第149話 待ちわびた援軍

 日が沈み、闇夜となり魔族の時間がやってきた。

 魔王軍の幹部である女王吸血鬼クイーン・ヴァンパイアプラムナイザーは、彼女の傀儡と化した吸血鬼ヴァンパイア吸血猫きゅうけつねこ、グール、グーラーを野に放った。


 これに対して、連合軍は僧侶プリーストなどの神職が神聖魔法を使い、それらの不死生物アンデッドの浄化を試みた。


 しかし不死生物アンデッドの総数は軽く百を超えていた。

 故に僧侶プリーストだけでなく、戦士ファイター聖騎士パラディンという前衛職も不死生物アンデッド狩りに、投入せざるをえなかった。


 プラムナイザーの立場からすれば、単なる妨害工作のつもりであったが、想像以上に連合軍は手を焼いた。 昼間に大きな戦闘を終えたばかりなのに、夜中も戦わされる事に兵士や傭兵、冒険者達は心底うんざりした。


 そういう事もあり、厭戦気分が漂うなかで不死生物アンデッドの集団と交戦。

 やる気のない者が多いなかでも、気を吐くものも存在した。

 『暁の大地』の僧侶プリーストエリスもその一人であった。


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 エリスの銀の錫杖の先から眩い光が放たれて、前方のグールの身体を包み込んだ。


「ウ……ァ……アァァッ――――――――ッ!?」


 断末魔を上げて、前方のグールが浄化されて地面に崩れ落ちた。


「まだまだ行きますわよ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」



 再び神聖魔法を唱えるエリス。

 今度は前方のグールとグーラ―に命中。 


「ウ……ガ……ガアアアッ――――――ッッ!!」


「ヴ……オ……オ――――――――――ッッ!!」


 断末魔を上げて浄化される不死生物アンデット達。 これで三体浄化。

 だが敵もエリスの存在に気付いた。

 魂の救いを求めるように、グールを先頭にして、その後ろからグーラ―がエリスに迫る。 だがエリスを護るべく、アイラが前線に躍り出て、職業能力ジョブ・アビリティ雄叫びウォークライ』を発動!


「――させるかっ!! 『雄叫びウォークライ』……!!」


 周囲の大気が震えて、周囲の不死生物アンデット達も硬直する。

 その隙にエリスが神聖魔法を連発して、次々とグールとグーラ―を浄化する。

 そして頃合いを見て、ドラガンがエリスに「魔力マナパサー」をする。


 体力や魔力に余裕があれば、メイリンの火炎及び光属性魔法で一気に不死生物アンデットの集団を焼き払いたいところだが、明日も戦わなくちゃならない。 故に無駄な体力や魔力の消耗はさけたい。


 だから基本的に攻撃は神聖魔法を中心して、他の者達は自軍の神職しんしょくを護るという形で、不死生物アンデッドの集団の攻撃を凌いだ。 その後は交代制で休みを取ったが、完全に疲れは取ることは出来ず、夜が明けた。



 その結果、回復役ヒーラーである僧侶プーリストや上級職の回復職ヒーラーしょく神秘術師シーアージストは睡眠不足状態で戦いに挑んだが、やはりところどころでそのしわ寄せがきた。


 それに加えて、魔王軍も戦術と陣形を少し変えてきた。

 猫族ニャーマンが率いる左翼部隊に対して、魔王軍の右翼部隊はオーガや巨人タイタンなどの身体の良い魔物や魔獣で固めて、力押しで攻め込んだ。


 双方の対格差は子供と大人以上。

 よって猫族ニャーマン部隊は、魔法攻撃で敵の集団を迎え撃つが、上空に鎮座する竜魔部隊は的確に対魔結界を張って、地上の仲間を援護する。 次第に押されていく左翼の猫族ニャーマン部隊。


 一方、魔王軍の左翼部隊はアイザック率いる右翼部隊に対して、前日と然程さほど変わらぬ戦術で挑んだ。 右翼部隊に配置していた術者の大半を左翼部隊に配置換えして、ひたすら術者にゴーレムを生成させた。 その結果、更にゴーレム軍団の生成速度が速まり、数の力を持って、敵の右翼部隊を攻め立てた。


 右翼部隊も氷魔法と風魔法を駆使して、ゴーレムの大群を撃破するが、敵はそれ以上の速度でゴーレムを大量生成していく。 次第に左翼部隊だけでなく、右翼部隊も後退を余儀なくされた。


「チッ……こうも次から次へと攻められると流石にきついな。 ここは一度撤退すべきか! 伝令係!」


「はっ、なんでしょうか?」


 アイザックの言葉に近くの伝令兵が大きな声で応じた。


「左翼部隊のレビン団長に『一度後退して、陣形を再編したい』と可及的速やかに伝えてくれ」


「りょうか……あっ!?」


「……どうした?」


「あ、あれを見てください!」


 そう言って、後方の上空を指さす伝令兵。

 アイザックは怪訝な表情をしながらも、伝令兵が指を指した方向に視線を向けた。


「あ、あれは!?」


 と、驚きながらも、思わず歓喜するアイザック。

 後方の上空に飛竜の群れが飛び交っていた。

 その数は軽く見ても百近くあった。

 野生の飛竜の群れではない。

 飛竜に騎乗する鎧をまとった騎乗者ライダーの姿が見えた。


 そしてその先頭に陣取る黄金の飛竜に騎乗した神々しく輝いた黄金の鎧を着た

 竜騎士ドラグーンが右腕をゆっくりと上げた。


「どうやら間に合ったようだな。 よし全軍戦闘準備に入れ! 我等、竜人族の竜騎士団の力を魔族どもに見せてやろうではないか!」


「おう! 魔族が相手か。 相手にとって不足はねえぜ」


「そうそう、腕が鳴るぜ」


 と、周囲の竜騎士ドラグーン達が軽口をたたいた。

 そして指揮官らしき黄金の鎧を着た竜騎士ドラグーンは、右腕を垂直に下した。


「では戦闘開始だ! ――全軍突撃!!」


 突撃の号令と共に飛竜の群れが雄叫びをあげて、突撃を開始した。

 こうして猫族ニャーマン領における四大種族連合軍と魔王軍の戦いに、新たな戦力が加わり、戦いは佳境を迎えようとしていた。

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