第143話 華麗なる雌猫族(めすニャーマン)


 港町クルレーベ。

 北ニャンドランド海に面したこの港町は、船による交易が非常に盛んであった。


 昔から商売ビジネスに関しては、エルフ族とも積極的にお互いが欲する交易品を売買して、この港街はドンドン発展していき、軍港も作られた。 軍事拠点としての価値も高くこの港町には、商船以外にも軍艦がよく出入りしていた。 


 そういう背景もあり、このクルレーベは猫族ニャーマンにとって重要拠点である。 そしてその重要拠点に海を越えて、魔王軍が攻め込んできたのである。


「ぎゃ、ぎゃあああっ……た、助けてニャン!」


「アハハハッ! お前等、進め! 進め! 邪魔する奴は皆、殺せ!」


 先頭に立つ魔元帥直属部隊の紫髪の男竜魔が手にした大剣を頭上に振り上げて、声高らかにそう叫ぶ。 周囲の猫族ニャーマンや港町の住人は慌てふためく。


「うわあああっ!? だ、誰か警備隊を読んできてくれニャ!」


「もう呼びに行ってるニャ! でもこの数相手には厳しいニャ!」


「ハハハッ! 無様だな、猫共ねこども! 叫べ、喚け、嘆け! 貴様らにできる事などそれくらいなのだからな!」


 まるで生殺与奪を握った支配者のように振る舞う紫髪の男竜魔。

 しかし周囲の猫族ニャーマンは慌てふためき、逃げ回るばかり。

 だが全ての猫族ニャーマンが魔王軍に屈したわけではない。

 我が物顔で進行する魔王軍に向かって、何者かが突撃をする。


「ぬ? な、なんだっ! お前は……」


「せいっ! ――ピアシング・ドライバーッ!」


 その人物、否、猫族ニャーマンは戸惑う敵に躊躇いなく、細剣で串刺しにした。 只の猫族ニャーマンではない。 山猫騎士団オセロット・ナイツに所属する猫騎士ねこきしだ。


 体長60前後。 手足は長め。

 体毛は短く、黒い斑紋で縁取られた斑紋が特徴的な山猫やまねこオセロットだ。 丸みを帯びた深緑のフォルムに、白銀で縁取られた軽鎧ライト・アーマーに身を包んでおり、その背中には純白のマント、右手には白銀の細い刺突剣という風貌。


「ぎゃ、ぎゃあああっ……あああっ!!」


「な、何だっ!? 猫共の反撃か!?」


 仲間がやられて、やや慌てる魔族兵。

 するとオセロットの猫族ニャーマンは美声でこう叫んだ。


「猫ではない。 我々は猫族ニャーマンだ! そして私は山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士ジュリー・シュナイダーだ! さあ、皆さん。 今のうちに退避してください。 ここは私にお任せください」


 なんとこのオセロットは雌猫族めすニャーマンの猫騎士だったのである。 それだけではない。 山猫騎士団オセロット・ナイツの中でも五本の指に入る凄腕の細剣使いフェンサーなのである。


 職業ジョブ防御役タンクとしても、サブ回復役ヒーラーとしても優秀な戦乙女ヴァルキリー。 レベルは40。 紛れもなく一流の猫騎士である。


「あ、ありがとうございます! お、おい! 今のうちに逃げるぞ!」


「あ、ああ! ありがとう、猫騎士さん!」


「何だ、お前もしかして雌の猫族ニャーマンか?」


 ジュリーに向かって、そう問う魔族兵。


「貴様らと語る口は持たぬ! ――スピニング・ドライバー!」


 そう言いながら、怒涛の五連撃を繰り出す猫騎士ジュリー。

 その白銀の細い刺突剣で、標的の眉間、両目、咥内、喉元を突き刺した。

 突き刺された魔族兵はこの世の終わりのような断末魔を上げた。


「こ、こいつ……強いぞっ!?」


「今の剣捌きは只者ではない! というか山猫騎士団オセロット・ナイツって何だっ!!」


「ええいっ! 怯むな、お前等!」


 そう言って前に出る隊長格の紫髪の男竜魔。

 だがその瞬間、何者かが紫髪の竜魔の背後に高速で忍び寄っていた。


「っ!?」


「ふんはぁっ! ――スカル・ブレイクッ!!」


 その者はそう技名を野太いで叫びながら、大きく跳躍して、紫髪の男竜魔の頭上に、両手で持った白銀の戦鎚ウォーハンマー鎚頭つちがしらを振り下ろした。


「ぐ、ぐはあああっ!?」


 会心の一撃が決まり、紫髪の竜魔の頭蓋骨が打ち砕かれた。

 するとその者の顔が月光に照らされて、露わになった。

 その者も猫族ニャーマンであった。

 

 体長90セレチ(約90センチ)前後。

 品種はマヌルネコ。

 体毛は澄みを帯びた灰色、腹面は白に近い灰色で、四肢は黄土色だ。

 腰に茶色の横縞よこしまが走っている。

 体毛が長く密集して生えているので、太めに見えるが実際は筋肉質だ。



 光沢のある白銀の鎧を着て、左手にプラチナ製の円形盾バックラー

 右手に白銀の戦鎚ウォーハンマーという姿格好。

 この雄のマヌルネコも山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士だ。

 名前はロブソン・バンテ。 職業は聖騎士パラディンでレベルは42。

 そして白銀の戦鎚ウォーハンマーを持った右腕を大きく引き絞り――


「喰らえ、猫族ニャーマンの怒りの一撃だ! ――フェイス・クラッシャー」


 ジャンプしながら、中級の戦鎚ハンマースキルを渾身の力で紫髪の竜魔の顔面を強打。 猫族ニャーマンらしからぬ荒技を二連撃で決めて、紫髪の竜魔の息の根を止めた。 その光景には魔王軍の魔族兵も圧倒されて、思わず硬直する。


「ロブソン、そっちの敵は任せたわよ!」


「了解だ、ジュリー。 こちらはワシに任せろ!」


「糞っ!? こ、こいつ等、強いぞ!」


猫族ニャーマンの分際でやりやがる! ……ん?」

 

 そう言って双眸を細める魔族兵。


「へい、へい、へい、お前等だけで美味しいところ持っていくんじゃねえよ! このオレ様も混ぜろ、って感じだぜっ!」


 そう言ってまた新たな猫族ニャーマンが現れた。

 品種はカラカル。 体長は80前後。

 体毛は短く、地色は赤褐色。 顎、胸、腹にかけて白色である。

 目から鼻にかけて、黒い筋模様が入っており、特徴的な耳の持ち主だ。


 頭に黒いテンガロンハットをかぶり、上半身に茶色のコートを羽織り、コートの下は黒のシャツ、首元に黄緑のスカーフを巻いており、下半身は黒の革ズボンという騎士らしからぬ恰好。


 だが彼も――ラモン・マルドナードも山猫騎士団オセロット・ナイツの一員だ。

 職業ジョブ銃士ガンナー。 レベルは47。

 その両手には回転式リボルバーの黒い拳銃ハンドガンが二丁握られていた。


「へい、へい、へい、へいっ! ここクルレーベはオレ達、猫族ニャーマンの街! それを荒らすお前等、オレ様は許さないよ! 許せないよ! だからお仕置きするよ! だからオレ様はお前等に銃弾をプレゼントッ! そういうわけでさ・よ・う・な・ら!」


 そうハイテンポで喋りながら、両手の指で引き金を振り絞る銃士ガンナーラモン。 パン、パン、パアンッ! 乾いた銃声と共に、銃口から魔弾丸が放たれて、前方の魔族兵の眉間に命中。


「オレ様、猫族ニャーマン! そして銃士ガンナー! お前等のせいでオレ様の怒りはMAX! だ・か・ら・お礼に鉛玉をプレゼントォッ! そういう事でよ・ろ・し・く! ファイアァッ! ダブル・クイックショットオォッ!」


 リズミカルに身体を揺さぶりながら、両手の二丁拳銃で敵を撃つラモン。

 こんなよく分からないキャラだが、射撃の腕は正確で次々と敵兵を射殺した。

 不意を突かれて、やや戸惑う魔族兵達。


「よし、敵は怯んでいるぞ! 今のうちに総攻撃をかけるんだ!」


 後方からかけつけた山猫騎士団オセロット・ナイツの副団長ケビンがそう叫ぶなり、ジュリーやロブソンを先頭にして、他の猫騎士達も突撃を開始。 山猫騎士団オセロット・ナイツの基本構成員はボブ・キャットが大半だ。 指揮官クラスや一部の猫騎士を除けば、ほとんどがボブ・キャットである。


「魔王軍よ! 我々、猫騎士の力を思い知るが良い!」


「進め、進め! 敵は怯んでいるぞ!」



 次々と掛け声を上げて、敵兵目掛けて、突撃する猫騎士達。

 気がつけば、この夜の港町クルレーベの中央広場がボブ・キャットで埋め尽くされた。


 体格面で劣るボブ・キャット達は、二人一組になり、一人の魔族兵に襲い掛かる。 単純な戦術だが、このような乱戦では結構有効な戦術である。 次第に押されていく魔王軍。

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