第二十八章 天翔(あまか)ける竜騎士(ドラグーン)

第145話 港町までの道中


 円卓会議から四日後。

 俺達は港町クルレーベを目指して、真っすぐ北へ進んでいた。

 俺達『暁の大地』はとりあえず港町クルレーベまでの道中を馬で移動する。

 今この場に居る兵力は400人前後。


 その戦力の大半が猫族ニャーマンと寄せ集めの傭兵と冒険者だ。

 先にクルレーベに向かったケビン副団長が率いる部隊が600前後。

 そして竜人領から竜騎士団の竜騎士ドラグーンが百名程、援軍に来る予定。

 合計すれば1100人以上の戦力。 

 この戦力なら魔王軍とも十分戦える……筈だ。


 だがこれだけの大部隊の移動となると、色々問題が乗じる。 猫族ニャーマンの場合はポニーでの移動となる。 それ以外の種族は普通の馬に騎乗しての移動となるが、猫族ニャーマンが乗る足の遅いポニーに合わせて、どうしても全体の進軍が遅くなりがちだ。


 それとこれだけの兵力となると食糧の調達や輸送や補給も大変だな。

 基本的に全軍の後ろの方に補給部隊を置いて、殿しんがりの部隊がそれを護る形だ。


 俺達『暁の大地』はドラガンとミネルバが黒毛くろげ、兄貴が青鹿毛あおかげ、俺が鹿毛かげ、エリスが栃栗とちくり毛、メイリンは栗毛くりげ。 そして芦毛あしげの馬に騎乗するアイラの後ろに座るマリベーレ。 各自それぞれ背中にバックパックを背負いながら、このような毛色の馬に騎乗及び相乗あいのりしている。


 最初はマリベーレも「私も自分で馬に乗りたい」と言っていたが、十一歳という年齢を考慮して、彼女にはアイラに相乗りしてもらう事となった。 超人的な射撃の腕を誇る彼女も体力面では、まだまだ子供。 だからここはドラガンがやや厳しく言って、彼女も渋々承諾した。


 この戦いの為に集められた傭兵や冒険者も五割が猫族ニャーマン

 残り一割がヒューマン、エルフと竜人がそれぞれ一割という種族構成だ。

 そして百名のネイティブ・ガーディアンの兵士達。


 以上の戦力で俺達は王都ニャンドランドから北上して、港町クルレーベから比較的近い場所にある中堅都市ホルトピックを目指した。 その道中にあるクリザール平原、ロスキトの森、エルダーリン高原を進んで四日目。


 先頭で意気揚々とポニーに乗っていたマリウス王子が暑さでダウンした。

 いやマリウス王子だけでない。 多くの猫族ニャーマン兵もバテていた。

 まあ真夏だからな。 

 こうして外に居るだけで、暑さで立ち眩みしそうな気温だ。


 結局、マリウス王子は後方の馬車に乗り込んで、一休みした。

 やれやれ、あの威張りん坊王子。 だらしねえな。


 レビン団長を始めとした猫騎士達は我慢しているのに、堪え性のない王子だ。 とはいえ戦場に着く前に、戦闘不能状態になられても困る。


 だから俺達は休憩を挟みながら、中堅都市ホルトピック目指してゆっくりと進軍する。 傭兵、冒険者部隊、それとネイティブ・ガーディアンを束ねる指揮官アイザックは、黒い飛竜に乗り、空を翔けながら周囲の様子を探る。


 ……一人だけ飛竜で羨ましい。

 そう思ったのは俺だけじゃないようだ。


「いいわね、私もいずれは飛竜で移動したいなあ~」


 羨ましそうにそう呟くミネルバ。


「『竜の調教ドラゴン・テイム』の職業能力ジョブ・アビリティも覚えた事だし、やろうと思えば、もうやれるんじゃねえの?」


「まあね。 でも飛竜を飼うとなると、場所代や餌代もかかるからね。 飛竜屋からレンタルしても死なさせたら、罰金を払わなくちゃいけないからね」


「まっ、焦る必要ねえよ。 実力を上げて金貯めてりゃいつかは乗れるさ」


「そうね」


 俺とミネルバが会話を交わしている間にもアイザックは飛竜に騎乗して、空を翔けるように飛んでいる。 やっぱり少し羨ましいぜ。


 その後も俺達は何時間か進軍を続けていたが、日も暮れてきたので、今夜はエルダーリン高原にある小さな湖の近くで野営した。 明日には、中堅都市ホルトピックに到着するであろう。


 そしてホルトピックから一日くらい進めば港町クルレーベに辿り着ける。

 その前にケビン副団長が率いる部隊と合流する必要がある。

 それからある程度作戦を考える必要があるな。


 部隊の大半が猫族ニャーマン。 なので正面決戦で戦うのは少々厳しいだろう。 エルフ領の魔王軍とは、互角以上の戦いができたが、こちらの魔王軍の実力はまだよく分からない。 だから色々と相手の出方や力量を測る必要があるな。


「ラサミス、どうした? 夕飯を食わないのか?」


「ん? ああ、食うよ」


 俺は兄貴の言葉にそう答えて、串に刺さった焼き魚に口をつけた。

 ……うん。 普通だな。 美味くも不味くもない。 

 食えるレベルの味って感じだ。

 でも兄貴とアイラが近くの湖でわざわざ釣ってきてくれたからな、文句は言わないよ。


「食える時に食っておけよ。 冒険者にとって食うのも仕事のうちだ」


「了解っス。 ドラ……いえ団長!」と、メイリン。


「う~ん、このお魚あまり美味しくない~」


 と、愚痴をこぼすマリベーレ。

 するとエリスが窘めるようにこう言った。


「駄目よ、マリベーレちゃん。 好き嫌いしてたら、大きくなれないわよ」


「う、うん。 分かった。 我慢して食べてみる」


 そう言って焼き魚をかじるマリベーレ。

 やれやれ、こういうところで本音を言っちゃう辺りがまだ子供だよな。


「しかしホルトピックに着いたとしても、先にケビン副団長の部隊と合流する必要があるな」


 兄貴の言葉にドラガンが「ああ」と頷いた。


「正直敵の力量も読めんし、猫族ニャーマンばかりの軍という点も不安だ。 猫族ニャーマンの拙者が言うのもアレだが、猫族ニャーマンは堪え性がないからな」


「あの王子様も最初は意気揚々としてたけど、途中でバテたからね」と、アイラ。


「ああ、正直不安だ。 だから戦力の要となるのは、アイザック殿が率いる傭兵、冒険者部隊となるであろう。 なんとか竜騎士団が来るまで踏ん張りたいところだ」


 ドラガンがやや渋い表情でそう言う。

 やはりドラガンもその辺りに不安を感じているようだな。

 しかし傭兵、冒険者部隊も即席部隊だからな。

 正直どうなるか分からないぜ。


「あまり気にしても仕方ない。 今夜はゆっくり休もう」


 という兄貴の言葉に全員が無言で頷いて、食事の後片付けに入った。

 そしてテントを張り、寝る準備に入った。

 今夜に関しては、周囲の味方が交代制で見張り番をしてくれるそうで、俺達は気にせずゆっくりと休んでくれとの話。 俺達はその厚意に素直に感謝しながら、寝床についた。


 野営するのも五日目か。 正直ベッドが恋しいぜ。 もっともそんな贅沢を言える状況ではないけどな。 もしこの戦いに負けたら、猫族ニャーマン領が魔王軍に征服される可能性が出てくる。そうなればリアーナも次に狙われてもおかしくない。


 現実感があまり沸かないが、俺達は今そういう危機に瀕しているのだ。

 ほんの少し前までは、平和だったのが嘘のようだ。

 でも案外こんなものかもしれない。

 

 恒久的な平和など存在しないからな。

 だが奴等の――魔族の好きなようにさせるつもりはない。

 相手が戦争を仕掛けてきたら、こちらも戦うしかないのだ。

 話で解決する事なんて限られているからな。


 でも俺達は本当に魔族相手に勝利を収められるのか?

 止めよう、考えたらきりがない。 今はゆっくり休もう。

 そしてしばらくすると、睡魔が押し寄せてきて、俺はそのまま眠りついた。

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