第140話 竜騎士団
その後、俺達は無事ガルフ砦に到着。
転移石の連続使用は精神と身体にあまり良くないので、砦内で二十分程、小休止した。 そしてそこから転移石を二回使用して、その日の夜にニャンドランド城に到着。
しかし計三度の転移石の使用に俺達だけでなく、アイザックやレビン団長、更には兄貴やドラガン、アイラも疲労困憊状態。 エリス達もへとへと状態。 結局その日は客間に案内されるなり、ベッドにダイブして泥のように眠った。
翌朝。
八時間くらい寝た事もあってか、疲れは一気に吹っ飛んだ。
とりあえず身体を清める為に室内のシャワーボックスでシャワーを浴びた。
俺、兄貴、ドラガンの順でシャワーを終えて、女性陣を待つ。
しかし予想通り女性陣のシャワータイムは時間がかかった。
俺達は三十分待ったところで、先に食事を摂る事にした。
客間の近くの食堂でやや遅めの朝食を取ったが、味はイマイチだった。
いや食える事は食えるんだが、特に不味くもないが美味くもない。
一応俺達ヒューマンやエルフ、竜人族の三種族向けの料理なんだが、味付けが少し薄い気がする。
その後、女性陣と合流して、彼女らが食事中の間にガリウス三世に謁見。 いくらか談笑した後にシャム猫の大臣が――
「この後、昼過ぎから再び円卓会議を行うので、卿ら『暁の大地』からは団長と副団長、それともう一人参加して欲しい。 もう一人の人選はそちらに任せる」
と、言われたので、女性陣と合流して男性陣の泊まる客間に集合。
なんどか議論を重ねた後に、残り一人は俺という事になった。
無難に考えればアイラだが、ここはあえて経験を積ませるという事で俺に決まった。
まあエリスやメイリン、マリベーレは敬語の使い方に少し不安があるし、ミネルバは前回の会議で予想以上に疲れたらしくて、参加したくないとの事。 まあミネルバからすればアーガスや現族長と顔を合わせるだけで緊張するだろうからな。
「とりあえず私達は部屋で待機しているよ」と、アイラ。
「うむ、アイラ。 彼女達が羽目を外さないように見張っててくれ!」
「大丈夫、皆で大人しく部屋で待っておくわ」
エリス達を一瞥して、そう言うアイラ。
「了解だ。 ではライル、ラサミス。 二階の会議室に向かうぞ」
「ああ」「了解」
今回の円卓会議の参加者は合計一三人。
主催者である
穏健派のエルフ族からは巫女ミリアムとナース隊長。
そして竜人族は前回同様、族長アルガス、アーガス、傭兵隊長アイザックという顔ぶれ。 そこに『暁の大地』からドラガン、兄貴、俺の三人が加わった計一三名。
前回同様、大きな四角いテーブルを囲んで、壁を背にして
大臣の左手にドラガン、兄貴、俺という並び。 そして下座には左からアーガス、族長アルガス、傭兵隊長アイザックという前回とほぼ同じ席順だ。
「ではこれより会議を行う。 議題は我が
すると周囲の者達は「ふむ」「うむ」と少し唸る。
まあ援軍を送る事自体は妥当と思うが、ここに居る連中は素直に首を縦には振らないだろう。
「援軍を送る事自体には不満はありませんが、我等ヒューマンとしては、これ以上本国から増援部隊を送る事は少々厳しいですな」
と、アームラック騎士団長。
「そうですわ。
ヴァンフレア伯爵夫人が毅然とした態度でそう言った。
言っている事は正論だ。
だがこれを機に自分の発言権を増そうとする魂胆だろう。
しかし
「ええ、分かっております。 ヒューマンに援軍を要請するつもりはありません。我々が援軍を要請したいのは、竜人族の
そう言って軽く頭を下げる大臣。
竜人族の
なる程その手があったか。
二十年以上前に竜人領で起きた反乱を鎮圧したのも竜騎士団らしい。
今回の魔族との戦いで彼等の力を借りられたら、百人力だ。
だが相手は族長とその息子アーガス。
そうそう話は簡単にはいかんだろうな。
「う~ん。 竜騎士団の派遣ですか」と、族長アルガス。
「
ここぞとばかりそう言うアーガス。
相変わらず嫌味ったらしい野郎だぜ。
だがアーガスとは裏腹にアルガスはこう言った。
「まあよろしいですよ」
「え? 父上?」
予想外の反応に戸惑うアーガス。
「ほ、本当ですか!? 非常に助かります!」
声を弾ませて、喜ぶ
だが族長アルガスは淡々とこう付け加えた。
「但し竜騎士団の一部です。 そうですね、百名くらいが限界ですね。 それと傭兵部隊同様に彼等の給与は
「ええ、勿論です!」と、大臣。
「ち、父上!? そう簡単に我が竜人族の懐刀である竜騎士団を――」
「アーガス。少し黙りなさい。
族長はこの私だ。 お前の意見は求めておらぬ」
「……はい」
「よろしいですの?
と、ヴァンフレア伯爵夫人が口を挟んできた。
しかし族長アルガスは冷静にこう返した。
「無論です。 ですがもうこの戦いは他人事ではないのですよ? 明日は我が身。 それは我等、竜人族もヒューマンも同じでしょう? ですからそうなる前にあらゆる布石は打つ。 それだけの事ですよ?」
「……まあそうですわね」と、伯爵夫人。
うーん、アーガスはウザいがその父親は族長なだけことはある。
自分達の利益だけでなくて、大局を見通す視点も持ち合わせているようだ。
「竜騎士団百人ですか、これは大きな戦力ですね」と、レビン団長。
「しかしそれだけでは戦力が足りないニャン! 大臣、ケビン副団長が率いている兵数はどれくらいニャン?」
そう問うマンチカンのマリウス王子。
「そうですね、総数六百くらいというところでしょうな」
「それでは全然足りないニャン! 敵は一千以上、居るんだろ? せめて八百はないと厳しい」
「ええ、ですからニャンドランド全土の冒険者ギルドに冒険者と傭兵の募集を依頼しました。 それと中立都市リアーナの冒険者ギルドにも同様の依頼をしました。 通常の二倍~三倍の報酬で
まあこういう時の為の冒険者や傭兵だろう。
大臣の言う通り150~200くらいなら簡単に集まるだろう。
それに竜騎士百人を加えたら、合計九百前後の戦力。
これだけの戦力なら魔王軍相手でも戦える……筈だ。
「では我がネイティブ・ガーディアンからも百名程、兵を派遣します。
「ええ、ミリアム様。 しかし大聖林の防御を固めなくていいのですか?
巫女ミリアムにそう問うナース隊長。
「無論、本土の兵力も増やすつもりです。 私はこの会議が終われば一度大聖林に戻るので、ナース隊長。 貴方はガルフ砦に戻ってエルフ領の魔王軍と戦ってください。 そうすれば結果的に我等、ネイティブ・ガーディアンを護る事になります。 皆様もそれでよろしいかしら?」
「そうですな、穏健派の方々も自国領の防衛に戦力を割くのは、当然の権利でしょう。この会議が終わり次第、巫女ミリアムは本土にご帰還してください」
と、
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ」
まあ穏健派としても、本土の防衛面を考えれば、これ以上この戦いに戦力は割きたくないというのが本音だろう。 それでも百名の戦力を派遣してくれるんだ。 これ以上望むのは酷だ。
「え~と、そうなる総戦力はいくらになるのかしら?」
「約一千前後ですな」
伯爵夫人の問いかけにそう答えるアームラック騎士団長。
「うむ、それなら何とか戦えそうだな」
マリウス王子が納得した表情でそう頷いた。
レビン団長も大臣も「うむ」と相槌を打つ。
「では各部隊の指揮官を決めたいのですが、よろしいですか?」
大臣の言葉に周囲の者達は無言で頷いた。
十五分程、意見が交わされたうちに以下のような結論に至った。
まず
副司令官にマリウス王子。
これは王族であるマリウス王子の顔を立てた形である。
マリウス王子も――
「基本的にボクはレビン団長の指示に従うよ。 ボクはあくまで彼を補佐する立場だニャン!」
と言って納得してくれた。
まあ戦力の大半は
そして残りの戦力をまとめるのが傭兵隊長のアイザック。
ネイティブ・ガーディアン百名に加え、
兄貴やドラガンは優れた冒険者だが、優れた指揮官ではない。
故に大軍をまとめるとなると、ここは自然的にアイザックという事になった。
ちなみに俺達『暁の大地』はアイザックを色々と補佐するという名目で彼と同行する。 まあ即席部隊を指揮するとなると色々問題が起きそうだからな。 要するに俺達はそういう問題に対応する便利屋的扱いだ。
まあそれに不満はない。
世の中分業制だからな。 それぞれに適した役割というものがある。
「ではこの不肖アイザックがネイティブ・ガーディアン及び冒険者、傭兵部隊の指揮官を務めさせていただく。 基本的に我々は前線で戦うので、本隊である
「了解です」
「了解だニャン!」
アイザックの言葉にそう答えるレビン団長とマリウス王子。
「竜騎士団に関しては、彼等の騎士団長が指揮を執りますので、彼等は独立部隊として考えてください。 彼等は誇り高き
「分かりました。 竜騎士団に関してはそう扱いましょう」
「そう言っていただけると助かります」
レビン団長の言葉に軽く頭を下げる族長アルガス。
まあ竜騎士団に関しては、そういう扱いでいいだろうな。
「ではこれにて会議を終わります。 皆様、ご苦労様でした」
という
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