第142話 アイザックの助言


 二十分後。

 俺達はギルドの受付でアイザックへの銀行振り込みを終えた。

 そこで最初の目的を思い出した。


 そういや俺達はスキルの割り振りの相談に来たんだった。

 ならばここはこの歴戦の傭兵にアドバイスしてもらうのも悪くないんじゃ?

 なにせ俺達は大金を払ったんだ。 これぐらい聞いてもばちは当たるまい。

 

「アイザックさん、ちょっといいっスか?」


「ん? 何だ?」


 相変わらず強面だな。

 こうして顔を合すだけで、少し怖いぜ。


「いえ、実は俺達、この間の戦いで結構レベルが上がったんですよ。 それでスキルポイントの割り振りに関して、アイザックさんの助言が欲しいんですよ」


「何だ、そんな事か。 そうだな、色々買ってもらったし、それぐらい構わんさ」


「ありがとうございます。 んじゃ少し場所を変えましょうか」


「そうだな、係員さん。 またさっきの談話室を借りたいんだが、いいかな?」


「分かりました。 ご自由にお使いください」


 強面のアイザック相手にも営業スマイルで答えるヒューマンの妙齢の女性係員。 流石は王都の冒険者ギルド。 係員の対応も百点満点だ。


 とりあえず俺達は先程の談話室に移動する。 そして俺は自分の冒険者の証をアイザックに手渡した。 本来ならば自分以外の者に冒険者の証を見せるべきではないが、まあアイザックとは知らない仲でないし、彼は他言しそうな性格じゃないからいいか。 アイザックは何度か俺の冒険者の証を見ながら、こう聞いてきた。


「ラサミス、お前は拳士フィスター以外にもレンジャー、戦士ファイター、魔法戦士と色々な職業ジョブを上げているが、一つにしぼるつもりはないのか?」


 ああ~、その事ね。

 まあそう言われるのも無理はない。 

 だが俺はあえて自分の考えを述べた。


「え~と、うちの連合ユニオンって俺以外は、パーティ内の役割がはっきりしてるんスよ。

でも何人か欠けると、急激にパーティバランスが悪くなるんで、その穴埋めをする形で俺が時々色んな職業ジョブになるんですよ」


「なる程、そういう事か。 いや別に俺はとがめているわけではないぞ? そりゃ一つの職業ジョブに専念した方が効率良いのは確かだが、お前のように満遍なく職業ジョブを上げている奴も貴重といえば貴重だ」


 あれ? 意外な反応。

 なんか褒められたよ。


「そうなんすか?」


「ああ、専門家スペシャリストは確かに重宝する存在だが、今回の戦いでは、お前のようにいくつかの役割ロールを果たせる奴もまた貴重だ。討伐依頼クエストや迷宮探索と違って、戦場では状況が目まぐるしく変化するからな」


「……言われてみれば、そうですよね」


「ああ、だからお前は今のままのスタイルでいいと思うぞ?」


「……はい」


 うん。 この男に褒められるとなんか誇らしい気分になるな。

 そうか。 俺は俺のスタイルを崩さないでいいのか。 

 うん、なんか自信がついた。


「それとスキルポイントの割り振りについてだが、体術スキルがなかなか高いから、全ポイント割り振って、英雄級の体術スキル『黄金の息吹ゴールデン・ブレス』を取得したらいいと思うぞ。 このスキルは残りの魔力や闘気オーラを振り絞って、次に放つ攻撃スキル及び攻撃魔法を強化する事が可能だ。 また攻撃だけでなく防御ガードにも使える。 更に対魔結界も含まれる。 まあ端的に言えば、余力を振り絞って、次の攻撃や防御ガードを強化するというわけだ」


「へえ、なる程。 確かにそれは便利そうですね」


「ああ、お前がよく使う『とおし』とも相性が良いと思うぞ?」


「あっ、確かに相性良さそうですね。 

 んじゃ全部スキルポイントつぎ込みます」


「ああ、好きにしろ」


 俺は自分の冒険者の証を指で触りながら、スキルポイント12を体術スキルの項目に全部割り振った。 すると英雄級の体術スキル『黄金の息吹ゴールデン・ブレス』を習得。


「アイザックさん。 俺にもアドバイスしてください」


「私もお願いします」


「あっ、私も見て欲しいです」


 兄貴がそう言うと、追従するようにアイラとミネルバがそう付け加えた。 するとアイザックは嫌な顔一つせず「ああ、構わんよ」と三人の冒険者の証を見る。



 二十分後。

 アイザックの助言の末に兄貴達が選んだスキルポイントの割り振りの内訳は――


 兄貴は6ポイント全部を剣術スキルに注ぎ込んだ。

 特に新しいスキルは覚えなかったが、他に振っても同様だったので、結局無難な選択肢を選んだというわけだ。


 アイラは色々悩んだ末に聖騎士パラディンのパッシブスキル『勇気ゆうき』に前から保有していた分を含めて、スキルポイント9をつぎ込んだ。 その結果、職業能力ジョブ・アビリティの『アルケイン・ガード』を習得。



 この職業能力ジョブ・アビリティを使うと、周囲の仲間の防御力や魔法防御を一時的に強化するという効果。 アイラ曰く――


 これからの戦いでは、乱戦が続くだろうから、後衛がいちいち補助魔法をかける暇はない状況があると思うので、取得したとの事。


 そして竜騎士ドラグーンのミネルバは考えに考え抜いた末に、竜騎士ドラグーンのパッシブスキル『竜の力ドラゴン・フォース』に12中6のスキルポイントを割り振り、職業能力ジョブ・アビリティの『竜の調教ドラゴン・テイム』を習得した。


 ミネルバは槍術スキルに振るか、どうか散々悩んでいたが、結局パッシブスキルを選んだ。竜騎士ドラグーンのパッシブスキル『竜の力ドラゴン・フォース』は、竜に関するスキルや職業能力ジョブ・アビリティが多い。


 ミネルバもやはり竜騎士りゅうきしの端くれ。

 将来的には飛竜に騎乗したり、竜の使役も考えているという事で『竜の調教ドラゴン・テイム』を習得したという事らしい。


 まあそりゃ竜騎士ドラグーンと言えば、竜の使役だもんな。

 だが竜の使役には風魔法が必須との話。

 なんでも高レベルの竜騎士ドラグーンは必ずといっていい程、風魔法を使い、飛竜を操るとの事。


 竜騎士ドラグーンは、四元素と光・闇属性、無属性の全七属性のうち土属性と闇属性は使えない。 基本は風属性を覚えるので、残りは多くても二属性くらいしか覚えられない。 そういうわけでミネルバは、残り6ポイントを風魔法に注ぎ込んだ。


 それによって初級風魔法『ウインドソード』と『疾走スプリント』を習得。

 ああ、メイリンが時々使う魔法だな。

疾走スプリント』は走力を上げるんだっけ?


 風の闘気オーラで代用できると思うが、選択肢が多いに越したことない。 ミネルバ曰く――魔法に関しては徐々にレベルを上げていくとの事。

 

 そういやうちの連合ユニオンはあのミニマム・ドラゴンのブルーが居たな。

 とりあえず 『竜の調教ドラゴン・テイム』の練習がてら、あいつを飼い慣らすのもいいかもな。 まあアイツ、人語喋るからあまり表に出せないという欠点もあるけどな。


「それでは俺はこれから歓楽街に行って、独りで飲んでくるから、今日はこれでお別れだ」


「「「「はい、お疲れさまでした」」」」


 俺達四人はアイザックの言葉に対して、異口同音にそう答えた。

 その後は商業区のお洒落なカフェで四人でお茶してから、ニャンドランド城に戻った。 城門付近でエリス達を引き連れたドラガンとばったり出くわした。


「おう、お前等も今帰りか?」と、ドラガン。


「ああ、アイザックさんに宝剣とか魔槍とか売ってもらったよ。 というかドラガン、大丈夫か? 少し疲れた表情をしているぞ?」


「ああ、彼女等の引率でな。 正直疲れたよ……」


 兄貴にそう返して、右手でエリス達を指さすドラガン。 するとドラガンの後ろでエリス、メイリン、マリベーレが幸せそうな笑顔を浮かべていた。 よく見ると三人の手に猫の、というか猫族ニャーマンの縫いぐるみが握られていた。 メイリンなんかその上、木彫りの猫族ニャーマンの彫刻を持っている。


「あ、ラサミス! 見て、見て! これ猫族ニャーマンの縫いぐるみよ!」


 満面の笑みでそう言うエリス。

 う~ん、護りたいこの笑顔。


「おう、可愛いじゃん。 メイリンとマリベーレも買ったのか?」


「うん、お小遣いはたいて買っちゃった」


 と、上目使いで言うマリベーレ。

 うん、可愛い。 護りたいこの美少女。


「見て、見て! あたしなんか木彫りの彫刻まで買ったのよ! 凄いでしょ?」


 これみよがしに木彫りの猫族ニャーマンの彫刻を見せつけるメイリン。

 ほう、こうして見るとなかなか良い出来栄えじゃねえか。


「へえ、いくらしたんだ、これ?」


「五千グラン(約五千円)よ。 縫いぐるみは七千グラン(約七千円)!」


 ドヤ顔でそう答えるメイリン。

 ……五千グラン(約五千円)か。 正直高くね?

 縫いぐるみも合わせたら、12000じゃん。 

 こいつ等、また猫族ニャーマンにカモられたな……。


 でも本人達は実に幸せそうな笑顔である。

 まあ本人達が満足しているなら、俺がとやかく言う事じゃねえな。

 俺も150万の手袋グローブ買ったからな。


 その後、俺達は客間に戻り、身軽な恰好になってから、夕方の六時過ぎに食堂に向かった。

それから夕食を取ったが、やはり味はいまいちだ。 う~ん、拠点ホームのジャンの料理が恋しいぜ。


 そして部屋に戻り、俺、兄貴、ドラガンの順番でシャワーを浴びて、身を清めてから、寝間着に着替えた。 二十一時過ぎにエリス、メイリン、ミネルバの三人が俺達男性陣の部屋に遊びきて、三十分くらい談笑した。


「もう二十二時だな。 今夜は早く寝るぞ。 お前等ももう自分の部屋に戻れ!」


「「は~い」」「はい!」


 ドラガンのその言葉で今夜はお開きとなった。

 そして俺もベッドに潜り込み、上布団をかけて目を閉じた。

 ドラガンが室内の照明を最低限の明るさにして、兄貴とドラガンもベッドに入った。


 いよいよ、明日からまた戦いの再開だ。

 もし猫族ニャーマン領が陥落したら、次にリアーナが狙われる可能性もある。 そしてリアーナが陥落すれば、当然ヒューマン領も侵攻の対象になる。 そうなればこのウェルガリアは本当に無茶苦茶になってしまう。


 だから俺は自分の居場所を護る為に戦う。

 ヒューマンという種族の為ではない。 

 猫族ニャーマンの為でもない。

 俺自身の居場所と仲間を護る為に、俺は戦う。


 戦う理由なんてそんなものでいい。

 小難しい事はお偉いさんに任せるぜ。

 そしてしばらくすると、睡魔が押し寄せてきて、その目を閉じた。

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