第134話 ライル対ザンバルド(中編)
「ほう、俺の技を初見で見切るとは大したものだ」
「そちらもな。 流石は魔将軍と言うべきか」
「かっかっかっ。 気に入ったぜ、お前? 殺すには惜しいぜ」
「フンッ。 余裕だな。 どうやら長期戦ではこちらが不利のようだ。 ならば一気に決めるっ! はあああぁっ……あああぁっ!!」
そう言葉を交わし、兄貴は全身に光の
荒々しい
確かに魔族相手に長期戦では、分が悪い。
いくら兄貴が強いと言っても、ヒューマンと魔族の種族差は大きい。 ならば力のある時に大技で一気に勝負をかけるべきだ。
「魔将軍ザンバルドッ! 我が剣技を受けてみよ! ――『ジャイロ・スティンガー』ッ!!」
出たぁっ、兄貴の
白銀の長剣の切っ先から、うねりを生じた薄黒い衝撃波が矢のような形状となり、放たれた。
横回転しながら、空を裂きながら、高速でザンバルドに迫る。
「悪くない剣技だ。 だがこの程度の技では、俺は倒せんっ!」
ザンバルドは、そう言って右側にサイドステップして、回避を試みたが、それと同時に兄貴が
「甘いぜっ!」
だが当のザンバルドは驚きもせず、大きく後ろに跳躍した。
くっ。 流石、魔将軍。
初見でこの攻撃を見切るとは流石だぜ。
「まだだ! まだ終わりじゃない! うおおおっ……おおおっ!」
兄貴がそう叫ぶなり、薄黒い衝撃波は再びぐにゃりと曲がり、天に昇るような軌道に変わり、上空に逃げたザンバルド目掛けて再度迫った。
「なっ!? き、軌道を二回変えやがったぁっ!?」
流石のザンバルドもこれには驚いた模様。
というか俺もマジで驚いている。 こんな芸当できるんだな。
そして矢状の薄黒い衝撃波がザンバルドの右肩を激しく抉った。
「ぐっ……くはあぁっ!? こ、こいつは効くぜえっ!!」
ザンバルドの右肩は薄黒い衝撃波に肉と骨の一部を削られた。 貫通した黒い衝撃波は天に昇るような軌道で、青空に吸い込まれるように消えていった。
「マジかよ、あの若造。
「そ、それも二度もだぜっ!?」
「あいつ、若造だが本物だっ!」
周囲の見物人達も心底驚いていた。
味方だけじゃない。
敵の魔族や獣人なども「馬鹿なっ!!」と驚いている。
そしてこの技を喰らった当人も苦しそうにもがいていた。
英雄級の剣術スキルに加えて、光属性の一撃。
流石のザンバルドもこの一撃は本当に堪えたようだ。
左手で右肩を抑えながら――
「我は汝、汝は我。 我が名はザンバルド。 暗黒神ドルガネスよ。 我に力を与えたまえ! 『アーク・ヒール』ッ」
と、回復魔法らしき呪文を詠唱した。 というか魔族の呪文の詠唱を初めて聞いたぞ。 抉られたザンバルドの右肩が癒されていくが、完治には到らない。 抉られた肉と骨の一部は治癒されたようだが、その傷口からしゅうしゅうと湯気が立っている。
「兄貴! 今のうちに攻めるんだっ!」
「言われるまでもないっ! はあぁっ!!」
兄貴は即座に地を蹴り、猛スピードでダッシュする。
だがそれと同時にザンバルドが左手を前に突き出した。
何だ、なんか嫌な感じがする。
「兄貴っ! 警戒しろっ!」
俺は思わず咄嗟にそう叫んだ。
それとほぼ同時に兄貴が左側にサイドステップする。
するとザンバルドの左掌から高速で漆黒の波動が放出された。
そしてしばらく間があって、前方に着弾した。
ドゴオオオンッ!!
という爆音と共に地面を抉って、中規模のクレーターが生じた。
今のは
マルクスの使った闇属性の初級魔法に酷似している。
ということは無詠唱で魔法攻撃したというのか?
俺だけでなく、兄貴も一瞬だけ後ろに振り返り目を瞬かせた。
「ま、まさか今のは無詠唱で呪文を唱えたというのかっ!?」
「う、嘘でしょ? 無詠唱で魔法を唱えられる者なんか一種族全体で数人居るか、どうかと言われてるのよっ!!」
ドラガンの言葉にアイラが驚きながら、そう付け加えた。 俺も知識として無詠唱で魔法を唱えられるとは、聞いたことがあるが、あくまで理論上での話。
こうして生で直に見るとは思わなかった。
でも相手は六百年以上生きる魔族の将軍。
だから無詠唱で魔法を唱えられても、不思議ではない。
しかしそうなると兄貴の不利は免れない。
兄貴の剣技はザンバルド相手にも通じる。
それはここまでの戦いで証明した。
しかしあくまでそれは魔法を使用しない戦いに限定される。
兄貴の
だがそれでも今まではそれで通用してきた。 魔剣士マルクス、竜魔ゼーシオン相手にも一騎打ちで互角以上に渡り合えた。 だが今度ばかりは厳しいかもしれない。 いざ無詠唱を目の当たりにするとその恐ろしさを痛感する。
さきほどザンバルドが撃った闇属性の初級魔法もその威力は、メイリンの中級魔法と同じくらいだ。 普段は色々言っているが、俺はメイリンの魔法使いとしての資質は一級品だと思っている。
もしザンバルドが
また無詠唱でどのくらいのレベルの魔法まで使えるのか。 さっきの回復魔法は普通に詠唱したから、流石に無詠唱で回復魔法を使えるとは思えない。 そう思いたい。
「無詠唱で魔法を連発されたら、ライルさんでもキツいわね」
と、メイリンが真顔で言った。
「そうね、ライルさんの遠距離攻撃は『ジャイロ・スティンガー』くらいだけど、それも既に使用したわ。 並みの相手なら二度目でも通じるだろうけど、あの魔族の男には通じないでしょうね。 つまり遠距離での戦いは無理。 そうなれば接近戦で活路を見出すしかないわね」
ミネルバが胸の前で両腕を組みながら、そう評した。
「私もそれは同意だ。 だが接近戦は接近戦できついぞ? なにせ無詠唱で通常の術者の中級レベルの魔法を使ってくるんだ。 接近戦を仕掛けながら、無詠唱の魔法攻撃を躱すのは容易じゃないぞ?」
そう、アイラの言う通りだ。
どんな魔法攻撃でも最低限の溜めが必要だ。
しかし無詠唱ならば、それに
以上の点を踏まえて無詠唱の術者と戦うのは分が悪い。
だが恐らく兄貴はそれでも戦うであろう。
アイザックを止めて、代わりに自ら戦いを申し出たのだ。
そんな状況で自ら白旗を上げるような真似は、死んでもしないだろう。 俺の兄貴は、ライル・カーマインとはそういう男だ。
ならば残された手は一気に勝負に出るしかない。
となると兄貴が使える最高の剣技の一つブレードマスターの
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