第156話 血だらけの魔宴(ブラッディ・サバト)


 一方、レビン団長率いる左翼部隊は、右翼部隊から少し離れた冒険者区の中央広場に陣取っていた。 左翼部隊の大半は猫族ニャーマン。 故に不死生物アンデッド化した同胞に囲まれて少なからず動揺していた。


「……レビン団長、どうするんですか?」


 と、戦乙女ヴァルキリーのジュリー。


「……さてどうしたものかな」


「これは少々キツいシチュエーションじゃのう」


 マヌルネコの聖騎士パラディンロブソンも苦々しげに呟いた。


「元凶を……大元の吸血鬼ヴァンパイアを倒せば、み、みんな元に戻るのじゃ?」


 ジュリーは自分に言い聞かせるようにそう言った。


「いや残念ながらそんな余裕ないぜ。 この状況下で一滴も血を流さす事無く万事解決。

 ってのは、残念ながら無理だぜ? マジでガッデム! しかしこれが現実リアルなのさ」


 と、カラカルの銃士ガンナーラモンがそう告げた。

 ラモンの言葉に他の猫族ニャーマン達もその現実を受け止めた。

 するとレビン団長が決意を固めた表情で――


「ラモンの云う通りだ。 とりあえず我々は右翼部隊と合流する。 その際邪魔となる……敵は倒すぞ。 本当は神職の神聖魔法で浄化したいところだが、長期戦になれば魔力切れの危険性もある。 だから基本的に敵は攻撃役アタッカーが倒せ。 これは団長命令だ」


「……了解」


 レビン団長の命令に覚悟を固める猫族ニャーマンの兵士達。

 そして銃士ガンナーラモンは両腰のホルスターから銃を引き抜いた。


「オレ様も覚悟を決めたぜ。 不死生物アンデッド化した同胞よ。 悪いが生き残る為に、オレ様は自分の手を汚すぜ。 恨むなら恨め。 だが恨まれるのも仕事のうちだ。 因果な商売さ」


「そうね。 心苦しいけどやるしかないわね」


 鞘から白銀の細い刺突剣を抜剣するジュリー。


「そのようじゃな。 やれやれ、辛い仕事だな」


ロブソンも白銀の戦鎚ウォーハンマーを握りながら、そう言う。


「ニャアア゛―アア゛……ニャア―ア゛―」


「ヴア゛―アア゛……ヴ―ア゛―」


「悪いな、ブラザー。 これはオレ様が送る鎮魂歌レクイエムだ。 アディオスッ! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう!」


 ラモンは回転式リボルバーの黒い拳銃ハンドガンの銃口を猫族ニャーマングールの頭に向けて、引き金を引いた。 発射された光属性の魔弾丸が命中して、頭を撃ち砕いた。

更にもう一体の男性ヒューマンのグールに照準を定める。「パアン」という音と共にヒューマンのグールの頭が潰れたトマトのように弾けた。


「ふんっ! ――スナイパー・ショットォッ!!」


 更に引き金を引き続けるラモン。

 乾いた音と共に前方に立ちふさがるグール、グーラ―達の頭が吹っ飛ぶ。

 放った銃弾全てが見事にヘッドショットで決まった。

 瞬く間に六体のグール、グーラ―を射殺するラモン。

 これには周囲の仲間も素直に驚いた。


「あ、あなたって実は凄い?」と、眼を瞬かせるジュリー。


「……ラモンは普段の言動はアレだが、射撃に関しては天才的だ。 よし、お前等! 我々も後に続くぞ!!」


「「はいっ!!」


 レビン団長の言葉に大きな声で返事する猫族ニャーマンの猫騎士達。

 そして各自、武器を片手に心を鬼にして、不死生物アンデッド化した同胞に切りかかるのであった。


 覚悟を決めた連合軍の両翼部隊は、不死生物アンデッド化した港町の住人と激しい戦闘を繰り返した。 吸血鬼ヴァンパイアはそれなりの強さを誇るが、基本的にグール、グーラーは単調な動きで噛みつき攻撃しかしない。 連合軍の兵士達は、次第にその動きを読み、グール、グーラを優先して倒していった。


 そんな光景をまるで高見の見物をするかのように見る人物が居た。

 今回の作戦の総指揮官である女王吸血鬼クイーン・ヴァンパイアプラムナイザーだ。

 魔元帥アルバンネイルは大猫島おおねこじまに留まり、港町クルレーベの防衛はプラムナイザーとカーリンネイツに任せた。


 ヒムナート平原の戦いでは、連合軍に押されていたように見えたが、実際の魔王軍の損害はそこまで多くない。 戦力の半数はゴーレム軍団だったからである。 だがそんな相手でも勝利を重ねると士気は上がる。 そして押されているように見せかけて、敵をこちらに誘い込む。


 時間は夕方十六過ぎくらいが好ましかった。

 相手に日没までまだ時間に余裕があると思わせて、港町に侵攻させて、後はカーリンネイツ達が用意した大結界をタイミングよく発動させるだけだった。


 そして敵の両翼部隊をこの港町に封じ込めて、自身の眷属とした港町の住人に襲わせる。 こちらは痛くも痒くもないが、相手は少なからず動揺する。 そういう意味じゃここまでは作戦通りといえる。


 ――ふふふっ。 連中め、まんまと罠に嵌ったな。

 ――ここから仮に大結界を解除できたとしても、二時間以上はかかるだろう。

 ――その頃には結界を解除しても、外は既に日没しているだろう。

 ――夜は我等、魔族の時間。 この勝負勝ったな。


 と、微笑を浮かべて、次のように問うプラムナイザー。


「ミアン、敵の様子はどうだ?」


「う~ん、最初は動揺していたけど、今は周囲の不死生物アンデッド化した連中を始末しているね。 でもなんだかとても心苦しそう。 にゃはははっ」


 と、からからと笑う猫の妖精グリマルキンのミアン


「そうか、要するに盛大な同士討ちというわけだな。 ふふふっ。 奴等には相応しい末路だな」


 三階にある展望台から港町の様子を観ながら、そう言うプラムナイザー。


「ご主人様の言う通りだわさ。 まあちょっとだけ可哀想だけどね」


 と、ミアン。

 するとプラムナイザーは演劇の主演女優のように大袈裟に両手を広げながら、展望室の鉄柵の上に立った。 そして見下ろす形で港町を一望しながら、こう叫んだ。


「さあ、戦うがよい! 争うがよい! 生き残る為に同士討ちするがよい! それが貴様らに相応しい末路だ。 さあ、血だらけの魔宴サバトの始まりだ!!」


 大仰な芝居がかった台詞を吐くプラムナイザーは恍惚の表情を浮かべていた。

 それを真近で見ながら、猫の妖精グリマルキンのミアンがこう呟いた。


「やれやれ、ご主人様も女優だねえ~」


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