第127話 雑魚呼ばわりすんじゃねえよ!


「うおおおおおおっ……おおおおおおっ!!」


 そう雄叫びを上げながら、眼前の一つ目巨人サイクロプスが両手に握った棍棒で地面を叩きつけた。 その一撃により、地面が破壊されて、その土塊どかいが弾丸のように飛び散った。


 俺は全身に風属性の闘気オーラを纏って、ステップワークを駆使して、飛び交う土塊を回避。 兄貴やミネルバも上手く回避できたようだ。 ――よしならば!


 俺は風の闘気オーラを宿らせた両足で地を駆けた。

 そして両手に無属性の闘気オーラを瞬時に宿らせた。


「ぐおおお……おおおっ!」


 眼前の一つ目巨人サイクロプスが唸り声を上げながら、その一つ目で俺を見据える。 

 こいつの体長は大体五~六メーレル(約五~六メートル)。

 オークやオーガよりは大きいが、あの漆黒の巨人程ではない。

 だからこれくらいの巨人なら、今の俺なら必ず勝てる。


 俺は大きく跳躍して、一つ目巨人サイクロプスの鎖骨部分を踏み台にして、敵の頭部を照準に捉えた。 そして左手で右腕を掴みながら、全力で右掌から気孔波を放出。 放たれた気孔波が巨人の一つ目に命中。


「う、うごっ……うがああああああっ!」


 弱点である一つ目を攻撃されて、悶え苦しむ一つ目巨人サイクロプス

 だがこれで終わりじゃない。 俺は再度、両手に無属性の闘気オーラを宿らせた。

 そして巨人の鼻先を足場にして、左右の拳を交互に繰り出した。

 左、右、左、右、左、右、左、右。 

 立て続けに四発のワンツーパンチで一つ目巨人サイクロプスの一つ目、眉間をひたすら殴打する。 


 一つ目巨人サイクロプスが両手で一つ目を押さえながら、両膝を地につけた。

 俺は一つ目巨人サイクロプスの鎖骨部分、膝元と素早く駆け下りて、地面に着地。

 さてここから止めをさすべく喉下か、口内を狙うか。

 と俺が思っていると、後ろから兄貴が猛スピードで駆けて来た。


「ラサミス、素手では時間がかかり過ぎる。 ここは俺に任せろ! 行くぞっ! ピアシング・ブレード!!」


 兄貴は素早く一つ目巨人サイクロプスの左膝の上に飛び乗り、眉間に狙いを定めた。

 そして手にした白銀の長剣で巨人の額目掛けて、強烈な突きを繰り出した。


「う、うぎ、ぎ、ぎゃああああああっ……あああっ!!」


 断末魔を上げながら、兄貴の一撃を受けた一つ目巨人サイクロプスは、背中から地面に倒れて、何度か身体を痙攣させてから、動かなくなった。 流石兄貴だ。 見事な攻撃だ。 

 でもここは俺に任せてもらいたかったぜ。

 なんか美味しいところを持っていかれた感じ。 まあいいけどね。


「ほう、少しはやるじゃねえか。 だが所詮はヒューマン。 我等、魔族の敵ではないな」


 ヒューマン言語でそう言いながら、凄まじい威圧感を放つ漆黒の鎧を着た魔族が前に出て来た。 やや短めの緑髪りょくはつを翻しながら、その魔族は右手に漆黒の戦槌ハンマーを握っていた。 緑髪とは珍しいな。 あ、でも魔族には多いという話を聞いた事がある。


「我が名は魔王軍千人長ガブゲイル。 長髪のヒューマン、貴様の名は?」


 おいおい、この俺を無視するなよ?

 俺はややムカつきながら、前に出てこう言った。


「おっと、貴様の相手はこの俺だ」


「なんだ、小僧? 雑魚がしゃしゃり出てくるなっ!」


 カチン。

 この野郎。 雑魚とは言ってくれるじゃねえか。

 確かに小僧だが、これでもそれなりに修羅場を潜っているんだぜ?


「雑魚は貴様だろ? てめえ如きがうちの副団長と戦おうなんて百年早い。 まずはこのラサミス・カーマインが相手だ。 ああん?」


「ふん。 弱い犬ほどよく吼えるな」


 この魔族、マジムカつくぜ。

 だが俺もここでキレれる程、ガキじゃない。

 逆に煽るように――


「同感だぜ。 能書きはいい。 さあ、やろうぜ?」


 俺はわざとらしく両手の指をポキポキと鳴らした。

 すると眼前の魔族は小馬鹿にするように、小さく嗤った。


「ふん、昔も今も馬鹿は変らんな。 だがいいだろう。 とりあえず身の程知らずの小僧を最初の生け贄にしてやろう」


 そう言いながら、その漆黒の戦槌ハンマーをこちらに向けた。


「ラサミス、油断するなよ? 相手は魔族の千人長だ。

 これまでの敵と同じと思うなよ?」


「分かってるよ、兄貴。 まあ俺の戦いっぷりを見ててくれよ」


「分かった、お前を信用しよう」


 俺はそう言葉を交わして、前へ出た。

 とりあえず光の闘気オーラを全身に纏い、身構える。

 相手は戦槌ハンマー。 対するこちらは徒手空拳。


 リーチの差では、向こうにやや分がある。

 だがこれから先こういう戦いが増えるだろう。

 だからここで魔族相手の対人戦に慣れておく必要がある。

 ガブゲイルは身長180以上に加えて、鎧の上からでも分かるほどに、筋骨が隆々としている。


 単純な力比べでは、勝てそうにない。

 だが戦いは力が全てではない。 技と頭脳も大事なのだ。

 

「どうした、小僧? かかって来ないのか?

 ならばこちらから仕掛けさせてもらうぞ! フンッ!!」


 そう言いながら、間合いを詰めて来るガブゲイル。

 そして右手に持った漆黒の戦槌ハンマーを縦横に振るった。

 ぶるん、ぶるんと戦槌ハンマーが音を立てて、空を切る。

 一撃、一撃が凄く重そうだ。 これは防御ガードもできそうにない。


 しかし当たらなければ、問題ない。

 これまでの経験と積み上げられた自信を信じて、

 俺はガブゲイルが振るう戦槌ハンマーを綺麗に躱す。


「チッ……ちょこまかと逃げやがって……ぐっ!?」


 俺は文句を言うガブゲイルの鼻っ柱に左ジャブを繰り出した。

 更にもう一発、二発、三発と左ジャブを当てた。

 わずかに身体をよろめかすガブゲイル。 

 この好機チャンスは逃さない!

 俺は腰を内側に捻り、渾身の右ストレートでガブゲイルの顎を強打。


「ぐ、ぐっ!?」


 綺麗に右ストレートが決まり、眼前の魔族は身体を硬直させた。

 更に追撃すべく、左、右とワンツーパンチを繰り出したが――


「――小僧、調子に乗るな!」


 左腕で防御ガードされた。

 そしてガブゲイルは右手に持った戦槌ハンマーを振り上げた。


「――シャドウ・クラッシュ!」


 闇属性の初級戦槌ハンマースキル。

 だが初級だがその振りは鋭い。 防御ガードは無理そうだ。

 俺は後ろに小さくバックステップして、ギリギリのタイミングで戦槌ハンマーを何とか回避。


 戦槌ハンマーが交わされて、ガブゲイルの上半身がやや前傾気味になった。

 俺はこの絶好のカウンターチャンスを逃さなかった。


「――貰ったあああっ!!」


 俺はがら空きになったガブゲイルの胸部に『とおし』を繰り出した。

 カウンターに加えて、魔族の弱点属性を突いた事により、強烈な衝撃がガブゲイルの胸を駆け抜け、その巨体が後方に大きく吹っ飛んだ。 背中から地面に倒れて、ガブゲイルは口から胃液と少量の血液を吐きだす。


「おおおっ……アイツ、少しはやるじゃねえか。 というか今の技は何だ?」


「恐らく体術スキルの『とおし』だろう」


 ボバンがそう言うと、アイザックがぽつりとそう答えた。

 ふふふ、いいね。 この感じ。 悪くないよ、というか良い感じだよ。

 とりあえずこれで最低限の面目は保てたぜ。


「千人長がやられたぞ。 あの小僧、なかなか手強いぞ!」


「ああ、正直連中を舐めていたぜ。 俺達の想像以上に強い!」


 周囲の魔族達も警戒気味にそう口にした。

 これは流れが完全にこちらに傾いているな。

 この間隙を突いて、攻勢に出るべきだ。

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