第157話 灯台を目指して!(前編)


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 エリスの銀の錫杖の先端から眩い白光が放たれて、前方の猫族ニャーマングールの身体を包み込んだ。


「ニャ……ア゛ァ……ニャア゛ァァッ―――ッ!?」


 前方の猫族ニャーマングールが断末魔を上げて、浄化される。

 既にエリス一人で十体以上のグール、グーラーを浄化している。

 しかし周囲は、まだまだグールやグーラーだらけだ。


「エリス、あまり神聖魔法を連発するな! これからは長期戦になる。 魔力は温存しておくのよ!」


 と、アイラが一喝する。


「で、でも出来る限り魂を浄化させてあげたいです」


 と、ちらちらと周囲の猫族ニャーマングール、グーラーを見るエリス。

 エリスの気持ちも分からなくない。

 彼女は猫族ニャーマンが大好きだからな。

 とはいえこの状況下で全員の魂を浄化することなど不可能だ。

 だがエリスだけでなく、メイリンとマリベーレも猫族ニャーマングールやグーラーに対して攻撃をするのを躊躇っている。

 

 その代わり俺や兄貴、ミネルバ、ドラガン、アイザックが周囲のグール、グーラーをぶっ倒していく。 確かにこのグール化した連中は、元々はこの港町の住人だ。 俺だって出来る事なら、彼等を助けてやりたい。 だがそんな事は不可能だ。 それは俺にも分かる。


 正直俺達は自惚れていた。

 自分達の力を過信していた。 その結果がこのざまだ。

 しかし敵からすれば、この戦術は非常に都合がよい。

 何せ自分達の手駒を減らさず、こちらだけを消耗させられるからな。

 これを考えた奴は頭が良い。 悪魔的な頭の良さだがな。


「ファルコン・スラッシュ!」


「――ヴォーパル・スラスト!」


「ピアシング・ドライバー!!」


「パワフル・スマッシュ!!」


 兄貴、ミネルバ、ドラガン、アイザックが技名コールしながら、手にした武器で周囲のグール、グーラーを斬り捨てていく。


「とりあえずこのまま中央広場を目指すぞ!」


 俺達はアイザックの言葉に従い、両足に風の闘気オーラを走り続けた。 その後も俺達の前に吸血鬼ヴァンパイア吸血猫きゅけつねこ、グール、グーラーが襲い掛かってきたが、その度に確実に頭部を破壊して戦闘不能にする。 俺達はそういった戦闘を何度か繰り返して、中央広場に辿り着いた。


 すると中央広場の周辺でレビン団長率いる猫騎士達が周囲の敵と相対していた。 どうやら左翼部隊は無事だったようだ。


「――レビン団長!」


「おう、アイザック殿か!!」


「こちらは無事です。 そちらは?」


「まあ何とか無事ですな。 同胞相手に戦うのは少々心苦しいですがな」


「レビン団長、この港町のおおまかな構造は分かりますか?」


「ん? ああ、まあ一応は分かりますが、それが何か?」


 質問の意味が分からず、少し首を傾げるレビン団長。

 だがアイザックが次に発した言葉で質問の意味を理解した。


「恐らくですが、これは敵の魔導士がこの町全体に結界を張ったのでしょう。 恐らく帝王級……いやもしかしたら神帝級クラスの大結界でしょう。 ですがこれ程の大結界を維持するのは、かなりの魔力を消費します。 となると街全体手を一望できて、大きな魔法陣を敷けるような場所が理想でしょう。 この街にそのような場所はありますか?」


「そうか。 話を理解した。 それならこの街の北部の商業区エリアの船着き場にある大きな船、あるいはそこから少し離れた場所にある灯台が理想的だろうな。 私が敵の司令官ならそうする」


 なる程、船着き場の大きな船。

 あるいは灯台か。 でも全体の状況を把握するなら、灯台辺りを拠点にする方が、何かと都合が良い気がする。


「アイザックさん、俺達は灯台へ行こう!」


 俺は真剣な表情でアイザックにそう言った。

 するとアイザックは少し考え込んでから――


「そうだな、俺も灯台が臭いと思う。 レビン団長、我々は灯台へ向かいますので、左翼部隊は船着き場の船を洗っていただけますか?」


「分かった。 我々は船着き場の船を調べるよ。 ここに閉じ込められて、もう三十分くらい経った。 日没まであまり時間がない。 それまでにこの結界を解除するんだ!」


 レビン団長の言葉にアイザックも大きく頷いた。

 そうだな、もうあまり時間はない。

 ここで結界を解除しないと、最悪全滅もありうる。


「団長、兄貴。 俺達も早く灯台へ向かおうぜ」


「ああ」「そうだな」


 ミスは絶対に許されない。

 やるからには絶対に成功しなければならない。

 俺は自分にそう言い聞かせて、高ぶる心臓の声を抑えた。

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