台を目指した。


「皆、ちゃんとついて来れてるか?」


「「「うん」」」


 俺の言葉に口を揃えるエリス、メイリン、マリベーレ。

 だがミネルバだけは慌て気味にこう叫んだ。


「ラサミス! 上を見て、敵が居るわ!」


 くっ。 敵の魔族と思われる連中が建物の屋根の上からこちらを見ている。

 数は十人前後というところか?

 そして連中は建物の屋根から飛び降りながら、頭上より襲い掛かって来た。

 俺はとりあえず目の前の細身の魔族の顔面に右拳を打ち込んだ。

 更にそこから左、右のワンツーパンチを喰らわせた。


「ごふっ!?」


 と、言いながら背中から地面に倒れる細身の魔族。


「ミネルバ、俺とお前でエリス、メイリン、マリベーレを護るぞ!」


「了解よ! 『ヴォーパル・スラスト』!」


ミネルバは手にした漆黒の魔槍で近くに居た魔族の喉笛を突き刺した。


「げ、げほっ!?」


 ミネルバの電光石火の一撃を喰らった魔族は、悲鳴をあげながら、後方に吹き飛ぶ。 それに続くように兄貴、ドラガン、アイザックも眼前の敵を斬り捨てた。


「ファルコン・スラッシュ!」


「ピアシング・ドライバー!」


「デッドエンド・ストライクッ!」


 三人はそう技名コールすると同時に敵の魔族が悲鳴を上げて、地面に倒れ伏せた。 とりあえず今のうち突き進むしかない。


「今だ! このまま突き進むぞ!」


「了解!」



 俺達はその後も全力で走り続けた。

 もちろんその度に敵に妨害されたが、それも迅速に対処した。

 

「前方に敵が居るぞ! 全員警戒しろ!」


「はい」



 俺達はアイザックにそう言われて、走りながら戦闘態勢に入った。

 前方に視線を向けると、進行方向の家屋の上に、六名の魔族が姿を現した。

 全員両手に弓を持っている。 高低差を生かして狙い撃ちするつもりだな。

 左右に三人ずつ、黒いフード付きのローブを纏った魔族の弓兵アーチャーが、やじりを俺達に狙い定める。 このまま突っ切るか、応戦するか。 判断に悩むぜ!


「みんな、眼をつぶって! 我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 『フラッシュ』ッ!」


 次の瞬間、上空に眩い光が発生して、弓兵アーチャー達の視力を一時的に奪った。 

 メイリン、よくやった! この隙に一気に駆け抜けるぞ!


「アイザックさん、建物の屋根に飛び移りませんか?

 多分屋根の上を走った方が早い」


「そうだな、よし暁の大地の面々は屋根に向かって飛べ! それ以外の右翼部隊はこのまま地上を突き進め! 俺達が先を進んで障害を排除する。 だから地上の右翼部隊は港で俺達と合流するぞ」


「了解!」


 アイザックは俺の進言を受け入れて、素早くそう指示を出した。

 俺達は風の闘気オーラを纏い、両足で地面を強く蹴って大きく跳躍する。

 風の闘気によって高さ七メーレル(約七メートル)に及ぶ人家の壁を軽々と飛び越え、屋根の上に着地した。

 

「このまま屋根を飛び越えながら北へ向かうぞ!」と、アイザック。


「了解!」



 俺達は再び両足に風の闘気オーラを纏い、屋根の上をぴょん、ぴょんと飛びながら、全速力で北に突き進んだ。


 地上では魔王軍の魔族兵やグール、グーラーと連合軍の兵士が激しく戦っている。

 とりあえず俺達は、一呼吸置く為に目前の建物の広い屋上に着地する。

 すると前方に新たな敵影が現れた。  敵の数は四人だな。



「アイザックさん、ここは敵を倒しましょう!」


「そうだな。 お前等、全力で前方の敵を蹴散らせ!」


 アイザックはそう言いながら、前方の黒マントを着た魔族へ目掛けて突貫する。 それを待ちかねていたように、黒マントの魔族は長剣を抜剣して応戦する。 両者は激しい無数の剣線が描きながら、周囲に火花を散らす。


 よし、俺も続くぜ!

 俺は電光石火の速さで疾走して、完全に不意を突いた。

 まず左ジャブを繰り出して、相手との距離を測り、そこから右拳を一直線に繰り出す。


 右拳に鈍い感触が伝わると同時に、眼前の黒いローブを着た魔族が後ろに吹き飛んだ。 俺はそこから地を蹴り、飛び膝蹴りを腹に命中させ、両拳を頭上に振り上げた。 そして止めの一撃とばかりにハンマーナックルで男の背中を強打。

 

「ぐえっ!?」


 会心の一撃が決まり、眼前の魔族は前のめりに倒れこんで地べたに接吻する。


「ク、クソッ! こ、こいつ強いぞ!?」


 残されたもう一人の黒い鎖帷子の魔族が腰帯から片手剣を抜いた。

 だがいかんせん腰が引けている。 ならばここは強気で攻めるべきだ。

 俺は相手が突き出した片手剣をダッキングで回避。 


 そこから左足で相手の右足を踏みつけ、右拳で地をすくい突き上げた。 

 強烈な右アッパーが顎に炸裂。 この感触は多分顎が割れたな。

 魔族の男は口から血しぶきを飛ばすが、俺は躊躇せず身体を捻り、強烈な回し蹴りを放った。 俺のブーツが相手の顎を捉えると、男はこの世の終わりのような悲鳴をあげた。 


 割れた顎に渾身の回し蹴り。 

 その威力は絶大であり、魔族の男は全身を痙攣させながら、背中から石畳の床に倒れ落ちた。 これで二人ぶっ倒したぜ。


「最近のラサミスって本当に格闘戦が強くなったわね」


「う、うん。 今は少しカッコよかった」


 エリスとメイリンが感心したようにそう言った。

 まあそう褒められると悪い気はしないぜ。

 などと思っていると、アイザックと兄貴も敵を片付けたようだ。


「こちらも片付いたぞ。 敵が来る前に灯台へ行くぞ」


「「了解」「はい」


 そうだな、敵が居ない今がチャンスだ。

 この調子で一気に灯台まで向かうとするか。


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